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迷宮の王  作者: 支援BIS
第2部 ザーラ
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 挿話3



 


 ヒュドラが空中にいるあいだに、ミノタウロスは、攻撃力増加、攻撃速度増加のスキルを発動させる。

 そして、立ち位置を調整すると、ヒュドラの巨体が着地する寸前、左前足を内から外に向かって切り飛ばしつつ、跳躍した。


 どすうううんんんんんんんんんんんんんっっっ


 地震が生じる。

 ヒュドラは、横向きに倒れていた。

 巨体が着地する瞬間に左足を失ったので、バランスを崩したのである。

 ミノタウロスは、着地し、まだ余震の残る岩の床を駆けて、ヒュドラに近寄ると、暗褐色の腹部を、すっと切り裂いた。

 ヒュドラは、バジリスクと違い、腹部も極めて硬いが、実は比較的刃物が入りやすい部位が何か所かある。

 ミノタウロスの剣は、その、ごく狭い部位を正確にとらえたのである。

 そして、ミノタウロスは、右手を切れ目に差し込むと、心臓を引きずり出して、


 食べた。


 首と三肢をばたばたさせて起き上がろうとしていたヒュドラは、たちまち死んだ。

 ヒュドラの心臓は、不死性のよりどころであり、たとえ体から切り離しても、生命を失わない。

 取り出した心臓を切り裂いても、傷はすぐに修復される。

 心臓を取り出された本体も、それだけでは死なない。

 まして、体の中にあるとき、その心臓を攻撃するのは、無駄でしかない。

 と、人間たちは理解していた。


 ところが、実は、傷つけるのでなく、心臓を丸ごと、ばくばくと食べてしまえば、ヒュドラは死ぬのである。

 だから、はるかな昔、竜族や巨人族がヒュドラと闘ったときには、心臓を食べることによって倒すことが、普通に行われていた。

 しかし、今の人間に、このことは知られておらず、ミノタウロスにしても、誰かに教えてもらったわけではない。

 ただ、ヒュドラの心臓に、何ともいえない力強いものを感じて、


 食べてみたい、


 と思って、実際にやってみたところ、ヒュドラが死んだ。

 その経験から、この方法を知ったのである。


 ヒュドラが死んだあと、そこには赤黒い、子どもの握りこぶしほどの肉が残った。

 ミノタウロスは、それを拾い上げ、インベントリに入れた。


 不死の肉


 と呼ばれる貴重アイテムである。

 地上では、これを用いて、強力な薬を作ることができる。

 死にかけた病人でも元気になり、老人は若返るという。

 効果は永続的ではないが、それでも、金を持つ老人には、絶大な人気がある。

 また、回春と精力増強の薬の原料ともなるため、後宮に売って、大金や人脈をつかむこともできる。

 だが、これを得た冒険者は、よほど金に困っているのでなければ、売ることはない。

 なぜなら、不死の肉は、迷宮内で服用すれば、一定時間、損耗した体の部位を瞬間的に修復する効果があり、致命的なダメージからさえ、命を守ってくれるからである。

 冒険者たちは、それを、不死効果、と呼んでいる。

 不死効果は、ほんの数呼吸のあいだしか続かず、あまり大きなダメージを受ければ、ただちに効果が停止するが、しかしこれは、最下層で闘う冒険者たちにとっては、最後の切り札となる。


 ミノタウロスは、石室を出た。

 気分は晴れなかった。

 やはり、こんなものをいくら倒しても、どうにもならない。

 こんな闘いに、喜びはない。


 こんな敵に比べたら、メタルドラゴンのほうが、ずっとましだった。

 ヒュドラより一回り大きい体躯。

 三つの首は、それぞれ二本の角で風や水を操り、衝撃波、高熱、超低温のブレスを吐く。

 青い燐光を放つ半透明の翼を広げて、広大なボス部屋を飛び回り、三本の尾から雷を落とす。

 鱗の硬さは、ヒュドラをしのぎ、魔法攻撃にも物理攻撃にも、桁外れの抵抗を持っていた。

 そのうえ、高い知性を持っており、こちらの行動の裏をかいてきた。

 初めは、どうやって倒したものか、見当もつかない敵であった。

 だが、あのメタルドラゴンでさえ、今闘えば、物足りなく感じるであろう。


 強い敵を俺に与えてくれ。

 俺を苦しめる、強い敵を。

 あの人間に勝てる力を、俺にくれる、本当に強い敵を。


 ミノタウロスの全身が、そう叫んでいた。

 よい闘いへの飢えは、煮えたぎる濁流となって身の内で膨れ上がり、体中の毛穴から吹き出しそうであった。


 このときのミノタウロスは、まだ知らなかった。

 自分の願いが、とうにかなえられていることを。






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