第三十七話 無意味な殺戮
四台の馬車が、土煙を上げながら整備されていない道を走る。
時折、大きくガタンと揺れる為、乗り心地は最悪であるのは想像に難くない。
風によってたなびく布の色は紅く、両端の表面に大きく鍵十字が描かれている。
この馬車がグリードを出て、ゆうに数週間は経った。
魔物にも襲われず、付いているのは砂埃程度。
もっともフォロリスにとっては、若干退屈ではあったが……。
車内に入ってきた砂を手で払いのけながら、大きな欠伸をしフォロリスは一緒に同行しているアンドロイに話しかける。
「なあ、一つだけ聞きたいんだが……まさかとは思うが山賊が現れたりとかしないだろうな?」
揺れる馬車の中、銀貨を綺麗に磨くアンドロイは手を止め、彼の後ろにある大量の銀貨の山へと紛れ込ませる。
「その点なら問題ないよ、僕らの国自体が一つの山賊組織みたいなものだからね。この国の国旗を見て襲おうなんて命知らずは馬鹿ぐらいだ」
「そういうもんか?」
「そんな事よりさ、僕の記憶が正しければ、僕はもう他部隊の隊長になったはずなんだけど……」
アンドロイが後ろに手を回し、銀貨を覗き込むように睨みつけながらぼやく。
一応ではあるが、アンドロイは隊長さんの後釜として十七部隊の隊長となったのだ。
無論殆ど活躍しておらず、影の薄さは変わりない。
大きく変わったのはアンドロイの給料であり、それ以外は全く変わっていない。
「別にお前居なくても、あの部隊成り立っちゃってるからな~」
「うん、そうなんだよね。何せ僕、隊長だけど役立たずだから……」
アンドロイはそう自分で言いながら軽く憂鬱になる。
事実、彼がグリードから旅立つ最に来た見送りはゼロ人。
これにはさすがのフォロリスも、同情を禁じ得なかった。
面倒臭そうにフォロリスは憂鬱になっているアンドロイを眺めながら、後ろに置いてある隊長の干し肉から一枚を手に持ち口に入れた。
口の中に、胡椒の味が広がる。
「まあ、適材適所という言葉がある。そのうちお前にとって、適材な居場所が見つかるだろう」
「だと、いいんだけどさ」
アンドロイが少し気持ちの方向をプラスにした瞬間、馬車がガタンと大きく揺れ、止まった。
「御者、どうした?」
干し肉を飲み込んだフォロリスが、何故急に止まったのかを訪ねる。
「へ、へぇ。検問でさぁ……どうなさいますか?」
フォロリスと違い優しそうな声の老人がそう答えたため、天井にナイフで穴を開け、外の様子を窺う。
遠くに巨大な壁が作られており、スキマ一つと無い。
そして、唯一の出入り口である門もこれまた大きく、恐竜の一匹程度なら軽々と入れるだろう。
フォロリスはふと、壁の上に設置されている、金属製の手すりを見つめた。
潮風に当てられて寂び、色が変色している。
そんな門の前には、他の馬車が長蛇の列を作っており、日が暮れるまで進みはしないだろう。
もっとも、今回の要件はそこまで急ぎの用事という訳でも無く、更に言えば今回持ってきた野菜は地下王国へと送る献上品。少々痛んでいたとしても、地下の連中は喜んで食べるだろうと、完全に地下世界の住人を馬鹿にした考えだ。
「出来ればもめ事を起こしたくは無い、今回は戦争ではないからな。
まあ今回は食い物ばかりだし、そう高くはつくまいて」
「そ、それが……なんでも最近、プティアじゃ野菜の値段が上がったとか」
そう言いながらも馬車は前を進む。
フォロリスは出していた頭をひっこめ、
「……そうか、それは残念だ。こちらも強行突破するしかないな。いやはや、全くもって残念だ。なあ、アンドロイ?」
そう笑顔で言いながら、両手に二十八本のチタン合金製サバイバルナイフを取り出す。
アンドロイは一人ため息をつきながら、フォロリスが開けた穴から銃先を突っ込み、トリガーを引いた。
その弾は高さ二十メートルほどまで飛ぶと、花火のように紅い光を放つ。
空が紅くなるほどの光に、全員どよめく。
先手必勝、今フォロリスが持っている軍勢は
