第三十話 死体に口なし行動あり
夜の街、それはグリードとは全く違い活気にあふれている。
建物の光は絶えず、遠目で見ても幸せの絶頂に居るというのが理解出来る。
店で雑談をするもの、巨大な教会の石製の階段に座りイチャつくカップル、石を敷き詰められた道路を走る子供たち……。
だが、道の端は少し、光によって照らされ、反射しているように感じる。
そして何より、この国を囲む壁の二分の一はあろう大きさの十字架が、教会の後ろにある。
一目でわかる、これがこの国の教会の頂点。大司祭と孤児が住む教会!
人々に支持され、愛され続けていると一目見て理解できる教会。誰も彼もが笑顔でお祈りし、笑顔で教会を後にし、笑顔で孤児と遊ぶような教会!
洗脳に近い宗教を立ち上げ、洗脳に近いお祈りを毎日させ、ゆっくりじっくりと洗脳教育していく、正義の名の下に洗脳を行っている、クソのような教会!
そして、そんな偽善がはびり付いた教会の扉の前に、ベラが盗ってきた赤ん坊の死体が置かれている。 実に丁寧に、傷が見えないように白い布にまかれながら、遠くから見たらまるで生きているように、眠っているかのように見えるだろう。
だが大教会から漏れる光によって、布が光っているように見える。
新たな左腕と右足を付けたフォロリスはそれを、少し高い程度の家の天井、木が敷き詰められた屋根から見渡す。
「さて、これで準備は整った。さあ戦闘団よ、奴らに究極の暴力を未来永劫、輪廻永劫と刻み込んでやろう!」
フォロリスの後ろには、ベラ、新兵、アンドロイ……そして隊長さんとその部下がそこに立っている。
全兵士が口を黒い布で塞いでおり、塞いでいないのはフォロリスだけだった。
ベラは手をワキワキと動かし震わせ、新兵は緑色の剣と新たに入手した、グリードから支給された軍手を装着し、隊長さん率いる部隊は剣を手に持ち、いつでも戦闘に入れるようにスタンバイしている。
フォロリスは高笑いをしながら、右目に巻かれた包帯を勢いよく引き千切った。
千切られた包帯の破片は風に乗り、遠くへと飛んで行く。
フォロリスの手には血塗られた包帯、そして右眼が無くなった瞼を大きく開き、宝剣を天高く持ち上げ、勢いよく屋根スレスレまで振り下ろす!
「さあ戦火を引き起こそう、人を炎で燃やし人肉の臭いを堪能しようぞ!
破壊の為に敵も我々を破壊してくるだろう、では我らはその破壊に対し破壊で答えようぞ!!」
大教会の扉が開くと同時に、フォロリスは宝剣を思い切り遠くへと投げる。
ワイヤーに繋がれた宝剣は、道の隅へと突き刺さり火花を散らした。
すると数秒程度で地面に落ち、一瞬青い炎が石畳の中を、波紋のように広がりながら通過し、すぐさま赤い炎に姿を変える。
無論大司祭もただでは済まず、更に赤子の死体を強く抱きしめていた。
それが大司祭にとっての命取り。布には油を染みこませており、更にその油が大司祭の服についたのだ。
体中に一瞬青い炎が灯り、すぐさま赤い炎に包まれながら石階段から転げ落ち、加速した大司祭の身体は石畳に思い切り打ちつけられ、ピクリと動かなくなった。
大司祭の動かなくなった身体から、紅い液体が流れ出る。
街は一瞬で大混乱になり、逃げ惑う人々は子供を蹴ろうと踏もうと構いもせずに走って逃げていく。
先ほどまで楽しそうに雑談をしていた人達は相手を手で押しのけ、我先に逃げていく。
無論カップルも例外ではない。そもそも、こんな惨事の時に一々他人のことなど構ってはいられないのだ。
フォロリスはその地獄の序章を肌で感じ取りながら、ワイヤーを括り付けたサバイバルナイフを床に深々と突き刺す。
「突入せよ、油は街の五割に撒いた! 掃討戦だ、黒き戦争の狼煙だ!」
フォロリスの狂喜に近い叫び声に、すぐさまベラは両腕をクロスさせながら手を上にあげ、屋根の外へと走り出す。
隊長さん含む部隊もそれに続いて下き、剣を滑車のようにして屋根から飛び降りる。
ワイヤーが下へと繋がっており、戦闘兵はまるで空中を飛んでいるような錯覚を覚えた。
そして、最後に新兵がワイヤーを伝い下へと降りたのを確認すると、フォロリスは遠くを見た。
今屋根の上に残っているのは、フォロリスとアンドロイだけだ。
遠くにも炎が上がってはいるが、いずれ鎮火されるだろう。
もっとも、そちらに注意を向ける為にわざわざ遠くにも撒いたのだ。
たとえ発火地点がこの大教会があるエリアだとしても、城の兵は混乱を鎮め、貴族などを守るのに必死になっている頃合いだ。
