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魔石と殺人狂  作者: プラン9
第一章~王国崩壊~
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第二十一話 侵略者とブルーベリー

 暇な時はピクニックにでも出かけようという気持ちになるような真昼の草原、遠くではオークの群れが、フォロリスの左腕をミンチへと変えたゴーレムと戦っているのが見える。

 村から出て数分間、義兄弟たちの姿が見えなくなるまで、馬車の上で手を振っていたアンドロイは華麗に馬車の中へ入ろうとするも、

「あだっ!」

 見事に尻もちをつき、馬車を不自然に揺らす。

「騒がしいな、相変わらず」

 馬車の奥、日の光が届かない場所で布の上に乗せたライ麦パンに、焦げ目がついた肉を添えた物を大量に作っているフォロリスの姿があった。

 馬車の中は、肉の焼ける匂いと腐敗臭が充満している。

「村には義兄弟共を残してきたが……奴ら、援軍が来るまで生きてられると思うか? なあ、アンドロイ」

 果物ナイフを右手でクルクルと回しながら、肩にアルテミアの皮をぶら下げ、村に置いてきた義兄弟の安否を心配した。

 もっとも、彼が心配してるのは義兄弟が健康かどうか、という心配ではない。

 死んでないかどうか、喋られなくなってはいないか、という方の安否だ。

 彼らが喋れない場合、第四十四独立前線部隊の物資は底を尽きる。

「大丈夫じゃないかな? まあ無理だったら、今ある物資で何とかするしかないけど……で、君は何をやってるのかな?」

 フォロリスは肉の塊を、空中に投げる。

「見て解らんか、料理だ。兵士の士気を上げるには演説より美味い物を食う、演説はその次でないと効果は薄い。まあ、ケースバイケースだけどな」

 フォロリスはナイフで干した肉の塊を落下中に見事にスライスし、ライ麦パンの上に乗せる。

 すると黄色い服を着た男、エドワンはそれを見るや否やポケットが光り、肉がパンごと焼かれる。

 肉の焼けるいい匂いが、馬車内に充満した。

 勿論と言えば勿論ではあるが、この肉が何の動物の肉なのか、どこの部位なのかは誰も知らない。

 もしかすると人肉かもしれないし、もしかするとオークの肉、鼠の肉かもしれない。

 だが、腹の中に入ってしまえば後は消化され、自らのエネルギーとなる。

 故に何の肉なのかという情報は、体内に毒を持つ生物でも無い限り無価値に等しいと言えるだろう。

「まあ、それは解ってるんだけど……君、変な物とかナイフで切ったりしてないよね?」

 フォロリスは兵士である前に、殺人狂である。

 故に何を切ったのか、何に突き刺したのかなんぞ知る筈がない。

「果物ナイフを戦闘で使う事はあまり無い、いくらなんでも短すぎるからな。手加減してやる時は使うが……」

 喋りながらも手は止めない、まるで機械のように正確に、精密に肉を切っていく。

「これは驚いた、君が手加減という言葉を知ってたなんて」

「……一応言っておくが、教養は平均程度はあるぞ」

「これは失敬」

 フォロリスは最後のライ麦パンの上に干した肉を置くと、一息つき水を飲む。

 腐敗した臭いは鼻から入ってき、あまり美味しいものではなかった。

「……さて、昼飯にするか。アンドロイ、エドワン、いったん馬車を止めてくれ」

「了解っと」

 エドワンは渋々立ち上がり、あくびをしながら外へと出る。

 アンドロイは彼が外へ降りたのを確認すると、馬を止めた。

 馬は三、四歩歩くと足を止める、それと同時に外に大きな火柱が上がる。

 馬車の中が、少しの間ではあるが明るくなった。

 フォロリスは火の明かりが無くなるのを確認すると、布を引っ張りながら、這いずりながら外へと顔を出す。

 他の者は、わざわざ遠くまで行ってオークなどを狩っている。

 フォロリスはそれを見ると、数名に肉を乗せたライ麦パンを渡す。

「まあ食う食わないは勝手だが……オーク倒せんのか?」

