第二十八話 花の香りは血の香り
壁には大きな花の模様、木製の床にペンキで書いた花、天井にも花。
更にティーカップにまで花の模様と花尽くし。
よくもまあこんな店に入れるものだと、ベラは若干関心した。
もっとも、あまりこういったのには興味が無いので適当に歩く。
周りで、朝から何もせずに喋ってばかりのカップルを、何処か蔑んだような目で眺める。
ベラを見てからカップルたちが、彼女を見ながら何かを言ってるからだ。
事実、彼女の捜索願が出されているので無理もない話ではあるが、あまりいい気はしない。
その為、早く終わらせたかった。外では新兵が、自分が居ない間に注文できるのかどうかの実験もかねて……。
もっとも新兵は、ケーキを食べ終わりぼーっとしている。客観的に見ると、彼女に捨てられた男にしか見えない。
「何あの服、目立ちたいのかしら……?」
一つのカップルが、ベラの服を見て笑う。
目立つ事は重々承知ではあるが、いい気はしない。
それに、別にお洒落でゴスロリの服を着てる訳ではない。
「クスクス、あれは無いわよね。彼氏も居ないようだし、そもそも銃剣をこんなところに持ち出すとか……」
一応、外に男を待たせている。
だがそんなのを一々言う必要性がどこにあるだろうか?
そう思いながらも、人間とドワーフのカップルへと接近する。
一応、彼女らの居る通路側にトイレがあるので何も不審ではない。
更に、もしバレたとしてもすでに手は打ってある。
「確か……こっちよね?」
小演技をしながら、トイレの方へと歩いて行く。
そして、修道服を着た二人組の横につくと手をわずかに動かす。
すると、何もない場所に光の線が出来、ドワーフの小指を斬り取った。
コーヒーの中に小指が落ち、机に染みを作る。
何が起きたか瞬時に理解できなかったシスターと見られる女性は、悲鳴を上げる。
「あら、どうしたのかしら亜人。私の顔に、何か付いてるのかしら?」
ドワーフは机の下に隠していた大剣を手に取り、ベラに思い切り切りかかった。
ベラはそれを紙一重で避ける。
大剣は大きく、当たれば威力は高い。
更に力が強い者は、同時に攻撃も早い。
だが大剣は長い、即ち対象に振り下ろされるまでの間が長い。
故に隙が生じ、避ける事は容易く、同時に反撃も容易である。
そして何より大剣は目立つ。故に一般人であるそこらの客・店員が悲鳴を上げ出入り口へと走っていく。
「貴様のような小娘如きが、我が一族英知の結晶であるワイヤーを使うか」
「利用できるのは何でも利用するそれが基本よ? ところで大丈夫なのかしら、一般人を避難誘導しなくて」
ベラの言うとおり、今現在客・店員は出入り口へと走って行ってる。
そしてベラは、そこに━━扉に仕掛けを施した。
逃げられては困る、敵に枷を付ける、外部からの加勢を防ぐ……。
「い、いきなり人が……あ、ああああああああああああ!!!!」
バラバラに切り落とされた人体、それを見て絶叫する一般人。
中には吐いている人間も居る。
ベラは出入り口にワイヤーを仕掛けた。
「実に面白い余興でしょう? 亜人、助けなくていいのかしら」
ベラはドワーフから距離を取り、花壇を踏みつけながら、先ほど死んだ人間を踏みつぶしてまで、また出口に向かいバラバラになる人間を笑いながら観察し、亜人に尋ねる。
無論助けてあげろと言ってる訳ではない、ただの挑発行為。
だがそれに対し、先ほどまで放心状態になっていたシスターが、ドワーフに命じた。
「……命ずる。私の事はいい、彼らを助けてあげろ」
「おうおう、それはまあ偽善的な事で……死して教会の名を上げる、素晴らしい狂信者ね。
まあ、もう大分と死んじゃって数人程度しか残ってないけどね」
ベラは狂気の笑みを浮かべながら、椅子をワイヤーで浮かし即席の十字架を作り、その上に座り笑い声をあげる。
狂気、恐怖、邪悪、戦争意欲殺人意欲を声だけでも感じ取れるような、気味の悪い声。
ずっと聞いていたら洗脳され、戦場へと駆り出され楽しく人を殺させるのではないかと言う、絶望の底に住む亡者さえも狂気の笑みを浮かべるであろう笑い声。
フォロリスと同じ。否、それ以上の狂気。
「……射程距離圏内、さようなら数少ないアベック諸君。地獄へと良き旅路を願っておくわ」
背中に背負っていた銃剣を、残ったカップルに向けトリガーを引く。
光の線を描きながら銃弾は、男の眉間にぶち当たり絶命させる。
「━━貴様ァ、目的は我らの抹殺ではないのか!? 何故無関係の人間を巻き込む、何故だ!」
ベラは指を動かし、残ったカップルの頭を全て斬り落とし、一仕事終えたといった顔をしながら答えた。
「今は戦争、その際住民に被害が及ぶのは当然の事。そして━━」
指を、二回鳴らす。
すると首が切られた死体が起き上がり、ドワーフ達に向かって歩いてくる。