それは即ち、すぐにはこのエリアには来ない。早くて数十時間はかかるとフォロリスは予想する。
「まあ、ベラと新兵にとっては少しばかり酷な作戦だったな」
突き刺さったナイフを引き抜き、ワイヤーを手繰り寄せて宝剣を回収しながら、フォロリスがふと呟く。
「いや、全然酷じゃないと思うけど。……にしても、どうする? 隊長さん、相手が降伏って言ってきたら助けるらしいよ?」
宝剣を回収し終わり、左腕に突き刺さしたフォロリスにアンドロイは問う。
これまで第四十四独立前線部隊の戦闘は、降伏さえ許さないといった感じだった。
それがいきなり、『民間人を出来るだけ殺さず、女子供は優先的に助けろ』という綺麗事に綺麗事を重ねたような命令。
もっとも、ベラと新兵、そしてフォロリスとアンドロイはそのような命令を聞かず……ではあるが。
「好きにさせておけ、我らは我らで好きに動くとしよう。
士気が下がってしまっては、俺では高める事は出来ない」
「確かに、君が慕われてるのってごく一部だよね」
フォロリスを慕い、敬っているのはごく一部だけ。
残虐性、残忍性、異常性が異様に高い人間に崇められるような、限られた人間。
だからこそフォロリスは、異常であり続けられる。故にフォロリスは、残忍であり続けられる。
そういった感情を、表に出す事が出来るのだ。
フォロリスが居た世界では想像もつかないような、背中にどす黒い羽が生えたような心が軽くなる感覚。
この為に、この世界へ来てよかったとフォロリスは、心の中から思う事が出来る。
「さあ、行こうかアンドロイ。我が心の故郷、我が心のあるべき場所へ」
「……うん、行こうか」
アンドロイはそう言うと、なんの装備も無く屋根から飛び降りた。
フォロリスもそれに続いて、アンドロイが飛び降りた場所とは反対側の方へと飛び降りた。
手にはイス国の宝剣を突き刺し、背中にはイス国が開発した銃剣を手に持って。
炎が民家へ、教会へと移っていく。
あたりには地獄絵図としか言いようがない光景。
踏みつぶされ、吐瀉物と臓器が口から出てきている子供の死体。
頭を強く打ち、血を流して倒れている女性。
そして何より、今まさに部隊が対決している教会関係者の死体。
先ほどまで幸せによって賑わっていた町は、ベラの欲求のみを潤す地獄絵図と化していた。
まさに、まさにまさにまさに、ベラにとってはパラダイス、天国である。
溢れんばかりの死体、溢れんばかりの狂気、人間の醜さがそのまま風景となり光景となり、ベラの心を満たしていく。
この為に、この瞬間を待つために、これまで生きていたと断言できる。ベラはそう言いきれる自信がある。
「あ、あははは、あははははは」
精神を早くも病んだのか、隊長さんが連れてきた部隊は放心状態のまま笑う。
ベラはそれを無視し、今まさに戦闘をしている白い服を着、白く三角の頭巾を被っている。
手には武器と見られる槍を両手で持っておりグリードの兵士はそれに対しなすすべなく、苦戦しているようだ。
事実、あたりには腹を貫かれ倒れている死体が山のように散らばっている。
ベラはそれを素早く確認すると、背負っている銃剣を教会の兵士に向け発砲した。
乾いた銃声が鳴り響き、教会兵の頭に小指程度の穴が出来、血を噴き出させる。
教会兵はそれを見るや否や、槍をベラに向け突進していく。
この世界にある銃は一発しか撃てない、 弾丸の底に火薬を詰め込み、銃に取り付けてある火を封じた魔石で着火し発砲する。言わば火縄銃のような物。
それは教会の人間は勿論、イス国の住民全員が知っていた。
だからこそ、槍で素早く始末する必要がある。
だがそれが、彼らの最初で最後の間違いだった。
「あらあら、焦っちゃって」
ベラは指をパチンと鳴らし、死体を動かす。
今、死体は教会兵の後ろにある。そして同時に、注意はベラの方に向いている。
それは即ち、後ろからの攻撃に対しては隙だらけという事に他ならない。
そして、先ほど首を撃たれた死体が自らの首に指を突っ込み、弾丸を引き抜く。
「グーテ・ナハト、永遠にお眠り」
そう言い、指を胸あたりまで持ってきて水平に動かす。
すると、まるで魔術を見ているかのように教会兵の頭がスッパリと斬れ、胴体から零れ落ちる。
切断面から血が吹き出し、大教会前に紅い雨を降らす。
紅い雨を浴びながら、大教会へゆっくり歩いて行く。
狙うは中に潜伏している孤児、ベラにとって価値のある、喉から手が出るほど欲しいコレクションの一つ!
