第二十三話 人員補給と新兵器
曇った空、鼠色の大地、そして巨大な刑務所。
体育館四個分はあろう刑務所に、巨大な門。そして脱獄犯、テロリストなどを見張るガードマンが二人、青い服を着て門の前に立っている。
手には多きな銃剣を持っている。
「……これ、勝てる気がしないんだけど」
アンドロイが不安たっぷりな声色で言う。
それを聞くと、得意気な顔でベラは彼らの方へと歩いて行く。
実に軽やかに、軽快に歩いて行く。
「ん、なんだい君。ここは君みたいな御嬢さんが来るような場所じゃ……」
「この務所に、私の父が居るの。それで面接でもしようかと……だめかしら?」
二人の兵士は、互いに顔を見合わせる。
もしその話が本当なら、ここは通してあげるべきじゃないかと思ってしまうからだ。
だがその兵士の一人は、何も言葉を発さずに倒れた。
頭にナイフが突き刺さっている。
「チッ、我慢できないチェリーボーイね!」
ベラは手を動かし、門番の首を切り落とした。
重力に負け落ちていく首を思い切りけり上げ、刑務所の敷地内にシュートを決める。
血が地面に、紅いラインを引く。
「クカカ、それはすまんなお嬢。殺人という快楽を覚えた猿は、我慢というのを出来ない。そういうもんだ」
「……まるで、普通の人と正反対な事言うのね。大体は、『もう殺したくない』とかいうのに」
フォロリスは血で出来たラインの上を、線からはみ出ないように笑いながら歩き、ベラに近づいた。
「善意なんて全くなく、情けも何も存在しない。我らはそういう軍隊だ。それに、俺は一般人とは間反対なのでな。……それに、そういうお前もなかなかのものだぞ? 貴様もどうだ、俺と共に来ないか?」
「お断りしとくわ。私は気ままに、死体を集めたいのよ」
ベラは頭が無くなっていない門番の顔からナイフを引き抜き、首を切り落とした。
ナイフをフォロリスに手渡すと、首から垂れ流されている血を飲む。
フォロリスとアンドロイは、その門番の胴体から銃剣を取ると、アンドロイは銃剣についた血を服で拭い、フォロリスはそのまま銃剣を背負う。
「銃剣は、弾を一発しか装填できないわ」
フォロリスはそれを聞くと、血まみれの門番の服を漁る。
するとゴロゴロと、数十個の弾が地面へ、血だまりへ落ちる。
フォロリスはそれを拾い、ポケットの中へ入れた。
次にフォロリスはもう一人の門番から弾を剥ぎ取り、アンドロイに手渡す。
アンドロイは服で弾についた血を拭うと、ポケットの中へといれた。
「さぁて、行こうか諸君。最恐の軍隊を作るために……ヒャハハハ!!」
「君、笑い声ころころ変わるね。いや、別に良いけど」
アンドロイは呆れながら笑う。
刑務所の中へ歩いて行くベラに、フォロリスはついて行く。
アンドロイは少し遅れて、第四十四独立前線部隊と後を追った。
湿っぽく、全体的に薄暗い空間。刑務所だ。
牢の中には、何も居ない。
「……土臭い、鉄臭い、糞臭いの三十臭だね」
「誰が上手い事を言えと」
アンドロイが冗談を言うと、フォロリスが即座に突っ込む。
後ろでベラが手を動かしながら、苦笑いをした。
「……で、囚人共がどこに居るかわかんのか? 隊長さんよ」
エドワンが若干イラつきながら言う。
「恐らく……だが、今頃外でラグビーでもしてんじゃね? 取りあえず、死刑囚んとこに行くか。
あいつらなら居るだろう、お前らみたいにな」
フォロリスは笑いながら、奥へと進んでいく。
特に意味も無く、目的地も無く、暇つぶし。
ただそれだけ、特に意味も無い。
彼にとって、フォロリスにとって刑務所とはいわばペットショップのようなもの。
気に入った囚人が居たらそいつを解放する、居なかったら殺し合いをさせ最高の人材を見つける。
気に入らなければ捨てるし、破棄もする。
