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魔石と殺人狂  作者: プラン9
第一章~王国崩壊~

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第二十九話 援軍到着

 規則正しく鳴っている軍靴の音は、酒場へと着実に近づいてきている。

 ベラの目の前には、片足が無いフォロリスの姿と重症の兵士が一人、酒場の隅で転がっている。

 床は血に塗れ、ナイフによって開いた穴に垂れ流れていく。

 一目見て、もう助からないと理解するだろう。

 ベラはその光景を見ても、ただため息が一つ出るだけ。

 彼女も同じように、人をこのように殺したことがあるのだ。

 故にフォロリスに魅かれ、フォロリスについて行く。

 だがその道は予想以上に険しいと、ベラは今になって悟った。

「アンドロイ、お疲れのところ悪いが『隊長さん』がこの店にやってくる。彼らを迎える準備を頼む」

「……ベラ様、代わりにやってくださいまし」

 妙に腰の低いアンドロイ(もっとも、死んだ眼をしながら机の上に頭を置いているが)に頼まれる。

 フォロリスはそんなアンドロイを捨て置いて、ワイヤーを使い、器用に酒瓶とグラスを自らの場へと引き寄せた。

「あんた、また飲むの?」

 フォロリスは虫の息になっている兵士の足を酒瓶で押しつぶし、立ち上がる。

 兵士の切り口から鮮血があふれ出、床を紅く染めた。

 そんな兵士を捨て置いて、壁に身体をもたれさせながらカウンターの椅子へと歩きだす。

 フォロリスが飛びながら移動する音と、軍靴の音が重なり合う。

「フォロリス、一人で歩けるの?」

 ベラが心配そうに尋ねる。

 その姿は、まるで子供の世話をする嫁のように見える。

「この程度の距離なら問題ない……つーか馬鹿にしてないか?」

 フォロリスが袖から、ワイヤーを通してサバイバルナイフを取り出し構える。

 いつものとは違う、ハンマーのような持ち方。一般的に通り魔などが使う構え方だ。

 それを見てベラは笑いながら、カウンターの上に座り曇ったグラスを手に取った。

「馬鹿にするのだったら、無くなった手足について馬鹿にするわよ。何せ戦場での手足損傷は、兵士の油断の証拠ですから」

「……そうだな、確かにそうだ。俺は油断して、手足を失った。まあ、次期にくっ付くだろう」

 フォロリスはそう言いながらも歩みをやめず、やっとこさたどり着いたカウンターの椅子に座り、ベラの隣にグラスを置き、返しのついたナイフでコルクを開け、ワインを注ぐ。

 ぶどう酒の香りが、鼻孔を擽る。

 すると時を同じくして、木製の片開きの扉が勢いよく開き、緑色のラインが入った白い軍服を着た兵士が一人姿を見せた。

「敵……では、なさそうね」

「そうだな」

 そう言いワインを口に含んだ瞬間、グリードの兵士の首が飛び、床にゴロリと落ちた。

 兵士の身体が前方へと倒れこむと、首を切り落とした張本人が姿を現させる。

 右手にドワーフの首を、左手に血が滴る銃剣を持った新兵が居た。

 左手の銃剣を、緑色の剣がある背中に背負い直し、下に置いてあるシスターの首を足で蹴り上げ、左手でキャッチする。

「新兵、手出すの早すぎよ……」

 ベラが自分の額を右手で押えながら、新兵の欠点を促す。

 もっとも時すでに遅し、酒場の外に待機しているグリードの兵士は殺気だっている。

 だがそれを鎮めたのは、意外な人物だった。

「よせ、我が兵士よ。同胞は悪しき我が軍によって殺された、彼らの処罰は軍法会議にて決する。

 ……久しぶりだな、憎々しい期待の勇者様」

 新兵を手で軽く押しのけ、隊長さんが姿を現す。

 屈強そうな身体、幾度となく繰り広げられてきた戦場を生き抜いたような恐ろしいくも頼もしくなる顔。

 昔━━少なくとも、フォロリスとアンドロイが知っている昔の隊長さんではない。

「運がよければ死なないとは言ったが、まさか生きてたとは……お前の生命力はゴキブリ並だな」

 膝から下が無い右足に左足をかけ、右手で隊長さんに手を振る。

 すると隊長さんは剣を引き抜き、素早くフォロリスの首元に当てた。

 それに対し戦闘態勢に入る新兵とベラ。だがフォロリスはそれを、手で制止させた。

「この場で貴様を切り捨ててもよいのだが、いかせん貴様を失っては戦場では勝てぬ。

 ……命拾いしたな」

「そういった世間知らずなとこは、変わってないな。まあ、それはいい。ベラ、グラスを一個出してくれ」

 フォロリスに言われた通りベラは、仕方なく戦闘態勢を解きグラスを隊長さんの傍へと置いた。

