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【完結】クリムゾン・コート・クルセイド Vol.Ⅱ ”平和たる軍靴"  作者: アイセル
第三章 Obstacles

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敵対―⑬―

当作品の無断転載、AIを含めたあらゆる二次利用を禁止します!!

Do not reupload / use my writing for any purposes, including for AI!!

4月15日 "船の墓場" 上万作(あまんさく)市と伊那口の境界 午前5時27分


――まだまだ、かよ……。


 斎藤 一平は、前を見据える。


 色褪せ、表面の傷ついた机。


 その下に、掌より少し大きな珈琲缶が落ちていた。


 珈琲缶から立ち上る、硝煙。


 一平は、缶を拾い上げる。


 命中して穴を開けると言うよりは、その脇を抉(・)っ(・)た(・)という方が正しかった。


――あ(・)の(・)時(・)は上手くいったけど……。


 一平は、両手に付けた得物に目を落とす。


 肘にまで達する、手甲。


 "ライオンハート"という名前らしい。


 手甲と一体となった軽機関銃の銃身からは、珈琲缶とお揃いの硝煙を吐き出していた。


――まあ、当てやすかったのは人(・)が(・)的(・)だったし……何より素(・)人(・)だ(・)っ(・)た(・)。


 一平の脳裏に浮かぶのは、先日の上万作(あまんさく)学園の校門での乱闘。


 "政市会"と"政声隊"に囲まれたロックを助けた時を思い出す。


 だが、


――今の力じゃ足りない!!


 それより前の記憶を遡る。


 妙な一対の鉄球を操る男と龍之助の戦い。


 そ(・)れ(・)以(・)前(・)に、妙(・)な(・)武(・)器(・)を(・)持(・)っ(・)た(・)二(・)人(・)組(・)と戦(・)っ(・)た(・)時(・)。


――龍之助は、も(・)っ(・)と(・)強(・)い(・)。


 今の自分では、隣(・)に(・)立(・)つ(・)ど(・)こ(・)ろ(・)か正(・)面(・)に(・)立(・)つ(・)こ(・)と(・)す(・)ら(・)、儘(まま)ならない。


 だから、助(・)け(・)ら(・)れ(・)な(・)い(・)。


 そう思考する一平は、内の焦りに蝕まれていることに気づいた。


 両腕を広げ、新鮮な空気を入れた。


 春のこの時間となれば、朝日は顔を出している。


 しかし、太陽の位置はそれほど高くない。


 身体を包む、冷涼な空気を吸う。


 脳に浮かべるのは焚火。


 薪を動かしつつ、火種に空気を入れる。


 そして、火の弾ける音を思い浮かべた。


 鮮やかになった炎の色が、自らの脳裏を染め始める。


――さて、身体を動かして――!?


 一平の背筋に走る、鋭く冷たい感覚。


 下半身の軸を中心に、瞬時に振り返った。


 考えるよりも速く、右手甲に付いた銃口を突き出す。


「鋭くなりましたね」


 一平の目の前に立つのは、"インヴァネス・コート"を着た男。


 首筋までの長さの後ろの髪、前髪を切り揃えた二十代くらいだ。


 彼(・)と(・)の(・)対(・)面(・)は(・)初(・)め(・)て(・)で(・)は(・)な(・)い(・)。


 しかし、会えば会うほど、沼(・)というよりは月(・)夜(・)の(・)海(・)を思わせる深みを感じた。


「なあ……あんた、いつも思うんだけど、普通に声掛けらんねぇの?」


 一平は身体を支配する冷気を、吐き出すように言った。


 ついでに、警戒感から来た徒労感も追い出すように努める。


「……僕としては普通にしているんですけど……何を話せば良いのか、考え込んでしまって……」


「普通にこの時間なら、『おはようございます』とかで良くない?」


 "インヴァネス・コート"の男のぼやきに、一平は頭に浮かんだことを言うが、


「言おうとすると力んでしまうというか……」


「待て待て待て!! 根本的なこと聞くけど……い(・)つ(・)か(・)ら(・)い(・)た(・)の(・)?」


 "インヴァネス・コート"の男の答えに恐る恐る一平は聞いてみたが、


「……三分ほど前でしょうか?」


「話しかける時間、長くね!?」


 男の回答に、一平の声が思わず上擦った。


「ついでに言うと、相手を妙に警戒させてしまうと考えてしまい……」


「人に力(・)ん(・)で(・)い(・)る(・)の(・)が(・)伝(・)わ(・)っ(・)ち(・)ゃ(・)っ(・)て(・)る(・)よ(・)、それ!?」


 下手な大人よりも深(・)み(・)を(・)感(・)じ(・)さ(・)せ(・)る(・)男の思わぬ告白。


一平は、埋めようのないギャップに思わず頭を抱えた。


「――俺、"コミュ力"って有(・)っ(・)て(・)無(・)い(・)よ(・)う(・)な(・)ものは、教えられないんだけど……というか、何の用……その告白に来たの?」


