敵対―⑪―
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ロックは取り出した携帯通信端末の画面を展開させていく。
サキからの"リーネア"のメッセージを見ると、
『ファンさんの名前を使って、ごめんなさい』
通知を切った後に送られた一通。
サキの顔を見るが、
「……怒っているかと思った」
先程とは打って変わり、サキの中に罪悪感が同居していた。
「どういうことかと思ったら……気にするな」
ロックは携帯通信端末をポケットに入れ、肩をすくめる。
「名前なら、俺がどこかで出してた……それに、思考も流れてきたんだろ?」
ロックの一言に、サキが驚きの表情を浮かべた。
「やはりか……なら、尚のことだ。"命熱波"が強くはないが、繋がっているからな」
ロックの前で、サキの言葉が失われていくのがわかった。
「それだったら、お互い様だ……全てじゃないが、出来た心の繋がりを利用した。お前を助けるという名目でな」
バンクーバーで、サキの"命熱波"を通じて乗っ取る敵がいた。
彼女の精神とも言える"ライラ"と"ヴァージニア"と――それを倒すためとはいえ――ロックは協力した。
無論、サキの無許可で。
きっかけはどうあれ、どこかで咎められるとは思っていた。
「それだったら、私も――」
「いや、むしろ昨日の件はあれで良かった。そうでなければ、あの二人を除いて、その場にいた"政市会"や"政声隊"はおろか、ブルースやアンナも含めた"命導巧使い"にも素手だろうが、殺しにかかっていた……場合によれば、お前との間に立った一平すらも」
ファンの残した意思を"天からの贈り物"の様に扱われたこと。
それが、ロックの心の奥底にある憎悪に火を点けたことも。
しかし、大乱闘の後、サキへの後ろめたさも覚えていた。
自分が一番、"ファン"を理由にしていた事実を目の当たりにしたこと。
それが、サキの前に晒された。
「サキ、止めてくれてありがとうな」
ロックの言葉が、思いもしない反応だったのか、
「……どういたしまして、の方が良い?」
笑顔だが、どこか未消化感を残しながら、感謝を返す。
「それに……ただでさえ、"命熱波使い"には、良い感情はないし恨みつらみもあるからな……」
ロックの言葉に、サキが戸惑う。
「……サキ、ところでさっきから」
戸惑うサキに、ロックはバツが悪そうに彼女の背後を指さす。
振り向いた彼女が、スーパーの陳列棚の影に見えた眼鏡の男を目撃した。
どこか――気まずさと共に――納得したように、ロックと同じくバツが悪そうな顔で棚の影から姿を現す。
男はロックと同じくらいの背丈だ。
眼鏡を掛け、端正な細面から繊細さが醸し出されている。
「ごめん、入りづらかったから見てたけど……お友達?」
ややあって、細面の眼鏡の男性が口を開く。
「そうですけど……」
「……だよね?」
サキが戸惑う様を見て、眼鏡の男の視線が鋭さを増した。
「待て……サキ、もう少しはっきり言え!! そいつから殺気染みた何かがこっちに向いてるぞ!?」
ロックの戸惑う様に、
「冗談だよ」
眼鏡の男がロックに笑いながら言う。
彼はサキの義兄の秀夫と短く名乗った。
ロックも自分の名を言うと、
「ロック君……取り敢えず、後ろの彼も呼んだ方が良くないかな?」
秀夫の指摘に、
「いや……警察を呼ぼう」
ロックは携帯通信端末を取り出し、
「待て待て待てェい!! なんで俺だけ!?」
カートを猛スピードで押し、後輪走行でロック、サキと秀雄の間に乱入したブルース。
「取り敢えず、こいつブルースと言う名の不審者……直に見ると眼をやられるから、二人でいるときは不思議な石と一緒に"滅びの呪文"を唱えて――」
「それ、どこの日本の古典的な天空都市のアニメの展開!? あと、周りじゃなくて、追い詰めた奴しか目をやられないからね!?」
ロックに対して、ブルースが冷遇っぷりに全力でツッコミを入れて来る。
「不審者というのに、訂正を加えなかったから……まあこんな感じだ」
「いや、ツッコミが追い付かないだけで、肯定と受け取らないで!?」
ロックの前で、全力を出し切ったブルースが溜息を出す。
サキが大笑いをして、秀夫も控えめに笑みを浮かべた。
「それより、母さんから連絡が来てね……遅いみたいだからって」
秀夫の言葉にサキが驚いて、
「それだったら、秀夫さん……言ってくれれば良かったのに……」
「そう思ったけど、サキちゃんが金髪碧眼の男の子と話していることを伝えたら、『しばらく様子を見なさい。あと、雰囲気が良くなったら家へ招待しなさい』って来たから」
秀夫の悪戯めいた言い回しに、
「それって、どういう――!! ロック、またあとで送るから――」
ロックとの関係について訂正をしながら、サキが会計に向かう秀夫に続いた。
「……嵐の様だったな」
ブルースの言葉に、ロックは肩をすくめた。
「サキ、元気そうでよかったな」
ロックは、ブルースの言葉に答えない。
ロックは、カートに食品が積まれているのを確認し、押し出す。
「そういえば、"賢人計画"……調べてたな?」
ブルースの指摘にロックは足を止め、
「……都市伝説なんだろ? 人並みに興味はある……」
振り返って、ロックはブルースに言う。
しかし、ロックの目の前に立つブルース。
彼の顔に、いつもの人好きのする笑みはなかった。
ただ、感情のない、極限まで研いだ短剣を思わせる鋭利なブルースの眼差しがロックを貫く。
「おまえが"ブライトン・ロック社"にいる理由は歓迎できるものじゃない」
ブルースがロックを脇に、彼の押していたカートに手を置いて、
「同時に、お前の信頼に足る組織でもない」
ブルースが押しながら、
「……良ければ、ロックとサキ……お前ら二人だけでも――」
「必要ない」
ロックは、断固とした口調で否定する。
ブルースの代わりに、カートを押して会計に向かう。
「俺は、望んでそこにいる……レナを探し出し、"アイツ"に復讐するため!!」
ブルースが何か言葉を背後で言っていたが、ロックには聞こえなかった。
炎を背に笑う"アイツ"。
その顔と、笑い声がロックの周囲を遮った。
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