赤の王子と銀の竜
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「よし。ディラス、ご苦労だったな」
労いの言葉を1つ掛けながら、ヒューイは軽く竜の背から飛び降りる。
「来いよ、ミツキ」
「え、あ、はい」
ミツキも慌てて風の精霊に命じながらふわりと地面に降り立った。その後にリンディンも続く。
「さて。ここはサラス領になる。―――――――ミツキは来た事無かったよな?たまーにユーリ兄やアデル兄が来るくらいだもんな」
「そうだね・・・・・ここがサラス・・・・・」
腕を広げて自慢げに見せるサラス領はシルディンよりいくばくか気温が高い様に感じる。
山々が聳え立つ、荘厳な風景はミツキの心を魅了する。
それを告げると、ヒューイは嬉しそうに微笑んでから、遥か遠くを指差した。
「サラスは火山帯が多いからな。確かに気温はシルディンより高いかもな。ほらあそこ。さっきミツキたちが居たところの下にまた火山帯が有るんだけど、もうじき噴火するんだよ。だから危険だって話したんだ」
「噴火?」
「そう。山が火を噴くのさ。危険だが、それでこの土地は肥沃になって行くんだ。ほら。あの山たちも全部そうだ。気を付けろよ。お前の聖獣がいきなり止まろうとしたのは、凄い量の火の鼓動を感じたんだろう」
その言葉に、リンディンは小さく頷きながら俯いた。
その頬をミツキは優しく撫でる。
それにしても・・・・・・山が火を噴くなんてことはミツキには信じられなかった。
今まで1度たりともそんな光景を見た事は無い。
「ところで、お前どうしてあんなところに居たんだよ?」
「え」
「昨日、風宮から舞踊会の誘いが来てたけど。何か関係でも有るのか?」
「―――――――ううん、違うの。ちょっと遠出したくなっちゃって」
「遠出ぇ?」
「うん」
「―――――――――まぁ、良いか。それにしても体調はどうなんだ?いつもアデル兄にミツキの状態聞いてたんだけどさ、ずっと調子が良くないって言ってさ、教えてくんないからさ」
「え?」
また、アデルの嘘だろう。
思い起こせばミツキに嘘を吐いていたと言う事は、他の王族たちにも吐いていると言う事だ。
公の場に居ないミツキを訝しむ声に体調が悪いとでも言っていたのだろう。
だいたい、ミツキは末姫だし、公の場に必要な訳でもないのだから。
「うん、もう。元気になったの」
「そっか!良かったな!」
本当に嬉しそうにヒューイは笑顔をミツキに向けた。
ぱっと開くその笑顔は幼い頃とやっぱり変わらない。
でも、赤い髪は肩甲骨辺りまで伸び、身体つきも昔とは違う。
さっき抱き締められた身体は驚くくらいしなやかで強かったのだから。
『おい、へっぽこ』
「む?」
怒気を含んだ声が響く。それが先程の銀竜から発せられてると気付いた時、ミツキは小さく変化して行く竜に見入ってしまっていた。
「へ、へっぽこ・・・・」
『じゃあすっとこどっこい』
「どっちも変わらんわ!」
『俺はそろそろ帰りたい。ユラスが俺を探してる』
小さく変化を遂げたその竜はまるでルーン並みに小さい。
その爪を隠さず、ディラスは小さな足でヒューイの赤い頭を蹴る。
「おい!痛いって、こら!」
『ユラスが待ってる。ついでに言えばシェーラも一緒だ』
「姉上が?」
「シェーラ姉さまが?近くにいらっしゃるの?」
ミツキの声が嬉しそうに跳ねる。
しかし、その姿に銀色の竜は険呑そうに眼を向けた。
『・・・・・・』
「あ、ご、ごめんなさい。気高い銀竜。私はミツキ。シルディンの末娘」
『背中で聞いてた』
「あ、そ、そうね。ごめんなさい。勝手に貴方の背中に乗ってしまって。感謝します。そしてごめんなさい」
『ディラスだ。別に良い。シルディンの箱入り姫、ミツキ。噂に違わず美しいな』
「ディラス。ありがとう。本当に助かったわ」
にこり、とミツキが笑顔をディラスに向け、静かに一礼する。
美しい、と言った言葉は無視だ。
『後ろの聖獣も宜しくな』
「・・・・・・・・・・」
