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魔石と殺人狂  作者: プラン9
第一章~王国崩壊~

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第二十二話 侵略の火蓋

 人の命とは、得てして簡単に壊れ、無くしてしまうものだ。

 そして、人の心とプライドも、同じように簡単に無くなってしまうという事を、アンドロイは知った。

 時は朝、まだ日も出ていないが、空は黒から青へと姿を変えている。

 口の中は、昨日食べたブルーベリーの臭いが嗅覚まで昇ってくる。

 イス国前の門番は、相変わらず見張っている。時折、屈伸したりあくびをしたりしているのが見える。

 交代した時間は、日が暮れてから。

 そして今の時間、血で汚したドレスを着、アルテミアの皮を皮膚に血糊で貼り付け、アンドロイは門番へと接近する。

「おや、アルテミアさん。どうしたのですか、こんな夜更けに」

 どうやらアルテミアは、生前イス国に入り浸っていたようだ。

 アンドロイは思った、否、考え予想する。

 もし今この場で声を出せば、正体がバレてしまうだろう。

「ああ、ちょっと風邪をひきましてね。お薬を買いに……」

 若干女っぽい声で喋るも、やはり無理がある。

 アンドロイはアルテミアの皮の内部で、冷や汗を流した。

「そうですか。ところで、貴女様の村は壊滅したとお聞きしましたが、無事でしたか」

 早くも情報が入ってしまっているようだ。

 恐らく商人か誰かが報告に上がったに違いない。

 だが、生存者は奇跡的に助かったという事にすれば、侵入は不可能ではない。

「え、ええ。恥ずかしい話ですが、私だけ助かりましたのでね。それで、敵兵兵力を国王に報告を……」

「そうか、通れ」

 兵士は重い剣を床に置き、巨大な木製の門はゆっくりと開く。

 アンドロイは完全に開いたのを確認すると、門の奥へと足を進める。

 開いた門の端まで歩を進めると、ふと兵士の一人が、独り言のようにつぶやいた。

「そう言えばアルテミアさん。貴方、少し生臭いですよ? まるで、腐った肉のような臭い」

「……まさか、冗談は止して下さいよ」

 アンドロイが、若干震えた声で答える。

 すると門番は、声を合わせて彼の名を、本名を叫んだ。

「首の皮、下から肌が見えてるぞ。アンドロイ・カチカ!」

 門番の二人は、バスタードを手に持ち、アンドロイに向かって走ってくる。

 アンドロイは素早く爆弾に火をつけ、門番に向かって投げつける。

 だがあろうことか、門番はそれをいともたやすく、導火線のみを切り落とした。

 木製の床に、導火線が落ち火花を散らす。

「えっ、やばっ!」

 兵士はバスタードを思い切り、ほぼ予備動作無しで薙ぎ払う。

 アンドロイはそれをしゃがみ避けるも、薙ぎ払った兵士は横へと飛びもう一人の兵士がバスタードをこれまた予備動作無しで振り下ろす。

 剣はアンドロイの服を掠め、風圧が被っている皮を揺らした。

「あ、あはは……あははははは」

 アンドロイは力なく笑う。

 命の危機、それは以外と簡単に、伏線も無く現れる。

 それが世界の真理であり、それがまた面白い。

「君たち、僕がアルテミアとよく似た別人だとは思わなかったのかい?」

「貴様のような、皮の下から皮が見える奴が居るか?」

 門番の一人アンドロイに向かって走り、もう一人がバスタードを勢いよく振り下ろす。

 しかし、アンドロイはそれを錆びたナイフで防御する。

 無論鉄は劣化し、更に重い鉄の一撃を受けたのだ。いともたやすく、まるで乾いた泥を踏みつぶしたようにぽっきりと折れ、接近してきた門番の眼を突き刺した。

 門番が絶叫し、眼を手で覆いながら座り込む。

 アンドロイは門番が、同僚に気を取られている隙に、火を封じた魔石で爆弾に火をつけた。

 門番は気づいていない、故に今がチャンスと言えるだろう。

 手に思い切り力を籠め、右手で思い切り爆弾を投げる。

 爆弾は火花を散らしながら門番へと飛んで行き、爆発した。

 爆発は実に小規模ではあったが、人間二人を肉片にするには十分すぎる威力である。

 故に肉片は飛び散り、内臓がアンドロイの顔にぶち当たった。

「……臭い」

 アンドロイは顔に引っ付いたままの内臓を左手で掴み取り、堀に投げ捨てた。

「いやはや、大義であったぞアンドロイ」

「……普通、こういうのは副隊長とか切り込み役がするんじゃないの?

