苦悩
R15です。
18にならないとは思いますが、その辺りを踏まえてご覧下さい。
銀色の二月が輝く頃、エミールは窓辺からその月を見上げ、長い銀の煙管からゆっくりと紫煙を吐き出す。
朝のドレスはすでに肌には無い。
今、身につけるのはその艶やかな肢体を少なく隠すシーツのみ、だった。
「エミール」
そっとそんなエミールの後ろから寄り添い、その銀の髪をかきわけ、うなじに口づけを落とす男。
赤い花びらを散らすようにエミールの身体には彼が付けた痕がさっきまでの情事を映しだす。
「――――――ん」
ゆっくりとうなじに舌を這わすその感覚に、エミールは堪らず声を出した。
「相変わらず、君は綺麗だ、エミール」
「や、」
―――――――さっきまで荒々しくエミールを抱いたその身体は今度は楽しむようにゆっくりとエミールを苛める。
「君の残り香を今日子どもたちに感じた時は驚いたよ、エミール。君の精霊を感じるなんて本当に久しいからね」
「っは・・・・・」
「久しぶりに君を抱きたくて堪らなくなってしまった・・・・。他の奴らに先を越されない様にするのが大変だったよ」
くすり、と彼の口の端が緩めば、エミールは身を捩ってその身体を両腕で押し、距離を取る。
「やめろ、もう・・・」
「子ども、出来るかな」
「出来るわけ、ないだろう」
「―――――エミール、そんなに悲しそうにしないで」
「お前の方が、悲しそうだ」
エミールが彼の頬にそっと触れる。
「サラサを、思い出すんだろう、エミール」
「・・・・・・・・・・」
「君の一番の友人――――――――あの麗しの乙女、サラサを」
遥か遠い、もう悠久の彼方。
エミールがまだ少女と呼ばれていた頃。
火の国の姫、サラサとエミールは同時期に恩恵者――――――ヒュラルの人間たちに加護を与える役目を持ってしまった。
いつも同じ野原を駆け、風と火の精霊たちと戯れていたあの頃・・・。愛する友人だったサラサ。
思わず過去を逡巡し、エミールはきつく瞼を閉じる。
その瞼の上に優しく唇が降ってくる。
「会いたい、・・・・サラサに」
「禁句だ、エミール」
「人間に恋なんて」
「サラサは幸せな人生を送ったはずだよ、エミール」
宥める様に何度もエミールに降り注ぐ唇。
その唇がエミールの唇に辿り着いた時、エミールは艶めく紅い唇を開き、彼の優しい舌を受け入れた。
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『いつまで拗ねてるのさ、ミツキ』
「だって、ルーン!にいさまったらあんな嘘を吐いてたのよ」
ルーンがどうでも良いよ、とばかりに腕を突き出し、背中を伸ばす。
『そこまで世間知らずだっとはね。そっちの方が驚きだよ』
呆れた声のルーンにミツキは何も言わず頬を膨らませる。
「だってにいさまがあんな嘘・・・・」
『アデルやユーリが言う事が全てなのか?それが真実だと思ってたのなら問題過ぎ』
「・・・・・・・・」
『ミツキ、一応君は王族なんだよ?自分の目で見て耳で聞き、そして自分の知識と組み合わせて答えをださなきゃ』
「・・・・・・・・そうね」
『君は馬鹿じゃないだろ』
不貞腐れて寝台に寝そべっていたミツキは身体を上げ、ルーンの額にキスをする。
「・・・・・・馬鹿よ」
『添い寝が必要?それとも厚い胸板で泣かせてあげようか?』
ぐい、と漆黒の毛並みに包まれた小さな胸をルーンが見せると、ミツキは眼を大きく開き、笑った。
「ルーン・・・・・かあ様は何を考えているのかしら」
『エミールの考えている事よりも、これからミツキがどうするかだ』
「どうするか?」
『アデルの嘘も解って、今からミツキは色んな男に普通に会うだけさ』
普通にって、何よ。とばかりにミツキがルーンを軽く睨む。
そのミツキの仕草にルーンがちょこんと足を並べて座る。
『変な先入観も無く、他の王族たちに会うだけさ。昔馴染みたちに、ね。楽しく考えなよ』
「・・・・・そう言えば、そうね。皆元気なのかしら」
細い指先でミツキが自分の顎に添える。
『そうそう。そのからっとしてる気質がミツキらしいよ』
ルーンは寝台にその身体を伸ばし、大きく欠伸した。
ありがとうございます。ぺこり。