ただ動物より、心が痛まないという違いぐらいだ。
「……ものっそい、気味の悪い笑い声ね」
「まあ、慣れだよ慣れ。僕らの部隊は慣れたよ、僕は未だに夢に出るけど……」
アンドロイとベラは、同時にため息をついた。
全体的に湿っぽく、嫌な空気。
そして一寸先も見えぬ闇、血と腐敗、糞の臭いが混ざって新たな臭いを作り出している。
ここは地下、奥から人の叫び声、悲鳴が響き渡る。
フォロリスが慣れぬ手つきでランタンに火をつけた。
すると光が、あたりを照らす。
檻、牢の中にはさまざまな人種が居た。
オーク、エルフ、ドワーフ、獣人、ゾンビ、白人、黒人、そして感染症にかかった患者。
あたりを見渡すも、男しか居ない。
「チッ、女はいねーのかよ」
エドワンが愚痴る。
エドワンの言葉に続いて、若干の不満の声を第四十四独立前線部隊は漏らした。
だがフォロリスはそれに関係なく、奥へと、この地下室の真ん中へと歩いて行く。
一足遅れて、第四十四独立前線部隊の皆が歩き始める。
「……にしても、エグいな」
フォロリスが檻を覗きこみ、そう呟く。
そこには、顔の皮膚が全て剥がれ落ち、下の筋肉がむき出しの状態になっている男の死体が置いてあった。
若干指が動くが、ランタンの光を見ても何も反応は無い。
「……植物状態、か」
「この国は、結構差別意識が強いのよ。黄色人種も、若干ではあるけど存在してるわ」
フォロリスは気味の悪い笑みを浮べる。
彼の、飽くなき欲求が、枯渇していたかと思っていた欲求が蘇ってくるのを感じた。
子供の頃、初めて蛙を踏みつぶした時の。子供の頃、家に出たゴキブリを密室に閉じ込め酸欠させたあの時の、背徳的快感。
長らく忘れていた、慣れてしまっていたあの感覚が蘇ったのだ。
「まあ、ここに閉じ込めてあるのは殆どが感染症患者。後は死刑囚ぐらいよ、ろくに使い物にもならないわ」
「いや、十分だ。むしろありがた過ぎる! こんなに実験材料があるなんて!
野郎共、患者共はそのままにして死刑囚のみをこの牢屋から出せ。この国を侵略した後に、実験用人間・サンプルとしてグリードへと送り届ける!」
フォロリスは大声で、兵士たちに命令を下す。
すると兵士たちは自分らが昔着ていた囚人服を自らの剣に括り付け、火をつけた。
そして素早く、何も体に異常を見られない死刑囚たちを檻から出す。
死刑囚たちは不思議そうな顔をしながらも、おとなしく出てくる。
「諸君、おはよう」
フォロリスが笑いながら、出てきた囚人たちに言う。
囚人たちは何が何だかは解らなかったが、自分を助けてくれたと言うのを直感で感じ取り、ひざまづく。
「諸君らはこれより、死刑・感染に怯える事なく暮らす事ができる。
だが同時に働いてもらおう、何簡単な事だ。なあ、元死刑囚たちの先輩方?」
フォロリスのその言葉と同時に、笑い始める兵士たち。
死刑囚たちは一名を除いて、フォロリスに、第四十四独立前線部隊に感謝の言葉を投げかけた。
「そんで、俺らは何すればいいのですか!?」
「また昔みたいに人を殺せるなんて、夢のようだ!」
囚人たち、亜人も含め活気を取り戻す。
この地下の闇より黒い、一寸先どころか自分がなんなのかさえ分からなくなるような、どす黒い活気。
これが死刑囚の、これが最悪な人間たちの……本気。
フォロリスはそれを肌で感じ取り、興奮していた。
これからあの街が、国家がどうなるのかが楽しみで楽しみで仕方なくなったのだ。
目を閉じ、どのようになるか予想をしてみるフォロリス。
腹が裂け、目玉が飛び出た死体。生きたまま脳をかち割り、脳姦をしている兵士。
目を引き抜き、眼姦をしている兵士、死姦している兵士。
実に、実に素晴らしい。フォロリスの求める混沌とした、殺伐とした生きていたくなくなるような世界!
