母は強し
モクレンとヒバリから姿を隠すのも慣れたもの、と風の恩恵を纏いながらミツキは侍女たちからかなり離れた場所に降り立つ。
簡単な術だ。
ここ数年毎回毎朝逃げているものだから余計にこの移動術は飛びぬけて上手くなった気がする。
モクレンやヒバリ・・・この風の宮殿に働く侍女たちは花の宮出身のものが多い。
この精霊国は大きく4つに分かれている。
1つはこの風の国シルディン。そして火の国サラス、水の国ウンダ、最後に土の国ノールだ。
この精霊国に暮らすのは4つの王族、そして4つの王国に恩恵を受ける精霊たち・・・・例えばさっきのモクレンやヒバリは花の精霊だ。王族ではなく、花の精霊として花の宮でその生を受けた。
花の精霊らしく可憐で華やかな彼女たちはその性質からかミツキを着飾らせたがる。
「似合わないのに・・・」
ミツキがそっと呟くと、肩の上のルーンが小さく首を振る。
『似合うのに・・・』
長い宮殿の廊下はほぼ外に面している。
母で有る女王が自然の姿を見るのが好きなのだろう。
色とりどりの花や緑に紛れ、人型になり切れない下位精霊や妖精たちがくるくると朝の光を一身に浴び、ダンスを踊っている。
その姿に思わず笑みが浮かぶ。
可愛らしい小さな存在にそっと手を伸ばし、柔らかな風を挨拶がわりに贈れば、外の舞踏会の面々が小さな手を振ってくる。
「ひめさま」
「みつきさま」
小さな小さな声で挨拶をしてくる精霊たちにミツキは柔らかな微笑みを返す。
―――――――――このまま一緒に踊ってみたい気もするけれど。
ふとそんな考えがミツキの頭によぎる。
幼い頃は、花びらを風に乗せ、皆と良く踊った。
ミツキが舞うと風が喜ぶ。
ミツキの感情そのままに風が答えてくれるのだ。
いつだったか、兄さまに怒られて拗ねながら舞った時、風は凄い勢いで吹き荒れた。
そう、人間界――――――ヒュラルと呼ばれる人間の世界にまで影響を出してしまう程に。
自分でもどうする事も出来ず、結局は母である風の女王が納めてくれたのだ。
あの恐怖、後悔は―――――――ミツキは小さくかぶりをふった。
口で何て言おうと許される事ではない。
そしてはたと瞳を上げた。
最近の夢はあの時の私の心が影響しているのかもしれない・・・・。
「かあさま、に聞いてみよう」
ミツキは小さく呟くと、母や兄が待つであろう場所へ向かって歩き出した。
ありがとうございました。ぺこり。