第十話 囚人たちと楽しい戦争生活、最初の敵
グリード国城門前、フォロリスの目の前には囚人服を脱ぎ棄て、綺麗な緑色のラインの入った、白い軍服を着ている囚人たちと、この国の街並みのみが広がっている。
遠目で見れば、しっかりと手順を踏んで軍隊となった人達と思うだろう。だが近くで見たら、吐き気を催す。フォロリスは今、そう断言出来る。
何故なら、この状況はフォロリスが夢見た非現実的な世界が広がっているからだ。
たった四十人だが、他の国の囚人を解放させていけば自然と数は増える筈だ。
捕まれば過酷な環境に閉じ込められる為、日ごろの鬱憤が溜まるだろう。フォロリスはそれを利用し
囚人たちの手も借りて国を攻め落とすつもりなのだ。
そこで付いてくる意志のある奴は軍隊に入れ、他は侵略した後の街に留まるもよし、独立するもよしというものだ。
そう、彼が見たいのは平和な世界ではなく、ただの地獄絵図。それだけである。
理由など存在せず、目的などあって無いが如し。ただカオスな世界で、満足しながら殺される。それが彼にとっての理想的な死に方なのだ。
フォロリスは囚人たちの後ろから、荷台を乗せた馬車が5つ来たのを確認すると、剣を天に掲げ高らかに叫んだ。
「諸君、我らはこれより、イス国の領地を侵略する! 我らの目的はただ一つ、簡単だ。殺されないように殺せ、以上! これより出発するぞ!」
この簡単な号令によって、囚人たちは実に楽しそうに、フォロリス達第四十四独立前線部隊に付いて行った。
あの国から出発して、ゆうに五時間が経過した。
まだあの国の領土のせい、いや、あの国の領土だからか、地面には気持ち程度の草しか生えておらず、地面に亀裂が入っている。
何故こんなに荒廃しているのか、フォロリスにとってそれはどうでもいい疑問だ。
今はこの瞬間を楽しみたいのだ。もうこれで最後になるかもしれない、夕焼けの光を。
空は夕焼け色に染まり、あの国は見えなくなっている。
馬車が石を踏んだのか、ガタンと大きな音がした。
荷台に積んである飲料の瓶が割れていないか確認する為、いったん馬車を止めた。
「飲み物が無くなったら、俺たちはここで干からびる事になるぞ。おい、見て来い」
一人の兵士が、荷台を見ながら後ろの兵士に命令した。
愚痴を呟きながらも荷台の中へと入り、水瓶が割れていないか確認した。
「一つは割れているが、他は問題ない」
荷台からそう聞こえてきたので、一同は少しばかり残念そうに溜息を吐いた。
そして中から兵士が出てきた、首だけで。
フォロリスはその首を、荷台の近くに居た兵士に退かせるように命令した。
兵士は怯えながらも、その首へと近づいた。
兵士が首に手をかけた瞬間、荷台の奥から馬の半分くらいの大きな黒い影が飛び出してきて、兵士の首を食った。
「……アンドロイ、あの黒いの何?」
フォロリスは素早く鉤爪を取り出し、構える。
「あれは……ヒューマンパラサイトだね、人間に寄生する奴」
「ああいうの、どっかで見た事があるぞ」
よく見ると、足のようなギザギザした物体が生え、尻尾のようなモノも付いている。
それが全て、兵士の体の中にねじ込むように収まった。兵士の頭のあった場所には、黒い尻が生えている。
フォロリスは気持ち悪かったので、とりあえず魔法を撃ってみた。
すると黒い尻のような物が真っ二つに斬れ、中から白い卵状の物体をばら撒いた。
フォロリスは素早く、隣に居た兵士を盾にし卵から自らの身を防いだ。
「なんだありゃ、気持ち悪っ」
「ヒューマンパラサイトは尻に刺激を受けたら、そこらじゅうに卵をばら撒くからね。
さて、ではどうする? 数時間後に卵は孵化し、兵士が僕たちに襲い掛かってくるよ?」
「ゴキブリみたいだな……エドワン! 兵士ごと燃やし尽くせ!」
エドワンがグローブに付けている魔石が紅く光ると、卵が付着した兵士が一斉に炎柱になった。
周りが火に包まれ、卵に寄生されていなかった兵士に燃え移った。
フォロリスは火に包まれている兵士の剣を、熱さを感じる前に引き抜いた。
まだ柄にも刃にも熱さは残っているが、フォロリスは不思議と痛みを感じなかった。
フォロリスは剣でヒューマンパラサイトに寄生されている兵士の両肩を切り裂いた。
二つに分かれた身体は地面に落ち、中から緑色の液体が出てきた。
「終わったか。さて、行くぞ」
「……相変わらず、恐ろしいね。君」
フォロリスは赤色と緑色の血が付着している剣を、先ほどまでヒューマンパラサイトに寄生され体を奪われていた兵士の上半身に突き刺した。
「勿体無い、貴重な剣なのに……」
「他の兵士共の資源を集めるんだ、たった一本無駄にしてもよかろう」
生き残った兵士が誰に言われるまでもなく、周りの燃え尽きた仲間から剣や金貨を漁っていた。
この軍隊、第四十四独立前線部隊に仲間意識はほぼない。故に顔色変えることなく、貴重な資源を死んだ仲間から奪い取る事が出来るのだ。
「では行くぞ、我が国から一番近い、イス国領土の村に」
「まあ気楽に行こう、どうせいつか死ぬんだ」
「……男なら、いや無理だ。肉が堅そう」
「いや、食うなよ?」
一人の兵士が死体を見つめながらそう呟いたので、フォロリスは静かに突っ込んだ。
事実目の前で死体を食べられると気持ちが悪いからだ。もっとも、フォロリスは死体を食べた事があるが……。
それにフォロリスの国では勿論、人食いは犯罪だ。あの国に近い場所で人を食べたら勿論、しょっぴかれるのは目に見えている。
此処で兵士が減るのは、侵略に支障を来す。故に静止させたのだ。
「チッ、分かりましたよ」
「何、最初の村で嫌でも食う事になるんだ。それまでの我慢と思っておけ」
フォロリスはそう言うと、兵士たちに進むように命令を下した。
そしてフォロリス達第四十四独立前線部隊は進み始めた、イス国周辺の村に。
このたびは誠に遅れてしまい……この挨拶もお決まりになってまいりました。
少しばかりチョコットランドとハーメルンの方で遊んでしまい、こんなに遅れてしまいました。申し訳ございません。
次は出来るだけ、早めに投稿します。
2月中旬には…………




