戯言
母から追い出されたミツキの瞳には涙が滲む。
ぼんやりとした視界の先には焦る兄たちの姿だ。
「ミツキ・・・」
「にいさま」
何かを言おうとしてくれてるのは解る。
だが上手く言葉が紡げないのか、兄たちの焦った顔は口を半分開いたまま、身振りでミツキを労わるのみ、だ。
「にいさま」
「ん?ん?何だ、ミツキ」
こんな時のユーリはとてつもなく甘い声色になる。
いつもはがっしりとした体躯に力強い眼差しを湛え、精悍さ溢れる兄。生き生きとした生命力がキラキラと兄に降りかかっているかの様なのに。
今はオロオロと妹を見つめ、その大きな身体を小さくしている。
「にいさま、怖い」
「ああ、ミツキ」
頭を抱える。母の言葉は余りにも強烈だった。
兄たちに何の相談も無く、この愛する妹に恋人を探せと命令したのだ。
「・・・・・結婚なんて・・・・・いや・・・・」
「ミツキ・・・・」
目の前でミツキが顔を手で押さえる。
「男の人は気に入らないとすぐに暴力を振るうんでしょう?結婚は痛いものなんでしょう?」
「ん?」
ユーリの瞳がたじろぐ。
痛い?
「それに下位精霊たちをすぐに苛めるって。奴隷を何人も作るって」
「ん?ん?」
「結婚したらずっと部屋に閉じ込められて、それにずっと外に出れなくなるって」
「・・・・・・・・」
「暗闇の中で生きて行かなきゃならないなんて」
「・・・・・・・・おい、ミツキ」
ユーリの口調がほんの少し変わる。
と、ユーリの後ろ側にゆっくりと動く影。その陰の首元の服を、ユーリはグイ、と引っ張った。
「アデル・・・・」
瞳をきつく閉じ震える声でユーリは次兄を呼ぶ。
「・・・・・・・ごめん、兄上」
端正すぎる弟の顔がばつが悪そうに歪んだ。
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「珍しい。姉上、見てください」
「ん?おや、風宮からのお誘いとは・・・・・・」
紅い髪、紅蓮の瞳。
似て異なる美しい姉弟の元に風の下位精霊がふわりと何かを告げる。
そしてまた暖かい風を姉弟に残し、次の王族の元へ。
「「へぇ。風の女王陛下からだよ」」
金髪そして緑と蒼の左右対称の瞳が面白げにくるくると動く。
一言一句違わず同じ言葉を出すのは顔も同じの双子。
「「解ったよ、精霊さん。陛下に宜しく伝えて」」
「伝令御苦労」
静かに答えた声は、黒髪、紫紺の瞳。長い髪を垂らしながら精霊に鷹揚に答えるその姿に傍らにいた少女が微笑む。
「久しぶりの再会、ね。あにさま」
「皆で行くぞ。あれも呼んでおけ」
読んで頂き感謝します。ぺこり。