いつもの攻防
ルーンを肩に乗せ、廊下へと続く重厚な扉を開けるとズラリと並ぶ侍女たちが頭を下げていた。
ああ、やっぱりと言わんばかりの落胆の声が聞こえて来そうだ。
「ミツキさま・・・・・」
「またですか」
「またって・・・・・。モクレン。ヒバリ。」
立ち並ぶ侍女たちからつい、と進み出た2人に答えると、名を呼ばれたモクレンとヒバリがあけすけに溜め息を吐く。
「まずはその御髪ですわ、ミツキさま」
「更にその服・・・・」
「さらに言わせて頂ければその顔」
「更に更に言えば装飾品の1つも無い・・・・・」
はあ、と再び溜め息を吐くと恨めしそうにミツキを上から下まで見る。
「だって・・・・髪は纏めれば良いじゃない。それに服だって別に変じゃないはずよ」
「纏めれば・・・確かに」
「ええ、服も変とは言っておりません」
「じゃあ問題は無いわね」
「「いいえ」」
口を揃えながら2人が言うと、おもむろにパン、と手を叩く。
ざっと頭を垂れていた侍女たちが頭を上げると、一斉にミツキにずい、とにじり寄って来る。
「「「「「「「「「「「「姫様」」」」」」」」」」」」」
う。
軍隊の様な揃いきったその行動にミツキは思わず出てきた扉に後ずさった。
「今日こそは、きっちりかっちり仕事をさせて頂きます」
「その御髪は緩やかに巻きましょう。それに合わせてドレスに変えさせて頂ければと」
「薄く化粧も致しましょう」
「姫様の瞳に合わせて装飾品を付けて」
「似合わないものは興味が無いのよ」
困った様に首を傾げ、ミツキは眉を顰めながら肩に乗るルーンを見た。
「まっ!!!!!似合わないなどと!!!!!」
キッとモクレンがミツキにきつい眼差しで詰め寄ると、
「何を仰ってるのですか!!!!!」
ヒバリも負けじと両手を胸の上で握りしめ、勢い良くミツキの前に進み出る。
この姫君に仕える様になって数年。
瞬く間に美しくなって行くこの姫は、いわゆる無頓着。自分に興味が無い。
流れる腰まで続く銀糸の様な髪を整えることもせず、白く柔らかい陶磁の肌に粉を乗せず。
柔らかい紫の瞳を彩る睫毛にも、嫌みの無い優しい紅い唇にも色を乗せず。
ありとあらゆる方から贈られる装飾品にも眼を向けず。
女性らしい優しいラインの出てきた身体を強調する事も。
侍女として、着飾らせる事に喜びを感じるはずのこの愛らしい、素晴らしい素材を。
この姫君は全く寄せ付けてはくれない。
寝所に入り、朝を起こすのも許されず。
ただ無造作な佇まいで出てくる姫君を廊下で待つのみ、なのだ。
「ねえ、モクレン。ヒバリ。毎朝のことだから解ってくれている、とは思うんだけど・・・・」
「姫様」
「行くね」
小さく詫びる様にミツキが言うと、慌ててヒバリが手を伸ばすのと同時にミツキの姿がふわりと消えた。ヒバリの手が空を掴む。そしてフルフルと小刻みに震えた。
「っち!!!!」
「またやられた!!!」
口悪くモクレンとヒバリが言うと、立ち並ぶ侍女仲間も一斉に舌打ちを起こす。
「また明日、明日こそは!!!!」
大きくモクレンとヒバリが手を空に突き上げると、やはり軍隊並みに揃って全員が手を突き上げた。
読んで頂き、本当に感謝致します。ぺこり。