第壱話 虐殺の火種
残酷すぎる主人公が活躍します。ご注意ください
そこらに植木鉢や粗大ごみ、アナログテレビなどが不法投棄された裏路地。
そんなちょっとした広さのある場所に、集団に囲まれた青年が一人。
青年は黒いジャケットを着て、下は黒いジャージを履いている。
集団の数は約十人。体格はバラバラであり、太った奴も居れば痩せた奴も、がっちり体型の奴も居るが、全員黒のTシャツを着て、鉄パイプを手に持っている。
「おいおい、俺達に喧嘩売ってさー、ただで済むと思うか? クソガキ」
顔中にピアスを付け、太った体格の男が、鉄パイプで肩を軽く叩きながら、囲んでいる相手にそう言い放つ。
相手は高校生くらいの青年、青年はそれに対し特に気にすることも無く、爪を爪で弄っている。
「……テメェ、なめてんのかオラァ!」
太った男は鉄パイプを思い切り青年に振り下ろすが、青年は一歩も動く事なく、太った男を転ばせた。
足には果物ナイフが突き刺さっている。
のけぞった状態の為、青年の後ろに居た、細めの体格をした男の頭に当たった。
すると勿論、頭から血を流し倒れる。青年は男が倒れる際、手に持っていた鉄パイプを奪い取り素早く薙ぎ払う。
太った体格の男の腹に当たり、口から血を吐きだした。
青年をかこっている集団は、倒れていく太った男に目線が行っている。
その為、青年が素早く袖からナイフを取り出し、集団の男達の首に突き刺さっている事に気付かなかった。
ドミノ倒しのように倒れていく集団を青年はつまらなさそうに眺めながら、ワイヤーを引き寄せナイフを回収した後、死んだ男たちの死体を漁り、人数分のサイフを手に持ち、ワイヤーでつなげた。
ふと耳を澄ませると、遠くからパトカーの音が聞こえてきた。
青年はその音を聞き付けると、最初に殺した男の顔を踏みつぶし走って行った。
走った事によりシャツが汗ばみ、肌に引っ付く……錆びた階段がそびえ立つ雑貨ビル、その影になっている場所に青年が入っていき、エレベーターに乗った。。
遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえる。
青年は自販機でペットボトルを買い、水を半分飲み干し、血の足跡に水をかけ足で消す。
サイレンの音が、反対の方向へと走っていく。
「あー、しくった。本当にしくった……ちょいとばかし殺しすぎたな」
少年は血だらけのまま、特徴的な、数年間海水で飲みつないだような声で、自室でボヤく。
巨大なスピーカーに血のついた黒いジャケットを投げつけ、床に落ちていたリモコンを手に持った。
部屋は小さなテーブルと四十インチのテレビが置いてあり、壁には逆卍、ナチスドイツの国旗でありアーリア人優越論のシンボルであるハーケンクロイツがデカデカと、直接描かれている。
ついでに、下に着ていた服も、ハーケンクロイツがでかでかとプリントされた赤いTシャツである。
数回ほどちゃんねるを変えると、テレビを消した。
「なんか、面白い事ないのか、暇すぎて死にそうだ。ったく、なんで人殺しで捕まらなきゃいけないんだっ つーのマジで」
血のように赤い髪をかきながら、誰かに愚痴るようにそう吐き捨てた。勿論、何処からも返事は帰ってこない。
「つーか、十七で独り立ち……親も面倒な事させるよなー。我が家にも奇妙な家訓があるもんだよな本当に……『子供は十五で独り立ちさせるべし』とか。
まあ、おかげで好き放題できてんだけどなー」
独り暮らしをしていると、ついつい独り言が増えてしまう。何せやる事がないからだ。
青年は何かを思い出したかのように手をポンと叩くと、おもむろに立ち上がった。
「暇だしあれ試すか」
青年は寝室へ向かい、タンスを開けた。
そこから数着ほどの服とズボン、下着類をカバンに詰め、白いカッターシャツを着て家を出た。家の光を消さずに……。
青年はエレベーターの前に立ち、下のボタンを押した。
3……5……7……8階で、エレベーターの階を示すランプが光り。ドアが開いた。
青年はその中に乗り込み、四階と二階を押した。
するとエレベーターはまず四階に止まる。すると青年は「閉」と書かれたボタンを押した。
するとエレベーターの扉が閉まり、下へと降りていった。
二階に降りると、エレベーターから降り、上へと向かうためのボタンを押した。
すると一度閉まった後、また開いた。
次に六階のボタンを押す。するとエレベーターは上へと向かっていく。
六階に着いたところで、またエレベーターから降り、下へ向かうためのボタンを押した。
そして二階を押す。するとまたエレベーターは下へと向かっていく。
二階に着いたところで、またまた降り、上へと向かうためのボタンをまた押した。
そしてまたエレベーターの中に入り、そして10階を押す。
エレベーターはまたまた上へと向かっていく。
十階で止まったあと、降りずに下へと向かうためのボタンをすぐさま押した。
またまたエレベーターの中に入り、そして五階を押す。
するとまたまた下へと降りていった。
5階に着いたところで、髪は長めの、黒色と赤色の混ざったようなワンピースを着た女性が乗ってきた。
その女性を無視し、一階のボタンを押す。
するとどういう訳か下へと向かわず、上へと上っていく。
そして10階へとたどり着き、扉が開いた━━━━!