「倒せないに銀貨二枚」

 アンドロイはフォロリスの後ろでそう言うと、それに続いてエドワンが三枚出すと宣言する。

「で、倒せたらどのくらいの価値になるんだ? 副隊長さん」

「持って二食分、上手い事使っても三食分だろうな。俺は二人犠牲になるに、宝石一つ賭けよう」

 フォロリスは懐から、黄色い長方形の形をした宝石を取り出す。

 光が宝石を通り、黄色く輝く。

「何それ?」

「アルテミアを解剖してたら出てきた。まあ綺麗だから宝石か何かだろう」

 フォロリスはそれを懐にしまうと、エドワンに肉を乗せたパンを手渡す。

 エドワンがライ麦パンから肉だけを取り、食べる。

「パンも食べろパンも」

「ライ麦は嫌いでな、どうも固くて好きになれん」

 エドワンは肉の脂が付いたパンをアンドロイに投げ渡した。

 アンドロイはそれをキャッチするものの、何か不服そうな顔をする。

「えーっと、おかずは……?」

「脂があるだろう、なあ副隊長」

「ん、ああ、そうだな」

 フォロリスはオーク狩りを見るのに夢中になっており、エドワンの問いに適当に答える。

 フォロリスのその言葉を聞き、泣く泣くライ麦パンを食べるアンドロイ。

 涙の味がした。

 遠くで、オークの断末魔が響き渡った。


 あの村から出発し約二十二キロ、オークの焼死体を後ろに乗せ馬車は無事、イス国の前、外界と国を結んでいるバリケード前へとたどり着く。

 ゴーレム三匹分はあろう大きさの、石で出来たバリケード。

 堀には濁った水のような液体が溜まっており、不快な臭いを発している。

 そして、これまたゴーレムぐらいの大きさはあるであろう巨大な木製の門。

 その前を守る二人の門番は、これまた木製の床に立っている。

 手には巨大なバスタードという剣を両手で持ち、バツ印を作っている。

 フォロリス等はこれを、木の陰で隠れて観察していた。

「さて、着いたな。つーか……めっちゃデカいなおい」

「二重の意味でね」

 フォロリスはそこらの木になってあったブルーベリーを一つもぎ取り、口の中へ入れる。

 甘味と程よい酸味が、フォロリスの疲れた心を癒した。

 よぉく目を凝らしてみると、バリケードの上には鉄で出来た槍のようなものが設置されており、たとえ壁を登ったとしても突破は不可能というのが見て解る。

「……俺らの国、あんなの無かったよな?」

「まっ、我が国は小国家ですからね。正直言ってこれまで生きてこれたのも、他の国のようにそこそこの資源も無ければそこそこの軍事力も無い、故に今まで攻めてこなかった……戦争なんて、見向きもされなかったっすよ」

 部下の一人が、オークの肉を齧り付きながら答える。

 肉の焼けるいい匂いが、フォロリスの鼻孔を擽る。

「それにしては、あの、えーっと、時パシリが交渉に来てたようだが?」

「さあ、占いとかそういうのじゃないっすかね? おっ、エドワン、この肉生焼けだ」

 呑気にも肉の焼き加減を気にする兵士、フォロリスは羨ましいと一瞬思い、少しでもそのような事を考えてしまった自分が少しばかり嫌になり、ため息をついた。

 ここ最近、戦闘があったばかりではあったか奇跡的に犠牲はごく少数で済んだのをいい事に、気が緩んできたのだろう。

 だがフォロリスは感じ取っていた、イス国の奥に感じる、只者ではない気配を。

「兵士共、その豚を食い終わったらミーティングを行う。異論は認めん」

「まあ、最終的にゴリ押しに終わるんだろうけど……」

「言うなアンドロイ、俺が悲しくなる」

 フォロリスは、本日二度目の溜息を吐いた。


 オークは見事に骨だけになり、兵士の一人は慣れた手つきで骨を武器へと姿を替えさせる。

 これはフォロリスがあの時求めていた才能の一つ、武器の製造。

 武器とはそれ即ち資源であり、侵略者にとっては欠かせない補給指定の物である。

 では、それを現地で創り出せばどうなるか? 答えは簡単、補給要らずの狩り狂人(くるびと)へと姿を替え、武器が劣化したので新たに作り永久に武装が途絶えない戦場の鬼となる。

