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魔石と殺人狂  作者: プラン9
第一章~王国崩壊~
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第二十話 奴隷解放

フォロリス達が酒場から落ち、着地したのは薄暗く広い、独房のような場所だった。

着地の衝撃で、フォロリスの左足が身体から離れた。

外には、岩で出来た床の廊下が広がっており、向かい側には同じような独房がある。

そう、彼らが今居るのは牢屋の中なのだ。

中にはボロ布を着た男と、屍が見えた。

糞の臭いと腐敗臭がする。

フォロリスは辺りを見渡し、この臭いの原因を瞬時に理解した。

「衛生概念がなってないな、こんなんで買い手が見つかるもんなのか?」

「だいたいこんな感じだよ、何処もかしこも。僕も一時期利用してた事があるからね。

それにしても以外だね。あんな娘が居るのに、違法な商法をしてる奴が居るなんて……」

アンドロイが口と鼻を押えながら、思った事を呟いた。

フォロリスもそれには同意する。

何せ自らが戦い、左足を失ったのだから。

「取りあえずだ、起こしてくれ。あと足持って来い」

フォロリスがそういうと、大剣を持った一人の男がフォロリスの足を拾い、フォロリスに投げ渡した。

それは尋常じゃないくらい早く飛び、アンドロイがそれをナイフで突き刺し、フォロリスに渡す。

「深々と刺さってるなおい、まあいいけどよ」

手渡された足を元の位置に付け直し、着地した場所にぶら下げているワイヤーのところへ戻った。

「少しばかりミスった。まさか地下牢の中に入ってしまうとは……」

「まあ僕は解っていたけどね。というかどうするよこれ、牢の中で鍵は外。積みっていう状況だよ」

 大剣を持った男が、錆びついた鉄格子に向かって思い切り剣を、下へと薙ぎ払う。

 すると、まるで野菜のようにすっぱりと切れた。

 次に上の方を薙ぎ払うと、鉄格子は金属音を立てながら、床に倒れ金属音を立てる。

「……我が部隊ながら恐ろしい」

 アンドロイがポツリとつぶやく。

「暴動が起きたら俺ら、完全に死ぬな」

フォロリスが真顔で言った。

「さて、大剣部隊。取りあえずまだ元気がありそうな奴から解放していけ。俺らは出口で待ってるとしよう」

「あれ、あのワイヤーは?」

「あれは戻れない際の緊急脱出経路だ。まっ、結局無駄になったのだろうが……」

 フォロリスは歩きながら、落下する時、ククリナイフを上へと投げた理由を簡潔に述べた。

 その徒歩に合わせ、アンドロイ達もフォロリスの後を追う。

 フォロリスの行動、それは至極当たり前の事であった。

 彼の有名な殺人鬼、ジャック・ザ・リッパ-の犯行が明るみに出なかったのも、ゾディアックが声が判明しているにも関わらず捕まらなかったのも、そういった下準備があったからに違いない。


 フォロリスは上へと続く階段を見つけると、四段目に腰かけた。

 そして足を組む。隣にアンドロイが座った。

「さて、大剣部隊が奴隷共を解放している間何をしようか」

「では、奴隷を全員解放する理由を教えてもらいたい。使いにするというのなら、全員解放する意図が分かりかねます」

 奴隷売場へと案内した部下が、もっともな疑惑を言った。

「……虫は卵を大量に産む、それは何故か解るか?」

「ええ、生き残り子孫を末代まで残していく為……でしたよね?」

「……そうだ。それで何か思い当るところがあるだろう?」

 フォロリスのその言葉に、部下は全くもって解らなかった。

 奴隷売場まで案内した部下は、子供の頃から盗みを働いていた。

 故に学校なんて物には行かず、本なんて盗んで売るの繰り返し。

 教養なんてつく筈がなく、学歴なんてあっても無いも同然。

 虫が卵を大量に産む理由を知ってるという事でさえ、奇跡に近いものと言えるだろう。

「……気づかないのか、全く」

 フォロリスはため息をつく。

 隣でアンドロイが林檎を齧った。

「つまり、だ。何の技術もない奴隷共が生き残るには、大量に殺さなければならない。

 自然には魔物が存在する、病気が存在する、飢餓が存在する。だがそれでも生き残る奴隷共が居るだろ う、裏切る奴隷も居るだろう。だが、一斉に放てば必ずや一匹(・・)はグリードにたどり着く」