エレベーターの扉の向こうには、いつもたどり着く犬の糞が隅っこにあるような廊下ではなく、赤い赤いレッドカーペットが敷き詰められ、天井にはシャンデリアがあった。
更に壁には見るからに高そうな絵が飾られ、床は大理石で出来ている。
そのあまりに非現実的な光景に青年は、唖然としていた。
「本当だったんだな、異世界」
「お待ちしておりましたよー、我が国の救世主様ー」
間の抜けた声が、後ろから聞こえてきた。
振り返ると、先ほどエスカレーターに乗ってきたあの女性が立っていた。
顔は整い、眼は綺麗な紅色で、黒い髪にそれがよく似合っていた━━と、青年は思った。
「いやー、結構疲れましたよ本当に。なんせ貴方様の世界の、異世界に繋がりそうな有名な都市伝説を探してたんですよずっと。おかげで寝不足で、もう肌が荒れ放題ですよ」
「なるほど、つまり俺は召喚された救世主って訳か。で、なんの取り柄もない、戦争もした事のない俺になんのようだ?」
女性は何故か胸を張りながら、
「そりゃもう、負けそうな我が国を救ってもらおうというのですよー。というか、声めっちゃ渋いですね」
と、言った。大声で。自信満々に。
それを聞くと少年は、「自信満々に言うなよ」と小声で言った。
「まあ取り敢えず、王的な人んところに連れて行け」
「了解でーす。あっ、王女様の前では砕けた感じでいいですよー」
女性は、数ある廊下の一つに向かって歩いて行った。
少年はその女性の後を追った。
先ほどの部屋を少し大きくした感じの(しかし、前のあの部屋は東京ドームの四分の一はあった)部屋に着いた。
左右に兵士のような人間が並んでいる。ふと、少年は前に見た海軍の映画を思い出した。
もっとも、顔はその映画の住人のように汚れてはいなかったが……。
並んだ兵士をどう壊すか、眺めながら考えていたら急に少年は呼ばれた。
声のしたほうを見ると、大きな玉座に座った少女が居た。
ピンクの髪に、青年をここへ案内した女性と同じ瞳の色。
服は赤と黒のゴスロリのような服が、いやにこの部屋と合っていないように感じた。
「貴方が、私たちの救世主ですね。私の名前は『ローズマリー=ゼラニューマロウ』、この国で王をやっています。貴方の名は……?」
少年は考えた。ここで自分の本名、日下部哲也という名はあまりに可笑しい。異世界に溶け込むのなら、異世界に相応しい偽名を名乗るべきだ。
よってなにかいい名前がないか考えた。
数十秒後、考えに考え抜いた末……
「俺の名は、そうだな。フォロリス=スターコーストだ」
「……? まあ、いいでしょう。アカマイ、この方を部屋へご案内してあげなさい」
ローズマリーと名乗る少女は青年、フォロリスのしばしの沈黙に疑問を持ったが、一先ずは休ませてやるばきだろうと判断し。フォロリスの隣に居た女性、アカマイに命令した。
「了解しましたー。では、私に着いてきてくださーい」
何故かテンション高めに言いながら、アカマイはフォロリスの後ろへ走っていった。
アカマイを追いかけるかのようにフォロリスは、アカマイの方へゆっくりと歩いて行く。
道中、エレベーターの部屋を通過し、数分ぐらい歩いたあと、大きな黒い廊下があり、その一つの扉の前に着いた。
アカマイは扉を開けた。するとそこは、2LDKはありそうな、男だらけの部屋だった。
「……あのさ、屋根裏でいいから一人部屋じゃ駄目か?」
「屋根裏は、あー、いいですよ。でも、あの部屋に置いてある石は触らないように……ね」
フォロリスは何故かと思ったが、必要と思えなさそうなので聞かなかった。
