第三十五話 戦火の後
あの戦争━━後世にまで語り継がれる悪夢の歴史の一つである、イス国ホロコーストから三ヶ月あまりが経過した。
戦争によって得た鉱脈に加え、有り余るほどの動植物資源。更にグリードよりも進んでいる科学力が記された様々な設計図を得たグリードは、更なる軍事力を培っていく。
どのような変化がグリードに訪れたか。グリード自体の街並みは、あまり変わっていない。
だが武器屋に、イス国よりも何倍と進化した銃が並べられ、兵士も国民も皆銃を持っている。
更に鉱物・動植物資源が潤い物価が少しではあるが下がってきているのだ。
もっとも、元イス国の住人は今現在、グリード管轄下の魔鉱脈・グリフォンで馬車馬のように働かされているか、人体実験の材料に成り果てるか。
基本的に障害を持つ人間が、優先的に強制労働者から実験対象者へとランクダウンする。
そのような、裏側と少々の表側がガランと変わったグリードの現状をなんとなく思い出しながら、第四十四独立前線部隊隊長となったフォロリスは次の作戦を考える。
吸血鬼の血を培養し、吸血鬼を製造し、グールを増やし、天然痘に似た病を培養し、天然痘に似た病を敵国にある井戸に投げ入れ、死体がカラスに食われつくしたころに残党狩り、掃討戦を行う。
これがフォロリスの考えた作戦、先の先の、鬼が笑うような先の作戦。
だがその作戦の為には、下準備が必要だ。
最近を培養する為の人体、最近がどのように人体に影響するのかの実験用人間、魔鉱脈を掘り進めるための奴隷、他の国へと売り渡す奴隷……。
どれもこれも、第四十四独立前線部隊では入手不可能な資源。
だがらグリードの一兵士、第四十四独立前線部隊隊長のフォロリスは何か案は無いか模索する。
十畳ははあろう、ベッド以外は何も置いていない部屋で、床に胡坐をかきながら考える。
ああでもない、こうでもない。案を考えては打消し、考えては打消し、終わりが見えない。
そんなフォロリスの模索を邪魔するように、一つの足音が聞こえ、フォロリスが籠っている部屋の前で止まり、木の扉を叩いた。
「どうだいフォロリス君、何かいい案は思いついたかな?」
「アンドロイか。考えてる途中だったんだが……」
隊長さんが死んだ事によって、自動的に第十七部隊隊長となったフォロリスの戦友であり、先輩━━アンドロイは適当に謝ると、手に持っている脂ののったステーキを、フォロリスの手が届く範囲の床に置く。元イス国から押収した書類に、ステーキの肉汁が少しだけかかった。
アンドロイの服装は、黒を基調とした白いラインで龍の模様が入っている。
ズボンは赤一色で、はっきり言ってセンスの欠片も感じられない。
それもそのはず、今のアンドロイの服装は普段着である。フォロリスのように、いつも同じ服を着ている訳にはいかないのだ。
「あまり考えつめたら、逆に何も思いつかないよ? それに、考える前に行動していたあの時の君は何処へやら、といった感じだね。僕が見た限り」
フォロリスはステーキ肉を手に取り、蛇のように飲み込む。
口を開けた時、微かに普通の人間より尖っている牙が見えた。
「それに、悩んでいても何も解決しないさ。戦争を行う予定の国すら目星がついていないのに……」
「いや、戦争は必要不可欠だ。俺にはまだまだ、この世界は不便すぎる」
アンドロイはそんなフォロリスの言葉を聞き、苦笑いをするほかなかった。
ここまで度が過ぎた戦争狂、殺人狂とは思っていなかったからである。
「理想が高いけど、でも何故不便を解消するのが戦争なんだい?」
フォロリスは急に立ち上がり、戦争を求める理由を熱く語る。
「戦争は科学を発展させ、医学学力も発展させる!
一つの剣が一つの銃に、一つの銃が一つの大砲に! 挙句の果てには、天から鉄の塊を落とすという兵器を開発させる!
そして、何処の国にも負けないように隠密性・機動性・便利性は飛躍する!
通信手段に便利な機械が次々に、戦争のたびに開発され旧式を国民に回し、支持を得る!
発信機は迷子防止の為に親に人気となり、これまた我ら軍隊は支持を得る事だろう!
そう! なにも、全て戦争が必要なのだ!
だから俺は戦争を求め、戦場を求める! さあ楽しくなってきたぞ、戦争を行えそうな国を探そう!