自身、フォロリス・スターコーストに加え、アンドロイカチカ。そしてベラ・レンカに副隊長となった新兵の計四人。
今グリードが持てる最大戦力の約四割を、この三人で補えるのだ。
そして、言うが早くベラが、フォロリスの乗っている馬車の上に飛び移る。
「判断するの早くない? それに、今回は戦争しないんじゃなかったっけ?」
「何を言っている、こう言えばいいんだ。『我らから大量の税を搾り取ろうとした門番が我らに手を上げられたので、やり返した』とな」
フォロリスはそう言うや否や指を鳴らすと同時に、ベラは前方に並んでいる馬車を次々と三つに切り分けていった。
中の積み荷であろう大量の銀貨、剣や盾、鎧等がバラバラになり、血しぶきと共に地面へと落ちていく。
それに気づいた他の馬車は、急いで門を通ろうと急がせるが、かえってそれが衝突を起こし遅れさせる
「火山岩からごく少量しか採れない鉱物を砕いた粉を塗りつけた、チタン合金製ワイヤー。
ベラ、使い心地はどうだ?」
「……そこそこね。あの実験狂が言っているオリハルコンだっけ? で作ったら、切れ味は素晴らしい出来になるでしょうねぇ」
ベラは血しぶきと木材が飛び散る中で、一人オリハルコンで作ったワイヤーの出来を想像しながら高揚の笑みを浮かべる。
「ああ、作れたらな」
果たして、本当にワイヤーに加工可能かどうかなんてフォロリスは知らない。
事実ワイヤーを作ったという話は聞かないし、聞いた事も無い。
「そうね、何せ本当に出来るのか解らないもの」
ベラはそう言うと、更に前方にある馬車を四つに切断してから、フォロリスが開けた穴から車内へと移動する。
御者はベラが車内へと降りたのを確認すると、鞭を馬に振るい歩を進ませる。
両隣には兵士の死体が転がっているが、御者は母国で幾度となく見ているため、全く気分を害せずに馬を止め、兵士の死体から数枚の銅貨と銀貨を剥ぎ取ると、再び馬車へと戻り馬を進ませた。
「慣れたものだな、御者」
フォロリスは皮肉交じりに言うと、御者はフォロリスの顔を見ながら答える。
「国に帰った時に使うんでさ。ほら、あの娘さん前言ってたでっしゃろ?
なんでも、“巨大兵器”とかなんとか……」
あの娘、アカマイの事だ。
彼女は生粋の研究者でありながら、武器製造にも携わっている。
無論彼女の出したアイデアは、予算がかかりすぎたりリスクが大きすぎたりした。
だがやはり、イス国の持っていた設計図によって彼女の評価は一変。武器製造の最高責任者へとうなぎ上りのように昇格したのだ。
そして巨大兵器、超大型大砲というプロジェクトで製造中の武器の一つである。
「ああ、ドーラの事か」
ドーラ、正式名称八十cm列車砲。
世界最大の巨大列車砲であり、フォロリスが新たに侵略する際使用しようと考えている兵器の一つである。
アドルフ・ヒトラーが造らせた、ロマンが詰まった夢の列車砲。
その威力たるや、街を積み木のようにバラバラにするのだ。想像するだけで、脳内のアドレナリンが溢れかえる。
無論、大きさはやや小さくなるが、妥協出来るのでも最少七十は欲しいと注文している。
赤字になるのは目に見えているが、フォロリスはどうしてもそれを目撃したいと心から願っているのは、ある種人間の性と言えるだろう。
危ない物に対し、異常と言えるほど崇拝する人間。
かの有名なロンドンの殺人鬼、ジャック・ザ・リッパーのように。
ちなみにフォロリスは、中学生の時のあだ名がこのジャック・ザ・リッパーだったのである。
無論由来は言うまでもない。
「あれ作るのに、鉄は必要でしょう。まっ、愛国精神という奴ですわ」
御者はそう言い終えると、笑いながら門をくぐる。
通る途中だった馬車の残片を踏みつけ、ガタンと大きく揺れた。
「門を潜ると、そこは港町ってか」
馬車から降りて、最初に目に飛び込んできたのはグリードともイス国とも違う景色。
鼠色の石の床、赤茶色い煉瓦。そして、坂道の向こう側に見えるエメラルドグリーンの海。
太陽はサンサンと照りつけており、街行く人の恰好もグリードとはえらい違いである。
