第十八話 血はエネルギー吸収効率のいい最高の食糧
魔石店、本来なら大量の灰色の石、魔石が置いてある店だが今は違う。
まるで盗人にでも入られたかのように、在庫が切れたかのように魔石は何処にも置いておらず、床に麻布と一緒に散らばっている。
そんな中でアンドロイとフォロリスが、アルテミアに向かい合っていた。
「僕、ナイフ使った事無いんだけど……」
「死体も近くにあるのはあのガキだけだしな」
その言葉を交わした瞬間、アルテミアの無慈悲な魔法がフォロリスの右手の小指を落とした。
それと同時にフォロリスは爪を床に突き刺し、刃が曲がっている方向とは逆の方向に力を込めた。
すると床はベキッ、という音を立て、ヒビが入り木屑が舞った。
それがアルテミアの眼に入ったのか、指で眼を軽くかく。
フォロリスは、それを狙っていた。
アンドロイがナイフを両手に持ち、加速を付けてアルテミアに突っ込んでいく。
それと同時にフォロリスは音を立てずに、アルテミアの背後に回り込み、攻撃を加える為右手を思い切り後ろに引いた。
「早い、だけど……!」
アルテミアは、ゴーレムの時見せた身体能力を上げ、ジャンプした。
対象がいきなり居なくなったアンドロイとフォロリスは呆気にとられ、更にアンドロイは思い切り走っていた事もあってか……
フォロリスの残っていた左肩に、ナイフが刺さった。
肩から血を噴出した直後に、アルテミアは下へと下りる。
「あ、ごめん」
普通の人間なら、絶対に許さないといった表情を見せるだろう。
それかあまりの痛みに肩、刺さった所を反射的に抑えるのが普通だ。そう、普通の人間なら。
だがフォロリスは、そのどちらも行動には移さなかった。
ナイフをまるで、栗の皮を割り、中の果実を取り出すかのように、当然のように引き抜き、義手に刺した。
「ったく、次は気を付けろよ」
まるで走った表拍子に転んだ子供が手に持っていたアイスを落とし、代わりを買ってあげたかのように優しくそう言った。
これにはアルテミア、そしてアンドロイも驚いた。
いや、驚かない方がおかしいと言えるだろう。
何故ならナイフを抜き取った今でも、血が垂れ地面に染みを作っている。
「えっ、痛くないの?」
「麻痺してきてんだよ、痛覚が。何故かは知らんが」
フォロリスは何事もないかのように、鉤爪をアルテミアに向ける。
「さて、仕切り直しだアルテミア。貴様の皮を生きたまま剥いで、潜入に利用させてもらうぞ」
「なんつう痛々しそうな事を思いつくんだい、君は……」
フォロリスのその言葉に、アンドロイは嫌そうな顔をした。
無論殺すのに反対だとか、女に暴力はいけないとかいう綺麗事などでは一切無く、ただ単に見ていて痛いからである。
人の皮を剥ぐ、想像しただけで体中が痛くなるだろう。それが例え、どんな極悪人であってもと断言できる。
「……どうしたアルテミア、来ないのか? 来ないのなら、こちらから行くぞ!」
フォロリスはそう叫ぶと、爪に付いている魔石を光らせた。
するとアルテミアの周りの天井だけが不自然に崩れ、アルテミアの上から降り注ぐ。
店前に置いてあった子供の死体の腕が、屋根から落ちてきた煉瓦によって足が千切れ、何処かへと飛んで行った。
まるで雪崩のような勢いで木材が降り注いだが、すぐに収まり、木屑と埃、鼠の糞が魔石店の中を舞っい、光の筋を作った。
「ゲホッゲホッ、もう少しマシな攻撃方法は無かったのかい?」
アンドロイが涙目で、眼を真っ赤にしてフォロリスを蔑むように言う。
フォロリスは手で口を覆いながら、軽く謝るとアルテミアの居た方を向いた。
そこには無残にもアルテミアが潰された木材の山がある。この下に、アルテミアが居る……はずだ。
「まさかとは思うけど、この下に居なかったりしてね」
アンドロイが笑いながら、笑えない冗談を飛ばす。
無論もし、今現在何処かに逃げ延び、隠れていたら彼らに勝ち目は、限りなく低い。
緊張の一瞬、フォロリスは右袖で汗を拭いながら、ゆっくりと木材の山に近づく。
一歩、二歩、三歩……確実に、それでいて周囲への警戒を怠らず……。
十歩目にて木材の山にたどり着き、ゆっくりと山を崩し、木を横へ置く。
「……」
