赤の一族
扉を開くとそこは紅の色で統一された絢爛な部屋。
重厚な家具は質が良いのを窺わせる。
大きな円卓が部屋の中央へ置かれ、そこに座るのは赤の王家一族と、大好きな母。
「かあ様・・・・・」
「ミツキ」
カタリ、と音を立て、エミールが椅子から立ちあがると、その場へミツキは駆け寄る。
「一体、どうして」
「ふふ。朝に遠出をすると言っていたからな。心配だったからつい見張っておった」
「ユーリ兄さまとアデル兄さまは・・・・」
「ああ。余りにもお前の事で五月蝿いので政務を全て押し付けてやったわ」
ニコリと微笑み、ミツキの頭を撫でると、小さく「余り心配をかけるな」と囁く。
「ごめんなさい・・・・・」
「うむ。今日はヒューのお陰で助かったのだから、良くお礼を言わないといけない」
「はい」
母の言葉に小さくミツキは頷く。
「ま、良いじゃねえか。怪我も無く、ついでにこんな美人処が2人も来てくれたんだ。コッチとしては感激もんだぜ?」
「――――――――王、またそんな言葉遣いを」
「良いじゃねえか。久しぶりの再会なんだから」
軽い調子の口調を優しい調子で宥める。
ああ、そうだ。昔と変わらない。
「お久しぶりです、おじさま。そして――――――王妃さま」
「俺はオジサマ、で、リリーには王妃かよ」
ズルリ、と椅子から落ちそうなふりをしながら、火王――――――リューティが不貞腐れた表情を浮かべる。
「おじさまと呼ぶのはミツキさまくらいでしょう。許して差し上げなさいな」
リューティのすぐ傍らに座り、ふわりと微笑むのはその妻であるリリーだ。
花の精霊でもあるリリーはその美貌を愛する夫に向けながら、優しく言葉を紡ぐ。
「ミツキだからなぁ。まぁオジサマで良いよ、うん。ま、座れ」
「はい」
軽く会釈をしながら差された席に座ろうとすると、エミールの傍に座っていたヒューイが席を席を引いてくれた。
「ヒューイ・・・・あ、ありがとう」
「いや。さ、姉上も」
ミツキのすぐ後ろに居たシェーラはヒューイの言葉に頷く。
そしてエミールに膝を付き、ドレスに口付ける。
「シェーラ。美しくなったな」
「陛下。お会いできて光栄です」
「ふふ。嬉しい事を言う」
皆が席に着くと、ドタドタ、と重厚な扉の向こうから足音が聞こえる。
ついで聞こえて来る可愛らしい声達に、ミツキは先程の可愛らしい弟達を思い出し、微笑んだ。
「相変わらず、だな、あいつらは」
「すみません、陛下。まだまだ躾がなってなくて」
「構わん。元気が有って良い事だ」
「――――――――――後でお仕置きしてやる」
「姉上、手加減を忘れないで下さいよ・・・・」
「可愛らしい弟君さまたちでした、かあ様」
重厚な扉が開かれると、会話の種で合った可愛らしい赤髪3人が姿を見せる。
「「「遅れてすみませんッ」」」
声を揃えて3人が直立する。
「何と・・・・・可愛らしい」
「でしょう、かあ様」
にこにこ、と微笑むのは先程の可憐な姫君。
その横に座るのは同じ髪、同じ瞳の美し過ぎる麗人。
瞠目しながらその人を見つめれば、楽しそうな父王が声を掛けた。
「横から順にサーシャ、リューイ、ルーシェ、だ。皆、風の王族の方々だ。エミールと娘のミツキ。あ、エミールはおっかねぇから気を付けろよ」
「――――――どんな紹介の仕方だ、リュー」
呆れた声を出すその麗人。
その横のミツキはくすくす、と実に楽しそうだ。
先程の剣技の時とは違う、優しげな表情。
3人はペコリと頭を下げると、それぞれ席に着く。
「よし。んじゃぁ、始めっか。今日こそお前に勝つぞ、エミール」
「ほざけ。返り討ちにしてくれる」
「見てろよ。――――――者ども、行くぜ!今日は無礼講だ!酒持ってこい!」
リューティのその掛け声で、侍女たちが次々と料理とお酒を運んで来る。
「勝つって、まさか・・・・酒盛りで?」
ミツキの言葉に、火の一族は呆れた様に頷いた。
次々と空けられる杯に、ミツキは黙ってしまっていた。
するするとエミールとリューティが空けて行く。
飲む、空く、注ぐ、の繰り返しだ。
その速さに眼を白黒させてしまっていた。
――――――――か、かあ様、凄い。
そんなミツキの様子に、リリーが「大丈夫よ」と微笑んだ。