始めてみる光景に、アンドロイもベラも驚いていた。
だが副隊長は、海など気にせずあたりをキョロキョロしている。まるで何かを探しているように、落ち着きが無い。
「どうした副隊長、何か気になる事でもあるのか?」
副隊長は少し考えると、首を横に振った。
未だに彼の言葉を聞いたものは、一人としていない。
「そうか。あまりキョロキョロすんな、田舎者だと思われるぞ」
グリードは田舎に分類するような国なのだが、もしそれがバレたらどれだけ物をボられるか分かった物ではない。
中学生の頃、名も知らぬ同級生がある土産の値段を見て項垂れていたのが、未だに記憶に焼き付いている。
「で、この国を治める王はどこに居んだ?」
フォロリスがダルそうに尋ねる。
別に吸血鬼にとって太陽はどうでもいい存在ではあるが、彼自身太陽が苦手なのだ。
「……さあ? まあ、まずは宿を探そうよ。どうせだったらさ、海が見えるところに泊まろう!」
アンドロイが興奮気味に、贅沢にも宿の条件を指定する。
無論、そのような宿の値段は恐ろしいほど高い。
確かに金は大量に持っているが、だとしても自らの贅沢に金を使ったとアカマイにバレた日には、その矛先がフォロリスに降りかかるのは目に見えている。
どうせでっち上げるに決まっているからだ、今居るメンバーの殆どは。
「宿でしたら、格安のがあります。どうなされますか?」
いつまでも待っているのに飽きたのか、そう提案する御者。
その言葉に対し不満そうに声を漏らすアンドロイ、もはや子供である。
まあ、普段から苦労しているからであろう。こういう時ぐらい、贅沢させてくれてもよいのではないか? といった気持ちがあった。
無論、フォロリスがそれを許すはずもない。
「そうか、助かる。案内してくれ」
馬車に乗りこみながら、フォロリスが礼の言葉を口にする。
それに驚いたアンドロイ。そして、その彼とフォロリスを交互に見て、合点がいってから笑うベラ。
それに微笑みを返しながら、
「御意」
御者はそういうと、後ろを振り返り残りの馬車に、安い宿へ向かうよう命令した。
すると馬車は、いっせいに右へ向かって走り始める。
最後の一台が右手方面へと行ったのを確認すると、御者はフォロリス達を乗せ、宿へと馬を走らせた。
ボロい、第一印象はそんな感じの宿だった。
壁にはつた植物が生い茂っており、窓は何故か全て割れている。
木製の扉もカビか何かなのか黒い点々が浮かび上がっており、衛生面においてもあまり期待は出来ない。
そんな宿の脇にある、何故かうっそうと生い茂っている竹林。
竹の一本一本に、馬が逃げないように縄を巻いている。
「どうしたアンドロイ、不満そうな顔をして」
フォロリスが日陰に来た為か、元気そうな顔で、落胆の表情をしているアンドロイに尋ねる。
「いや、海は見えるけどさ。でもなんか、なんか見た目がさ……」
そう、この宿を通れば、ベランダにはエメラルドグリーンの海が広がっている。
だがそうだとしても、ここまでボロいのであれば少しばかり遠くても、高くても妥協するだろう。
「荷物はすでに、運び終えました。今頃、宿の中に入っている頃だと思います」
仕事の早い御者である、まるで日本の従業員のようだ。
「そうか」
フォロリスは銀貨を御者に一枚渡すと、宿の中へと入った。
そして若干肩を落としているアンドロイは、気分転換にと副隊長と一緒に竹林へと散歩に出かける。
ベラは二つに分かれる三人を見て、静かにため息をつきながらも、竹林に死体が無いか確認するためにアンドロイの後を追った。
すいません、今回はちょっと短いです。
というかですね、週一投稿にしたのになぜかストックが全然たまらないんですよ。性欲は溜まるのに。
なんででしょうねあれ、まあどうでもいいですけど。
まあそんな話は置いといて、
誤字誤植・ご指摘等がありましたら感想欄へ!
ではでは、また来週お会いしましょう!
To Be Continued !