フォロリスは胸を撫で下ろし、アルテミアの方を見る。
すると先ほどまで緊迫していた顔は無く、何処からか取り出した針と糸で麻袋を器用にも縫っていた。
そんな彼に、怒りを込めたような足音でゆっくりと近づいて行く。
その音から危険を察知したのか、アンドロイは咄嗟に言い訳を始めた。
「ち、違うんだよフォロリス君! これは資源の補給であってだね、その為に必要な資源を回収しているんだよ。君だって死体からナイフやら食糧やら剥ぎ取っていたじゃないか!」
「だからってよぉお前、人が頑張ってる時にそれは酷いんじゃねーかおい」
哀れアンドロイ、弁解の余地なし。
フォロリスはアンドロイへ近づく為、右足を前へと出した。
だがアンドロイは殴られる事もなく、蹴られる事も無かった。
それは何故か? それは……
フォロリスの足が、股から下の右足が切断されたのである。
フォロリスがそれに気付いたのは、右足を動かそうとしてからであった。
身体のバランスを崩し、顔から派手に扱ける。
右足の切断面から血が吹き出し、紅い水たまりを作る。
切断面は鋭利な刃物で切られたようになっていた。
まるでゆで卵を糸で切ったかのように、引っ付ければくっ付きそうと錯覚するくらい綺麗に、綺麗に切られているのだ。
だが何故か、そんな状況にも関わらず、フォロリスの頭の中は冷静そのものだった。
一体何故足が切れたのか、何故自分は今床に寝転がっているのかを、一瞬で理解した。
そして同時に、体中から汗が噴き出す。
信じたくは無かった。生まれて初めて、自分を信じるのが怖くなった。
そう、生きていたのだ。
あのアルテミアが、あの娘が!
明確な殺意をフォロリス達に向けながら、息をしているのだ。
本来ならもう死んでもおかしくは無いだろう、故に二人は油断した。
「……アンドロイ、奴は動けないんだ! ボサッとしてないで止めを刺せ!」
フォロリスが冷静に、新品の服を破り、切断された右足を止血する。
「わ、解っているよ!」
アンドロイはフォロリスの義手からナイフを一本抜き取り、動けないアルテミアの首に抵抗する間もなく、勢いよく突き刺した。
暖かい鮮血がアンドロイの顔にかかり、アルテミアの眼から精気が消えていくのを感じられる。
もうすでに事切れていた。だというのにアンドロイは、何度も何度も刺しては抜き、刺して抜いた。
血でナイフが真っ赤になり、固まっていく。
もはや首は、原型が無いほどグチャグチャになっていた。
ミンチと言えるだろう。
そんな中、フォロリスは冷静に体を動かし、這いずりながらアルテミアに近づく。
距離はそこまで離れてはいない、元々この店は狭い方である。
フォロリスは一心不乱に、何度もナイフを突き刺しているのをやめさせると、アルテミアの、ミンチになった首から肉を一握り持ち、自分の口に運び貪った。
数十回咀嚼し飲み込むと、今度は顔をミンチになった首に持ってきて、まるで犬のように、動物のように食べ始める。
顔に血が付いても、毛が肉の中に混ざっても気にせず食べ続ける。
どんな手段を用いても、どれほど背徳的な事、非人道的な事をしてでも生き残る。
そういう意思の表れが見て解るように、醜く見えようとも食べる、とにかく食す。
アンドロイは正気を取り戻すと、即座に口を押えた。
「うっ、よく食べれるね本当に……」
フォロリスはいったん食べるのをやめ、アンドロイの顔を見た。
気持ち悪い、信じられないといった顔をフォロリスに向けている。
「生き残る為ならなんだってやる。お前は魔石を麻袋にでも積めてろ」
「うん、そうさせてもらうよ」
遠くから爆音が響き、煙が上がったのを、崩れ落ち壁が無くなった箇所から確認できる。
フォロリスはミンチとなった首部分を、骨のみを残すとナイフでアルテミアの左足を切断した。
それを見るや否や瞬時に顔をそむける。もっとも、最初の首の肉を食べるという方が強烈ではあったが……。
骨か削れる音が鳴り、血だまりに骨の破片が落ち波紋を作った。
フォロリスは布で止血した箇所から布を抜き取り、先ほど切り取った箇所に貼り付け、布を口でくわえ、しっかりと固定する。
「……君は確か、異世界から来たんだよね?
