命令
改稿しました!
読んで頂けると幸いです。
「母上!そんな無茶な!」
「そうです、母上!僕は反対です!」
母の驚くべき言葉にユーリとアデルは思わず立ち上がり、抗議の声を上げた。
ミツキに突き付けられたその言葉は逆にユーリとアデルの胸を、突き刺したのだ。
愛しい、愛しいミツキ。
銀細工の髪、愛らしい顔立ち。この精霊国4つの王国の中でもその美しさは知れ渡っている事だろう。
王族同士の付き合いすら上手く断り続け、大人になりかけたミツキを隠して来たのに。
「ミツキはいずれ僕たちのどちらかと結婚すれば良い筈です!」
『本気かよ、アデル』
間延びした、いや、軽く小馬鹿にした声でルーンが呟く。
勿論ルーンの言葉に答えない。
だがその声にやっとミツキの硬直した身体がゆっくりと動いた。
「かあ様、私、まだ結婚なんて」
「誰もすぐしろとは言って無い。探せ、と言っただけだよ」
「で、でも、そんな」
「そうです!母上!」
「ミツキはまだまだ子どもなんですよ」
『過保護だな、ユーリ、アデル』
ルーンがゆっくり歩き、そのままミツキの足元にすり寄った。
『そんな難しく考えるなよ、ミツキ』
「ルーン、軽く言わないで」
『今すぐ結婚と言われてる訳じゃ有るまいし、ただ色んな男を見ろって話と思えば』
そんな・・・・・やっぱり軽く言ってるじゃない。
心の中で思わず非難してしまう。
母の言葉はミツキにはかなりの衝撃だった。
「実際ミツキは過保護な愚息どもに阻まれて余り公の場にも出て無いし、いわば深窓の姫君扱い」
エミールは煙管でユーリとアデルを差す。
『うんうん』
「加えてこの容姿を無駄に隠してしまう無頓着さ」
『侍女泣かせとも言うね』
「これは決定だ。いや、命令だ」
「「「そんな!」」」
「これから先会う異性は全てお前にとって伴侶の可能性を秘めている。その事を踏まえて接するように」
「母上!」
悲痛な声で訴えるユーリとアデルを尻目にエミールは煙管をふかした。
『良いのかよ、エミール』
「ん?」
憤慨しながら出て行く兄弟、そして瞳に涙を浮かべる娘を部屋から追い出すと、エミールはゆっくりとその艶やかな肢体を柔らかい長椅子に投げ出した。
いつもならルーンもミツキにくっついて行くところだが、今回はちょっと事情が違う。
『ミツキにはまだ早いだろ』
「ふ」
エミールの柔らかく長い指先がそっと漆黒の毛皮を撫でる。
つ、とその指先が止まると、エミールはほんの少しだけ瞳を細める。
「・・・光と闇の夢を見たなら遅かれ早かれあの子はヒュラルに降り立たなくてはならない」
『どういう意味だよ』
「愚息に出るかと思ったが・・・上手くいかないね。あの子はこれからヒュラルの人々に精霊の加護を与えなくてはいけなくなってしまった」
『それは・・・・恩恵者か』
「そう。恩恵者。ヒュラルに住む人間たちに精霊の加護を与える存在。愛しい人間たちに風の加護を・・・・・。戦に使うか、それとも庇護に使うか。さてね、誰が選ばれたのかそれは解らぬよ。」
『エミール・・・・』
「それは彼らが決めること。ただ・・・・・ヒュラルに長く行って帰って来なくなった精霊が何人居ると思う?あの野蛮な争いを好む種族・・・でも愛すべき小さな存在にどれだけの精霊が心を砕いてしまった?」
そう言うとエミールは小さく溜め息を吐いた。
精霊が人間に恋をしてしまったら。
もし、その人間と契ってしまったら。
精霊はその聖性を無くしてしまう。
でも精霊は穢れを知らない。人間と暮らす事は難しすぎるのだ。
聖性を失った精霊は精霊国にも帰れない。
ヒュラルに有る数少ない聖域で、人でも無く、精霊でも無く暮らすしか無いのだ。
「私は、――――――――娘を失いたくない。笑うか、ルーン」
『・・・・・笑うわけ無いだろ、エミール』
恋は、盲目。
あの愛すべき可憐な娘が、人間と恋に落ちる前に。
この精霊国で伴侶を探しておけば。
きっとミツキは帰ってくるはずだから。
でももしも。
ミツキが人間に恋をしたら。
その時は―――――――――・・・・。
読んで頂き感謝します。ぺこり。




