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「ミツル!」



校門前でヒロに呼び止められた。



「おー、おはよ」


「おはよ!あのさー、来週のテストまでミツルんち通ってもいい?」



話しながら校舎へ向かう。



「.....また?」


「いや昨日さ、一人でちょっと勉強してみたんだけど、まじさっぱりわかんねー。一人じゃ無理ってことに気づいた!」


「お前いつもじゃねーかよ。たまには一人で勉強させろっての。おれだって余裕って訳じゃないんだかんな」


「まあいーじゃん。お礼はするって!」


「そのお礼があった試しがねーんだよなー」



服装や髪についての規程が厳しいうちの学校で

ヒロはかなりの存在感をもったやつだった。

もう金に近い髪の毛と、最近ではまだ五月半ばだというのに、急に肌の色が黒くなりだし

周囲から気味悪がられている。

こうして一緒にいる今、おれも感じる程教師や生徒からの視線が痛々しい。


うちの学年で一番目立っているであろう(彼女達もおそらく目立つことを望んでる)

女子グループなんかからは


「もうガン黒の時代はとっくに終わったのにね〜」


みたいな陰口を叩かれ笑われている。

まぁ当の本人はまったく気にも留めていないみたいだが。

まったくすごい精神力だなと感心させられる。

いや、そもそも気がついていないのかもしれない(それのほうがすごいが)


幼なじみという縁がなかったとして

ヒロとこの高校で初めて出会っていたとしたなら

まず口の一つも聞かなかったであろうことは間違いない。

自分とはまったく関係のない、これから関わることも一切ないだろう

「異人種」として存在を捕らえていたに違いない。


まあ、おれとしてはヒロの憎めない性格も

こっちを巻き込んでくるようなペースも嫌いじゃない。

何よりも長い年月を一緒に過ごしてきた分、気を使わなくていいし

わかりやすく月並みに言えば「空気みたいな存在」といったところだろうか。

空気にしては少しやかましい気もするが。


まとめれば、おそらくおれの中で友達と呼べるに一番ふさわしい存在だろう。

人と話すことがあまり得意じゃないおれにとって

8クラスもある中、ヒロと一緒のクラスになれたということは正直なかなかの幸運だった。



クラス毎に分けられているロッカータイプの下駄箱の鍵を開け、靴を上履きに履き替える。



「あーじゃあ今日学校帰り直接ミツルんち行くわー」


「はいよ」



下駄箱からすぐの階段を上り三階へ。

一階は職員室や各教科の教室、各部活の部室。

一年は二階、二年は三階、三年は向かいに建つ別校舎というわけだ。



H、Gと通り過ぎ2-Fの教室に入る。


教壇から見て右斜め奥の席についてほどなくすると

八時半を示すチャイムが鳴った。

担任の、通称「竹さん」

竹村が今日はなんだか趣味の悪そうな黄土色っぽいサバンナみたいなネクタイを締め

見慣れたグレーのスーツを着て、小走りで教壇側の入り口から入ってきた。


ホームルームが始まる。


竹村がクラスの名簿を見ながら名前を読み上げていく。



「えさかなほ、おぬまだいき、おざわかなこ.....こうだひろき」


「はーい!!」



ヒロの隣の席である、あの女子グループの一人が迷惑そうな顔をする。

毎日のことだが笑える。



「......................まえはらみつる」



おれは都内私立高校に通う、ごく平凡かつ、ごく一般的な16歳の男子高校生だ。

何か人よりずば抜けた特技があるわけでもなければ

ルックスが特別いいわけでもない。

かといって特別悪いわけでもない。

俗に裏原系と呼ばれるファッション雑誌を月に一回は買っているし

それに伴って洋服を買うのは結構好きだったりもする。


髪型はナチュラルなミディアム。

駅前の美容院でやってもらっている。短くも長くもない。

髪の毛は自分で脱色して茶色い。少しだけ。

学校へ来る前は、朝起きて、自宅でシャワーを浴びた後

ヘアワックスを使ってセットしている。


初めて彼女ができたのは中学を卒業した時。

相手は中学の同級生で、女子としては割と仲のよかった真理。

当時まぁまぁかわいいとおれは思っていた。

毎日学校で顔を合わせていた分

お互い別々の高校に入ることで、離れてしまう寂しさもあったのだろう

メールのやりとりをしていて、自然な流れで付き合うことになった。


付き合って約一ヶ月後、初体験も済ませた。

それを境に、週に二回は真理が学校帰り家に遊びに来て

働きに出ている母親が帰ってくることにビクつきながら、した。


しかし離れてしまう寂しさだけから付き合ったためか

お互い、高校という新しい環境の出会いや付き合いにどうしても興味がいき

気持ちは冷め始め、夏休みを目前にし

どちらからともなく関係は終わった。


おれには変な焦燥感が残った。


それから彼女ができたことはない。



もちろん部活動はしていない。

アルバイトは週に二回、近所のコンビニで。


おそらく、日本の男子高校生全員のデータをとったなら

その平均的位置に属するのがおれみたいなタイプだろう。


よく言えば平均的。悪く言えば中途半端。

まぁ普通が一番だろう。


成績もこの高校では中の中。

ここらへんではなかなかのレベルの学校とは言っても

ヒロのような生徒もいるくらいだ。大したことないようにも思える。



「はい」



「.....えー、来週から二年になって初めての中間考査だ。まーおまえ達のことだから心配はいらないと思うが、各自それまで気を抜かないように。以上。あー、あと今日の一時間目は体育だったよな?移動遅れないように。以上。」



最後にヒロをじろりと睨み、竹村は教室を出て行った。

いつものことだった。


一時間目から体育。

しかもマラソン。気が重かった。


竹村に睨まれたヒロは、それを気にする様子もなく

各自が立ち上がり、用意を始める中、頬杖をつきケータイをいじり始めていた。

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