 事実、骨とは案外固く、取り出せば武器にだって使える。

 ひじ打ちなどは骨を利用し攻撃する、それと同じ。

 そして肋骨、尖っている鋭利な、刺殺が可能になる武器へと姿を替えるだろう。

「兵士の一人は武器製造中、その間俺らはブリーフィングを行う」

 兵士たちがオークを食べ終えるまで眺めていた吸血鬼の血を胸ポケットに入れる。

「フォロリス君、ミーティングだよ。ミーティング」

 フォロリスの間違いをアンドロイが即座に訂正する。

 それを軽く聞き流し、馬車の荷台に座ると、ナイフを一本出し上へ投げた。

 ナイフと一緒に、ブルーベリーの実った木の枝が落ちてくる。

 木はアンドロイの頭に落ち、ナイフは落下する瞬間にフォロリスがワイヤーで手繰り寄せた。

「あだっ! 酷いよフォロリス君……」

「すまんすまん」

 全く悪びれる様子も無く、落ちてきた枝に実っているブルーベリーをもぎ取り口に入れる。

 程よい酸味が、フォロリスの疲れた心を癒す。

 ブルーベリーを飲み込むと、キャッチしたナイフをどこかにしまう。

「さて、気を取り直してだ。誇り高き殺人狂諸君。

 ミーティングを行うのは何も勝てないからではない、勝てる戦争こそ気を引き締めなければならないからだ。

 我々は世間で殺人鬼等と言われているが、別に我らは殺人『鬼』ではない。

 故に簡単に死ぬ。錆びたナイフで刺され破傷風になり、錆びていないナイフで止めを刺される。

 簡単に窒息し、簡単に溺死し、簡単に毒殺され、簡単に撲殺される。

 故に我らは殺人鬼ではなく殺人狂だ、ゆえに今ミーティングを行っている。

 勝つために死なない為に、そして自らの快楽を得る為に……確実に、な」

 フォロリスは悪意をそのまま変化させたような眼で、兵士たちを睨みつける。

 獲物を狙う肉食獣の長のように、幾多の軍隊を引き連れ世界一の科学を持った独裁者のように、兵士たちは感じられた。

 圧倒的な悪意、圧倒的な非道徳的思考。生まれながらにして至極最強の犯罪者、まるで世界の悪意殺意をこいつが創ったのではないかと錯覚してしまうような感覚を、独房出身の兵士たちは本能で感じ、共感した。

 彼らもフォロリスと同じ生まれながらの犯罪者、殺人者。

 彼らには一切の善意も、道徳心も無い。

 中国の川よりも澱みきった心、旧アメリカの人体実験よりも惨たらしい終焉を夢とし、歴史上語り継がれているナチスドイツのような惨劇を心の底から望んでいる。

「さて諸君、我らはこれから三週間、ここらで泊まり込み兵士の巡回、交代時間を割り出し、一気に攻め入る。無論それ以外で簡単に入れる方法があるならそれを選ぼう、結果は何よりも大事だからな。

さあ、誰かいい案は無いか?」

「あ、僕あるよ」

 いつの間にやら姿を消したアンドロイが、木の上から案を述べる。

 フォロリスは彼を見つけようともせず、その案が何かを問うた。

 するとアンドロイは、手に零れんばかりブルーベリーを手に持ちながら木から降りてきた。

「まあ至極簡単、そして若干気持ち悪い作戦だ」

「まさか、あの糞の臭いがする泥沼に潜りこんで、排出路から外へ出ようとかいう下らん案じゃないだろうな」

「いや、流石にその発想は無い。流石に引くよ……」

 フォロリスは自分で言ってて気持ち悪くなったのか、口を押える。

 アンドロイはそんなフォロリスの横で、ブルーベリーを一握り口の中に詰め込む。

「なあに、事は簡単さ。フォロリス君、君がアルテミアの皮を被り彼女に変装。そして警備隊を皆殺しにする……我ながら完璧パーペキPerfect!」

 アンドロイがドヤ顔でそう叫ぶ。

 そんなアンドロイに本日何度目か不明なため息をつき、その作戦の駄目な部分を指摘する。

「あのな、確かにそれは完璧だ。全盛期の俺だったらな。

 あいにくだが今の俺は、戦力的に言ったらそこらの竹やりを持った新米一般兵とほぼ同程度。そんな俺が皆殺し? アンドロイがやればいいだろう」

「あー、すっかり忘れてたよ。ごめんごめん。……それなら仕方ない、僕がやろう。こう見えても隊長だからね」

「んじゃ、よろしく頼んだ。はい、爆弾十個とワイヤー、ついでにこれ持ってけ」

 フォロリスは荷台から爆弾を十個、そして両側の先端部分に鉄のような物が付いたワイヤー、そして錆びたナイフを手渡した。

「えっ、なんで錆びたナイフを……」

「それの方が殺傷力があるんだよ、破傷風って奴だ」

 アンドロイはそのフォロリスの言葉を信じ、アルテミアの皮を被り、荷台に積んであったゴスロリ風の服を着た。

 その姿に、フォロリス含む第四十四独立前線部隊の皆は笑いを堪えきれなかった。

 中身が誰かを知ってるからであろう。

 その夜、アンドロイはいつもより多めに泣き、枕を濡らした……。

今回は長文が多いとです、ナチの人です。

なんだかナチスを調べれば調べるほど彼らに同情してしまうとです、お蔭で昔のようなバイオレンスにナチを絡める事が出来なくなったとです。

あれ、前にもこういう旨をかいたような……。


まあそれはどうでもいいですねはい。今回は若干演説入ってます、自分の考えを全部やってくれるのがこの主人公です。

ああ、ドン引きしないで。

さて、今回は恐らくではありますが、初めて殺人狂という単語を入れました。

何故今回入れたか、それはまた別の機会に解るでしょう。


そういえば前、なすびさんの小説が自分のとコラボしたという話をしましたね。

実は、あのコラボが終わったら、この小説のアンソロジーが投稿されるとの事です。

楽しみですねー、一度自分が目にしてから投稿するという流れですが。


では皆さん、また次回。

To Be Continued

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