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魔石と殺人狂  作者: プラン9
第一章~王国崩壊~

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第二十七話 嵐の前の静けさ

 荒れ放題の酒場、カウンターの上で寝ていた新兵が目を覚ました。

 頭を押さえながら起き上り、辺りを見渡す。

 隣にはフォロリス、ベラが眠っており、下にアンドロイが寝そべっている。

 時折寝言で『僕の名前はアンドロイです』と言っているが、気にせずに立ち上がる。

 その音によってか、フォロリスが瞼を擦りながら起き上る。

「おう、おはよう新兵」

 新兵は頭を軽く下げ、服の下から宝剣を取りだしフォロリスに渡した。

 だがすぐに、頭に右手を当てながら左手で何やら言いたそうにワナワナと動かす。

 フォロリスはそれを見て軽く笑うと、ベラの肩を二回叩いた。

 眠く、甘ったるそうな声で「あと十分」と言う。

 フォロリスはベラをそのままの状態にしておき、アンドロイの方を向いた。

 未だに寝息を立てている。

 フォロリスはアンドロイの寝ている場所まで二・三歩歩き、アンドロイのほほを容赦なく叩いた。

 ほほを赤く腫れされながらも、目を覚ます。

 その間に新兵は、何やら太極拳のような動きをしている。

「おはよう。なんだか、ほほがめっちゃ痛いんだけど」

 ヒリヒリするほほを押えながら、何故痛いのかをフォロリスに尋ねる。

 それに対しフォロリスは若干目線をズラしながら、誤魔化した。

「おう、おはよう。気のせいじゃないか? 兵士たちを起こしてきてくれ、隊長」

 アンドロイは渋々立ち上がり、兵士の寝ている場所へと向かう。

 フォロリスはその間にカウンターの裏へと回り、裏に隠されていた水を飲む。

 目を覚まさせる為と、渇いた喉を潤す為だ。

「ふぁ~あ、おはざっす副隊長。新兵なにやってんの?」

 フォロリスの隣から、一人の兵士が出てくる。

 フォロリスはその挨拶に手で返しながら、酒瓶を手に取った。

「朝の運動だろ、多分」

 新兵は未だに、何なのか不明な体操をしている。

 心なしか新兵の顔は楽しそうだ。

「なんだか知らないが、健康的な事はいい事だ」

 酒瓶をナイフで開け、グラスに酒を注ぐ。

「そうっすね……朝から、酒飲むんすか?」

 兵士は酒瓶を指さしながら、尋ねる。

 フォロリスは笑いながら、酒瓶の中に残った酒を見せつける。

「ちょいとばかしな、料理にでも使おうかと」

「あー、知ってるっすそれ。ふらんべって奴っすよね?」

 フォロリスはふと兵士の眼を見た、盲点があっていないように見える。

 そんな兵士と少しの間雑談をしていると、兵士の後ろからアンドロイが飛び出してくる。

 何やら焦っているような顔をしている、何かあったのだろう。

 願わくば、敵がやってきたことをフォロリス含む、アンドロイ以外の第四十四独立前線部隊の皆は願った。

「た、大変だよ!! 殆どの兵士が重傷……って、なんだいその残念といった感じの顔は」

「いや、別に。で、戦えそうな奴らはどんぐらい残っている?」

 フォロリスはため息をつきながら、まだ戦えそうな残像兵の数を聞く。

 すると、予想だにしない答えが返ってきた。

「僕らを除いて、たったの三名……」

「なるほど、三名か。……三名?」

 アンドロイは無言で頷く。

 三名、それが今現在彼らが持っている残存勢力。

 こんな少人数で国を落とすなど不可能、自殺行為と言っても過言ではない。

 だがそれらは別として、フォロリスが気になっている点は一つ。

「アンドロイ、そいつから離れろ!」

 フォロリスがそう叫び、言われるがままカウターの外へ勢いよく飛んだ。

 アンドロイの右足の靴が、切り落とされる。

 兵士の手には、フォロリスが普段愛用しているサバイバルナイフがあった。

 アンドロイはそれを確認しながら、床に背中から倒れこむ。

 新兵は相変わらず太極拳をやっている。

「どういう事だい、これは?」

