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迷宮の王  作者: 支援BIS
第2部 ザーラ
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 挿話1




 ミノタウロスは、じりじりと焼け付くようないら立たしさを感じていた。

 原因は、はっきりしている。


 あの人間は、

 俺の首をへし折り俺に打ち勝った、あの人間は、どうしたのか。


 あの人間があれ以来戻って来ない、ということが、いら立たしさの一つ目の理由である。

 ミノタウロスからすれば、あれは、すぐにも戻って来るはずの人間なのである。


 やつにふさわしい敵は、俺しかいない。

 俺にふさわしい敵は、やつしかいない。

 だから、やつは、ここに来るしかない。

 なのに、なぜ、戻って来ない。


 この待ち遠しさが、いら立ちの一つ目の原因である。

 だが、いら立ちの原因は、それだけではない。


 あの人間の闘いぶりを思い出してみる。

 いや、思い出すまでもない。

 あの闘い以来、いつもいつも、ほかの人間たちと闘っている最中でさえ、あの人間の闘いぶりは、この怪物の脳裏に繰り返し繰り返し映し出される。

 反芻されるその闘いの中で、あの人間は、いつもミノタウロスを打ち負かす。


 剣の技において。

 筋肉の力において。

 素手の武技において。

 先を読んで戦術を組み立て、相手をそこに誘導していく技術において。

 闘いへの幅広い知識と視野において。

 あの人間は、ミノタウロスを打ち負かし続ける。


 このまま、もう一度やつと闘っても、俺は勝てない。


 その思いがよぎるたびに、頭を乱暴に振り、周囲の岩や壁を殴り飛ばして、否定する。

 だが、自らの敗北の予感は、ミノタウロスの闘いへの嗅覚が鋭ければ鋭いほど、逃れられぬ運命として目の前に立ちはだかる。

 これが、いら立ちの二つ目の原因である。


 だから、いら立ちの一方で、ミノタウロスは激しく求めている。

 あの人間に勝つため、新たな闘いを積み上げることを。


 だが、同時に、ミノタウロスは知っている。

 ここには、もう、自分を苦しめることのできる敵はいない、ということを。


 あの人間が去ってから、急にたくさんの人間が来るようになった。

 だが、人数は多くても、闘いの楽しめる相手はいなかった。

 ミノタウロスを、さらなる高みに押し上げてくれる敵はいなかった。

 今は、また、来る人間の数も減った。

 たまに来るやつらも、ろくなものではない。


 だめだ。

 だめだ。

 ここでは、だめだ。

 やつと闘うために、

 よい闘いをするために、

 やつをちゃんと殺すために、

 ここではないどこかで、

 俺は新たな闘いを積み上げねばならぬ。


 だが、どうすれば、それができるのか、この怪物には見当もつかなかった。






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