そういった妄想に浸っていると、
「ちょっといいかしら、副隊長さん」
ベラの言葉で現実に戻される。
フォロリスは若干イラつきつつも、ベラの話を聞いた。
「さっき、国兵がこの監獄に突入したのを確認したわ。事実、私が張り巡らせたワイヤーが全部切られてる……」
「……アンドロイ、爆弾はあるか。あとナイフ」
アンドロイはランタンから距離を取り、爆弾を数十個。そして全く使ってないであろう新品のナイフを二十個取り出し、地面に投げ捨てる。
普段戦闘でナイフを使わないのに、何故こんな量を持っているのか疑問ではあったが、フォロリスはそれをいったん頭の隅っこに置いておき、死刑囚たちに命令を下した。
「さて元死刑囚共、さっそく命令だ。
この爆弾とナイフで、大嫌いな大嫌いな国兵を、貴様らの大好きな殺しで地獄を見せてやれ。
ただでは死なすなよ? しっかりと絶叫を楽しみたいんだ、人の断末魔は最高の音楽、最高の楽器だ」
ある囚人は爆弾を、ある囚人はナイフを手に取り上へと走っていく。
そして、感謝の言葉を口に出さなかった死刑囚を除いて地下牢には誰も居なくなった。
一人の囚人は無言で、余裕を持って歩く。
彼らのように血気盛んな眼をせず、静かな目つきでゆっくりと、紳士のように歩く。
「どうした元死刑囚、殺したくないのか?」
兵士の一人が元囚人、死刑囚に疑問を投げかける。
だがそれに対し死刑囚は首を、静かに横に振った。
フォロリスは、この死刑囚が何を考えているか解らず、本能的に不気味に感じた。
「……では、何故奴らと共に行かない?」
死刑囚は何も言わず、檻を指さした。
そこには幾多の、腐った死体に突き刺さっている、苔に覆われた剣が突き刺さっている。
フォロリスはそれを見ると、大剣を持った兵士にその牢を切らせた。
鉄が地面に落ち、上から聞こえてくる悲鳴、狂喜の声と共に金属音を鳴らす。
死刑囚は頭を軽く下げると、その剣の方へと歩いて行き、屍から剣を抜く。
腐った肉、骨と共に剣の先っぽが出てくる。
死刑囚はその剣を軽く薙ぎ払い、腐った肉を地面に落とした。
「……喋れよ」
「それ、私も思った」
死刑囚は地面を強く蹴り、一瞬で上へと続く階段の二段目に着地し、勢いよくかけていく。
アンドロイは自分の頭へと落ちた、腐った血を手で拭う。
「……なあ、アンドロイ」
フォロリスが上から聞こえてくる悲鳴を音楽のように聞きながら、ふとアンドロイに語りかける。
アンドロイは腐った血を拭った手を少しばかり臭い、嫌な顔をした。
「俺さ、亜人とか初めて見たわ」
「まあ、こっちの世界でもあまりメジャーではないからね。説明した方がいいかい?」
フォロリスはふと、牢の中に寝転がっている感染者を眺め、説明を頼んだ。
上から爆音が響き渡る。
「亜人は、この地上で生まれた生物ではないんだよ。
元々は地下、魔物の世界からやってきた。いわゆる移民者って奴だね。
力は地上の人間より強く、知能は地上の人間ぐらいある。暗い所でも目が見えるし、生物植物にも詳しく、体が強く病気にもなりにくい。
だがいかせん、個体数が恐ろしいほど少ない。一つの村を潰せば一割は死滅するというぐらいにね」
アンドロイは笑いながら説明を続ける。
だがフォロリスはそれを話半分に聞きながら、ランタンを手に持って奥へ奥へと歩いて行く。
アンドロイはそんな彼の姿にため息をつきながら、自分が持っている残りの爆弾を数えた。
フォロリスは、二十メートルほど歩いた所で止まり、檻の中の覗いた。
その中に眠っている囚人の顔を覗き込み、フォロリスはつい手で口を押えた。
顔には無数の突起物があり、もはや同じ人間とは思えない顔になっている。
フォロリスさえも気持ち悪いと思ったのだ、あのフォロリスが。
それは何故か? フォロリスがよく知る病気だからである。
「天然痘……いや、違う」
隣の牢に転がっている男の死体には、突起物は何もない。
同じように、天然痘と見られる男の隣に転がっている、虫の息をした男の顔にも突起物は無い。
天然痘は狭い空間ならば空気感染する、それは昔生物兵器に興味を持ったフォロリスがよく知っていた。
「この世界特有の病気。どちらにせよ、使えそうだ……」
フォロリスは口を押えながらも、上唇を上げた。
最近のアニメって面白いですね、ナチの人です。
最近自分は、この小説は果たして本当にファンタジーなのか疑問に思ってしまいます。
何せ自分の書きたいものを書いてたら、いつの間にか普通のファンタジーがダークファンタジーになっていたというほぼポルナレフ状態です。
……それにしても、最近フォロリスのキャラが定まりません。
一応根っこ部分は変わってないのですがね……。
なんというか、Zザクみたいな感覚なんですよ。性能的には同じくらいだけど何か違うという感じの……。
ところで、小説もので完全無口ってあまり出ないような感覚があります。
何故でしょうね?
さて、そんなどうでもいい事は置いときましてではまた次回。
To Be Continued