 アンドロイは切れ堕ちた靴を脱ぎ、指が切れていないかを確認した。

 血は出ていないが、隠し持っていた銀貨が無くなっていた。

「さあな、我が軍の兵士ではあるが……」

 フォロリスはそこで言葉を途切り、ワイヤーに繋がれたククリと呼ばれるナイフを取り出し、逆手に構える。

 それを見ると兵士は飛び上がり、フォロリスに向かって思い切りナイフを振り下ろした。

 それに対しフォロリスは、兵士の左腕を思い切り切り落とす。

 切り口から鮮血が飛び散り、兵士は左腕を押える。

 フォロリスは退屈そうな顔をして、こいつは何なのかを尋ねた。

「味方という訳でも無さそうだ、大方魔物の仕業だろう。アンドロイ、知らないか?」

「……人間使い(ヒューマンマスター)、人間を操る能力ね。大方近くに居るんでしょう」

 アンドロイへと投げかけた問いに、ベラが答えた。

 その言葉に、フォロリスは納得する。

 たとえ兵士が、自分に不満を持ってたとしてもそれ以上にメリットがある為、ある程度の我が儘は我慢するだろう。

 もしかしたら、あの会話は彼が残った理性で何かを投げかけたかったのかもしれない。

 普段は言わないような言葉を使っていたのに、フォロリスは何か疑問を持つべきだったのだ。

 無論、フォロリスもそれを重々承知している。だが、全く後悔の二文字は無い。

 何故なら、これで確かめられるからだ。フォロリスが使った、兵士の選び方が正しいかどうかを。

「まあ、術者を殺せば正気に戻るだろうけど……どうする?」

 フォロリスは当然というような顔をしながら、答える。

「こいつを殺してから探して殺す、以上だ」

 本来の人間なら、先ほどまで楽しく話していた相手を殺すのに躊躇いが生じるだろう。

 それが戦地を共にした者なら尚更。

 だがフォロリスは違う。たとえ知らない人でも、友人知人でも、戦友どころか親すらも簡単に殺す。

 一応殺さないでいたが、理由は仕送りだけ。

 そして今から殺す標的は戦友、心の中で何ども殺ってみたいと思っていた為、今回の事件は若干嬉しく感じた。

 それは何故か、自分自身の実力を確かめる為だ。

「さてと、反撃開始だ!!」

 フォロリスは背中を床に着け、思い切り左足で兵士の腹を蹴り上げる。

 兵士の口から、少しではあるが吐瀉物が噴き出された。

 だがこれに対しフォロリスは、少しばかり残念であった。

 何故ならこの兵士、戦闘はずぶの素人の動き。

 先ほどの蹴りも、普通の兵士・殺人狂なら避けられるか足をキャッチされ動きを制限する。

 この兵士は、人間使い(ヒューマンマスター)の動きをトレースしているように感じる。

 それは即ち、中途半端に知識を持っている素人。雑魚の中の雑魚。

 故にこれは戦闘ではない、ただの一方的な暴力の嵐。

 それ故にフォロリスはわざと隙を作る動き、足を骨盤あたりまで上げた。

「どうした、まだ腹を軽く蹴っただけだぞ? 来いよ人間使い(ヒューマンマスター)、足だけで相手してやる」

「あれで軽くなのかい?」

 カウンターから顔だけを出しながら、フォロリスの冗談にツッコむ。

「黙ってろアンドロイ、テメェはおとなしく重症の兵士共を介抱しとけ」

「了解。ベラ、頼んだよ。フォロリス君があの兵士を殺す前に見つけて殺してね」

 ベラは、丁度太極拳のようなものを終えた新兵を連れて窓から外へと出ていく。

 それに素早く兵士は反応したが、フォロリスは足にワイヤーを巻きつかせて勢いよく引っ張る。

 思い切り、顔面からこける兵士。

 隙だらけの背中に、宝剣を軸にして思い切り蹴りを決める。

「いやー、久しぶりだなこういうの。……なにボーっとつっ立ってんだベラ、とっとと行け」

「やり過ぎないでね、ねえ新兵」

 新兵は頷きもせずに、ベラを置いて外へ出る。

「ぶっきらぼうね、あんた」

 悪態をつきながらも、新兵に続く

 アンドロイはそれを見送り、カウンターの下へ顔を潜らせた。

 フォロリスの攻撃を受けた兵士は起き上がり、フォロリスから距離を取り、ナイフを構えなおす。

 それを楽しそうな目で見送り、手で挑発をする。

