1人でお出かけ 3
ミツキの真剣な瞳にリンディンは一瞬たじろいだ。
が、その力強い手の強さに、リンディンはゆっくりと頷いた。
「何が有ったの?教えてくれる?」
ミツキは小さく頷く。
「上手く言えないかもしれないけど・・・・聞いてくれる?リンディン」
「勿論よ。ミツキ、貴女は私の主人。貴女の為に存在するものなのだから」
リンディンはそう言うと、ミツキの手を握り返した。
そのままゆっくりとミツキを促し、自分の傍に座らせると、ミツキの話に聞き入った。
いくばくの刻が過ぎたろうか。
日の光はもう高く、明るい。
「なるほどねぇ」
「うん・・・・」
ミツキの話を一通り聞くと、リンディンは何度も頷いた。
ミツキが話し終わるまで小さく相槌を打ち、頷くだけだったが、ここに来てやっと声を出す。
「ルーンめ・・・・良い処を持って行きよったな」
「え?」
小さく月の精霊に悪態を吐いてしまったが、聞き返すミツキに慌ててリンディンは首を振る。
「まあ、細かい事はさておいて。じゃ、乗ろうか」
「え」
慌てるミツキに、リンディンは大きく腕を伸ばし、朝に会った時と同じ大きな翼を持つ金色の鳥に変化した。
バサリ、と翼をはためかすと、金色の羽毛がささと飛ぶ。
光にキラキラと反射しながら地に堕ちるその羽毛をついミツキは眼で追った。
『怖い?』
リンディンの言葉に、やはりミツキは頷く。
『やるしか、無いって』
**************************************
「きゃ――――――――――!!!!!!!ぁぁぁ!!!!!」
『・・・・・・・・』
「ぁあああ!!!!!」
『・・・・・・・・』
ミツキが意を決してリンディンの背に乗り、ゆっくりとリンディンが飛び立った直後、のミツキの声で有る。
地からはまだ1尺と離れていない。
仕方が無い、本意では無いが、とリンディンはミツキに鞍を持って来させ、それを付けた。
霊馬用のそれは誇り高いリンディンには耐え難いものだった。しかし、捕まるものが無ければミツキは一生リンディンに乗れない気がしないでもない。
『用意は良い?しっかり手綱を握ってて』
「うん、うん」
震える手でミツキはしっかりと手綱を握る。
こんなものまでリンディンに付けさせて、もう無理だとは言いたくない。
ふわ、と身体が感じるとそのままリンディンはゆっくりと地から離れる。
ゆっくり、ゆっくり。
そうしてミツキが叫ぶ声が聞こえないと解るとまた少し空に上がって行く。
『ミツキ?』
「うん、平気・・・・・」
ほんの少し声と身体が震えてはいるが、仕方が無いだろう。
背の上で小さく震えるミツキを愛しくも思う。
『じゃぁ、もう少し高い処まで行くよ。良い?ここまで来たら一瞬、よ。眼を瞑ってて』
「うん」
刹那、グン、とミツキの身体に大きな重力が掛かった。
頬を掠める風も、力強い。
――――――気持ち良い・・・・。
強い風を感じるとミツキはそう思ってしまう。
そうして、風の中、つい眼を開いた。
それは幻想の中なのか。
風の宮殿も小さく見える。宮殿の周りを大きく囲む緑や、花々も全て小さい。
山々の緑の色が違う。色取り取りの花々も清らかな川や河も。
何もかもが美しい。
感じたことのない早さでミツキの眼前を駆け巡るその美しさに、ミツキは溜め息を吐いた。
その美しさに見とれていると、不意にリンディンの声が響いた。
『ミツキ、捕まって!』
「え」
急に、そんなこと――――――――――・・・・。
手綱を握り返す間もなく、酷い衝撃をミツキが感じるとミツキの手から手綱が零れ落ちる。
あ、と思った時にはミツキの身体は大きく揺れそのままリンディンの背中を滑り落ちた。
『ミ・・・・・・・!』
リンディンの声が聞こえる。
でもそれはまるでゆっくりと流れる時間のようだった。
刹那。ミツキは高い空の中を急激な速度で空気を切り裂き、落ちて行った。
ありがとうございます。ぺこり。