水資源が豊富な国を!」
一気に話した為か息が上がっている。
あまりの熱弁にアンドロイは「う、うん」としか答えられなかった。
だがフォロリスはすぐに息を落ち着けると、落ち着いた様子で足元に散らばっている書類を一つ手に取った。
「……それにしても、君らしくもないよね。文字ばっかの紙なんて大嫌いって顔してるのに」
アンドロイは退屈そうに肉汁が付いた書類を摘み上げ、適当に目を通す。
「戦争の為には、多少の苦労も致し方あるまい。
……アンドロイ、こいつ見てみろ」
アンドロイは肉汁の付いた書類を床に置き、フォロリスからある書類を受け取り、少しではあるが目を通した。
内容は地下世界と、地下に住む住人との交渉、それに関したレポートである。
何がフォロリスの興味を誘ったのか、アンドロイは解らず首をひねる。
「これがどうしたんだい? 見たところ、何もない地下施設と地下世界の住人に関した物らしいけど……。
確かに、地下に鉱物資源は大量にあるよ? でも、それだけの為に軍を率いての戦争はなぁ……」
イス国を攻め落としたのも、鉱物資源だけではなく気軽に行けて、耕せる領地を確保するためである。
その為、植物が育たない地下世界を侵略したとしても、手に余る鉱物が残るだけであり、はっきり言うとあまりメリットは無い。
「いや、戦争は必要ない。軍隊も、一小隊程度で十分だ。それ以上は、逆に邪魔になる」
フォロリスの口から、思いもよらない言葉が発せられ、アンドロイは目を丸くする。
あの戦争狂で殺人狂な、どうしようもないフォロリスが「戦争は必要ない」と発言したのだ。
似合わないっていうレベルではなく、本物かどうかも怪しく感じられる。
その為、素早く袖に隠し持っていた紐を取り出し、フォロリスの首に軽く巻きつける。
「君、一体何者かな。正体言わないと、絞め殺しちゃうよ?」
「……さすがの俺も傷つくぞ、それ」
フォロリスは面倒くさそうな顔をしながら、紐を果物ナイフで切り裂いた。
「いやー、ごめんね。あまりにフォロリス君らしくない言葉だったからつい……」
「お前、俺をなんだと思ってるんだ?」
殺人しか考えていない、とは口が裂けても言えない。
言ったらすぐさま、アンドロイはこの吸血鬼に一瞬で殺されてしまうだろう。
「ま、まあそんなのはどうでもいいじゃないか。あっ、そういえばアカマイさんが呼んでたよ!
さあさ、早く行った方がいいんじゃないかい?」
アンドロイは誤魔化すように、アカマイが待つ研究室へと行くよう急かす。
心なしか目が泳いでいるように見えるのは、フォロリスの気のせいであろうか……。
イス国の資料は、グリードの文明を数百年ほど進ませたと言っても過言ではない。
アカマイが今居る地下施設もその一つである。
縦四メートル、横百七十メートルの大きな部屋。床や壁は石のままではあるが、アカマイが居る右手側には石の壁の代わりに、巨大なガラスがはめ込まれている。
そのガラスの向こう側には、大量の実験者━━吸血鬼の耐久テスト件、培養を執り行っている。
そんな部屋に似つかわしくない、木製の装飾が施された椅子に腰かけ、これまた装飾が施されたテーブルの上にクッキーと紅茶を置いて出入り口を眺めている。
なお、アカマイの左手側にはベラのコレクション部屋があり、始終腐敗臭が漂ってきているが、アカマイは数日程度で嗅覚が麻痺してしまったのか、何も感じなくなった。
「ベラさーん、いい加減その死臭を何とかしてくださーい。私たちの研究員の殆どが迷惑してまーす」
黒い髪の毛を、紅い瞳で枝毛が無いかチェックしながら、もう諦めたような脱力感のある声でベラに注意を促す。
これをやって、もはや数日。この施設が作られてから繰り返し言っているが効果は無し。
もはや諦めている。それに加え、死体を兵士にリサイクルしてくれる存在の為、強く出る事が出来ないのだ。
「貴女に私の趣味を邪魔する権利は無いわ! 第四十四独立前線部隊、四十三小隊隊長である私の趣味件戦力増加を止めるということは、我が軍の戦力の殆どを削り取るということと同意味であるのよ!」
扉の向こうから、お決まりの彼女の反論。もっとも、実際にイス国からの使者に加え、元国王アレス、弓の使い手アルテミア、そして隊長さんの死体がベラの手中に収まっている。
それだけではなく、彼女が四歳の頃から製作していたという似非合成獣の戦力は、我がグリードがシミュレートした結果神の杖に勝るとも劣らない化け物という結論が出た。