「立ち上がれ、かかってこい。おもちゃは俺が満足するまで壊れるなよ?」

 不協和音を更に酷くさせたような、生物に出すことがおよそ出来ない笑い声を出す。

 それに対し、兵士━━人間使い(ヒューマンマスター)は頭痛のような感覚を覚え、デコに手を当てた。


「さて、人間使い(ヒューマンマスター)はあの兵士から……大体半径四十メートル。探せるかしら?」

 酒場から出て少し歩いた場所にあるカフェに座りながら、新兵に人間使い(ヒューマンマスター)の魔法の特徴を教えた。

 近くに置いてある花壇の向こう側に、茶色い壁で造られた酒場が見える。

 壁には、ベラの写真と行方不明の四文字が書かれたビラが大量に貼っている

 あたりにはカップルが大量に座っており、各々オレンジジュースやコーヒーを飲み、ケーキなどを注文している。

 それに対し彼女らは、コーヒーとウーロン茶。そして食べ終えられたお皿と手つかずのいちごのショートケーキ。

 あまりにとは言えないが、この場には若干の違和感を感じる。

「……あんたさ、すこしは喋ろうとしたら?」

 銅製の瓶に入った砂糖を無言で、半分ぐらいコーヒーの中に入れる新兵。

 それに対しベラは、少し引きながらウーロン茶を飲む。

「苦いの無理なんでしょ、なんでコーヒーなんて頼んだの?」

 ちなみに注文方法は、無言でコーヒーの文字を指で付くだけ。

「ねえ、お願いだから喋ってよ。これがどう見てもデートとは思えないわ」

 その言葉に、若干困ったような顔をする新兵。

 新兵は手つかずのケーキをフォークで小さくしてから口に運び、コーヒーを飲む。

 ちなみにアイスコーヒーだ。

 その為砂糖が溶けきっておらず、新兵の口の中はジャリジャリしている。

「……もう何も言わないわ。で、どう?」

 ベラの急な問いに、首をかしげる新兵。

「いや、だからね。周りに怪しい人物が居るの、居ないの? どっちよ」

 新兵は少しだけ辺りを見渡し、ある店内に居る窓際に座っているカップルを指さした。

 この国には珍しい亜人のカップル。

 緑色の髪をした緑色のドワーフと、人間の女のカップルだ。

 ドワーフはこの国の兵士が着用している青い軍服、女性は紺色の修道服を着ている。

 テーブルの上にはコーヒーとオレンジジュースが置いてあり、ドワーフはコーヒーを飲んでいる。

 珍しく、机の上にケーキを置いていない。

「いや、珍しいけど……別に怪しくはないわよね?」

 新兵は首を横に振り、右手をベラに見せる。

 ベラは数秒考え、女性の方の右手を見つめた。

 右手の人差し指や中指を若干ではあるが、忙しなく動かしている。

 言われてみれば不自然と思えるが、普通なら思わないだろう。

「……早いわね、見つけるの。で、どうする? ここらでもめ事を起こしたら、確実に兵士が飛んで来るわ」

 新兵は無言で、ベラの手を指さした。

 ベラが使った、あの手品のような凶器。それの正体を新兵は、早くも気付いていたのだ。

「気付いてたのね。観察眼と戦闘力は素晴らしいが、コミュ力は全くダメと」

 新兵は頭をかきながら、照れくさそうな仕草をする。

 ベラは笑いながら、席を立った。

「トイレに行ってくるわ、ブルーベリーケーキを頼んどいてね」

 ベラは冗談を言いながら、店内の中へと入っていく。

 新兵は無言で手を上げているが、無論店員は店の中に居るのでこちらへは来ない。

 数秒程度してから、ケーキをフォークで小さく切り分け口の中に入れた。

 苺を落とさないように、ちょっとずつ崩しながら食べ、コーヒーを飲んだ。

今回は短めですね、ナチの人です。

さて、今回も日常回と思いきやまさかの……という回。ちなみに文字数は若干少ないです、すいません。

そして珍しく、フォロリス人殺してない。

殺人狂なのに人を殺さないとはこれいかに……。

あと、ふと思ったのですがフォロリスの殺人人数、以外と少ないような……。

気のせいですよね、多分。


では、また次回。

To Be Continued

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