変化
朝の光がミツキに降り注ぐ。
まだ、寝れるのに・・・・。何となく眠りを貪る気にもなれない。
ミツキはいつものように傍らに眠るルーンのお腹をつつく。
ルーンはまだ夢の中の様だ。
そっと起こさぬように寝台を出ると、迷わずそのままの格好で扉を開けた。
「まぁ、ミツキさま!」
「夜着のままで、何となされましたか」
やっぱり、今日もちゃんと居てくれてる。
咎めるような、呆れる声のモクレンとヒバリに軽く微笑みながら、ミツキは大きく扉を開け放った。
「お願い、出来る?モクレン、ヒバリ」
「「は・・・?」」
「今日は少し遠出をしたいから、動きやすい服にしてね」
「「姫さま・・・・」」
ちょっと見上げるような仕草で、ミツキが照れながら尋ねる。
その瞬間、驚きと喜びがモクレンやヒバリ、そして他の多くの侍女の顔に浮かんだ。
「は、はい!」
嬉しさを隠せない、とばかりにいそいそとモクレンとヒバリが部屋に入れば、ズラリと並ぶ侍女たちも後に続く。
「さぁ、姫さま!」
「まずは湯あみを」
「身体を拭き清めなければ」
「香油を早く!」
「髪に挿す花を選ばなければ」
「髪止めはエミールさまから頂いたものを」
「ドレスはどう致しましょう、モクレンさま」
「ヒバリさま、こちらの装飾品の確認を!」
口々に侍女たちが叫ぶ。それにパタパタと足音が部屋中をかけめぐる。
「ま、待ってみんな。話を聞いて」
「姫さま・・・?」
「聞いて、皆。私今まで本当にごめんなさい」
ぺこり、とミツキが皆に頭を下げる。
「興味が無いとは言え、皆に仕事をさせなかったのだもの。わがままばかりでごめんなさい。・・・・・・わがままを長い間聞いてくれて本当にありがとう」
「「「「「み、ミツキさま」」」」」
勿体ないと、ミツキの前に侍女たちも頭を下げ返す。
「だけど、だけどね、皆。私、やっぱり相変わらず興味は無いのよ。着飾る事も、美しくなろうとも思わない・・・・・」
似合わないしね、とミツキは言葉を続ける。
「それでも、王族として、自分に出来ることややらなければならないことはしようと思うの。それなら花の精のあなたたちに教えて貰いたい。優しく美しい花の精霊たち。私に力を貸して下さい」
「ミツキさま・・・・・・!」
「昨日の話は聞いたと思うの。そうでしょう?モクレン」
「・・・・・はい」
「風宮にこれからは色んな方々が来られると思うのよ。違う?ヒバリ」
「その通りでございます。昨日陛下から賜りました」
モクレン、ヒバリ以下風宮に働く侍女たちは昨日エミールから指示を受けていた。
これからミツキのお披露目を兼ねたお見合いの舞踏会は多く続くだろう。
「流石でございます、ミツキさま。慧眼感服致します」
「止めて、ヒバリ。・・・・・私は無知だわ」
悲しそうにミツキは眼を伏せ、そして声を落とした。
「昨日知ったことがたくさん有るくらいなのよ・・・・・だから考えたの」
「考えた?」
「そう、たくさん考えたのよ。かあ様なら次はどうするか。にいさまなら。モクレンやヒバリならって」
「まぁ」
「私たちまで・・・何と恐れ多い」
「それで、考えても解らないことも有るでしょ?そしたらやっと今朝思ったのよ。教えて貰うしか無いって。だから・・・・・・今更だけど・・・・宜しくお願いします」
そう言ってまたぴょこんと頭を下げるミツキは頬を赤らめながら皆を見た。
その様子にモクレンとヒバリはにっこりと微笑む。
「勿論でございます、姫さま!我ら姫さま付きの侍女一同!姫さまを年相応にすべく!」
「と、年相応?」
「美しいもの好きですとか、新しいドレスを心待ちにする乙女らしきものですとか」
「麗しの王子を心待ちにする姫ですとか」
「花を愛でられるその姿を絵姿にされますですとか」
「ちょ、ちょっと、皆、あのね」
ミツキは慌ててちょっと趣旨が違ってきたことを正そうとするが、侍女たちはもううっとりと夢見心地の表情だ。
「我ら心は1つ!」
「ちょ。」
「いざ!」
大きく腕を突き上げる光景は毎日行われていたものである。
ただ、ミツキは初めて見るその光景に眼を白黒させるしか無かった。
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ルーンはまどろんでいた。
まだ夢見なのか、はたまた夢の覚めた後なのか。
猫も夢をみる、と知ったのは猫の姿を取るようになって久しい。
「「「「ささ、こちらも」」」」
寝室の向こう、ミツキの部屋が何だか騒がしい。
モクレンとヒバリの声もする。
しかも何だかとても楽しそうだ。
背中をぐいと伸ばし四肢を立ち上げる。
ミツキも居ない。先に起きたのか・・・・・。
まだ覚めやらぬ頭。
昨日の話の名残か、今日の夢は覚えていない。
深く寝すぎたか。
ルーンはト、と寝台から降り立つとそのまま声のする部屋へ向かう。
そのルーンの前にふわりと何かが舞う。
小さな妖精、しかも背中に羽が8枚生えている。
小さいが整った顔立ちのその妖精にルーンは見覚えが有る。
『ルーン様』
『8枚羽か』
『お久しぶりですの、ルーン様』
金髪の髪を小さく纏めるのは飛びやすいからなのか。
大きな黒い瞳でルーンを見つめている。
『何の用だ、8枚羽』
『全くもう、なのですの、ルーン様。私の名前忘れたのですの?』
頬を膨らます妖精にルーンは小さく息を吐く。
『ハルヒ。何の用だ』
『覚えていて下さって光栄ですの!ルーン様、近く一度戻れ、とのお達しですの』
『・・・・・何か有ったのか』
『さぁ?なのですの。ハルヒはきちんとお伝えいたしましたですの。では失礼致しますですの、月の麗しき聖獣、ルーン様』
言い終えると、ハルヒと呼ばれた妖精はキラリと光ると刹那の後に消えた。
『こんな時に』
いつもミツキの前で出さない声音をルーンは誰も居ない部屋でボソリと呟いた。
連続失礼致します。
読んで下さる皆さまに感謝致します。ぺこり。