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魔石と殺人狂  作者: プラン9
第一章~王国崩壊~

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第二十五話 アンドロイの秘密

 金箔が上下に張られた長い廊下、様々な絵画や装飾品の施されれたレイピア等が飾ってある。

 そんな中、アンドロイが辺りを見渡していた。

 いつもと違い、道化のメイクをせずに全身真っ黒な服装。

 もっとも、メイクはもはや買う金も、メイク道具も尽きてしまったからだ。

 そんないつもと違う服装のアンドロイは、我が国の内装とあまりに違い過ぎてるため驚きを隠せないでいた。

 更に驚くべき事は、ここまで容易に侵入出来たこと。

 まるで誘われているかと錯覚するくらい、警備が手薄なのだ。

 城の前の、大きな庭を巡回しているのはたった数人。

 これではまさに、『どうぞご自由に攻めてください、暗殺だっていつでもウェルカム』と言ってるようなものである。

 それに加え、城内の警備も、『イージーモードでももう少しやりごたえがあるぞ』と言いたくなるような現状。

 事実今まで、アンドロイが隠れたのは城に侵入する際の、庭を通り抜けるときぐらい。

 更に下手すれば子供でも見つけるのではないだろうかといった隠れ方をしたのだ。

 いくらこの国の兵士たちが銃剣を持っているからと言って、これはあまりに酷い。アンドロイを馬鹿にしてると取られても仕方がない。

 例えるなら、剣からライフルに武器を替え、ハイエナの群れに突っ込むようなもの。

 絵に書いたような敵の警備をそのまま現実に持ってきたかのようにも感じる。

 だが、それ故に動揺も激しい。

 今まさに、アンドロイの目的地に兵士たちが集まり待ち構えているのではないか? という不安を考えてしまう。否、それしか考えられないのだ。

「これだったら、適当な兵士に行かせてもよかったような……まあでも、吸血鬼の血もあるし大丈夫だよね、うん」

 アンドロイはため息を漏らす。

 そもそも彼は曲がりなりにも隊長なのだ。皆からはその存在すら忘れられ、中には『隊長は欠番』とまで言われてしまう様……。

 それに加え、ここ最近のストレスによって若干髪の毛が抜け落ちてきたりもしている。

 更にナンパだって始終失敗するし、爆弾の一つがフォロリスの遊び道具(それにより、罪もない人を数人程度巻き込んだ)、もはや不幸の二乗。

「僕以上の不幸者はいないよね……ベランダにシスターとかぶら下がってたりしないかなぁ」

 アンドロイは、ついつい不満と自らの欲望を口に出す。

「まあ、別にいいんだけどね。子供だったらもうなんでもいいし」

 アンドロイはそう呟きながら、飾っていた装飾品。真ん中に緑の宝石が埋め込まれた、レイピアを手に取った。

 その剣は本当に剣なのかというほど軽く、だがただの装飾品とは変わっている狼の皮を使った柄。

 この剣の重さは、殆どが柄と刃の間辺りに埋め込まれている宝石のせいなのではと思ってしまうほどだ。

 そんな剣を持ちながら徘徊すると、ふと十字路になっている場所で立ち止まる。

「……でよ、……がな……」

 二人の足音と、一人の声が聞こえてきた。

 アンドロイはレイピアの切れ味を確かめる為、左手の指筋で、刃の部分をなぞる。

 するとすっぱりと切れ、血がにじみ出てきた。

 それを確認し、二人がこの十字路へたどり着いてもいいように構える。

 そして数十秒後、背中に銃剣を構えた見張り兵が、レイピアの届く範囲まで到達し、顔を見せる。

 片方は金色の髪を、肩位まで伸ばした男。もう一人は青く長い髪をした女性。

 アンドロイは彼らの姿を見るや否や、レイピアを金髪の男の頸動脈に突き刺す。

 血しぶきがレイピアの柄の部分を紅く染め、心なしか緑色の宝石が紅く光ったように見えた。

「がっ……あっ」

 喉に淡が溜まっている時のような声をだし、首元を押えながら床で倒れこむ男。

 血が淡のように、首あたりに溜まっているのだろう。

 女性が悲鳴を上げようとした瞬間、アンドロイはナイフを女性の首元に宛がい、警告する。

「いいか、今ここで叫んだら……貴様の首を切り裂き血を啜らせてもらう。僕は女の生き血が大好きでね」

 アンドロイはそう言いながら、女性のうなじ部分をいやらしく舐める。

「さて、案内してもらうよ。君たちの王、アレスの場所に……」

「あ、アンドロイ・カチカ。何故貴様がここに……」

