ヴァンデッサの盾 第4話
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「ガイウス、ザリエル。
防御陣」
「はっ」
「はっ」
二人の従騎士が、シェルクエルの前に立つ。
盾を構えて並ぶその姿は、まさしくあるじを守る防御陣である。
シェルクエルは、特殊インベントリを開いた。
名家の当主にふさわしく、大規模で優美な操作画面である。
そこからシェルクエルが取り出したものは、全身の装備品であった。
ここまでのシェルクエルは、軽装といってよい。
首なし蜘蛛の糸を編み込んだ鎖帷子。
涼しげな陣羽織。
皮のベルトとブーツ。
細いが肉厚の長剣。
これだけである。
帽子もマントも手袋も着けていない。
短く刈り込まれた毛髪とあごひげは燃えるように赤く、白地に青い文様を染めた陣羽織と鮮やかなコントラストを見せている。
陣羽織と長剣は、インベントリに格納された。
代わりに身に着けたものは、全身を覆う金属鎧と剣とタワーシールドである。
全身鎧は、竜まるまる一体の鱗を溶かし込んで作られたといわれる品で、〈狂王の柩〉という銘を持つ。
物理攻撃にも魔法攻撃にも絶大な防御力を持つが、大量の金属の塊であるわりには軽く、また動きを妨げない。
精妙な構造は、あまたの模造品を生んだ。
剣は、短く、厚みと幅がある。
〈断頭の石斧〉と呼ばれる品である。
刃は上質の聖硬銀であり、粘りのある超重鋼で包んである。
聖銀の鎧すら貫く切れ味と刃筋の強さを持つ。
切れ味だけの剣では、モンスターの強靱な表皮や骨に、刃筋をそらされてしまうのである。
盾は〈ヴァンデッサの盾〉である。
タワーシールドといえば全身を守れるほどの大型の盾であるが、このタワーシールドの大きさは異常である。
人並み以上の身長を持つシェルクエルが、この盾を地に置けば首までが覆われる。
これらはいずれも、恩寵品ではない。
名工によって生み出された、人間の知恵と技術の精華である。
こしらえや文様の一つ一つに、その歴史と誇りが刻み込まれている。
恩寵品ではないから、ステータス向上などの特殊効果はないが、高位神官の祈念が込められており、聖属性を持つ。
いずれも、製法は失われ、現代では製作不可能な逸品である。
特にタワーシールドは、かつて魔工匠として名を馳せたヴァンデッサ一族にあって〈大ヴァンデッサ〉と呼ばれる名工、アルキエル・ヴァンデッサの傑作であり、親交のあった当時のケルガノス家当主のためにあつらえられたものである。
アルキエルが手がけた盾はみな〈ヴァンデッサの盾〉と呼ばれるが、数少ない真作の中でも、この盾は、盾が盾たる本質を追求しきった究極の盾といわれ、〈ザ・ウォール〉あるいは〈トゥルー・シールド〉などと呼ばれることもある。
大きすぎ、厚すぎ、重すぎて、常人には持ち上げることも困難なこの盾を、ケルガノスの当主たちは自在に操り、モンスターを屠ってきた。
ボス部屋を離れて迷宮を徘徊する、この奇妙なモンスターの眼前で、悠然と着替えをしながら、
ふむ。
なるほど、これは、そこらのモンスターとは違うようだ。
と、シェルクエル・ケルガノスは値踏みしていた。
五人の人間を目の前にして、襲い掛かるでもなく、逃げるでもない。
武器らしい物を持った右手をだらんと下げ、立ち止まって、シェルクエルをじっと見つめている。
その瞳に、シェルクエルは知性に近いものを感じた。
「ボルケノーウェン殿。
かの品の反応は、どうか」
「はい、伯爵様。
確かに、このミノタウロスが所持いたしております。
先ほども申しましたように、明らかに特殊インベントリの中に格納されている反応でございます」
やっぱりそうだったのか、とラジルは思った。
これで、死んだ冒険者たちの装備品がいくつも行方不明になっているわけが分かった。
特殊インベントリを使えるモンスター。
これは、ギルドに売れる情報だ。
そこまで考えてから、このミノタウロスは今から殺されてしまい、すぐに役立たずの情報になることに気が付いた。