ディラスの言葉に静かにリンディンは揺らめいた。
人型のリンディンは儚い光に包まれる。
「リンディンよ。宜しくね、ディラス」
ゆらゆらと揺れるだけのリンディンに変わり、ミツキは紹介を済ます。
どうやら、ミツキに尊大な態度を取るディラスにリンディンは良い感情を抱いていないらしい。
ミツキには気にもならないが、そこは聖獣のみぞ知る感情だろう。
『リンディン・・・・・美しいな』
ディラスの瞳が眩しそうに細められると、その頭上にヒューイの拳骨が落ちた。
「見境ねえな!相変わらず!」
『なっ!このうすら間抜けが!』
「ミツキ、リンディン?だっけか。気にするな。こいつは神聖な竜だってのにまだつがいが居ないからか見境いが無くてな。ちょっと美人を見るとこう・・・・しかも上から目線で褒めやがる」
『つがい候補ならおるわ、たわけがぁ!』
ぽこぽことお互いを叩きあう、眼前で行われる2人のやり取りにミツキが思わず吹き出した。
その横でリンディンもつい笑みを浮かべてしまったようだ。
「もう、止めて、ヒューイ。ディラスも。お腹が痛くなっちゃうわ」
言いながらくすくすと湧き上がる笑いは止まらない。
『「だってこいつがっ!」』
そう言うと、2人揃ってミツキを見る。
お互いを指差しながらそう言う姿はまるで仲が良い兄弟の様だ。
『ん、――――――――まぁ、この辺にしといてやっても良い』
「こっちの台詞だ、このスケコマシ!」
「さぁ、もう2人の仲が良いのは解ったから。シェーラ姉さまに会えるかしら?」
顎に細い指を掛け、ミツキは小さく首を傾げる。
「おお。会えるとは思うけど。良いのか、お前は?」
「――――――そうね、確かに。サラスまで来ちゃったから・・・・かあ様が心配しちゃうわね」
「いや、どっちかって言うと、ユーリ兄とアデル兄の方だろ」
「え」
「過保護だからなぁ・・・・・」
「ヒューイもそう思うのね?」
どことなく哀しそうに呟くミツキにヒューイは慌てて両手を振った。
「いや!俺じゃない!姉上がそう仰っていたんだ」
「・・・・・・ああ・・・・・・シェーラ姉さまが・・・・」
「納得だろ」
ミツキは小さく頷く。更にディラスも小さな短くなった首をぶんぶんと頷かせた。
リンディンだけが解らない様子で、ミツキたちを見回す。
「リンディンはまだお会いした事が無いものね。シェーラ姉さまはこの精霊国1の剣の使い手なのよ。―――――――それからとても・・・・厳しい方なの」
「おお、リンディンも気を付けろよ。あれはある意味父上より怖く、母上より厳しい」
そう言うと、ヒューイはわざとぶるる、と身体を震わせた。
ミツキは困った様に首を傾げるし、ディラスは頷くばかりだ。
「で、どうする?風の下位精霊ならこの辺りに散らばってるし、お前が姉上に会いたいなら、精霊を風宮に飛ばしておけばいいだろ」
「そうね。・・・・・・ヒューイとももう少しお話したいし」
「っ」
ミツキが微笑みながらヒューイを見ると、ヒューイの頬がさっと紅潮した。
久しぶりに見るミツキは本当に美しく成長した、と思う。
可憐な中に凛とした輝き。
さっきつい抱き締めてしまった時の柔らかさ。
ユーリ兄やアデル兄が隠すはずだぜ、おい・・・・。
最初に空から降って来た時は何とか感情を抑えて見せたが、真っ直ぐにこちらを向いて微笑むミツキに思わず頬を染めてしまう。
「どうしたの、ヒューイ」
「い、いや、何でも・・・・・」
『このむっつりが・・・・』
小さく呟くディラスを睨み、訝しげなリンディンの瞳をかわし、ミツキからも視線を逸らすと、ヒューイは火の下位精霊を呼び出す。
そしてミツキが火の宮殿に訪れる事を伝えると、またミツキに向き合った。
ミツキの方も精霊に伝言を伝え終わったようだ。
「じゃ、行くか。どうする?ミツキ。ディラスに乗せて貰うか?それともリンディンに乗るか?」
今日は何回も投稿してすみません。
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