 というか、助けてよ。僕の寿命がゴリゴリと削れていくよ」

 若干拗ねた声でそう言うアンドロイ、折れたナイフの柄をフォロリスに投げ渡す。

 兵士の肩を借り立っていたフォロリスは、それをキャッチし堀に捨てた。

 もはやただのゴミ捨て場である。

「いやはやすまない、だが面白かったぞ」

「そいつはどうも」

「……さて、これより進軍を行う。諸君、殺したり殺されたり、はたまた犯したり犯されたり、助けたり助けられたりしながら進もう。そして、その第一歩を歩んでくれた我らが隊長アンドロイに、拍手!」

 第四十四独立前線部隊は一斉に拍手する。

 アンドロイはそれを興味無さげな眼で一睨みし、門の奥へと歩いて行った。

 もはや正体はバレている。何も臆することなく、どこにも隠れる事なく、どこにも逃げる事なく進む。

 フォロリスと第四十四独立前線部隊は、彼に続く。いつまでも拍手をしながら。


「さて諸君、ここが我らが目的地であり我らが侵略予定地、平和で退屈で糞みたいな偽善が詰まった吐き気のする臭いがそこらに広がっている街、イス国だ。よく目に焼き付けとくがいい、もうこの光景は、風景は見る事ができなくなる」

「ねえ、これ僕必要なかったような気がするんだけど」

 アンドロイの言葉はスルーされる。

 今フォロリス達第四十四独立前線部隊が立っている土地、イス国。

 まるで中世ローマ時代のような風景。

 煉瓦造りの家、石を敷き詰め作られた地面、溝から漂う糞の臭い、路上で売られている果物……。

 まさに平和そのもの、国民全員が戦争を知らないような、グリードとは違い血なまぐさい臭いも少ない平和な国。まさに平和ボケという言葉がピッタリとあてはまるような街。

 遠くには普通の家十二個分の高さはある城の、白い城壁が見える。

「で、どこから侵略し虐殺するんですか? 副隊長殿」

 兵士の肩から、アンドロイの肩へと移るフォロリスにもう一人の兵士が尋ねる。

「あれ、それ普通隊長に言うべき言葉じゃないのかな?」

「いや、侵略はまだだ。まずはこの街の豚箱を探し、犯罪者を解放。混乱に乗じて破壊を楽しみ、略奪の限りを尽くそう。女をレイプして殺してもっかい犯して、犯し尽したら肉と骨を分け、骨を加工し食器に変え、肉で宴を行い骨を商人に売り渡そうではないか」

 その言葉を聞き、第四十四独立前線部隊は気持ち悪く笑う。

 アンドロイは苦笑いである。

 そして眼には涙が滲んでいる。

「さあ、その為に同志を集めよう。向かうは衝撃と惨劇と斬撃が待つのだ。さあ行こう、惨劇の場へ。絶対的悪意を持つ、凶暴で死肉を求める醜い貪欲な暴れ豚の待つ、豚箱へ!」