「そうか。
ガイウス、ザリエル、ご苦労。
下がれ」
「はっ」
「はっ」
「戦闘に手出しはするな。
ラジル殿とボルケノーウェン殿を守り、約束の時間に六十階層の待ち合わせ場所にお連れせよ。
約束の時間まであまりない。
戦闘が長引くようなら、途中で行け」
「はっ」
「はっ」
従騎士二人が左右に分かれ、そのあいだをシェルクエルが進み出た。
従騎士二人は後ろに下がる。
「ミノタウロスよ。
……ふむ。
言葉は分からんか。
わしは、シェルクエルという。
お前の死神だ。
ウオオリィィィィィィィィィィィィ!!」
突然、シェルクエルが大声を上げる。
「ゲラッ! ゲラッ! ゲラッ!」
シェルクエルの吠え声に、二人の従騎士が唱和する。
「ゲラッ! ゲラッ! ゲラッ!」
「ゲラッ! ゲラッ! ゲラッ!」
ケルガノスの一族に受け継がれる闘いの叫びである。
味方の戦意を高め、敵を威圧する。
目の前の相手を必ず殺すという祈誓でもある。
静かだったシェルクエルの周りの空気が、熱風にあおられるかのように沸き返った。
すさまじい闘気がミノタウロスに押し寄せる。
ミノタウロスは、ケルガノスの雄叫びに呼応するかのように、大きく息を吸い、〈ハウリング〉を発した。
ブオォォォォォォォォォォーーーーーーーー!!
シェルクエルは、ミノタウロスが息を吸うのをあえて邪魔せず、ハウリングを身に受けた。
広いボス部屋のすべての空気が、びりびりと震える。
シェルクエルは、全身に振動を感じた。
脳みそが揺さぶられ、視界がかすむ。
が、体力も削られていないし、相手を恐ろしいと思う気持ちも浮かんではいない。
この武人は、おのれの力だけで、ハウリングへの抵抗を成功させたのである。
入口近くで見守るラジルは、準備していた黄と赤のポーションで、体力と精神の平静を取り戻した。
だが、ポーションが効果を現すまでの時間に味わった状態異常は、かつてミノタウロスと闘ったときのそれとは、まるで比較にならないものであった。
目の前にいるミノタウロスは、自分たちの知っているミノタウロスではない。
何か別のもっと恐ろしいものだ、と思った。
だが今の桁外れのハウリングを、シェルクエルも二人の従騎士も、ポーションを使わず耐えきった。
これから始まる激闘を思い、ラジルはごくりと唾を飲み込んだ。
ミノタウロスは、死炎樹の枯れ根をインベントリに収め、バスターソードに持ち替えた。
ダッシュして、シェルクエルに襲い掛かる。
すばらしいスピードである。
一呼吸遅れて、シェルクエルも前に出る。
ミノタウロスが、振りかぶった長剣をたたきつけてくる。
大人四人分の体重と加速を乗せた打撃である。
これをヴァンデッサの盾が迎える。
金属の大質量同士が激突する轟音が、ボス部屋に響きわたった。
ミノタウロスは、驚愕した。
おのれの一撃を防がれたこと自体にではない。
いかに強固な防御を持つ者も、ミノタウロスの渾身の一撃を受ければ、少しは後ずさるはずである。
ところが、この敵は、剣を受け止めて寸毫も揺るがない。
このとき、シェルクエルは、おのれの腕力でミノタウロスの豪撃を止めたのではない。
盾の下端は地に据え、上端は少し引いて、いわば大地に威力を吸収させる形でミノタウロスの剣を受けたのである。
強攻撃に対し最高の防御力を持つ、〈城〉という型である。
初撃をあしらわれ、ミノタウロスは怒った。
素早く息を吸い込み、怒濤の連撃を浴びせる。
大上段から、右上から、左上から、一撃一撃微妙に角度を変えながら。
撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ。
膂力に物を言わせた圧倒的な破壊力がシェルクエルに襲い掛かる。
絶え間なく轟音が響き、火花が飛び散る。
息もつかせぬ攻撃の嵐である。
一撃一撃が、聞く者の魂を削り取るような恐ろしい激突音を発している。
しかし、シェルクエルは、少しも慌てることなく、盾で攻撃をさばきつづける。