「あんたらをぶっ殺して、死体集めに加える為の下準備よ」
もはや当初の目的を忘れ、ただ挑発を純粋に楽しんでいる。
それに対し怒ったドワーフは大剣でベラに、思い切り切りかかる。
大きな腕から振り下ろされる、勢いのある大剣。だが攻撃に移るまでの間が長いため、振り下ろした時にはすでに、そこにベラの姿は無く、無残にも十字架が斜めに斬り裂かれていた。
ベラがどこへ身を隠したか探していると、切り裂かれた十字架の切れ目から銃剣を覗かせていた。
それを発見しドワーフは後ろへと回り込む、だが━━
「残念でした、任務完了」
声がした時にはもはや時すでに遅く、シスターの心臓部分にナイフが突き刺さり、隣にベラが座り、シスターが飲んでいたオレンジジュースを飲んでいる。
ドワーフは振り向けなかった。彼女が死んでいるという現実を知りたくなかった。
だが無情にも、ベラはそれを許さない。
ワイヤーで首を切り落とし、ドワーフの方へと投げる。
ドワーフの目の前に、眼から光が無くなり、口から血が垂れているシスターの頭が転がった。
「ん? どうしたのかな亜人、声も出ないようだけど。ああ、愛しの我がご主人が殺されて放心状態って事かしら」
ドワーフは膝をつき、シスターの首を優しく手に取り、抱きしめる。
ベラはそんなドワーフを放っといて、銃剣に弾を装填させ、銃口を向けた。
「……臭い三文芝居はもう見飽きたわ、殺れ」
指を鳴らし、ドワーフに向かって首なしの死体を仕向ける。
ただ殴る事しか出来ないが、脳内に存在しているストッパーが無くなり百パーセントの力を引き出されている。それは即ち、一発一発の拳が鉄で殴られるような衝撃があるという事。
無論拳もただでは済まず、そこらに砕け堕ちた骨やら指やらが落ちている。
だがベラには、何故かダメージを受けていないように思えた。
抵抗を全くせず、更に傷だって作られている。骨だってもう折れてもおかしくは無い。
「気味が悪い、とっととぶっ殺せ!!」
ベラがそう叫ぶと同時に、ドワーフの大剣が死体を全て薙ぎ払った。
ほぼ予備動作無しで、一瞬の出来事。故に少し、状況判断が遅れた。
ベラの足元に内臓が飛び散る。
「……チッ、使えない死体ね」
ベラはそう吐き捨てると、ドワーフの攻撃を窺う。
するとこちらへと走ってき、やはりほぼ予備動作無しで大剣を振り下ろされる。
その攻撃を何とか読み取り、左肩を掠る程度に済ませた。
だがそれでも、左肩の皮が全て捲れあがっているのだ。
そして剣を振り下ろした衝撃で、後ろの窓が割れ、ガラスが、後ろのテラスへと飛び散る。
「許さない、俺は貴様を、貴様らを絶対許さない!!」
ドワーフの眼には、復讐を誓ったような炎が宿ってるように見える。
ベラはそれを見て、瞬時にこの場に居ては危険だと判断した。
目的はもはや達成されている、長居は無用であるのだ。
「新兵、こいつをなんとかしなさい!!」
飛び散ったガラスが突き刺さった苺から、器用にガラスを引き抜いている新兵に向かって叫んだ。
それと同時に、ドワーフの大剣が勢いよくベラに向かって振り下ろされた。
よそ見をしていた為反応が遅れ、斬られるかと思い目をつぶった瞬間、新兵が、緑色の剣を片手に斬撃を止める。
「貴様、この地の者ではないな。どけ、この娘を殺したいのだ。どかねば殺す」
淡々と、斬撃を受け止めた新兵に命令をするドワーフ。
だが新兵は何も言わず、ドワーフの膝を思い切り蹴りつける。
骨が割れる音がし、ドワーフは思わず大剣を捨て、膝を押さえる。
今現在、ドワーフは隙だらけだ。下手をすれば子供にさえ殺されるだろう。
だが新兵は、ドワーフの顎を思い切り蹴り上げ、無理矢理立たせた。
手に、ドワーフが手放した大剣を片手で持ち、ドワーフを無言で見下す。
「流石、我らが新兵ちゃん!! 後でケーキ奢ってあげるわ!」
新兵は無言で頷き、ドワーフに向かって大剣を投げつける。
ドワーフは大剣を受け取り、不思議そうな顔を新兵に向けた。
それはベラも同じだった。
「ちょっ、なんで相手に武器渡しちゃうのよ!?」
「その小娘の言うとおりだ、俺を愚弄する気か?」
新兵はそんなベラを置いといて、無言で剣を構える。
そんな新兵の意図を察し、ドワーフも剣を構えた。
「……はあ、私先に帰っとくわ。この戦闘狂共が、好きなだけやっときなさい」
新兵は無言で頷き、ドワーフに向かって剣を振り下ろした。
それを大剣で受け止め、横に薙ぎ払う。
新兵はそれをしゃがんで避け、両手を使って後ろに飛びのく。
それに対し、大剣を思い切り床に斬りつける。
すると床に亀裂が入り、足一本程度入るであろう穴を作り出した。
新兵は傍にあった椅子を利用し、思い切り高くジャンプする。
太陽を利用し、ドワーフの眼を潰す。
そして落下の速度を利用し、ドワーフに剣を振り下ろす!
