第二十四話 無言の鬼神
上でドンパチしている元死刑囚たち、彼らに渡したナイフの数は二十本。
そして、アンドロイが今所持しているナイフは一本。それも錆びている。
そして爆弾は二個、フォロリスにとってこれはかなりの痛手である。
上から爆音が響き渡り、天井から砂が落ちてきた。
「派手にやってるね~、ところでフォロリス君や」
ほぼすべての囚人を見終わり、息が上がっているフォロリスに、アンドロイは話しかける。。
フォロリスとアンドロイ、第四十四独立前線部隊の皆は暇していた。
普段遊戯として戦争を楽しんでいる彼らにとって、兵士厳選とはいえ少しの間殺しをしないと言うのは、一つの遊具を盗られたような感覚なのだ。
「なんだ、アンドロイ」
フォロリスは乱れた息を整えながら、アンドロイの言葉を聞く。
「よくよく考えたらさ、僕より君の方がナイフ持ってるよね。十や二十なんて目じゃないくらい……」
フォロリスが持っているナイフの数は、常識所か物量法則を無視してるんじゃないかってぐらいある。
中には変わった形の物もあり、敵を刺し肉と共に抉り抜く変わった形のナイフや、返しが付いたナイフ、実にさまざまなナイフを持っている。
いわば歩くナイフの美術館と言えるだろう。
「確かにナイフは大量に持っている。だが高いんだよ、ナイフって」
「僕のナイフもまあまあの値段なんだけど?」
「……まあ、いいじゃん。また補充できるんだから」
フォロリスは、笑いながら冗談を飛ばす。
それにつられ、第四十四独立前線部隊も笑い出す。
一たび笑うものが出たら、つられて笑ってしまう。
大爆笑である。
「……にしても、暇だなマジで。あの無言死刑囚は何やってんだろうな」
いつの間にか、爆音も轟音も、剣と剣がぶつかり合う音も銃声も聞こえなくなっていた。
アンドロイは、戦闘が終わったか確認する為に階段を上っていった。
「さて、どうなっている事やら……報告を楽しみにしておこう」
フォロリスは、笑いながら階段に腰かけた。
アンドロイは階段を、若干早足で駆け上がっていく。
するとものの数秒ほどで、階段の方に倒れている囚人の死体が置いてあった。
体には何個も銃弾を受けた後が残っており、そこから血が垂れ流れている。
それがナイフ一本と爆弾一個ではあまりに無力という現実を表していた。
……そして、
「……この銃、だっけ? いやはや恐ろしい」
同時に、この国の科学力の高さに驚き感心していた。
事実、全てにおいて貪欲な国と呼ばれているグリードでも製造どころか創作の中でも出てこなかったような兵器である。
これを、アカシックレコードを覗いたからと言って製造できるこの国の科学力は相当高いと言えるだろう。
アンドロイはその死体を踏み、階段の上へと上がっていく。
するとそこには、予想以上の死体が大量に転がっていた。
首のない死体、目玉が飛び出た死体、体中にナイフが刺さった死体、肉片……殺し方の数を数えていたらきりがない。
そんな死体で創られた絨毯の中、の死刑囚が頭を抱えながら震えているのが見える。
あの時、『そんで、俺らは何すればいいのですか!?』と言った死刑囚だ。
初めて戦争というものを、戦場というものを見たのだろう。
アンドロイは、自分が初めて人を殺した兵士の事を思い出した。
そしてあの時の兵士と同じ行動を、アンドロイは取る。
「はあ、錆びたナイフしかないなんて……僕って本当に不幸体質だねぇ……」
アンドロイはため息を吐きながらも、ナイフを逆手に持ち恐慌状態の新兵候補の喉に突き刺す。
口からは悲鳴ではなく、苦しそうな荒い息と一緒に血を吐きながら、死体の絨毯の、一部となった。
まだかすかに、死体の上で、血で出来た水たまりの中で苦しそうに息をしていたが、それをアンドロイは容赦なく蹴り上げる。
「はっきり言って僕の部隊に、メンタルの弱い敗北主義者は必要ない。
そうだろう? ねえ、死刑囚さん」
アンドロイは返り血を浴びた顔を腕で拭いながら、死体の絨毯……囚人とイス国の兵士の死体の上に座りながら、舟をこいでいる死刑囚に言った。
死刑囚は何も答えずに、死体の中へと倒れていく。