 一平はインヴァネス・コートの男に聞いた。


 一平の経験上、男が悩みを打ち明けに、わざわざ早朝からこ(・)ん(・)な(・)場(・)所(・)に来ることが想像できない。


「いえ……訓練。どうかな、と思いまして?」


 インヴァネス・コートの男が指すのは、硝煙の冷めない、一平の両腕に付けた手甲。


「ああ……特に、不調とかじゃないけど……」


「……使いにくい、ですか?」


 一平の言葉をインヴァネス・コートの男が続くが、


「使(・)い(・)に(・)く(・)い(・)というよりは、使(・)い(・)ど(・)こ(・)ろ(・)が広がらないというか……戦略の幅が広げられない、のかな?」


 一平は言葉を選びながら、言った。


「つまり、珈琲缶の真ん中を撃とうとしても、逸(・)れ(・)る(・)っつうか……」


「反動ですか……例え、拳に装着するとしても銃ですから避けられませんが……骨(・)が(・)折(・)れ(・)る(・)程の無茶をしてませんか?」


 "インヴァネス・コート"の男の目に映る一平は、眉間に皺を寄せている。


「龍之助は……あいつは、道具や技術を過信しない……色んな戦い方を研究するような奴だ」


 一緒にいたから、わかる。


 龍之助は、学んだ技術は大体使ってみて、すぐに長所と短所を分析した。


 そして、すぐに自分のモノにする。


「あんたから、こ(・)の(・)武(・)器(・)……"ラ(・)イ(・)オ(・)ン(・)ハ(・)ー(・)ト(・)"を(・)貰(・)っ(・)た(・)。いい場所も教えてくれたしな……感謝しているぜ」


 一平と"インヴァネス・コート"の男の周りを、廃棄され潰された車が囲む。


 どこかの引(・)き(・)払(・)っ(・)た(・)ガ(・)レ(・)ー(・)ジ(・)跡(・)地(・)のようだった。


 そう考えるのは、"船の墓場"が"B.L.A.D.E(ブレイド)"地区という行政の空白地域に面しているからだろう。


 当初、一平たちのいる場所の一帯は、海の見える景色が評判で、港も活気に満ちていた。


 だが、"白光事件"により転機が訪れる。


 それにより、住民たちの大半は昏睡状態に陥った。


 日本政府により、事故の調査を行う委員会が設立。


 そう言った住民たちを治療、経過観察をするために、上万作(あまんさく)の一部と伊那口が隔離された。


 安全性の確認のため、異常のない住民も県外に避難せざるを得なかった。


 同時に上万作(あまんさく)の一部と伊那口が、人(・)の(・)住(・)む(・)場(・)所(・)で(・)は(・)な(・)い(・)という誤ったメッセージも送ることになる。


 漁師やヨットの所有者などは風評被害を受け、生活ができなくなったこの地を離れざるを得なくなった。


 当然、その影響は小売り、車関係に行政等のインフラにも影響が及ぶ。


 それらが離れた空白地域を"B.L.A.D.E."というそれぞれのアルファベットを翳すチームが支配下に収めた。


 その結果、平(・)和(・)を(・)重(・)視(・)す(・)る(・)住(・)民(・)か(・)ら(・)無(・)視(・)さ(・)れ(・)、人の寄り付かない場所を作り上げた。