「言っただろう? 復讐すると……ねえ。えーっと、同僚さん」

 アンドロイは笑いながら、昔の同僚に言う。

 復讐、それは彼をグリードへと追いやったアレスに対してだ。

 その昔、アンドロイはこの国で軍隊長をしていた頃、アンドロイにとっては封印しておきたい記憶の一つ。

 彼、アンドロイ・カチカはこのイス国で生まれ育った。

 家庭はある兵の団長である父と、貴族の生まれである母。何不自由なく過ごしてきたかに見える。

 だが実際は、彼は異常とも言える愛情を受け、怯えてきた。

 何か裏があるのではないか? 何を企んでいる? そういった、異常としか言えぬ警戒心を、実の親に持ったのだ。

 そしてアンドロイが十二歳の時、両親の頭を跳ね飛ばした。

 武器は、奴隷が薪を割る際に使っていた斧。

 当時としては異例の、最年少殺人であった。

 だがそれは、アンドロイがこの国を出るまで処罰はされていなかった。

 否、隠されていたのだ。彼の血族に。

 自らの血筋に汚名を着せるなど、あってはならぬ事態。

 その代りに、彼の使った斧の所有者であった奴隷に罪をかぶせ、アンドロイは何食わぬ顔で青春を過ごした。

 その際にもアンドロイの警戒心、そして殺人意欲はちゃくちゃくと育っていき、その結果アンドロイはイス国の軍隊長となったのだった。

 戦績は確かによく、与えられた任務に応じて臨機応変に動き回った。

 だが同時に、非情に憶病でもあった。

 その結果好んで使ったのは、毒殺や薬殺である。

 井戸に毒薬か、麻薬を放り込む。

 毒薬の場合は言わずもがなではあるが、バレたら終わるという欠点がある。

 だが麻薬の場合、村人はそれに依存し、時が立てば立つほど中毒症状に陥り、村は崩壊の一途をたどっていく。

 たとえ国がそれを禁止したとしても、暴動が起き自然と国は落ちる。

 だが現国王は、それを許さなかった。

 だが同時に、この国の領土をここまで広げたのも彼であるため、死刑には出来ない。

 ではどうするべきか、選択肢は一つ。

 彼を国外追放とした。

 故に今、彼は強大な敵となってしまったのだが……。

「……君、この城の間取りは変わっているのかい?」

「か、変わっていない。何も変わっていないぞ!! ほ、本当だ、神に誓って……」

「……そうかい」

 アンドロイはそう言うと、同僚の頸動脈を切り裂いた。

 金髪の同僚と同じように、頸動脈を手で押さえながら倒れる。

 アンドロイは苦しんでいる女性を蹴り、金髪の兵士のところへと飛ばした。

 短い悲鳴が出たが、それを無視し金髪に刺さっているレイピアを引き抜いた。

「まあ、替わってたら変わってたで潜入したかいがあったってものだけど……」

 アンドロイは彼女の言葉を、全く信じていない。

 いや、むしろ敵の言葉を信じろと言う方が無理な話である。

「じゃあねー、元同僚さん。君の分まで、僕が生きてあげるよーっと」

 アンドロイは血がついたナイフを、最後の止めとばかりに女性の顔に投げつける。

 すると丁度人中のところに突き刺さった。

 女性の身体が少しの間痙攣したかと思うと、ピタリと動かなくなる。

 それを確認すると、金髪の兵士に突き刺さったレイピアを引き抜いた。

 アンドロイは顔に笑みを浮かべながら、レイピアを手に持ち、昔の記憶を頼りにそのまま真っ直ぐ前進。

 だがもう何十年も前の記憶、詳細には覚えているはずもない。

「だけどまあ、ある程度の特徴さえ覚えてれば問題なーしっと」

 アンドロイは歩きながら、黒い扉を見つけた。

 両脇にも廊下が続いている。

 そこは、アンドロイを国外追放したアレス国王の書斎。

 いつもアレスは、休みの間もここで本を読んでいたりする。

 懐かしき、昔の楽しかった記憶。

 そして、アンドロイが最後に見たこの城の一部……。

 ついつい、苦虫を噛み潰したような顔になってしまう。

 だがそれと同時に、ふと違和感を感じた。

 何故、部屋の前に兵士が居ない……?

「……今は戦時中、だのに見張りが居ないのはどう考えてもおかしい」

 アンドロイはふと、レイピアを見つめる。

「まさかとは思うけど、これが魔宝石とかは……」

 流石にそれは無いと思っていたが、何もしないよりはマシと思い試してみる。

 すると緑色の魔宝石が動き、死体がこちらへ歩いてくる音が聞こえた。

「……マジで?」

 アンドロイ自身、このまさかの偶然を信じる事ができなかった。

 こんな、まるで最近の小説でも出てこないようなご都合主義な展開。誰が信じる事が出来ようか?

