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精霊国の姫君  作者: あかり
第1章
18/25

赤の王子と風の女王さま

ミツキとシェーラと離れた後、ヒューイはディラスを肩に乗せたま宮殿の外側へ向かった。


『へっぽこ、どこ行くんだよ』

「一応、火山帯の様子を確認しないとだろ。ミツキを拾ったから途中だったし」

『また行くのかよ』

「当たり前だ。誰か怪我でもされたらたまんねえだろ」


そう言って、ヒューイは嫌そうな顔をするディラスの顔を突く。

と、そんなヒューイ達の後方から凛と澄んだ声が響いた。


「その必要は無いぞ」



――――――え

何の気配も無かった。

背中が寒くなるのと同時に、思わずその声にヒューイは飛びずさる。ディラスも口を大きく開けながら臨戦態勢だ。

しかし、その声の主はヒューイの見知った顔だった。


「貴女は・・・・・・・!」


ヒューイの呟きに呼応したのか、ディラスの興奮し切った声が飛んだ。


『おい、誰なんだ、この超絶美女はッ!!!』

「陛下――――――――!」

「久しいな、ヒュー。息災で有ったか?」


銀色の髪は腰まで流れ、その妖艶な身体を隠すように纏われているのは深紅のドレス。

ほんの少し釣り上がった瞳が優しくヒューイを映す。


よしよし、と傍らの大きな金色の聖獣を撫でながら、エミールは小さく何かを呟くと、聖獣が霧の如く消え去った。


「どうも、うちの娘が世話になった様だな」


そう言って近付くエミールに、ヒューイは素早く膝を下り、礼を取る。


「やめろやめろ、固っ苦しい」

「何を仰いますか!」


そう言いながら近寄ったエミールの深紅のドレスの裾に唇を落とす。


「お会いできて、光栄です、陛下―――――――風の女王、エミール様」

『・・・・・・ミツキの母親ッ?!』


ディラスの頭を掴んでそのまま地面に叩きつける。『ぐはッ!』と呻き声を上げたが、無視だ。


「ま、立て。火山帯の上にはついでだから風で結界を張っておいた。どんな規模の噴火か解らんが、被害は及ばんだろう」

「―――――は・・・・・?」

「一応、サラス国全体に張ったから何も案ずる事は無かろう?」


そう言うとクスリ、と小さく笑みを漏らし、エミールは空を見まわす。


――――――――この国、全部に・・・・?どんだけこの人力有るんだよッ。

下を向きながら考えるヒューイの肩にそっとエミールが手を置く。


「ミツキが世話になった礼、とでも言っておこう」

「は・・・・・」

「落下するとは流石に思わなんだ」


エミールが笑う。


「あそこまでとは。我が娘ながら・・・・・」


くすくすと声を立てながらさもおかしそうに声を出す。


「無事で何よりでした。しかし、やはり見ておられたのですね」

「ま、少しだけ気を飛ばしておっただけのこと。―――――――その後の事は見ておらん」



――――――――見てた。絶対この人見てた。

ミツキのあの華奢な身体を図らずも抱き締めてしまった事。

・・・・・やべぇ・・・。


「ミツキは良い器量になったろう」

「・・・・・・は」

「自慢だ」

「確かに」

「・・・・・・どうだ、嫁に」

「ぶっ!!!」

「冗談だ」

「――――――――へ、陛下」


エミールのからかい交じりの口調は実に楽しげだ。

そうだった。この美しすぎる麗人は幼い頃からいつもこのようにヒューイをからかっていたものだ。

実直そのもののヒューイは良いカモ、だったのだろう。

その言葉に翻弄されていたものだ。


――――――――相変わらず、だな。この人は。


「うん、良い男になったものだ。ヒュー。そして出来れば昔の様に心砕いて話してくれると嬉しいぞ」

「陛下・・・・・」

「心の声が、相変わらずダダ漏れだからな。顔に全部出る」

「はぁ・・・・」


片目を瞑りながらヒューイの腕を取り、立たせる。と、ディラスが俺俺、と声を出す。


『ちょ、俺!俺を忘れて無いか、へっぽこ!』

「・・・・・・・俺の聖獣です」

「ふむ」

『ディラスと申します、美しい風の陛下』


ミツキやリンディンに対する口調とは全く違う。

深く心の中で嘆息すると、ちら、と眼前のエミールを見る。

エミールは何やら楽しげだ。


「ミツキが世話になったな、礼を言うぞ、ディラス」

『何を!貴女の姫君の為なら・・・・・!』


ぐい、と身を乗り出すディラスの頬を優しく撫でると、エミールは微笑んだ。


「リンディンを余り苛めてくれるなよ、ディラス。あいつはなかなか繊細だからの」

『―――――――え』

「さっきの俺の話聞いて無いのかよ・・・・見てたって言ってただろうが」

『・・・・・・・・』

「さて。久しぶりにお前の親父でもいじりに行くか」

「・・・・・・・・はぁ・・・・・・」

「シェ―ラも美しくなったことだろう。楽しみだ」


ふふん、と鼻声を歌うようにエミールが鳴らすと、火の国に溢れる風の下位精霊が嬉しそうに揺らめいた。

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