アンドロイが近づいてみると、一定のテンポで息をしている。
「……生き残っているのは、彼一人か」
よく見ると、死んだ死刑囚の顔や胸には、銃弾で開けられたであろう傷が出来、そこから血が垂れ流れている。
恐慌状態の新兵候補だった奴は、運よく銃弾を受けずに生き残っていたのだろう。
「戦力的に考えたら、この名前不明の男一人でも十分なんだけど……取りあえず起きてほしいな僕は」
アンドロイは死刑囚の身体を揺する。
……起きない。
もう一度揺する。
無論起きない。
「……フォロリス君たちでも呼びに行こう、どうせ起こしても無駄だろうし」
アンドロイはあの時の剣を持った死刑囚━━新兵を、無駄だとわかってはいたが一応揺り起こしてみる。
するとさっきまでのが嘘のように、目を覚ました。
ただ、眼には怒りの炎が宿っている。
「……ちょっ、ストップストップ! 新兵君、その構えた剣を降ろして!」
すると新兵は、少々イラつきながらも死体に剣を突き刺す。
一応助かったのに、落胆の溜息を吐く。
「……怖かったよ、君の殺意。流石、死刑囚だっただけのことはあるね」
新兵はドヤ顔をしながら、座っている死体からナイフと銃剣を抜き取る。
随分と手馴れている、それがアンドロイの最初の印象であった。
あの時、彼らがまだ囚人だった頃とは彼が持っていたイメージと、大分と違う。
あの時は、フォロリスと同じ殺すのが趣味と言っても過言ではないという感じであったが、今は全く違う。
山賊、強盗。その二つのうちどちらかだろうとアンドロイは予想する。
事実、今の部隊に入った元囚人たちの中にも盗人は居た。
故にすぐに、敵の武器を回収し家を漁る。プロの動きを見せたのだ。
「で、この敵兵たちは君が一人で殺ったのかい?」
アンドロイの問いに、無言で頷く新兵。
彼とは上手くコミュニケーションが取れそうにないと感じた。
「まあ、いいけどね。別にコミュ障だろうがなんであろうが……実力があればそれでいい。OK?」
新兵は無言で頷くと、フォロリス達の待つ地下へと戻る。
新兵が階段を降り、姿が見えなくなるとアンドロイは死体からナイフ・通貨・銃剣・銃弾を漁り回った。
「おかえり新兵、アンドロイは?」
暇つぶしに、コレクションであるナイフを眺めていたフォロリスの問いに、新兵は人差し指を上に向ける。
フォロリスはそれを見ると、「そうか」と一言言った。
地下の中、静寂に包まれる……。
アンドロイが上に行ってから忙しなく階段の方を見ているベラ。
だが誰も、一言も言葉を発しない。
その静寂を破ったのは、実に数時間後戻ってきたアンドロイであった。
彼の手には、死刑囚に貸したナイフとイス国兵士のナイフ、元々の数の三倍はある。
だがそのほとんどが装飾品が付いた、お世辞にも実戦向きとは言えないナイフだ。
もっとも、彼らにとってはそんなのは些細な問題に過ぎない。
極論から言えば、殺せればいいのだ。
たとえ井戸に毒を持ったとしても、敵兵の囚人を感染させてから敵国に送り返したとしても、極論ではあるが勝てば全て美談ばかりが出てきて、酷談は歴史の陰に葬られる。
まさに今のアメリカと旧ドイツ、それはどのような異世界であっても変わりは無い。
「おかえり、アンドロイ。ちょうどいい所に帰ってきた」
「どうしたんだい、フォロリス君?」
新兵は太極拳のようなものを、他の兵士に教えている。
暇つぶしとしては最適であり、かつ能力向上に繋がる。これ以上最適な暇つぶしが他にあるとしたら、素振りと射撃訓練位だろう。
「さて、新兵よ。ちょいとばかし上に戻って死体の皮を頂戴してきてほしい」
フォロリスがナイフで、上をさしながら言う。
すると、速攻で階段を駆け上りものの数分で綺麗な、人ひとり分の皮を手に持って帰ってきた。
フォロリスは一言お礼を言ってから皮を受け取る。
「そんな物を、どうするんだい?」
「紙が無いなら、代用すればいいって事さ」
フォロリスはナイフをペンのように、人の皮を紙のようにして左胸部分に題名をデカデカと書く。
『作戦計画』と書かれた人の皮を適当な壁に、血をノリの代わりにして貼り付けた。
「さて、これからミーティングを行う。
