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迷宮の王  作者: 支援BIS
第2部 ザーラ
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 挿話2

 





 ミノタウロスは、幅広の長剣を右手に持ち、久しぶりに百階層のボス部屋から出た。

 すぐに、バジリスクが襲ってきた。


 バジリスクは、巨大な蛇である。

 身をよじらせながら、高速で回廊を周回している。

 菱形の頭部は、恐るべき重量を持ち、かつ強靱であり、巨人の振るハンマーのようである。

 頭頂には、とさか、あるいは背びれのようなものが突き出ており、長い胴体の半ばすぎまで続いている。

 アンバランスなほどに大きな口には、鋭い歯がびっしり生え、岩をも噛み砕く。


 最も恐るべきは、舌である。

 獲物に伸びるその舌は、稲光のように枝分かれしながら、はるか遠方の標的をもとらえる。

 ひとたび、その舌に触れたなら、石にされてしまう。

 迷宮内で石化すれば、死ぬしかない。

 さらに、バジリスクの通ったあとには、しばらく、ぬるぬるとした体液が残る。

 これは猛毒であり、全ステータスを急激に低下させ、持続的に生命力を奪う。


 サザードン迷宮百階層は、同心円をつないで配置された回廊と、いくつもの石室から成る。

 中央に上層からの階段があり、ボス部屋は、一番外側の回廊に接している。

 外側の回廊ほど、バジリスクは高速で周回しており、バジリスクそのものの数も多い。


 かといって、バジリスクを避けて石室に入れば、多くの場合、さらに凶悪なモンスターが待ち受けているのであるから、昔、最初にたどり着いた人間たちは、ここは地獄そのものであると報告した。


 さて、ミノタウロスは、伸びてきた舌を切り飛ばすと、分析スキルと異常抵抗を高めるスキルを発動させ、飛びかかってきた大蛇の頭部を蹴り上げた。

 バジリスクの体が地面から浮かび上がりながら、ミノタウロスの横を飛んでいく。

 すかさず、分析スキルで、心臓の位置を見定める。

 バジリスクの心臓は、なぜか頭部の近くではなく、胴体の中央辺りにある。

 腹から剣を突き入れ、心臓を切り裂く。

 バジリスクの背は異様に硬いが、腹は軟らかい。

 着地したバジリスクは、すでに死んでいた。


 巨体が消えたあとに、胸当てが残る。

 バジリスクの鱗で出来ており、それ自体高い防御力を持つとともに、異常抵抗付与の効果がある。

 バジリスクのドロップする防具は、フルセットで装備すれば、魔法および物理防御が向上するとともに、異常系の攻撃は倍にして反射するという、優良なアイテムである。

 が、ミノタウロスにとっては、今さら拾う気にもなれない品であり、放置して歩き去る。


 もう一体のバジリスクに遭遇して倒したあと、ミノタウロスは石室に足を踏み入れた。

 そこには、ヒュドラがいた。

 地上で人の住む土地に出現すれば、災害級の対応を必要とする魔獣である。

 巨象のごとき胴体に、九つの首と一本の尻尾が生えている。

 全身は、超硬質の鱗で覆われ、ぐねぐねと敵をねめつける九つの首からは、猛毒のブレスを吐く。


 ヒュドラが厄介なのは、再生能力のためである。

 手や足、首など、体のどこを切り落としても、すぐに生えてくる。

 付けられた傷は、瞬く間に修復される。

 ヒュドラを倒すためには、まずは再生を阻止する必要がある。

 それには、再生を司る首を落とさねばならない。

 九本の首のうち二本が、体を再生する力を持っている。

 個体ごとに位置がランダムである、この二本の首を、ほぼ同時に切り落とすことによって、ヒュドラの再生能力は激減する。


 地上で、ヒュドラへの模範的な対策とされているのは、次のような方法である。

 まず、魔法によって足止めをし、再生を司る首二本をやはり魔法で探知し、これを同時に落とす。

 次に、残りの首を全部落とす。

 あとは、バリスタや攻城槌など、強力な物理攻撃を、生命力が枯渇するまで加え続けるのである。

 なにしろ、攻撃魔法に対しては既知のモンスターの中でも最大級の抵抗を持っているうえ、あきれるほど膨大な生命力を持つため、こうした方法以外、とどめを刺しにくいのである。


 つまるところ、人間がヒュドラに対抗できるかどうかは、足止めがうまくいくかどうかに懸かっている。

 足止めは、魔法以外の方法では難しい。

 綱や鎖は、ぎざぎざで硬質な鱗で切れてしまうし、何百人で引っ張ろうが、人間の力ではヒュドラの体重と力には対抗できない。

 落とし穴を掘るという方法も以前何度も試みられたが、いずれも無残な失敗に終わった。


 なぜなら、ヒュドラには驚異的なジャンプ力が備わっているからである。

 あんな鈍重そうな足で、なぜあれほど高く跳び上がれるか、誰にも分からない。

 翼はないが一種の飛行能力ではないか、という見方をする者もある。

 あの巨体で跳躍したあとの着地は、すさまじい破壊力を持つ。

 小規模な砦なら、一撃で粉砕される。


 今、ミノタウロスの前に立つヒュドラは、このちっぽけな侵入者に何を感じたのか、いきなりジャンプした。

 着地点は、ミノタウロスの立つ位置である。

 これが人間であれば、


 初めてこの階層に来たときには、このヒュドラに勝つにも、ひどく苦労をしたなあ、


 などと感慨を覚えたかもしれない。

 しかし、ミノタウロスのあまり大きくない脳みそを満たしているのは、久しぶりに対戦する、この、しぶとくて、やたら首の多いやつを、いかに手早く、被害を抑えて倒すか、ということだけであった。

 ミノタウロスは、人間たちが考えたこともない方法で、ヒュドラを倒そうとしている。






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