 フォロリスは一匹と言った。

 それは即ち、奴隷を道具として、人とは別に見ている証拠と言えるだろう。

「なるほど、素晴らしい理論だ。ただし二つ欠点がある。

 それは、城までたどり着けるか。そして、奴隷が城に入れてもらえるかどうか……」

 奴隷は身分として、最下層に位置する人間たちだ。

 即ち、犯されても殺されても、肉を食べられても誰も罪に問われない。

 一応ではあるが、全国家には禁止条例が出されている。

 だが、もしそうだとしてもそれを守らない人は必ずや居る。

 盗み、恐喝、麻薬、銃、刀、近親相姦、絶滅危惧種の密輸……そして、殺人。

 禁じられれば必ずやりたくなる、犯りたくなる、殺りたくなるのだ。

 事実、フォロリスがそうであるように。

「その点も抜かりはない。貴様(アンドロイ)か俺の名前を出せばなんとかなるだろう、ちょいとしか 賭けにはなるが……まあチンチロよりは確率がある」

 チンチロを異世界で例えに使うフォロリス、少しばかり天然なのだろうか。

「?……まあ、よく解らないけども……確かになんとかなりそうだね。

 君と僕、今や国の中で知らぬ者はいないも同然」

「で、使った後は……どう処理するのです? 我が国には、奴らを養う資源なんぞ無いですよ」

「無駄なものは省く、だが同時に彼らを自由にする。

 何も装備させない状態で野に離し、処分は魔物に任せる。生き残れば自由になれる、嘘は言ってないだろう。

 それに、飢餓で死ぬよりはまだマシだと思うがね」

 これはフォロリスが唯一持つ、自分の良点。

 餓死だけは極力させない、というものだ。

 もっとも、時間がかかるので嫌という理由である。

 水を与えないだけでも、時間が大分とかかる。最低でも三日。

 別にフォロリス自身にちょいとでも善意が残っている訳ではないのだ。

 否、彼の中には生まれた時から善意なんぞ無く、悪意、殺意しかない。

「……そろそろ、集まったようだな」

 フォロリスがそう言うと、アンドロイ達は振り返る。

 すると数秒後、奴隷共が虚ろな眼つきで、ゆっくりと歩いてきた。

 全ての者に絶望し、希望を失った生きた骸がゆっくりと、ゆっくりと歩いてくる。

 そして、アンドロイ達の姿を見ると、足を止めた。

 その数、約十八人。

「……卵にしては、ちょいとばかし少ないな。だが十分だ、奴らも一応人間、(オーク)共よりは知能は高いだろう」

 フォロリスはそう考えるや否や、アンドロイの肩を借り立ち上がった。

 そして拳を握り、奴隷共に演説を始める。

「貴様らは自由が欲しいと思わんか? 貴様らは太陽の光を浴び、誰からの指図を設けぬ生活を、誰からも命じられない生活をしたいと思わんか?

 ならば我らの為、一度だけでいいのだ。一度だけ、我が命令を聞け。さすれば貴様らは自由だ!

 太陽の光を浴び、好きな果実を食し、好きな服を着る。当たり前の事だが貴様らにとっては何物にも、親さえ裏切ようと手に入れまいと願う、違うか!?