微妙に角度を変え、最適な防御体勢を維持しながら。
と、それまで上方から下方にたたきつける攻撃だけを行っていたミノタウロスが、剣を右横に引き、右真横から斬撃を放った。
シェルクエルは、盾を左に倒す。
左の下端だけを接地させ、すっと左膝を盾に添え、ミノタウロスの攻撃を受ける。
打撃点を狂わされて、ミノタウロスの剣は外側に流れる。
シェルクエルは、そのまま盾を左に回転させて攻撃の威力を受け流しつつ、回転力を利用して右手に持った断頭の石斧を突き出した。
〈風車〉の型である。
断頭の石斧が、ミノタウロスの左脇腹に深々と突き刺さる。
ミノタウロスは、顔をしかめて後ろに飛びすさった。
傷は内臓に届いている。
流れ出る血の量は少なくない。
ミノタウロスは、左横に剣を引き、左真横から斬撃を放った。
シェルクエルは、盾を右に倒し、右に回転させて斬撃を受けた。
いつの間に持ち替えたのか、シェルクエルの左手に断頭の石斧が握られている。
突き出された石斧は、ミノタウロスの右脇腹に突き刺さった。
石斧をにぎるシェルクエルの左手が引き戻される直前、ミノタウロスはとっさに左手でつかむ。
ぐい、とヴァンデッサの盾が突き出され、ミノタウロスの左腕を打つ。
ミノタウロスの左腕は、おのれの胸板と盾に挟まれ、肉は傷つき骨はきしんだ。
ミノタウロスはそれでも敵の左手をつかんだまま、バスターソードをシェルクエルの頭上に振り下ろしたが、シェルクエルはひょいと頭を下げ、剣は盾の上端に当たった。
ここまでの攻防で、ミノタウロスは、両脇腹に深い傷を受け、左手は傷ついた。
対してシェルクエルは、かすり傷一つ受けていない。
ミノタウロスとシェルクエルは、生物としての強さは、ほぼ近いといってよい。
ということは、この対決は圧倒的にシェルクエルが有利である。
なぜなら、シェルクエルには名品の剣と鎧と盾があり、それを使いこなす技術も練り上げられているのに対して、ミノタウロスは剣以外丸裸同然であり、使いこなしも達人の域には遠いからである。
ミノタウロスの左手は、まだシェルクエルの左手を放していない。
そのため、シェルクエルは後ろには逃げられない。
ミノタウロスは、長大なリーチを用い、盾を回り込むように、右から剣の突きを繰り出した。
剣先は、シェルクエルの鎧の肩に当たってむなしくはじかれた。
ミノタウロスの攻撃とほぼ同時に、シェルクエルは、盾ごと全身で突進した。
このカウンターぎみの突進で、ミノタウロスの巨体は大きくはじき飛ばされた。
シェルクエルは追撃せず、じっとミノタウロスを見つめた。
シェルクエルは、失望していた。
これは違う、と感じていた。
なるほど、このミノタウロスは、非常に高い打撃力を持っている。
あの大きく重そうなバスターソードを片手で振り回す筋力は恐るべきものだ。
スピードもある。
反射神経も悪くない。
あふれ出るような闘志も持っている。
だが、それだけである。
体の大きさと筋力が強さを決めるなら、人は決してトロールやオーガにかなわないであろう。
しかし実際には、すぐれた戦士は、トロールにもオーガにも負けはしない。
技と装備と戦術は、生物としては脆弱な人間を、地上の強者たらしめるのである。
この程度のモンスターに、パーシヴァル殿が後れを取ることはあり得ない。
それがシェルクエルの結論であった。
そう思うと同時に、ミノタウロスとの闘いに興味を失った。
左手の石斧を右手に持ち替えながら、
ガイウスとザリエルに倒させて、経験を積ませてやるか、
と考えた。
そのとき、ミノタウロスが妙なことをした。
左手を左肩の上に差し入れ、特殊インベントリから赤ポーションを何本かつかみ出すと、ふたを開けもせず口に放り込んで、ばりばりと噛み砕いて飲んだのである。
見る見る体の傷が修復されていく。
モンスターがポーションを服用し、しかも効果が現れるという、世にも奇妙な光景に、シェルクエルも後ろの四人も、しばし見入った。
これは本当にモンスターか?