「さぁて、待っててよ私のショタっ子天使ちゃん。まず腸抉り取って血抜きして、そのあと私が目出てあげる……」
ベラの異常としか言えない行動に若干引いていた隊長さんの部隊は、ついついベラに剣を向けてしまう。
気づけば、紅い雨は降りやんでいた。
石畳は辺り一面紅く染まり、隊長さんの部隊の一人が出した吐瀉物が少し混ざっている。
あまりに酷い惨劇に、兵士たちは全く口を開く事は出来なかった。
これが本当に人間の出来る事なのか? これは、本当にただの小娘にしか見えないあいつがやったのか?
そういった疑問が、疑惑が頭の中を駆け巡る。
本当に、同じ人間の血が流れているのか。兵士たちは今すぐにでも皮膚をかきむしり、彼女と同じ血を全て放出したくなった。
「あら、何しているの? まだ、掃討戦は終わってないわ。女・子供・民間人・兵士……まだまだ獲物は残っているわ」
「だ、だが相手はまだ子供……なのだろう? それに、我らの方針では敵意のない者は殺さないように、隊長さんに教わっている」
「あらあら、残念。まあ、別にいいけど……敵意のない者は、でしょ?」
ベラはそう呟くと、手を動かし大教会の壁を壊した。
すると、そこには銃剣を持った子供が怯えながら、座り込んでいる。
「つまり、こいつは殺していいって訳ね?」
子供が銃剣をベラに向けるが、ベラは素早く死体を操り盾とした。
そのまま、死体を進撃させる。
子供はその死体に向かって発砲するが、無論死体は死体。それ以上殺す事は不可能。
あたりに少し、黒く変色した血が流れ出るぐらいだ。
「抵抗は終わり? んじゃ、チャオ」
指を鳴らすと、一つの死体から肋骨が勢いよく飛び出し、子供を串刺しにした。
どの死体の臓器か分からないぐらい臓器に塗れた子供は、力なく床に倒れる。
手が少しの間ピクピクと動き、口から血を吹きだし、しきりに「痛い」を連呼している。
ベラがわざと、死なないようにしたのだ。
「天国にさようならは言ったわね? それじゃようこそ、生き地獄へ!」
ベラは楽しそうにジョークを飛ばす。
血に塗れた彼女は、醜さと美しさを兵士は感じた。
事実彼女は、この戦闘で血を全く浴びていない。
故に、血の汚れ一つなく戦場へと降り立った彼女は一輪の花。周りの死体から血を吸収しているように見える、紅い花。
そういった視線を後ろから感じながらも、ベラは大教会の奥へと進む。
痛さに苦しんでいる子供から銃剣を奪い取って、死体を先に向かわせて罠が無いかを確認しながらも歩みを止めない。
奥から何十もの子供が、初々しい慣れぬ手つきで剣を持ち死体に立ち向かう。
だが所詮は子供。世話をしてもらった姿がそのままある死体に攻撃出来ず躊躇している。
「殺さなければ、死ぬだけよ? 死にたくなければ、殺すといい。二度目の生を得た死体に、惨たらしい剣を突き立て、血に汚れた手を見つめながら私に殺されるといい」
「ば、ばかにするな! 俺は、いずれガイアの緑剣を手にする聖アポロン神の兵士だ!」
一人の子供が、叫びをあげる。
勇ましい、弱者の叫びを。
ベラの美しくも醜い笑い声と子供の悲鳴・断末魔が大教会内に響き渡った。
それは実に、フォロリスが人としての命を落とすまで続いた。
最近、なんだか左肩が痛いとです。ナチの人です。
皆さん、お変わりなくお過ごしでしょうか。かくいう自分は、若干変わりました。
体力落ちて、視力落ちて、肩痛くなって、物忘れ激しくなって……老化してきている、この歳で!? と思った今日この頃。
さて、雑談はそれくらいにして……っと。
今回は死者がそれほど出ませんでした、いやはや喜ばしい事ですな。
だって、一応子供は無事なんですもん。永遠に終わらない拷問をされるだけ……あれ、むしろ酷くなってる?
さて、まあこんなどうでもいい話は誰も求めていないでしょう。
では、また次回。常に感想とかコではまた次回、ではまた次回、
To Be Continued !
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