もっとも、それが後に彼が呼ばれた理由になろうとは、この時フォロリスは思っていなかったのだった。
「では明日から、貴方は第四十四独立前線部隊で、頑張ってくださーい」
「……まず、説明頼む。俺が呼ばれた、というより召喚された理由をよ」
アカマイは頭をかきながら、
「あー、説明は苦手なんですけどねー。
まあいいでしょう」
人差し指を立たせながら、若干止まり止まりになりながら説明した。
「まず、貴方には別国を侵略してもらうため、呼ばれました。
で、別国を侵略する目的は、これから宿泊する屋根裏にある石、“魔鉱脈”を出来るだけ集める事です。
“魔鉱脈”は、この国で生活するに欠かせない“魔石”が採れる鉱脈の事です。“魔石”とは、例えば・・・天井にあるあれとかは光を封じた“魔石”です。
ようするに、貴方の世界の電気・水道・ガスみたいな物ですね。まあ、“魔石”さえあれば地獄でも使えるという利点はありますけどね。
他に質問は?」
「まず、侵略する際町・村を破壊するのは?」
「勿論、破壊しちゃって結構です」
「住人は?」
「“魔石”に血が付かないようになら、好きなだけ」
「了解。では早速、屋根裏部屋に連れて行ってもらおう」
それを聞くと、アカマイはフォロリスを屋根裏へ案内するため、部屋を出た。
靴の音が人気のない、薄暗い廊下に響き渡る。
「あ、どうせですから、独立部隊の説明しましょう」
アカマイが体をフォロリスの方に寄せながら、『説明をさせてください』といった意志を目に宿しフォロリスを見つめる。
「いや、もう時間が時間だし……」
「ま、まあ別にいいじゃないですか。男の子は少々夜更かしをするものですよ」
アカマイはそれを紛らわせるためか、フォロリスに第四十四独立前線部隊の説明を始める。
今居る廊下の雰囲気を紛らわせるためだった。
「さて、まずこの国の軍事力から説明せねばなりませんね。
第四十四独立前線部隊とは、第二十二前線部隊~第四十四前線部隊を纏めた、いわゆる切り込み役です。
ちなみに正式名称は“第二十二~四十四独立法外前線殲滅兵士部隊”です。
で、この“独立”の意味なんですけど、この軍はいわゆる任意、つまり殺りたい時に殺り、行きたくないなら行かないというのですね。
要するに雇われた人たちです。なのでこの国にある部隊とは番号がかなり離れているのですよ。新しく作ったら、色々と揉め事が起こったりしますからね。
あ、先ほど案内した部屋は第十四部隊です。第十~十七部隊は、まあ正式名称を知ればすぐにわかります。
第十四~十七部隊の正式名称は、“国内王家護衛騎士部隊”の事です。まあ要するに貴方とは全然違う人種ですね。
第十四~十七部隊の特徴は、ほぼ潔癖症の方々が多いというところです。まあ剣術は中々なのですけどね。
あと、第十八~二十一部隊は、正式名称“第十八~二十一中衛補給部隊”です。
まあこれは補充、要するに食料と武器を届ける人ですね。それだけです」
フォロリスは、殆ど話を聞いていなかった。
いや、聞き流していたと言ったほうがいいのかもしれない。
「んじゃ、おやすみ」
「あ、はい。おやすみなさーい。……あの、帰るとき着いてきてくれないですか?」
フォロリスは、渋々送っていくことにした。
送り届ける道中、少しばかり怖い話をしてアカマイを涙目にし、部屋の中に入ってから『おばけなんて居ないおばけなんて居ない』とうわ言のように言っていたのを、フォロリスは若干不気味に感じた。
誤字誤植などがありましたら、ご指摘お願いいたします。
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