もしや、呪いによってモンスターの姿に変えられた人間では?
という思いが、五人の脳裏をよぎった。
その虚を突くかのように、ミノタウロスが突然突進した。
バスターソードを両手で高々と振り上げて。
この強攻撃には、きちんとした型で応じなければならない。
シェルクエルは、盾をしかるべき角度に倒し、その後ろに身を隠した。
だが、来るべき攻撃が、来ない。
ミノタウロスは、バスターソードをインベントリに収納し、代わりに何かを取りだして、盾の上から投げ入れた。
それは、シェルクエルの頭に、膝に、地に当たって爆発する。
炸裂弾か!
だが、この程度では、わが鎧の防御は抜けんぞ。
閃光と煙の中、盾の向こうで攻撃の気配がする。
シェルクエルは、正しくその気配に対して防御の体勢を取った。
だが、今度も強攻撃はこなかった。
代わりに、盾の上部に、奇怪な形をした剣が引っ掛けられた。
マンティスの鎌剣である。
折れ曲がった先端部が、しっかりと盾をつかんでいる。
しまった!
とシェルクエルが思ったときには、もう遅かった。
ミノタウロスが筋力に物を言わせて盾を引っ張る。
これには、いかにシェルクエルといえども、あらがえない。
筋力だけでいうなら、ミノタウロスは人間の及びもつかない存在である。
しかも、このときシェルクエルは左手だけで盾を把持しているが、ミノタウロスは両手で鎌剣を握っている。
盾が吹き飛ばされた。
そこにミノタウロスの右手に握られた鎌剣が横から切り込んでくる。
シェルクエルは、右手の石斧で受けたが、この攻撃は、おとりであった。
ミノタウロスの左の拳が、うなりを上げて迫り、狂王の柩の右腹部をとらえた。
重量級の装備をまとうシェルクエルの大柄な体が、激しく揺れる。
これほどの打撃を受けても、鎧にわずかなへこみもつかない。
しかし、中の人間はまったく無傷とはいかない。
上からたたきつけるような打撃であったため、吹き飛ばされなかったぶん、衝撃は鎧の中に向かった。
鎧の中でたたきつけられたシェルクエルは、思わず片膝を突いた。
その上から覆いかぶせるように、ミノタウロスが頭突きをする。
両の角は鎧の頭部に当たって滑るが、勢いは止まらず、ミノタウロスの額と鎧の頭部が激しくぶつかり合う。
シェルクエルは半ば意識を飛ばされつつ、それでも、右手に握った断頭の石斧を、ぐいと突き出す。
石斧の切っ先がミノタウロスの心臓に向かう。
剛毛に覆われた胸板に刃が届く直前、ミノタウロスは、左手でシェルクエルの右手首をつかんで、ぐいとねじり上げた。
そして、鎌剣を手放した右手をシェルクエルの後頭部に当ててぐいと引き寄せると、大きく口を開けて、シェルクエルの顔面にかじりついた。
狂王の柩の頭部、すなわち兜には、視界確保のために細長い穴が二つ開いている。
また、呼吸を助けるため、口の辺りには小さな丸い穴がいくつもある。
シェルクエルの視界はミノタウロスの口腔で埋められ、魔獣の生臭い息が鼻を突く。
シェルクエルは、左の拳をミノタウロスの右脇腹にたたきつけるが、厚い筋肉の壁が鎧のごとく怪物を守った。
化け物め。
このヘルムを噛みつぶす気か?