それにしてはちょっと、順応性が高すぎというか、こっちの方でもドン引きするような発想をするというか……」
「だろうな、理解している。
……事実、俺の世界で俺は勇者でも歴戦の戦士でも、ましてや副隊長でもなかった。
だから、この世界に来た。無論未練は少しばかりあるが、どれも取るに足らないものだ」
フォロリスは笑いながら、くっ付けた足の具合を確かめた。
義足としては少しばかり違和感があると感じたが、元々義足なんぞ使う事にならせた事はあっても使った事はないのだ。
この違和感は気のせいだと思い、気にしない事にした。
「さて、肩を貸してくれ。やはり三体満足では好きに動く事は出来んのでな」
「……誰か、呼んでくるよ」
アンドロイはそう言うと、もぬけの殻となった魔石店から麻袋を持って外へ出た。
フォロリスはその間、何とか身体を起こしてナイフを手に取り、アルテミアの皮を剥ぎ取る。
サーモンピンク色の筋肉が見え、眼のあたりまで皮を持ってくる。
皮を裏返した後、いったん手を離し、左眼にナイフを突き立て引き抜く。
眼から出た液体がアルテミアの皮に付いた。
「……アンドロイ、まだか」
目玉を食べながら、彼の、彼らの帰りを待つ。
左目を食べ終えると、次は左目部分に、懐から取り出した果物ナイフを入れ隙間を作った。
ナイフを身体の方へと持っていき、ついに目玉から入ったナイフが皮から外へと出る。
「フォロリス君……何やってんの?」
声のした方を見ると、アンドロイが眉を顰めながら立っていた。
「皮を剥いでいたんだが、途中で飽きてしまってな。代わりにやっといてくれ」
ミンチに顔を埋めたように付いた血をアルテミアの服で拭うと、壁を利用して立った。
「一人で立てるじゃん」
「いや、一度扱けたら一人じゃ起き上がる事は不可能だ。で、俺の付き人は何処だ?」
「あー、言いにくいんだけどね、残党狩り? 的な事で遊んでるよ」
「……資金は、資源は回収してるんだろうな?」
フォロリスが壁に凭れながら尋ねる。
無論、資金は彼らにとってはあまり意味の無い物ではあるが、あの国ではそれらが枯渇しかけているのだ。
それに加えイス国で潜伏する時に、大分と利用する事が出来る。
もしそこで人を殺し物を手に入れても、すぐに身元がばれ斬首されるだろう。
フォロリスはそれを見越して、資金を調達しているか尋ねたのだ。
「無論、全員回収してるとの事だ。あ、そうだ。君に渡しておかなければいけない物がある」
アンドロイは胸ポケットから、紅い液体が入った小瓶をフォロリスに投げ渡した。
片手でキャッチし、瓶の中に入っている液体を睨みつける。
「……吸血鬼の血、か」
「その通り。君は何かと殺されやすそうだしね、行動遅くなってるだろうし」
「まあ、そうだろうな。片腕片足、ここまで大きなハンデ背負ったら……抵抗する間もなく死ぬだろうな、普通なら……」
フォロリスは笑いながら、吸血鬼の血が入った瓶を胸ポケットに入れた。
アンドロイは魔石の入った麻袋と、床に落ちたフォロリスの足を拾うと、フォロリスに肩を貸し店を出た。
はい、今回は短く地の分がちょいと多く感じたナチの人です。
主人公がここまで、徐々に腕が落ち、足がどっか行く小説は無いだろうと自負しております。
いやはや、書いてて楽しかったですよ本当に。
まあそんな事は置いといて、なんとこの小説、なすびさんとコラボしてるのですよ。一章丸々使っちゃって。
ちなみにその小説は「人間嫌いの高校生」というタイトルですね。
なすびさんのページには、自分のお気に入りユーザーから行けます
ある程度書いたら、自分もコラボとかやってみたいものですね。
その頃にはフォロリスの性格、大分と変わってるでしょうけどね。ははは……。
ではまた次回、コメント待ってまーす。
次回。いつか何処かでお会いしましょう。
To Be Continued




