第十三話 犠牲になった身体
ゴーレムの振り下ろした腕によって起きた小規模な地震が、フォロリスの胃を揺らし吐き気を覚えさせた。
「うっ、この馬鹿でかいゴミが……」
「少し我慢してください、すぐに終わりますから!」
彼女はそういうと右手を開いた。すると光の筋がゴーレムの腕に直撃した。
ゴーレムは腕を押え、少し痛がり暴れ始める。
「チッ、これどうすんだよ。あの暴れよう、なんか気持ち程度ゴーレム出て来てるぞ」
「す、すいません! まさかあそこまで丈夫だとは思わず……」
フォロリスはふと愚痴を零す。
だがそのような事を口にしても無意味だという事は、フォロリスには解っていた。
だが愚痴らずには居れなかった。当たり前だ、誰もがこの状況に陥ったら愚痴るか生きて帰るのを諦める だろう。
「……チッ、やばいな」
急に地面がひび割れ、ゴーレムの下半身がまるで埋まっているものを引き抜くかのように出てきた。
空から土と、赤い塊根が降ってくる。
巨大な土の塊をフォロリスは紙一重で避け、赤い塊根を手に持っているナイフで突き刺した。
「(あいつは見たところ土で出来ている、つまり毒もナイフも邪魔なだけ)仕方ない、いったん退くぞ」
「……どうやらそれさえも、不可能っぽいですよ」
ふとあたりから、獣の唸り声が聞こえてきた。
フォロリスは諦めたように笑うと、ナイフから赤い塊根を引き抜き袋に入れ、自らの首に突き付けた。
「ちょっ、なにやってんですか!?」
「苦しんで死ぬなら俺は、一瞬の痛みで死ぬ」
「諦めたらダメですよ、何かあるんでしょう!?」
ゴーレムの拳を紙一重で避けながら彼女は、フォロリスに突破するような作戦があるかを聞いた。
彼女の言うとおり、フォロリスにはこの場のみを切り抜ける方法ならある。
だがそれは後に、自らに死をもたらすもの。他人の為、ましてや侵略する際邪魔になる対象の原住民の為に死ぬなど、絶対にやりたいとは思わない。
故に、どうせ死ぬのならば魔物を利用し、村の中で一番強いであろう彼女を葬った方がいいとフォロリスは考えた。
「だから無いって言ってるだろうが。こんな化け物、どう戦えと?」
そう、フォロリスはあくまで一般人なのだ。
こんな化け物と対決なんて、彼の世界では万が一にも無かった。故に対応法が彼には思いつかない。
否、思いつく筈がない。
フォロリスはゴーレムの拳を避けつつも、先ほどから後ろに居る魔物にも注意を払った。
だが奇妙な事に、魔物たちは襲ってこようとはしない。
それは巨大なゴーレムが居る為、巻き込まれるのはごめんだという気持ちと彼らの死骸を漁る為に、自らが死地などに踏み入れようとはしないという事。
即ち、この場から逃げ出したとしても彼らは魔物に殺される可能性が高く、生きて帰れる可能性はかぎりなく低いという事だ。
「チッ、こんな事なら爆薬を携帯しとくべきだっ━━━━」
フォロリスの左腕が、ゴーレムの拳によって吹き飛ばされた。
腕が空中を回転しながら、魔物の視線のする方へと飛んで行く。
フォロリスの傷口から血が、まるでしっかりと栓を閉めていない水道の蛇口のように出てくる。
だが痛がる暇を、ゴーレムは与えない。そのままフォロリスの身体を潰すため、初めて足を動かした。
魔物たちからの視線が無くなり、代わりに骨が砕けるようなゴリゴリという音が聞こえてくると同時に痛みがフォロリスの身体を駆け巡り、膝をついた。
「ぁっ━━━━━━」
声にならない悲鳴が響き渡り、彼女は耳を塞いだ。
だがゴーレムは容赦なく土で出来た、太陽を隠すほど大きな腕を振り上げ、勢いよく振り下ろす。
その腕はフォロリスの真横を通り過ぎ、地面に大きなヒビを入れ、フォロリスが立っている地面ごと宙に舞った。
だがフォロリスは不意に冷静になった。人は死ぬ際、妙と言えるほど冷静になるという。
それはまるで走馬灯のように周りがスローモーションになるらしい。今、フォロリスはその状況の中に居る。
ゴーレムの大きな、丸い頭に大きなヒビが入っているのを……。
フォロリスは右手で先端が曲がった特注のナイフを取り出し、そのヒビに目掛けて先端を突き刺した。
それはまるで格闘映画の長時間の落下シーンの終わりのような光景となり、咄嗟に行動出来たフォロリスも自らの行いにひどく驚いている。
「放浪者さん、何を……!?」
フォロリスは彼女の問いに答えず、ナイフに体重をかける。
まるでバールを突き刺し、体重をかけ木を抉り取るかのようにゴーレムの頭から固まった土がゴーレムから零れ落ちる。
勿論ゴーレムも抵抗し、頭を勢いよく振る。
だがフォロリスは手早く落ちてくる土を拾い集め袋に入れ、ナイフの柄の部分にぶら下げた。
これによって袋が重石替わりとなり、更に暴れ続けるゴーレムによって傷は更に酷くなっていく。
だがフォロリスの狙いはまだ別にあった。
「よし、逃げるぞ」
「確かに、この場に居たら危なそうですね」
そう、逃走経路である。
フォロリス達をにらみ続けていた魔物は今、ゴーレムの方を見ておかなければならなくなったのだ。