 では諸君、諸君らに命ずる。最初で最後の命を、我が最後の(めい)、それさえこなせば貴様らには人権が手に入る!」


 フォロリスのその言葉に、奴隷共は一気に眼に光を戻し、活気盛んな声を上げる。

 両手を上にあげ、何度も何度も感謝の言葉を叫び続け、嬉し涙を流す。

 フォロリスはその声を聴き、歓声を聞き、口角を静かに、少しばかり上げた。



 窓を覗くと、日光が部屋の中を、机の上に積み重なった書類を照らした。

 壁を隠すように本棚が大量に置かれており、部屋の中は少しばかり埃っぽい。

 そして書類に囲まれた机の中、静かに眠る青年が一人……。

 白く長い髪、整った顔、貴族が着るような服。

「……朝、か」

 青年は、ゆっくりと瞼を開く。

 眼は宝石のような蒼い色をしている。

「……確か私は、グリード・グラトニーへと召喚された勇者の報告書を見て……駄目だ、記憶が飛んでいる」

 青年は、年相応の声を発する。

 透き通るようでいて、何処か頼りになる。そんな奇妙な声だった。

「……まっ、もう一度見直せばいいか」

 青年が手に持っていた書類に目を通そうとした瞬間、ドアから四回、ノックの音がした。

「誰だ?」

「ハッ! イス国聖カルヴァン騎士団隊長、ジャン・シー・カルヴァンであります!」

 ハキハキとした声が、青年の眠気を吹っ飛ばした。

 青年は書類から目を離さずに、

「入ってこい」

 青年がそう言うや否や、カルヴァンは

「ハッ、失礼します!」

 ドアを勢いよく開き、四十にはなるであろう男、カルヴァンが青年に対し、右手を額に付ける敬礼をする。

 青年は彼を全く見ずに、要件を聞いた。

「ハッ! 先日、我がイス国周辺の村、シザンが何者かに壊滅させられたとの報告あり!」

「……なるほど、大方あの召喚者と同じ類の仕業だろう。で、生存者は?」

 カルヴァンは口を手で押さえながら、ひどく怯えた様子で答えた。

 まるで命からがら逃げだし生存してきたゲリラ兵のような、実体験をしたようにも見える。

「それが……その、零、全滅です。もはや、駆逐に近いものでした。死体も……とても人の仕業とは思えないありさまであり……」

 眼には涙を浮かべ、恐怖によってか手が震えている。

 報告書、話だけでもあまりに酷すぎる内容を、あろう事か簡単に思い浮かべる事が出来るのだ。

 それを実際に目撃し、報告しに行く。二度と見たくもないし思い返したくもないと思う彼にとっては何物にも代えがたい精神的苦痛であろう。

「そうか、もういい。報告御苦労」

 青年がそう言うと、カルヴァンは敬礼をした後部屋を出た。

 青年は彼が部屋を出てからも、書類から目を離さない。

「どうもにわかに信じがたい。ただのガキ一人がここまでやるとは……」

「だよね~。それも、噂によると召喚元の世界は戦争なんて全く無いなんて、信じがたい所か都市伝説ものだよね~。ねっ、ミカル」

 青年、ミカルの後ろから、気の抜けるような女性の声が聞こえた。

 ミカルはゆっくりと振り向き、声のした方を向いた。

「全くだ。戦争経験が無いのに実戦で結果を残すなんて、よほどの鬼才か悪い冗談、それ以外に何もな い」

 ミカルは、笑みを浮かべながら冗談を言うようなトーンで話した。

「……まあ、あながち嘘ではないかもね。ダーリンみたいな戦闘の天才さんも居る訳だし……」

「ふん、当然だ。実践経験はまだではあるが、模擬戦での成績は常にトップ。この私が、たかが子供如きに負けるだと?」

 ミカルは自信満々な、勝ち誇ったような顔をした。

 女性は勝ち誇ったような顔をやめた瞬間、急に猫なで声でミカルに話しかける。

「だろうね、ダーリンが負けるところなんて想像できないもん~」

 ミカルは笑みを浮かべながら、書類を机の上に置くと、指をパチンと鳴らす。

 すると即座にドアの前、彼の目線からすると後ろになる━━から、四回ノックの音が鳴った。

「コーヒーを頼む、出来るだけ濃いめでな」

 青年はそう言うと、棚に置いてある本を手に取り、本をゆっくりと開いた。

ファンタジーもので奴隷ってよくあるけど、この小説では標準的な奴隷もの小説とは一味もふた味も違う……と思う。

というかこの小説、多分普通の殺人鬼が出てくるものとは思い切り違うような……

だって、普通だったら改心するのを、自分のでは悪化(多分ほめ言葉)させてるもん。

まあ、それは置いといて……今回は投稿時間については、謝罪しません。遅れてとかそういうのは。

前の話での投稿時間がちょいとミスったのは、すいません。何故でしょうか……?

自分も今だに謎です。

まあそんな失敗は置いといて、ではまた次回。

To Be Continued

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