第三十一話 窮地の脱出
火の手が上がった大教会の向かい側、油を撒いていなかった区域。
遠くから黒い煙が、塔のように空へと上がっていく。
そんな中、巨大な空中通路の下にフォロリスと新兵がたがいに背中を合わせながら、四十人は居るであろう、鎧を身にまとった大量の兵士のど真ん中に居る。
銃剣を彼らに向けながら、どこか怯えた表情で新兵を睨みつけていた。
「……新兵、何故お前がこんな場所に居るんだよ」
フォロリスは舌打ちをする。
目立たぬように、兵士を掃討する予定だったのが新兵の登場により、計画が狂ってしまったのだ。
もっとも、新兵が居なかったとしても気づかれる時間は、二分ぐらいしか変わらなかっただろう。
「き、貴様、我が国宝の剣を……ガイアの剣を我々に渡せ! さすれば命だけは助けてやろう!」
「ガイアの剣……? ああ、この剣か?」
フォロリスは親指で、新兵が手に持っている剣を指さす。
そして勢いよく宝剣を、空中高くに蹴り上げる。
剣は宙を舞い、敵兵たちはその剣の方に目線が行った。
注意が逸れた瞬間、新兵は素早く敵兵の胴体を四個ほど斬りおとす。
フォロリスは素早く、ククリナイフをブーメランのように投げつけた。
首が次々に切断されていき、地面に落ちると同時にワイヤーを使い手繰り寄せる。
いくら手慣れた兵士であろうと、ここまで素早く殺害をするのは不可能。
故に、敵兵はあっけにとられていた。
「油断大敵だ、原住戦闘民」
落ちてきた宝剣を手に取り、魔法を行使し自らの上にある空中通路を落とす。
そして素早く新兵に宝剣を手渡すと、新兵が自らに魔法をかけ落下してくる空中通路にサマーソルトを思い切り入れる。
後ろに居た敵兵を薙ぎ払い、血の海を作った。
「撃て、撃てェー!」
一人の兵士がそう言うや否や、全兵士がフォロリス等に向かって発砲する。
迫りくる銃弾の嵐。だが、落ちてくる空中通路の破片によって銃弾に対しての防御となり、フォロリスと新兵の手足を撃ち抜いた程度だった。
そして、新兵は何事も無かったかのように敵兵の中を走り抜け、宝剣を地面に突き刺す。
瞬間、敵兵の首から血が噴水のように噴き出し血の雨を降らせた。
「つまらん、この程度か。イス国の兵士は、このこの程度の実力しかないのか!?」
フォロリスがそう叫んだ瞬間、遠くから爆音が響く。
その音を耳にした瞬間、後ろから人の気配がした。
新兵は素早く剣を、その気配に向けて突き刺しに行く。
だが、指す直前で剣を止める。
「ちょっ、タンマタンマ! 僕だよ僕、アンドロイだよ」
気配の正体は、全く血に濡れていない服を着た、フォロリス等の部隊隊長だった。
フォロリスは気配の正体を知ると、指を鳴らす。
新兵は静かに剣を下げ、アンドロイに頭を下げる。
先ほどの無礼に対しての謝罪だ。
「……仕事をほっぽり出して何してんだお前」
「君こそ、何すればこんな状態になるんだよ。一応、侵略した国そのまま再利用するつもりなんだけど……」
アンドロイの言った通り、人ひとりが行える惨劇ではない。
落ちた空中廊下、潰された死体、首の無い死体、未だに噴水のように血を吹きだし続けている敵兵。
地獄が楽園のように見える、殺人狂にとっての楽園。
その惨劇に対しアンドロイは、ため息しか出ない。
「君たち、少しは自重というものをだね……」
そう言われてる当の本人は、死んだ敵兵から銃剣などを剥ぎ取っている。
「本っ当に自由だね、君たち」
血に塗れた銃剣を大量に背負う新兵、さながら弁慶のように見える。
それに対し、敵兵から奪い取ったサバイバルナイフを大量に義手に突き刺しご満悦の表情をするフォロリス。
使用する武器は正反対だが、根っこ部分は似ているようだ。
「四百ものナイフ、絶対重いよねそれ」
「……新兵、代わりに持ってくれないか?」
新兵は黙って、フォロリスの義手をもぎ取り手に持つ。
そして、落下した空中通路によって千切れた敵兵の右腕を拾い上げ、死んだ兵士の服を引き裂き腕を括り付ける。
「それでいいんだ……」
「別に無くてもいいんだがな、一応隠し武器として使えそうな気がしないでもないし━━」
新兵はいきなりフォロリスの右腕を掴み、空中通路を繋いでいた穴に入り姿を隠す。
アンドロイもそれに続いて、中へと入った。
