脱出―⑥―
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三条の出した長身の人型――"ライティングス・オン・ザ・ウォール"。
翼剣"ブラック・クイーン"がその純金の頭と銀色の右肩に袈裟切りを仕掛けた時、ロックの耳にもその声が伝わった。
巨大な灰色狼の両前足が、"巨大甲冑"の両肩を瓦礫の絨毯に縫い付けている。
"巨大甲冑"の胸部から腹部にかけ、剥き出しだった青銅色の球体が光り出した。
青銅色の球体が、光と共に地と空気を震わせる。
「始まりましたか……」
三条が、自身の召喚した純金の頭をした人型の背後で呟いた。
その光景に目を奪われたロックは、一瞬の隙を許す。
純金頭の人型が放つ、銀色の右腕――その裏拳がロックへ撓った。
翼剣の"籠状護拳"で銀色の大蛇を思わせる一撃を防ぐ。
衝撃により三条との間合いが離れた。
ロックは、三条と再度対峙する。
彼女の眼が、ロックではなく青銅の色の球体を映した。
光りながら、それは大きな嬰児の顔を作る。
青銅色の嬰児の顔から、手足が生える。
手足の爪が鉄錆色に染まった。
「なんだってんだ……いったい!?」
「誕生ですよ」
ロックの戸惑った声に三条が答える。
三条の眼に映るロックは、露骨に眉を顰めていた。
「赤ちゃんがですよ……中々可愛らしい」
三条の恍惚とする笑み。
喜びを表しているが、彼女に潜む仄暗さをロックは覚える。
会話の噛み合わない三条から、青銅色の嬰児に目を向けた。
嬰児は夜の帳に輝く月を見ている。
その眼差しは、どこか母親の面影を見出しているようだった。
右腕を上げるが届かない。
それに煩わしさを覚えたのか、青銅色の胴を起こす。
夜の闇の下、青銅色の嬰児が全身で泣き始めた。
頭部が三メートル。
胴の部分は――足を入れれば――五メートルくらいだろうか。
巨大な青銅色の嬰児の泣き声の中に混じった高い声。
それを耳にした、ロックの背筋が凍り付いた。
『どうなったの……どうなってるのよ、お腹が熱い……熱い、私の子どもはどうなったのよ――!?』
雑賀の泣き声と共に、ロックは青銅色の嬰児に目を向ける。
青銅色の嬰児も"ウィッカー・マン"と見て良い様だ。
その中には、雑賀を思わせる女性の人型が見える。
"ウィッカー・マン"の熱源であることには変わりないが、
――腹にもう一つの熱源!?
しかも、彼女の中で小さい人型として蠢く。
「三条、テメェ……人間で飽き足らず、腹の中の子どもも取り込んだか!?」
ロックは叫ぶと同時に、翼剣型"命導巧":"ブラック・クイーン"の鍔を叩いた。
剣の太陽十字の刻まれた鍔が大きく割れ、半自動装填式拳銃型の"命導巧":"イニュエンド"が飛び出る。
三条に向けて、ロックは銃弾を三発放った。
彼女の眼前で、純金の頭の人型が銀の右の掌で全ての銃弾を遮る。
"ライティングス・オン・ザ・ウォール"の掌の前で、銃弾が爆散。
水蒸気が純金頭の"命熱波"と三条を覆った。
ロックは"定めに濡らす泪"による、水蒸気爆発の煙幕で三条と"命熱波"の眼を奪った。
"イニュエンド"を"ブラック・クイーン"に戻し、駆け抜ける疾風の高速移動で、三条の背後を取る。
間髪入れず、炎に染まる翼剣――"迷える者の怒髪"による墳進火炎――が三条の後頭部を捉えた。
"ライティングス・オン・ザ・ウォール"の純金の頭と銀の右腕が炎を遮りながら、ロックに迫る。
銀の右手には、ロックの炎の残り火が纏わりついている。
「避けてみな!?」
ロックは"ブラック・クイーン"から、再度"イニュエンド"を取り出す。
"供物を味わう舌"を"ライティングス・オン・ザ・ウォール"の右腕に放った。
酸素食いの炎が、炎に覆われた銀の拳を食らう。
"火を以て火を制す"。
ロックの放った"供物を味わう舌"の利か。
気化燃料の炎が、"ライティングス・オン・ザ・ウォール"の全身も包みこんだ。
炎に染まる純金の頭の守護者の背後に立つ三条。
三条の眼が炎に染まり、ロックの怒りに満ちた眼も捉える。
彼女が口の端を歪め、吊り上げた。
確信に満ちた三条の眼と顔を、大きな影が覆う。
大きな影の正体――それは、青銅色の嬰児だった。
彫り込まれ、起伏のない眼と口が、三条を捉える。
容赦なく、巨大嬰児の右拳がピンクのパンツスーツの女に振り下ろされた。
――畜生!!
ロックは三条と青銅色の嬰児から離れる。
ロックの獲物だった三条は、嬰児の一撃に動こうともしない。
純金の頭の守護者が銀色の両腕で、主である三条に向けた嬰児の一叩きを防いだ。
見えない障壁に止まる、嬰児の右掌。
それが弾き飛ばされ、大きく状態を反らした。
「さて……デモ参加者の皆さんの避難も終わったので、私も引き上げるとしましょう」
三条が純金の頭の守護者が銀色の両腕で抱えられ、ロックの側を駆け抜けた。
三条たちが、サキ、一平と龍之助と戦っていた、三人の中年の男女――リカコ、マキナとカンタ――に突っ込む。
炎のリカコと氷のマキナを、サキが"命熱波"の"ライラ"と"ヴァージニア"を召喚して、応戦していた。
雷を使うカンタも、一平と龍之助が炎と水の"疑似物理現象"で、動きを封じていた。
中年三人組が――サキ達に背を向け――三条の後に続く。
声にならない叫びを上げる彼らの他に、"政声隊"はいないようだった。
"S.P.E.A.R."の代表である、秋津の姿も消えている。
ただ、"白い少女"――"レン"――が残り、青銅色の嬰児を見下ろしていた。
その眼差しはどこか満足そうで、口の端を吊り上げている。
"レン"の眼に映る"青銅色の嬰児"が移動を始めた。
「ハイハイで進んでいる!?」
シャロンが叫ぶ先にあるのは、サキ、一平と龍之助。
彼らのいる場所は、市役所の駐車場の南側でその出口――つまり、市役所周りの商店街だった。
「腕の逞しい赤ん坊だな」
「そのガッツは買いたいね……二度と、戦いたくないけど!!」
ロックの言葉に、青銅色の嬰児を追うサミュエルが答えた。
「ついでに言うと、街へ侵入されないために、ガッツを示せ!!」
ブルースの言葉に続いて、ロックも青銅色の巨大嬰児を追った。
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