面白い。
噛みたいだけ噛んで、身の程を思い知るがいい。
と、シェルクエルが考えたとき、ミノタウロスは大きく息を吸った。
ヘルムの中の空気も吸い取られていく。
性懲りもなくハウリングをする気か、学習することを知らないけだものだな、とシェルクエルは考え、ハウリングに抵抗すべく身構えた。
しかし、ミノタウロスが放ったのは、ハウリングではなかった。
ミノタウロスは、両の顎にシェルクエルの顔面を挟み込んだまま、〈焼け付く息〉を吹き付けたのである。
視界確保の隙間と、呼吸のための隙間から、高熱の息がシェルクエルの顔面に降りかかる。
ヘルムの防御効果により熱気の大半は無効化されたが、ヘルムの内部に入り込んだ高熱のブレスは、シェルクエルの顔面を焼けただれさせ、視力を奪った。
いかん!
油断が思わぬ危機を呼び寄せたことをシェルクエルは悟り、二人の従騎士を参戦させることにした。
もともと、モンスター退治などというものは、一人でするものではない。
集団で戦うときにこそ、ケルガノスの戦法は最高の威力を発揮するのである。
二人に命じようとして開きかけた口に、焼け付く息の最後の一吹きが飛び込んだ。
熱風が喉の内部を蹂躙し、発声器官に重大な損傷を与えたのであろう。
声を発することができない。
恩寵職が冒険者であったなら、特殊インベントリの種類は〈ザック〉であるから、簡単にポーションを取り出すこともできるが、騎士の持つインベントリは〈ルーム〉であって、操作画面を開き操作するには、それなりの時間と何より視力が必要である。
シェルクエルは、おのれが窮地にあることを知った。
二人の従騎士にとり、シェルクエルの命令は絶対である。
戦闘に手を出すなと命じた以上、二人がミノタウロスを攻撃することはない。
たとえシェルクエルがミノタウロスに殺されたとしても。
ミノタウロスは、右手でシェルクエルの右手首をつかんだまま、左手をシェルクエルの股のあいだに差し入れた。
全身鎧をまとう重量をものともせずに、高々と頭上に差し上げ、地にたたき付ける。
軽い脳震盪を起こしながらも、シェルクエルは何とか意識を保つことに成功した。
急いで起き上がろうとするシェルクエルの頭部を、とてつもない衝撃が襲った。
ミノタウロスは、ヴァンデッサの盾を拾い上げ、大きく振りかぶってシェルクエルにたたきつけたのである。
仰向けに地に倒れ伏すシェルクエル。
ミノタウロスは、ヴァンデッサの盾の左右を両の手でがっしりとつかみ、盾の底辺をシェルクエルの顔面に振り下ろした。
この盾は、極めて重く硬い。
その盾がミノタウロスの膂力と落下による加速を得て生まれた破壊力が、底辺のわずかな面積に凝縮されたのである。
この打撃は、シェルクエルの頭部に甚大な損傷を与え、意識を完全に刈り取った。
ミノタウロスの攻撃は止まらない。
二度、三度、四度、五度、六度、七度。
立て続けに、盾の底辺で、シェルクエルの顔面を強打する。
驚くべきことに、これほどの衝撃を立て続けに浴びせられてなお、ヘルムはわずかにゆがんだにすぎない。
しかし、狂王の柩それ自体はいかに強靱であろうと、接合部分はそうではない。
七度の打撃を浴びて、ヘルムが浮き上がり、胴体部分とのあいだに隙間が生じた。
ヘルムを胴体に固定する留め具が緩んだのであろう。
狂王の柩に守られていた鎖帷子の一部が露出した。
その鎖帷子の下にあるものは、シェルクエルの喉首である。
ミノタウロスの持つ盾が、ひときわ高く振り上げられ、シェルクエルの喉に振り下ろされた。
今までの、金属と金属がぶつかる音ではなく、金属と岩がぶつかる音が響いた。
シェルクエルの首は、胴体を離れて飛び、がらんがらんと音をさせながら転がってゆき、三十歩ほどの距離を転がって、ようやく止まった。
静寂が、ボス部屋を支配した。