 フォロリスが、ワインを曇ったグラスに注ぎ込むと同時に軍靴の音が鳴り響き、緑色のラインが入った白い服の兵士がずらりと、一ミリのズレなく並んだ。

 その数、四百七十名。普通の店よりは広い酒場がいっぱいになる数の兵士。その光景はどこかシュールだった。

 その軍隊に少し遅れて、新兵が入ってくる。並んでいる兵士に睨まれつつも、フォロリスの隣に座った。

 アンドロイが頭を手で膝をつきながら、一言呟くように喋る。

「地下に、治療が必要な兵士が大量に居る。ついでに水が欲しい……」

「そうか、医療班! アンドロイはこれでも齧っておけ」

 大量の兵士から、真ん中らへんに居る兵士が数十人隊長さんのところへと歩いてくる。

 手には一人二個包帯を持っており、腰には魔石が二個ぶら下がっており、歩くたびに魔石同士がぶつかり合っている。

 軍靴の音が規則正しく床を鳴らす。

 最後の一人が隊長さんのところへとたどり着き、頭を約十五度下げると同時に、隊長さんはアンドロイにグレープフルーツのような果実を手渡した。

「重症の兵士は地下に居るわ。カウンターの裏に、地下へと続く扉がある、そこから入ってちょうだい。

 個人的には死んでくれた方が、死体集め(コレクション)になるんだけど……」

「まあまあ、そう言わずにさ……あれ、これ固いなおい。ナイフで斬れないとかどれだけだよおい」

 医療班がカウンターの裏に回り、地下へと歩いて行く。

 その間に一人の兵士が手を上げる。

 それと同時に、アンドロイが果実をやっと、五センチほど切り落とす。文字通り、地面に。

「何だ、言ってみろ」

 隊長が喋る許可を出すと、兵士は頭を十五度下げてから、言葉を発する。

 アンドロイはそれに構わず、落ちた果実を更に二センチ切ると、切れ口に唇を当て勢いよく啜る。

「隊長、死んでしまった同胞を弔ってやりたいのですが構いませんかッ!」

 それは先ほど、新兵が殺してしまった兵士の事についてだ。

 当の本人は椅子に座り、カウンターの上に二つの生首を重ねている。

 シスターの顔が下、ドワーフの顔が上といった感じだ。

「そうだな、丁重に弔って━━」

 隊長さんの言葉を、フォロリスが遮る。

「いや、必要ない。奴らは今日の晩餐だ、少々足りないが……ベラ、新鮮な死体はどれだけある?」

「そうね、多分まだ警察は来てないだろうから……軽く数十人ぐらいかしら?」

「よし、それじゃこの部屋に持って来い。ついでに新しい義手と義足も手に入れねば、そろそろ臭いで━━」

 フォロリスの言葉を、今度は隊長さんが遮った。

 兵士は必至で我慢しているが、先ほどからこの酒場は腐臭が立ち込めている。

 更にそれに加え、あの村のような惨劇。そして先ほどの人食(カバニズム)的発言。

 隊長さんが何かを言いたくなるのは必然であった。

「許さんぞ、人を食うなどという反人道的な行動は!」

 この場に残った第四十四独立前線部隊は、アンドロイと新兵を除いて一斉に、大声で笑い始める。

 何故笑っているのか、何がおかしいのか隊長には理解出来なかった。

 一通り笑い終えると、フォロリスはワインをグラスに注ぎながら、フォロリス自身の考えを離し始める。

「狩りをした獲物を食す、それのなにがおかしい? なあベラ」

「全くよ。狩りをしたからにはコレクションにするか食す、これは常識で相手に対して敬意を表しているわ」

 もっとも、フォロリス等にそのような気持ちは微塵も無い。

 ただ食べたいから、エネルギー吸収効率がいいからという理由。その二つだけである。

 だが今、この場で死体を失ってしまうのは非常に不味い。ついでに言うと時間が経った人肉の味も不味い。

 限りある資源をどのように切り崩していくか、これも戦場での駆け引きの一つだ。

 その為に、その為だけにフォロリスとベラは嘘偽りを口にした。

 もしこれで他の部隊が人肉を食べるのに拒否反応が出なくなれば、戦争での食糧補給効率はグンと上昇するだろう。

 だが普通の人間なら、拒否反応が出る。

 第四十四独立前線部隊以外は、人を殺したことなど無く、ましてや食べるなど知らぬうちであるのが殆ど。

 故にフォロリスはさして期待もせず、わざち隊長さんを陥れるような言い方をした。

「……だとしても、我が兵士の士気が落ちるのは重大な問題だ。故に供養程度はさせてもらおう。

 ただでさえフォロリスの下に行く道中で、兵士が一人殺されているんだ。その程度は我慢してくれ」

「……まあ、いいだろう」

 隊長さんの言葉に眉をピクピクと動かすが、なんとか堪える。