恐らく怒りからフォロリス達を追いかけ続けるだろう。それに巻き添えを喰らうというのを魔物たちは本能的にキャッチしたのだ。
そして、フォロリスが在住している村の方は魔物であふれかえっているが、反対側は魔物の気配はない。
「村とは反対側の方向に逃げる、死にたければ村へ向かえ」
「死にたくないので遠慮します。私も貴方と一緒に行動しなければ、恐らく死ぬでしょう。私も、貴方も」
フォロリスと彼女は村と反対側、吸血鬼のひそむ洞窟のある方へと走った。
全速力で、わき腹を押えながら、血をダラダラと出しながら走った。ただ走った。
そして魔物が見えなくなったところでフォロリス達は足を止め、彼女は袋から包帯を取り出し、フォロリスの腕に慣れた手つきで巻いた。
「ああ、ありがとう」
フォロリスはさっきの悲鳴はどこへやら、落ち着いた声で彼女に感謝した。
それが逆に不気味であったが、今はフォロリスの腕の治療を優先すべきと思い、何も言わなかった。
「(にしてもなんだ、俺の身体はどうなっちまったんだ? あの時、あの低能との戦闘以来、痛覚が無くなってきたような……)はあ、これからどうする? 女」
「私の名前はアルテミアです、貴方は?」
「フォロリスだ。で、何処か寝床は無いか? 何処かで休息の一つでも取らにゃ不味いぞ、俺の体力驚くほど少ないぞ。あと、この赤いのは食えるか?」
袋から赤い塊根を取り出し、どうぞ食べれますようにと願いながらその塊根をにらみ続ける。
アルテミアは少しばかり残念そうな眼でフォロリスを見つめ、
「食べたら死にます、色で解るでしょう……」
「いや、予想以上に血が出たんだ。何か食わなきゃ血が足りない、頭もくらくらしている」
フォロリスは先ほどの戦闘によって、予想以上に体力を消耗している。
故に何処か適当な場所で休憩を取った方がいいが、今居る場所は腰ぐらいの長さもある草原。
何処から魔物が襲ってくるか解らない、故におちおち休憩も出来ないのだ。出来るとすれば応急処置程度。
もしこの場で吸血鬼襲われでもし、更に周りには大量の獣型魔物がうじゃうじゃと出てきたらどうなるか。
無論死ぬしか選択肢は無いだろう。もしアルテミアの実力が高くとも、多勢に無勢というものだ。
そういったネガティブに考えているフォロリスに、アルテミアは一つ提案をした。
「では、少し歩いた先にある洞窟で少しの間隠れましょう。そのうち村の人が助けに来るかもしれません」
フォロリスは少し考え、他にいい案もないので
「それでいい、だがその洞窟とやらは何処にあるのだ?」
と、洞窟が何処にあるのかを聞いた。
アルテミアはフォロリスの後ろを指さす。
「三分ほど歩けば着きます。さあ、行きましょう」
アルテミアはフォロリスの手を握り、洞窟のある方へと走って行く。
無論加減はしており、普通の人間が早足で歩くような程度の速度だ。
フォロリスはふと、アンドロイに聞いたあの魔物がそこに居るかどうかを知りたくなったが、口には出さなかった。
もしそれを聞きアルテミアが行くのをやめたら、確認の仕様が無いからだ。
だがもし吸血鬼が居たとしたら、自分は死ぬだろうと思いフォロリスは乾いた笑い声を出した。
今回は少しばかり早い投稿であります、いつも遅く投稿する人ことナムです。
気付けば何時の間にやらもう少しで卒業、時が経つのは早いと言いますが……。
つい最近に沖縄に修学旅行に行ったような気がします。
まあそんなどうでもいい話は置いといて……魔物紹介しましょう。
いや、魔物紹介じゃなくて異世界の者・物紹介ですね。誰が上手い事を言えと自分に言ってしまいます
~ドラゴン~
キンポウゲ科イモドラゴン属
外見:赤く、トゲトゲとした突起物が付いている塊根。切り口は生々しい血のような赤。
強い毒性を持つ毒物、古来よりこの世界では暗殺の道具、武器に塗りつけるなどとして使用してきた。
種は深い緑色をしており、この種にはドラゴンを超える毒性を持っている。
種は約100日で大きくなり、200日後には白い花が咲いている。
花に毒性は無く、魔物以外の食糧となる。
ちなみにこの実の毒は魔物には効果が無く、逆に力が上がるので注意。
これは余談であるが、名前の由来は塊根がドラゴンの顔に似ているからである
~紫の土巨人~
種族:召喚物
外見:紫色の乾いた土で出来ている、目は黒いくぼみ。
ある程度の知能を持つ魔物が召喚可能な召喚物。召喚する生物の中では初歩の初歩であるが、人間がこれを召喚しようものなら即座に体が破裂すると言われている。
この生物は召喚完了するのに時間がかかりすぎ、あまり魔物相手には効率的とはお世辞にも言えないが相手が人間となると話は別。即座に強靭な壁を召喚でき、更に腕で人間などを潰す事だって可能だ。
尚このゴーレムの土は農作物に最適な栄養素であり、農民たちからは重宝されている。
では誤字誤植・ご指摘他感想がありましたら感想欄にて。
では、また次回