「い、いきなりなんだ新兵」
新兵は黙って、外に銃剣を向ける。
すると、大量の兵士に囲まれた誰かが通り過ぎた。
敵兵の手には、魔石が埋め込まれた槍を手に持っている。それも、全員が。
圧倒的戦力差を見せつけられている。普通の人間なら、敵前逃亡を行うような、圧倒的戦力差を……。
「閣下、道が何者かによって塞がれております。どうなされますか?」
閣下と呼ばれた、姿をフードで隠した男は静かに命令を下す。
「……総員、警戒態勢。どこかに敵が隠れているぞ」
「イエッサー! 総員、警戒態勢!」
兵士がそう叫び、あたりを見渡す。
無論、このような通路に隠れるような場所は━━空中廊下の中しか無いだろう。
だがそこまで、一人の人間が飛び乗る事が可能かと言ったら不可能と断言できる。
故に、捜索箇所から外していた。
「……上を探せ」
閣下がそう言った瞬間、空中廊下のあった穴から爆弾が兵士の集団へと、三個投げ込まれる。
注意が空中に行っていなかった故に、反応が遅れた。
敵兵は残らず爆風に巻き込まれ、空中高くほうり上げられると、そのまま地面へと叩きつけられる。
だが不思議な事に、閣下にはフードが飛んだ以外の変化が見られない。
「出てこい、コソコソと隠れてばかりでは勝てぬぞ?」
「どうやら……その様だな」
ワイヤーをロープ代わりにして、右唇を上げながら下りてきたのはフォロリス一人。
「貴様が、アレス王……だっけか?」
「そうだ。私がこの国の王にして聖イス国部隊大隊指揮官、アレスだ」
「そうか、それなら━━」
フォロリスは大量のナイフを左腕に、ワイヤーを使い纏わせる。
その数、約29本。常に所持しているナイフ数の約半分。
そして、その状態のまま左腕を思い切り投げつける。
ワイヤーが遠心力によって大きく広がり、回転するカッターのようにアレスへと向かっていく。
「貴様の首をぶった斬れば、俺らの勝ちだな!」
フォロリスは口を歪ませながら、勝ちを宣言する。
アレスは飛んでくる腕を、剣で切り落とす。
無論、ワイヤーが剣に絡まり、アレスの顔に大量の切れ目を入れた。
「……やっぱ、上手くいかないものだな。ぶつ切りぐらいは出来ると思ってたんだが……」
「まあ、そうだろうな。見立てはよかったが、ここまでだ」
アレスは剣を縦に払いワイヤーを地面に落とすと、構えを取る。
左手を刃に当てながら、右手に持った剣を後ろに持つ。
突きに特化した構え。独学である為、マニュアル通りの対処法で対処するのは至難である。
だがそれは、あくまでマニュアル通りにしか行動できない人間の場合。
独学でナイフ術を極め、ワイヤー術を極め、殺しの術を極め続け、次第に達人相手に見事に立ち回れるほどの技術を持った。
「さあ、来いよ」
サバイバルナイフを空中高くほうり上げ、指を鳴らす。
すると、爆風によって死んだ兵士が起き上がり、アレスに向かっていく。
注意が一瞬、動く死体の方に逸れた。
素早くナイフを、アレスに向かって投げつける。
「よそ見をするとは、随分と余裕だな」
「余裕? どうかな」
アレスが光ると、死体とナイフが一瞬で灰と化す。
フォロリスは、何が起きたのか理解できなかった。
いくら魔法の世界とはいえ、あまりにも現実離れしすぎている為だ。
少しの間、一秒だけだが茫然としてしまった。
その隙に、アレスは突きの構えでフォロリスの方へと走っていく。
「フォロリス君、危ない!」
アンドロイがそう叫んだ瞬間、フォロリスの腹に剣が突き刺さった。
その間、僅か一秒。
血が剣を伝い、地面へと落ちる。
「次は……アンドロイ、貴様だ」
腹に突き刺さった剣を抜き、上の方を睨みつける。
フォロリスは腹を押えながら、地面へと倒れこんだ。
衝撃で切れ目から、ドロドロに溶けた食べ物と血が地面へと垂れ流れ、口からは血を吐いている。
「に、逃げるよ新兵君!」
そう言うや否や、アンドロイは空中廊下のあった場所から飛び降り、上にワイヤーを突き刺し昇っていく。
「逃げるか。相変わらず、姑息だな」
アレスは挑発を行う。アンドロイがこれで怒り、こちらへ向かってくるような人間では無いというのは知っているが、しないよりはマシだろうという考えの為である。