まずはこの国の潜伏所なのだが……どこかいい候補は無いか?」
もしこの場、監獄に留まるのはあまりに危険である。
何故なら、すでに第四十四独立前線部隊の居場所はバレてしまっているのだ。
故にここに留まっていては袋の鼠、窮鼠猫をかむことなく力尽きる。
そういった最悪な状況だけは打破すべく開いたのが、今回の会議である。
「新兵、何かないか?」
新兵は首を横に振る。
相も変わらず一言も喋らないが、フォロリスはもしかしたら喋れないのではないか、という疑問を持った。
もしそうであれば彼に当たるのは可哀想……とは思わないが、一人の士気が落ちるのは大変危険な事である。
故に何事も、彼らに気を配り過ぎとも思えるくらいがちょうどいいのだ。
「……んじゃ、アンドロイ。何か策あるだろう、一応隊長なんだし」
「フォロリス君、一応は必要ないよ」
アンドロイは若干涙目になりながら、
「まあ、一応無い事は無い。
けど昔と違って大分と地形は変わっている筈、つまり今現在この国に住んでいる彼女の言葉を聞くべきだと思うよ」
そこの国に住んでいたという事を、明示させる言葉だった。
だがフォロリスはそれに対し無関心で、ベラの意見を聞く。
「数か月前から廃墟になっている酒場があるわ、一先ずそこに潜伏する事ね」
ベラは落ち着きのない声でそう言う。
先ほどからチラッチラッと、階段の方を見ている。
そして先ほどとは違い、足を忙しなく揺すっている。
フォロリスは、何故そのような行動をしているのか判明した。
第四十四独立前線部隊の中にも居る異常性愛者の一つ、死体性愛。
彼女もその一人なのだろう、故に彼女は彼らに、第四十四独立前線部隊に手を貸したのだ。
一たび戦争になれば、町は死体であふれかえる。
それをずっと、彼らを見つけてからずっと狙っているのだ。
それは即ち、彼女は絶対に裏切らないという裏付けとも取れる。
「……他に案は無いか? んじゃ、ベラの案を採用するとしよう。素敵な提案をしてくれたベラに、拍手」
フォロリスがそう言うと、第四十四独立前線部隊は彼女に拍手を送った。
ベラもまんざらでもなさそうな顔をしている。
数秒後、フォロリスは無言でその拍手を静止させると、次の議案に移る。
それは、城に攻め入るというものであった。
あわよくば城の主を殺す、もし無理でも間取りなどを覚えておくだけで戦闘はかなり有利となる。
「で、誰が行く? 俺は潜入が得意な奴に行ってほしいのだが……新兵、お前行けるか?」
新兵は首を横に振る。
「んじゃ、アンドロイだな。姿隠すの得意だし」
「えっ、ちょっ待っ」
哀れアンドロイ、彼の言葉は完全にスルーされた。
「賛成っす。という事で、頼みましたで隊長」
他の第四十四独立前線部隊の皆が、この時ばかりは『隊長!!』『隊長!!』とアンドロイを持ち上げる。
このような状況で断れる筈もなく……
「ッ、解ったよやればいいんでしょやれば!?」
と、結局折れてしまった。
アンドロイの答えを聞くと、兵士たちは顔を見合わせニヤリと笑う。
計画通り、まさにその言葉が似合う顔であった。
ああ、哀れアンドロイ。
彼が報われる日は来るのだろうか、それは神のみぞ知る……。
さてどうも皆さん、ナチの人(ナム)です。
今回の話、どうだったでしょうか。まあ個人的には戦闘シーン入れようかな? と思ってたり思ってなかったり……。
さて皆さん、ゴールデンウィークは何処かお出かけになられたでしょうか?
混雑してたでしょう、混乱してたでしょう、人ごみだらけでウザったらしく感じたでしょう……自分? 何処も言ってませんが何か?
とまあ、こんな個人的な話は置いといて……。
正直に言います、この小説のキャラは結構他の漫画・小説の影響を受けてます。
まあ、お気づきの方はお気づきでしょう。
といっても王道ものの『奴隷ハーレム』やら『惚れた女の為チート能力を使って好き放題やってやる』やら、『俺の凍てついた心を溶かしてくれた』やらといったものは全く出ません、敵兵に敬意を払う奴も出ませんし、死体なんて物も同然の扱いです。
では、また次回。
では、誤字脱字、ご指摘ご感想待ってます。
To Be Continued