 聞いてて吐き気を催す、邪悪な笑い声をフォロリス含む第四十四独立前線部隊が、口から出す。

 そして彼らは進撃する為、まずは人為的資源を得る為、留置所へと歩を進める。

 だがそれを止める声が一つ……。

「あんたら、務所がどこにあるのかを知りたいんでしょ?」

 少女はアンドロイを見ながら、そう言った

「おや、案内してくれるのかな? 御嬢さん」

 アンドロイは丁寧に、少女に言葉を返す。

 その正体は白黒のゴスロリ服を着た、十四歳ぐらいの少女だった。

 手には黒い手袋をはめ、背には銃剣のような物体を背負っている。

「ヒャハハ! お嬢ちゃん、こんな物騒な男共に話しかけちゃダメだよ~。おじさんみたいなのに、襲われっからな!」

 一人の兵士がそういいながら少女に突撃する。

 少女は手を少し動かす。ただそれだけ、それだけの行動をとった。

 すると、あろうことか兵士の身体がバラバラに、まるで四角く切ったザクロのようにカットされる。

 その一瞬にして鮮やかな斬撃、フォロリスは口笛を吹く。

「素晴らしいな、御嬢さん。よろしければ名前をお聞かせ願いたい」

「ベラよ、ベラ・レンカ。貴方は?」

「フォロリス・スターコーストだ。よろしく、ベラ。

 さてと。気を取り直して……案内してくれるかな、務所へ」

 ベラは笑いながら歩いて行く。彼女の周りについている何かが、日の光を浴びて輝いている。

 第四十四独立前線部隊は、彼女、ベラについて行く。

 その姿は、光景は異様と言えるものだろう。

 不気味に笑いながら、少女について行く男達……。

 誰もが彼女を狙ってる、誰もが彼女を犯そうとしている。そう思う筈だ。

 だが実際は違う。フォロリス以外の第四十四独立前線部隊は、いつ殺されるか分からず彼らが警戒している。

「ねえフォロリス君、彼女を信頼してもいいの?」

 アンドロイが小声でフォロリスに尋ねる。

 フォロリスも心の中では、少しではあるが胡散臭いとは思っていた。

 ……だが、

「あたりを不自然に回って下手に警戒されるよりは、むしろこちらの方がリスクは低い。

 それに、あの女は俺と同じ臭い(・・・・)がする」

「なるほど、君と同じ……ねえ。

 それって、結構危ない子って事じゃないの?」

「そうとも取れるな、まあ要は気の持ちようだ」

 フォロリスはそう言いながら、気味の悪い笑い声を出す。

 アンドロイはどうも腑に落ちない顔をする。

「……そういうもんなのかな?」

「そういうもんだ。……にしても、この町は銃が多いんだな」

 フォロリスの言うとおり、辺りの通り、武器屋には剣やらナイフ、爆弾に交じって銃剣が売られている。

 グリード国で見慣れていなかったので、フォロリスはそれらに興味を持った。

 無論形は旧型ではあるが、実戦投入するには十分と言えるだろう。

 その証拠に、少女であるベラも持っているのだ。

 もっとも、それ以上に謎に包まれた武器を所持してもいるのだが……。

「おや、銃を知ってるのかいフォロリス君。流石異世界生まれ」

「……異世界と、なんか関係あんのか?」

 フォロリスはアンドロイに体重を預け、ナイフを林檎に投げつけると、ワイヤーでナイフを手元に戻す。

 すると林檎はフォロリスの手に渡り、店の商人が『盗人だ』と叫んだ。

 フォロリスはそんな声にはお構いなしに、林檎を一口齧る。

「堂々と万引きできるんだね、君」

「人だって殺すんだ、万引き程度で。

 で、何か関係あんのか? 異世界と、銃剣」

 フォロリスは林檎を上に投げ、ナイフで素早く一口サイズにカットする。

 林檎の果汁が、ナイフを濡らした。

 落ちてくる一口サイズに切った林檎をフォロリスが五個、アンドロイが二個キャッチする。

 アンドロイはその林檎を口の中に入れ、数回咀嚼し飲み込む。

「非現実的は話ではあるけど……いいかい?」

 フォロリスにとっては、魔法自体非現実的な空想物語の一つである。

「まあ、いいけど」

「よし、では話そう。

 まず、君は“アカシックレコード”ってのを知ってるかい?」

 アカシックレコード、それは魂の活動記録。

 即ち人類の過去・現在・未来の活動記録であり、それ全て暗記すれば全知全能の神になると言っても過言ではない空想上のデータバンクである。

「まあ、多少は……」

 フォロリスの言っているアカシックレコードは、いわば中二病がよく言う言葉の一つとして記憶しているだけであり、詳細は全くといっていいほど知らない。

「この国の国王、エレクトリュオン。

 彼は元々類い稀なる頭脳を持っており、山一つ蒸発させる武器“神の杖”の製造に関わった一人なんだ。

 だが勿論、何十、何百、何千と失敗を重ねてきたら、君ならどうする?」

 アンドロイはフォロリスに、逆に質問する。

「俺なら、二十回目で製造自体をすっぱり諦める」

「だろうね、僕だってそうするだろう。

 そして彼も、神の杖を自分の力で製造するのを諦めたんだ。

 それで何か言い手は無いかと模索してたら、一つだけ方法があった……それが」

 アンドロイは笑いながら、答えを言おうとした。

 だが

「アカシックレコード、という事か。なんともまあ馬鹿馬鹿しい発想だな」

「まあ、それで成功させてみせるのが天才ってものなんだろうね」

 フォロリスは違いないと心の中で思いながら、林檎を齧る。

 アンドロイは一瞬、城壁を殺気を込めて睨みつけると、いつの間にか随分と距離が離れてしまった第四十四部隊の後を、早足で追った。

はい、どうもです。ナチの人です。

今回の話、個人的に詰め込みすぎたかなとは思います。ですが自重しないし書き直しとなったら大分と時間がかかる。

まあいい訳になるのですがね……。


さて、今回は少しばかり嗜好を替え新キャラにみんな大好き女の子を出しました。

やっぱり女より女の子がいいよね!

というのが理由です、まあプロットからありましたからね。名前変わったけど。

でも違和感は無いと思う、だって伏線出したし!



では皆さん、また次回。

To Be Continued

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