赤の王子
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拙い文章を読んで頂き感謝の極みです。
本当にありがとうございます。
―――――――落ちる。
そう考えながら虚しく腕が虚空を掴む。
「ディラス!!!!!!!!!」
どこからか、大きなでも掠れた声が響くのをミツキは聞いた。
ごうごう、と何か熱いものを身に感じる。
それと同時に、何か柔らかいものに身体が支えられているのも。
―――――――え
「平気か、おい」
その声に、ミツキはおずおずと眼を開いた。
その眼に飛び込んできたのは、燃えるような紅蓮の瞳。そして赤い髪。
そして自分の身体が暖かい何かに支えられ、空中に浮いている事も。
「平気だな」
パチン、とその人が手を鳴らすと、ふわりとミツキの身体に掛かっていた力が無くなり、トスンと落ちた。
「え」
ぺたんと座りこむミツキに反し、その人は立っていたその身体を屈ませると、ミツキの肩に手を掛け、にっこりと微笑む。
ミツキの手の下には大きな鱗が広がっている。銀色に輝くそれは、硬質さを感じさせた。
―――――――うろ、こ・・・・?
ゴツゴツとしたその感触にミツキは戸惑いながら紅蓮の瞳を見上げると、その紅蓮の瞳が何度も瞬く。
「おま、え・・・・・もしかしてミツキか?」
「え」
「俺だよ、俺!く―――――――っ!わっかんないかなぁ!」
「え、え」
ミツキの眼がくるくると動く。
紅蓮の瞳、赤い髪。
やんちゃな少年の様なその風貌に、ミツキははた、と思い付く。
「あ・・・・ヒューイ・・・・?ヒューなの?」
「そうそう!俺!」
そう言うと、ヒューイはミツキを思い切り抱きしめた。
ヒューイは火の国サラスの王子だ。
赤い髪と紅蓮の瞳は幼いころはもっと赤みを帯びていた様にも思う。
思いがけない幼馴染との再会。
しかし今はその抱き締められる身体が熱い。
「ヒュ、ヒューイ、あの」
幼い頃とは違うその固い筋肉に、ミツキが身を強張らせると、ヒューイは慌ててその腕と身体を離した。
その頬は明らかに紅潮している。
「ご、めん、ミツキ。つい昔を思い出しちゃって」
「う。ううん・・・」
「しっかし。何でこんな処に居たんだ?もうじきここは危なくなるぞ」
「え」
ミツキが何が、と問い掛けようとした時、ミツキの傍に金色の翼が降り立った。
『ミツキ!』
「リンディン・・・・・・!」
『ああ、ああ、良かった』
大きく喜びを表すリンディンからは今にも涙が溢れそうなほどの感情を感じる。
「ごめんね、リンディン」
『何を・・・・悪いのは私よ!』
「ヒューイが助けてくれたの。ヒューイ、リンディンよ。私の聖獣なの」
ミツキがそう言ってヒューイを見返すと、瞬時にリンディンが人型になる。そのままヒューイの足元に伏した。
「サラスの王子・・・・・・この御恩は忘れません」
だがヒューイはその感謝の礼には答えず、まじまじとリンディンを見た。
「へぇ!これがミツキの聖獣なのか!綺麗だな」
「そうでしょう?リンディンは私の自慢なのよ」
「うんうん。解るよその気持ち。―――――あ、今この下に居るのが俺の聖獣。ディラスだ」
トントンとヒューイは楽しげに足で鱗を叩く。
その足音に呼応したのか竜からくぐもったうなり声が聞こえる。
怒って、るみたい・・・・。
しかしヒューイは意に介さず、と言った風情だ。
そしてリンディンを立たすとミツキの横にそっと押しやった。
「この、綺麗な鱗を持つ聖獣って・・・・?」
「竜なんだ」
「竜?」
「この銀色の竜はやんちゃだったんだけど、やっと口説き落とした」
「口説く?」
「ああ、サラスでは聖獣は自分で口説いて主従関係になって貰うんだ」
シルディンでは賜るものだけに、ミツキは思わず竜の鱗をまた見詰める。
そうしていると、ヒューイはディラスに小さく何かを呟いた。
と、静かに巨大な銀色の竜が降下を始める。
「でも、ミツキだったなら慌てなくても大丈夫だったな。余計な事だったかも」
「え?どう言う意味?」
「お前は風の女王陛下が必ず守ってるからさ、落ちても必ず助けに来てくれた筈だ。く――――――っ!折角カッコ良くお姫様を助けに来たのに、間抜けだな」
「そ、そんなこと無い!ヒューイが来てくれて本当に、・・・・ありがとう」
拗ねた表情は昔そのままだ。
歳が近い幼馴染は何人も居たが、その中でもヒューイはいつまでも感情そのままな王子だった気がする。
だけど、正義感が強くて真っ直ぐで。
ああ、いつもヒューイの姉上さま、シェーラさまに怒られて居たっけ・・・・。
懐かしい思い出がミツキの胸を暖かく染めて行く。
「――――――あ。そう言えばさっきここはもうじき危ないって」
「おう。そうだそうだ、忘れてた。まぁ、取り合えず降りよう。話はそれからだ」
長い赤髪を首の後ろで1つにまとめたその束を、ぴんと指ではじくと、ヒューイはミツキとリンディンに屈む様に指示する。
その言葉に素直に従うと、ズン、と大きな衝撃を全身に感じた。
読んで頂き感謝致します。ぺこり。
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