ドワーフはそれを大剣で受け止めるも、すでに新兵の手には剣は無く、剣が空高く飛んだ。
「なっ、貴様!!」
腕があの攻撃で痺れ、瞬時に防御行動に移れなかったドワーフは成すすべなく、心臓にオピネルナイフを突き刺された。
薄暗い酒場の中、またも元の酒場へと戻ったベラの目に飛び込んできたのは、頭が痛くなるような光景だった。
テーブルや床には刃物の傷が出来ており、傍に転がっている、左腕の無い兵士の傍にはサバイバルナイフが突き刺さっている。
その傍にフォロリスは、右足を傍に置いて座っている。
「フォロリス、あんた少しは加減と言うものをね……」
「ついうっかりな、手加減するのは苦手なんだ」
フォロリスはそう言いながら、床に突き刺さったナイフを抜き取る。
「で、どうだった? 人間使い(ヒューマンマスター)は見つかったのか?」
「ええ、一応。……なんか、骨折り損だわ」
ベラはため息を吐きながら、そう呟く。
事実、決死の思いで人間使いを殺し、ドワーフに殺されかけたという苦労が報われぬまま、兵士が倒れているのだ。
「一応、息はしてるぞ?」
「そういう問題じゃないわ、ただでさえ低い戦力をこれ以上下げてどうするのよ」
「まあ、その点なら問題ない。そろそろ来るだろう、なあアンドロイ?」
カウンターに座っているアンドロイに向かって、尋ねた。
相当疲れたのか、水を片手にグッタリとカウンターに横たわっている。
「まあ、もう少しで来るんじゃないのかな? あー、頭痛い、薬品の臭いが……ああ」
聞くだけで疲れが溜まっているのを感じ取れる。
アンドロイは一人で、数百人の傷を治療したのだ。
何故か死体は全くなく、おかげでアンドロイの魔法は使えなかった。
恐らく、この部隊長を殺し他の部下を捕虜としようという魂胆だろうと、アンドロイは予想した。
だがそれに、更に怒りを募らせる。
無駄な手間を増やしやがって、こっちだって疲れてんだよコンチクショウ! どうせやるんだったら、殺せっつーの。
そうブツブツと言いながらも、兵士たちの治療はしっかりとやる。ある意味、理想の上司かもしれない。
「で、一体全体誰が来るの?」
「聞こえてくるぞ、そろそろな」
フォロリスがそう言うと同時に、外から軍靴の音が聞こえてきた。
ファンタジー色が強くなってきたなと、最近感じてきました。ナムです。
今回はちょいとばかし、文字が荒いような感じがしますがまあ気にせずに投稿します。
さて皆さん。どうでもよき話に、少しばかり付き合って下さいまし。
無論「興味ねーよ」という方は読み飛ばしても構いません。
実は新兵、一番読者の感情輸入しやすいキャラとして書いてます。
無言だけどね、名前ないけどね!
……何故か腐女子向けしそうだなと書いてて思ったのは内緒です。
さて、どうでもいい話ですが自分の書いてた初期設定でも……。
実は新兵、最初は使用する武器が変更されてるんです。
最初は針とワイヤーの予定だったのですが、初登場時に剣使ったから剣使わせたろという感じです。
まあ、武器を大量に使ってる主人公がもう居ますけどね。
では、誤字誤植、ご指摘ご感想などがありましたら感想欄にでも書きなぐってくださいまし。それが作者の励みになりますから。
ではまた次回、To Be Continued !




