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精霊国の姫君  作者: あかり
第1章
20/25

その頃、風の国では

「ユーリさまッ!ユーリさま、すぐいらして下さいですッ!」

「ん?」


執務室の扉を叩く間も無く、侍女が滑り込んで来た。

橙色のふわふわとした髪に、パッチリとした瞳。まだまだ元気な少女である。


「サンダーソニア・・・・・もう少し落ち着いて入って来れないのか」

「何を悠長な!アデルさまがもう荒れて荒れて大変なんですからッ!」

「アデルが?」


ユーリが顔を上げると、ぶんぶんと首肯した。


「ミツキさまがおられず、更に陛下もなのでしょう?ああ、本当に困ったもんです」

「困ったもんってお前」

「だいたい、たかだか妹が居ないくらいであそこまで荒れるとは・・・・・アデルさまって修行が足らないです」

「・・・・・・・そんなにか」

「・・・・・・・・片付けるのは私たちなんですよ、嫌味の1つくらい聞いてくれるのが大人ってもんです」

「・・・・・・・すまん」

「ま、良いです。早く止めてください、あの駄々っ子を」


はぁ、と大きく息を吐くと、ユーリは立ち上がり、サンダーソニアを片手に抱える。


「ちょ、私は置いてって下さいです!」

「そう言うな、サンダーソニア。付き合うのが大人ってもんだろ」




部屋は凄い惨状だった。

暴れるだけ暴れた、とばかり床の上には原型が解らないほど割れたものや、家具が散乱していた。


サンダーソニアが慌てて入って来たのも頷ける。

これは酷い。


当の本人は暴れ疲れたのか寝台に座り、頭を抱え込んでいた。


「離して下さいです」


ぼそっと、サンダーソニアがユーリの片手の中で身を捩る。

ユーリが力を緩めると、小柄な身体を床に付く。


「全く、御兄弟揃ってです」

「すまん、サンダーソニア」


そう言いながらユーリはアデルに近付き、同じように寝台に腰かけた。


「アデル」


その声に、アデルはびくりと身を震わせた。


「アデル」

「―――――――申し訳、ありません」

「落ち着いたのか」

「・・・・・・・いえ」

「だろうな。一時の感情で物を壊しても、何も変わらん。余計虚しくなるだけだ」

「・・・・・・・・・」

「ミツキの事は良く解ってる。しかし、母上の仰る事も一理有る。それにまだミツキが決めた訳でも無い。決まっても無い事で憂うなど、そんな醜態を晒してくれるな」

「兄上は、平気なのですかッ!」


アデルは声を荒げ、立ち上がった。そしてそのまま顔を覆う。


「僕は・・・・・僕には、無理です。ミツキが他の男のものになど・・・・」

「だからと言ってミツキに虚言を吹き込んだり、更にこのように暴れる事が許される訳が無いだろう」

「解って、います」

「いや。お前は解ってはおらん」

「兄上」


アデルは覆っていた手を離し、ユーリを見つめる。


「どうしたものか」

「兄上?」

「母上もおらんしなぁ・・・・ううむ」


ユーリは顎を指で掴みながら何事か考え込むと、急に思い立った様にポン、と手を打つ。


「サンダーソニア」


しかしサンダーソニアはそれに答えない。

怪訝そうな顔をしてユーリを見返すのみだ。


「サンダーソニア」

「・・・・・・・嫌な予感がめちゃくちゃするので答えたくありませんです」

「・・・・・・・お前は勘が良いな」

「やっぱり答えたくありませんです」


はぁ、と聞えよがしに大きく溜め息を吐く。


「サクラを連れて来てくれないか」

「サクラさま、ですか」


精霊国の中の花の精霊たちの中で、王家に嫁いだものも多い。

その花の精霊の家は王家に次ぐ、貴族扱いとなる。火の王家に嫁いだリリーと、水の王家に嫁いだローズの末の妹姫サクラは、ミツキの親友でも有り、ユーリやアデルにとって、妹と変わらず愛する存在である。



「サクラさまはそのう・・・・・来て下さるですか?」

「難しいと思うか」

「絶賛花嫁修業中かと思われますです」

「サクラも結婚するのかッ?」

「いえ。言ってみただけです」

「・・・・・・・」


無言でユーリがサンダーソニアを凝視した。


「すみませんです。ちょっと面倒だなと思っただけです」

「・・・・・・・・うん、お前はそう言うやつだった」

「サクラさまをお呼びしてどうしますです?」

「ミツキの機嫌を取る」

「懐柔策ですか。―――――――ミツキさまは怒って無いと思いますですよ」

「しかし、このままだとアデルと溝が続く。それは困る」

「確かに。片付けで1日終わりますですね」


そう言って周囲の惨状をまた見回し、ガクリと項垂れる。


「いや、片付けはアデルがしろ。これはお前がした事だ」

「え」

「俺は政務が有る。サンダーソニアはサクラを迎えに行け。アデルは掃除だ」


そう言うとユーリは立ち上がり、サンダーソニアをまた小脇に抱えた。


「またですか?」

「良いな、アデル。侍女を使わず1人で片付けろ。これは長兄としての命令だ」


そう言うとユーリはサンダーソニアを連れ、アデルの部屋から飛び去った。









作者的には物に当たる男は苦手です(笑)

読んで下さり感謝致します。ぺこり。

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