「まあ、別にいいんだけどね」

 足音が、自分に近づいてきたので、通路の脇に逸れる。

 すると死体は、アンドロイの目の前で止まった。

「その扉を開けろ」

 死体はアンドロイに言われるがまま、扉を開ける。

 すると奥から、巨大な槍が何十本も飛び出し、死体を串刺しにした。

 まだ残っていた血を吹きだしながら、そのまま後ろに倒れこむ。

 アンドロイはそれに対して驚くことも無く、開いた扉へと入った。

「久しぶり、アレス国王。相変わらず、僕が使った手口を利用してくれるね」

「……ああ、お前のおかげで俺の寿命は大分と延びてるよ。不本意ながらな」

 本だらけの書斎、アンドロイがイス国を去った時よりも心なしか本が増えている。

 その奥で、カップに入ったコーヒーを飲んでいる青年が瞼を閉じながら、嫌味交じりに言う。

 アンドロイはそれに対し、狂喜の笑みを浮かべた。

「全く、成長した姿を見たいとは思わないのかい?」

「俺が目を開けた瞬間、俺は貴様に攻撃を加えるぞ?」

「……ふん、昔の僕━━俺だと思うな!」

 アンドロイは勢いよく走りだし、アレスに向かって蹴りを数発入れる。

 だがアレスは、それを全て手で弾いた。

 アンドロイが走った後には、埃の上に足音が出来た。

「覚えていないのか、アンドロイ。貴様が俺に勝てた記憶はあるか?」

「ああ、昔は馬鹿の一つ覚えみたいにやってたからな」

 アンドロイはそう言うと、袖から針を出しアレスに投げつける。

 窓から入る月光によって、銀色の光が飛んでいるようにも見え、埃か何かが宙に浮いてるようにも見えた。

 その針は、アレスの腕に三本突き刺さる。

「姑息な手を、ついにそこまで堕ちたか」

「『勝利は、貪欲にならなきゃ得られない』……俺が昔言った言葉だ。つまり」

 アンドロイは指を鳴らす。

 するとアレスの腕が、痙攣を始める。

 マヒ性の毒を、針に塗りこんでいたのだ。

 致死量には至らないが、三本も刺されば腕程度は痺れる程度用意である。

 もっとも、これはフォロリスの助言ではあるが……だが普通の兵士なら、自らのプライド・誇りに傷がつくと言って絶対にやらなかっただろう。

 だがアンドロイ。否、第四十四独立前線部隊はそのような事も平気で行うし、プライドなんぞ肥溜めにでも放り込めという集団である。

 故にアンドロイも、踏ん切りがついたのだ。

「さて、最後は君の大好きで信頼している兵士諸君に刺してもらおう」

 アンドロイは指を鳴らすと、槍が突き刺さった兵士の死体が、アレスに向かって歩いてくる。

 歩きながら、隣の死体に刺さった槍を引き抜き、構えながら。

 アレスはその兵士を見ると、彼らに同情の目を向けた。

「アンドロイ、時が立てばお前も変わると思っていたのだが……上達したのはナイフの使い方だけか」

 そう言うとアレスは、ゆっくりと瞼を開き、宝石のような蒼い瞳を覗かせた。

 その瞳は、怒りに満ちている。

「悔い改めよ、アンドロイ・カチカ!」

「黙れ、お前はすでにチェックメイトにハマっている!! 殺れ、食いちぎれ!」

 ゾンビはゆっくりと歩き、アレスに近づく。

 そしてゾンビは、移動速度からは考えられないような早い突きを出す。

 だが、アレスの眼が蒼く光ったかと思うと、ゾンビの身体は灰になり消滅した。

 アンドロイはそれに紛れ、身体をトランプのカードにしてどこかへと消えた……。

 アンドロイの居た場所には、悪魔が書かれたカードが、山のように散乱している。

 アレスは瞬きをする。すると先ほどまでの光が嘘のように消えた。

 そしてゆっくりと歩きだし、アンドロイが消えた際にばら撒かれたカードを一枚拾う。

「……相変わらず、行動の読めん奴だ」

 アレスは拾ったカードを破き、部屋を出る。

 書斎には、灰とカードの山だけが残り、月光に照らされていた。

はいどうも、ナチの人です。もうユーザー名変えちゃおうかな?

さて皆さん、今回の話はいかがだったでしょうか?

面白かった? つまらなかった? そんな事よりケツ掘らせろ?

まあどんなんでもいいです、ただケツはやめて。


さて、今回はアンドロイ君、口調変わりましたね。

ええ、人は嫌いな奴の前だと性格が変わるのですよ。

さて、ここで少しばかりどうでもいい裏話。


実はアンドロイ君、初期設定(プロット)では人造エルフというアンドロイドという設定でした。無論イス国産の。

だから登場時に、『アンドロイドとは関係ない』という台詞が出たのです。

んでもってぶっちゃけ、アンドロイ君を大量に登場させるつもりでした。どこのターミネーターだと自分でも思っちゃいましたよはい。

まあでも、ぶっちゃけ男のエルフとか誰得……ホモ得か。という結論に至った訳です。


さて、ここらでキリがいいので終わりにするとしましょう。

では、また次回。

To Be Continued

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