アンドロイが屋根へと移ると、アレスが知っているアンドロイではありえない行動をとった。
火の付いた爆弾を、投げつけてきたのだ。
最後の悪あがきのようにしか思えない、アンドロイにしてはありえない行動。
そして、爆弾が爆発した。
煙をあたりにまき散らし、アレスの視界を隠した。
その隙に新兵が地面へと下り、傷ついたフォロリスを素早く担いで走り抜けていく。
服に、フォロリスの胃に入っている吐瀉物上の物が付くのも気にせずに。
「すまん、新兵」
「貴様、逃げるのか!? その行動は敵前逃亡であるぞ!!」
アレスの言葉に気を向けずに、黙って走り去る。
だが、地面には血痕と吐瀉物の後が残っていた。
光が無く、窓も締め切られ真っ暗な状態の酒場。
そのカウンターの椅子に、フォロリスをゆっくりと座らせる。
口から血を痰と一緒に床に吐きだし、
「油断した。アンドロイ、包帯を持ってきてくれ」
アンドロイは服の裏から緑色の包帯を取り出し、フォロリスの腹に服ごと巻く。
新兵は落ち着き無さそうに、フォロリスを見つめている。
「大丈夫かい、フォロリス君……今回ばかりは、僕らもお手上げかもね」
「いや、勝機はある。俺の身体はあと数時間は持つだろう、その間に……」
フォロリスは右ポケットを軽く叩く。
その中には、この部隊の切り札である吸血鬼の血が入った小瓶がある。
フォロリスが苦労して取ってきた、勝率を上げれる切り札。
これが通じなかった場合、この戦争は確実に敗戦となる事は想像に難くない。
「この切り札を貫かせる。そうすれば、多分吸血鬼になる……と思う」
「多分って、そんなので勝てるの?」
新兵は、ワインでフォロリスの胃から出た吐瀉状の液体が付いた袖を洗っている。
フォロリスも、自分だったとしても同じ行動を取るだろうと思い何も言わなかった。
「勝てるかどうかじゃない、勝たなければいけないんだ。いざとなったら、新兵」
フォロリスは、テーブルの上にアイスピックを置く。
新兵はそれに近づき、手に取った。
ごく普通の、持ち手がゴムで覆われた市販品。
針は鋭く尖っており、男性のの肩二つ分の長さはある。
「もし上手くいかなかったら、小瓶を俺ごと突き刺せ。無論、小瓶を狙ってな」
新兵は首を横に振る。
彼を外へと出し、自由と仲間を与えてくれた恩人を突き刺せと命令させられたのだ。
無論これは上官命令、本来なら裁かれても文句は言えない重罪である。
だがそれに対しフォロリスは、起こる事も無く優しい声で新兵を説得した。
「何を迷っている。このままでは、俺の命はもう長くない。
お前が俺を突き刺さなければ、俺は犬死してしまうんだ。なに、誰もお前を攻めやしない。
もし吸血鬼になれなくても、俺はお前を恨んだりはしない。だから安心しろ。安心して、俺を突き刺せ」
まるで子供をあやす様に、優しい声。
親が子供に話しかけるような、優しい優しい声。
これまでの、聞いているだけで狂いそうになるような声とは全く違う。
新兵は、この言葉に対し頷くしかなかった。
無論心の中ではやりたくないと思っている。
だが、自分に初めて命令を下してくれたフォロリスの期待を裏切る事は出来ない。
たとえそれが、自らの手で恩人を傷つけるような事でさえも。
新兵は、手を震わせながら一本のナイフを取り出し、そこにアイスピックを入れた。
えー、その、遅れてしまい申し訳ありません。
その、アニメとか映画とかMADとかに夢中になってしまいですねはい。
ええ、ただの言い訳です。すいません。
さて、そのような醜い言い訳は置いときまして……。
今回の話、ちょいとばかし日本語がおかしいかな? と思ってはいますがまあそんなのは関係なく投稿しました。あとで修正すればよかろうなのだ!
ところで、今回の話を予想できた人はいらっしゃるでしょうか? まあいないでしょう、自分も予想できませんでしたもん。
ほぼ勢いと怨念と願望だけで書いてますからね、この小説。
まあ、こんな感じの無駄話を続けてたら永遠に終わらないので……。
さて、誤字誤植、ご指摘ご感想がありましたら一言、お願いいたします。
レビューも受付中です、ドシドシ書いてくださいまし。
ではまた次回、お会いしましょう。
To Be Continued !