もっともデメリットとして、疫病・腐敗臭・見た目の気持ち悪さなどが存在する為、メリットは神の杖の方が大きいし、今まさに製作途中である“オリハルコン”を作り出す為の“電力装置”の方が、恐らく力の自由度は高いだろう。
まあ、彼女の趣味であり性癖である為、何も言う事は出来ない。
「というか、あの娘を軍隊に引き入れた覚えはないんですけどねー」
そう愚痴りながら、アカマイの瞳と同じ色の紅茶を飲む。
砂糖は高価な為、一般的には代わりに蜂蜜を入れる。だがアカマイは蜂蜜アレルギーである、その為アカマイ好みの甘い紅茶を飲むのは不可能なのだ。
「まあ、戦力増加にはちょうどいいですけどね」
そう自分に言い聞かせながら、クッキーを口に運ぶ。
腐った人の臭いが鼻孔を擽り、満足に味を楽しむ事は出来ない。
無論、ずっと続いていた為か少し顔をしかめる程度しか表情に変化は無いように見える。
「あ゛~、疲れたー。まあ、趣味だから楽しいんだけどさー」
「あっ、お疲れ様です」
肩を叩きながら、赤いゴスロリ服を着たベラが部屋から出てくる。
顔は疲れてはいるが、満足そうな顔で、袖には血のような液体が大量についている。
部屋の中で何が行われていたかは想像に難くないが、想像したくない。
「あっ、アカマイ。糸がちょいとばかし切れかかってるから補充してくんない?」
「ああ、はい」
一応ではあるが、階級はアカマイの方が上である。
だが同じ女が職場に居なかったため、このようなフランクな関係となったのだ、
ベラはクッキーを一つ摘まむと、口に運ぶ。
先ほどまで死体に触れていた手で躊躇いなく食べ物を食べられるあたり、流石は第四十四独立前線部隊と言ったところか。
「……で、愛しの彼氏さんはまだなのかな~?」
ベラが笑いながらアカマイをおちょくる。
アカマイが今日この場に居るのは、フォロリスに用があるからであるのだが、ベラは何を勘違いしたのか告白をすると城内(主に女性群)に言いふらしたのだ。
ベラも一応年頃の娘故か、恋バナといった類いのものが大好きであった。
アカマイはその言葉に、即座に赤面して否定の言葉を続ける。
「い、いやいや、そんなのじゃないですよ!
せ、戦争! 次の侵略地域の作戦会議をですね……」
「そんな否定の仕方は、墓穴を掘るだけよ~。まあ、それにしても遅いわね。
あいつの事だから、殺すのを中断してでも聞きたい耳寄りな情報なのに……」
ベラはそう言いながら、まるで自分の物のようにアカマイが飲んでいた紅茶を飲む。
紅茶を淹れるポッドは、この部屋の上にしか置いていない。
死体と同じ屋根の下に置いたものを使うのは、絶対に嫌だと姫様が仰ったからである。
アカマイはそれに完全に同意した。
「大方、アンドロイさんがサボってるとかそんなんでしょう。
あの人、バーゲンとかに弱いですから」
アカマイはそう言いながら、自分の黒い髪の毛を紅い瞳で、枝毛が無いかチェックしていく。
ここ最近は研究詰めで、ろくに睡眠もとれていないのだ。
もっとも、クマは生まれつきなのか不思議と出来ない体質なので顔から判断するのはいささか難しい。
「……あいつ、主婦みたいね」
扉に手をかける音が聞こえてから、ベラはふとそう思い呟いた。
はいどうもー、最近ツイッターのフォロワーが減ってきて若干がっくし状態のナムで~す!!
とまあ、無駄に高いテンションで序盤はやってみました。でもこれ以上は続きません。
さて、今回から第二章突入という事で。
正直言って、第二章になったからと言って変わるのは兵士と武器ぐらいです。
あと地形、戦争だからね。
まあ、今回は戦争の後という事でして、後日談含む第二章一話目を投稿しました!
ガールズトーク、初めて書いた……自分でも違和感が若干あると思っております。
そういやふと、いつものとぅーびーこんてにゅーをコピペしようと前話まで戻ってみると、前は後書き書いてませんでしたね。すいません、忘れてました。
とまあ、無駄な話はそれくらいにして、また次回!
誤字誤植・ご指摘ご感想最近の悩みなどがありましたら感想欄にコメントください!
最近の悩みは聞くだけです、具体的な解決法は言いません!
ちなみにテンションが高いのはFF12をクリアしたからです! 500円にしては楽しめました、あのゲーム。
ではでは、 To Be Continued !