 だが、五つのチームも、一(・)帯(・)に(・)全(・)て(・)に(・)目(・)や(・)耳(・)を(・)つ(・)け(・)て(・)い(・)る(・)訳ではない。


 一平は、誰(・)に(・)も(・)目(・)を(・)付(・)け(・)ら(・)れ(・)な(・)い(・)修練場を目の前の男から得ることになった。


「誰もいないから、この武器を使って、訓練もできる。バイト帰りだけど」


「確かに。新聞配達ですからね」


 "インヴァネス・コートの男"が、一平の言葉に頷いた。


 もっとも、父と姉から許可されたアルバイトが、新聞配達だけなのだが。


 服飾、スーパーにファストフード店も出来たが、そちらは昼から夜なので、学業に支障が出る。


 特に勉強の時間が確保できない。


 友人たちとの時間も減る。


 必然的に、それらの支障のない範囲で出来るのが、新聞配達だけだった。


「知り合いの眼につかないからな……でも、あんたからこれだけ与えてもらってんだから……龍之助の眼を早く覚まさねぇと……」


 目の前の男から貰った、武器と修練場。


 全てが、龍之助に通じる。


 だが、成果が自覚できない。


 あの時、弱(・)さ(・)か(・)ら(・)拒絶してしまった友に応えられるのか。


 それがわからないのが、一平の焦りの大本だった。


「しかし、初めての時でも"スコット決死隊"の二人を退けられたのは、見事でしたが……」


 "インヴァネス・コートの男"の言うことも、一平は分かる。


 筋はあるというのも。


 だが、


「時間が無い……そうこうしている間にも、アイツとの距離は開くばかりだ」


 一平が思い出すのは、あ(・)の(・)時(・)の(・)弱(・)さ(・)。


「強くなって……アイツを肯定する……もう逃げない」


 "インヴァネス・コートの男"の眼に映る、一平の鋭い眼差し。


 男がため息を吐きつつ、


「……あなたの望みに応えられるか分かりませんが、一(・)つ(・)方(・)法(・)が(・)あ(・)り(・)ま(・)す(・)」


 "インヴァネス・コートの男"の一言に、一平は首を傾げた。


「誰(・)か(・)と(・)戦(・)え(・)ば(・)良(・)い(・)で(・)す(・)……龍之助君の予行演習で」


「いや、相手がいないだろ……あの時の大乱闘だってメインと言うよりは、援護だったし。それに相手は素人集団。龍之助は格闘戦の達人だぜ?」


 "インヴァネス・コートの男"のあっさりとした提案に、一平は根本的な疑問を投げかける。


 龍之助との事情を話したら、彼は二(・)つ(・)返(・)事(・)を(・)待(・)た(・)ず(・)に"ライオンハート"をくれた。


 しかし、物分かりが良いが、どこか事情に疎い。


 場違いとも言える提案を男から言われて、一平は思わず頭を抱えた。


「……いるじゃないですか、先日あ(・)な(・)た(・)と(・)一(・)緒(・)に(・)戦(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)人(・)が」


「……もしかして、ロックのこと?」


 一平が思い出したのは、先日SNSの連絡先を交換したクラスメイトである。


「確かに強いけど……俺と同じ――」


「"命熱波(アナーシュト・ベハ)"を持っていて、"命導巧(ウェイル・ベオ)"も使えますよ……龍之助君と同じく」


 "インヴァネス・コートの男"の言葉に、一平は息を呑む。


 "リア・ファイル"という"超微細機械(ナノマシン)"がある。


 それにアクセスできる特殊な人格をベースにした体内電気が"命熱波(アナーシュト・ベハ)"。


 その力を引き出せる武器が"命導巧(ウェイル・ベオ)"という。


 目の前の男から教えられたことである。


「じゃあ、ロックの馬鹿力は"命熱波(アナーシュト・ベハ)"による強化で」


「本当の実力は底(・)知(・)れ(・)ま(・)せ(・)ん(・)……ついでに、武器のタイプも龍之助君と同じ接近戦です」


 一平は"インヴァネス・コートの男"の言葉を聞き入っていた。


 言葉を反芻すればするほど、奥底の闘争心の励起を感じる。


 しかし、一平の中に疑問が残った。


「あんたが何でそこまで知っているのかはわからんけど……どうすりゃいいんだよ? 実は、喧嘩は売られたことはあるけど、売(・)っ(・)た(・)こ(・)と(・)は(・)な(・)い(・)ん(・)だ(・)よ(・)」


 一平は告白に恥ずかしさを覚える。


 "インヴァネス・コートの男"の顔が若干、困惑の色に染まった。


 しかし、男が、


「でしたら……"私(・)の(・)名(・)前(・)"を(・)使(・)っ(・)て(・)く(・)だ(・)さ(・)い(・)……彼、飛びつきますよ?」


 これまた突拍子のない内容に一平は、肩透かしを覚えた。


 しかし、現状打破が、そ(・)れ(・)し(・)か(・)な(・)い(・)の(・)も(・)事実だったので、


「わかった……"リーネア"は交換しているから、連絡できないわけじゃないしな……」


 それから一平は恥ずかしそうに、


「実をいうと、俺もアンタの名前……聞くの忘れていたからな……名前、なんていうの?」


 名前を聞くよりも、一平の事情を深く理解してくれた。


 加えて武器もくれた、物分かりの良すぎる男。


 "インヴァネス・コートの男"が喜々と、


「"ベネディクトゥス"です……ロックは、絶対に来ますよ?」

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© 2026 アイセル

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