推理は得意
キキョウは部屋に入るとすぐに、机の上に乱雑に置かれていた書物と羊皮紙を数枚取り出した。
パラリと本を開く。
この瞬間が堪らなく好きだ。
紙の音や刻まれる文字に何故ここまで惹かれるのか解らないが、きっと性分なのだろう。
パラパラと頁をめくり、指で文字を辿って行く。
そしてさらさらと端正な文字で羊皮紙に何かを綴る。
「シルディン」
・・・・・・ふと手を止めて声に出してしまうほど思いを馳せていた事に気付き、キキョウは首を振った。
この空想癖を何とかしなければ、とも思う。
すぐに思考が飛んでしまうのだから困ったものだ。
くるくると羊皮紙を巻き、上質の紐を真ん中に巻き付ける。
そこに赤い蝋燭を垂らし、印を押し付けた。
「取り敢えず・・・・・」
2通同じ内容を綴り、それを机に並べ終わった時、狙った様に自室の扉が叩かれた。
サンダーソニアだろう。
「入ってらっしゃい、ソニア」
「はいです」
扉を開き、サンダーソニアが橙の髪をふわふわと揺らし、入って来る。
「キキョウさま・・・・」
「解っているわ、ソニア」
「え」
驚いた様にサンダーソニアは顔を上げる。
「ユーリさまがお迎えに来られるのでしょう?」
「・・・・・はい」
「急にわたしまで行くことになってごめんなさいね」
「キキョウさまには、もうだいたい解ってるんですね?」
サンダーソニアは小さく溜め息を吐く。
昔からこの眼前の引っ込み思案の姫は何故か鋭い。
「どうかな?」
クスリ、とキキョウは微笑む。
「ソニアからの情報が少ないから、全部じゃ無いけど」
「・・・・・いつも何で解るのか不思議なのです」
「わたしはね、まずミツキさまに何か有ったかと思ったの。でもそれならソニアが来る事は無いでしょう?逆に慌てて御兄弟のどちらかが来るはずだわ。更にユーリさまは御政務。と言う事は陛下は不在中ね。なのにわざわざソニアを寄越した。そしてアデルさま、と言った時のソニアの反応はなかなか凄かったでしょ?」
「・・・・・・・・」
「時間が掛かると困るとあなたは言った。早急に片付けたい事を何とか出来るのはサクラだけ」
「・・・・・・・・」
「だけど迎えに来る様お願いしたのはユーリさま。となるとユーリさまもその事で困ってらっしゃる。ならばアデルさまに何か問題が発生したのかなって」
「キキョウさまは、相変わらずなのです」
ふう、とサンダーソニアは溜め息を吐く。
「当たってますです」
「あら」
ニコリ、と笑みを零すキキョウに、サンダーソニアは困った様に首を傾げた。
「でも・・・・・アデルさまが例えば御病気だとてサクラが火急に行くのも変よね。婚約者でも無いのだから」
「・・・・・・・苛めないでくださいなのです」
「ソニア」
「――――――いや、有る意味病気、なのです」
サンダーソニアの言葉を返さず、キキョウは机の上の羊皮紙2つを手に取った。
それを近くの窓から投げる。
と、木に止まっていたのか小さな白い鳥が2羽現れ、器用に嘴に掴む。
「宜しくね」
「お手紙、ですか」
「ええ。皆精霊に頼んだりしてしまうけど・・・・・」
その時、扉が叩かれ、ユーリの来訪が告げられる。
つと、キキョウの頬が赤く染まったのをサンダーソニアは見逃さなかった。