 フォロリスは今まさに殺したいという願望を押えながらも、相手に気付かれないように話を進めた。

「して、目的の物は手に入ったのか? それと、少しばかり捕虜から聞き出したが、この国の教会は大量にあるぞ?」

 それはフォロリスが、グリードから立つ前に提案した作戦の内容に必要な二つの物。

 赤ん坊と、吸血鬼という大きな道具。

 そして何より、フォロリスが提案した作戦では赤子が、到底足りない教会の数。

 だがその問題に、フォロリスは簡単に答えた。

「何、一番大きい教会を潰し、あたりを見張っている兵士を纏めて焼殺する。

 その際、大司祭を一人だけ殺す為に赤子が必要だ。死んでいたのは想定外だったが、まあ葬式の時にでも狙い殺せばよかろう」

 一番大きな教会という事は、教会の中でも最高の権力を持っているということに他ならない。

 つまり、子教会を指揮する親教会が急に消えれば、教会は何も手出しできず、フォロリスの見立てでは敵戦力の一割も削り取れると予想した。

 無論それはあくまで予想であり、実際は戦力の一パーセントにも及ばないかもしれない。

 だが影響力だけで言えば、大きいと断言出来る。

 こういった教会が大量にあるのは、国自体がその宗教そのものである場合が多い。

 即ち、教会を落とせずとも大司祭さえ落とせれば敵兵の士気はグンと落ちる。

 だが、グリードにも同じような形の宗教に入っている人間も多い。

 故に、隊長さんが連れてきた軍隊は、フォロリスが作戦内容を話し始めてから少しザワついている。

「だが、そう事は上手く行くのか?」

「戦争だって同じギャンブルさ、ようは個人か国を挙げてかの違いでしかない。

 殺し合いもそうだ。故に俺は、もしかしたらギャンブル中毒なのかもな。

 ところで、飲まないのか? 十数年物だぞ?」

「……いや、頂こう」

 フォロリスは、新たにワインをグラスに注ぎ、目のあたりまで上げる。

「勝利と利益の為に、乾杯」

 フォロリスがそう静かに言うと、隊長も同じく「乾杯」と口にする。

 アンドロイは相も変わらず、果物を食べていた。

 口の端に果肉が付いており、それを舌で口の中に運ぶ。

 フォロリスはワインを一気に口の中に入れ、隊長も同じように口の中に入れる。

「所でだ、吸血鬼の血とはいったいなんなのだ?」

「あ、それ私も気になる」

 隊長さんとベラがそう言ったので、フォロリスは右ポケットから血の入った小瓶を取り出し、カウンターの上に転がす。

 店内に差し込む光によって、血は神秘的に、しかし怪しく光っている。

 ベラは初めて、液体を宝石のように綺麗と感じた。

「……ありがとう、中々綺麗なものだな。初めて血を、綺麗と感じたよ」

「そうかい、それはよかった」

 フォロリスは手早く吸血鬼の血が入った小瓶を右ポケットに入れると、空になったグラスにワインを注ぎ込み、一気に飲む。

 喉を通ってワインが通過していくのを感じながら、ほどよい酔いに浸っていると━━

 フォロリスの右目に、投げられたナイフが突き刺さった。

 眼の下を覆う皮膚を貫通し、眼球に突き刺さり血を吹きだしている。

「━━なっ、フォロリス君!?」

 新兵が素早くナイフが飛んできた方角へと走っていく。

 ベラもアンドロイも、隊長さん率いる部隊も絶句する。

 だがフォロリスは冷静にナイフを抜くと、引き裂かれた皮膚がめくれ、眼球もナイフに突き刺さりながら、一緒に出てきた。

 眼球と眼窩(がんか)が、白い糸の橋を作っている。

 フォロリスはそれを強引に、アンドロイからナイフを無理矢理奪って斬ると、思いもよらない言葉を口にした。

「チッ、油断した。……アンドロイ、食うか?」

 この状況で、冗談を口にしたのだ。

 本来なら取り乱し、眼窩(がんか)を押えながら床を転げまわるだろう。

 だが、フォロリスはなんて事はないといった顔で、ナイフに突き刺さっている目玉を引き抜いた。

どうも、ナムの(ナチ)です。

今回の話、いかがだったでしょうか? 実はこれ、一日で全部書ききって二日前に予約投稿したんですよ。

いや、だからどうしたって話ですけどね。


さて、本来の後書き━━つまり今回の話の解説と行きましょう。

今回は隊長さん&軍力補給に、フォロリスに新たな弱点を作るという話でした。

次回から本格的に動き始めます。

そして、実はある連載小説を考えております。

無論、この小説に関係のある小説ですので、ご安心を。

次の話から投稿しようかと思っております。

ではまた次回、To Be Continued !

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