携帯とアイスクリーム
土曜日。
昨日は夜更かしをしてしまい、今日は二人揃ってお昼近くまで寝ていた。休日だから問題はないが、これが習慣化しないように気をつけておきたいものである。
ブランチは簡単に卵かけご飯、わかめと豆腐の味噌汁と、切ったバナナを入れたヨーグルトで済ませて、俺たちは早速家を出た。
小学校へ続く道にあるバス停からバスに乗り約二十分。辿り着いたのは田舎の有り余った土地を有効活用しているような大きなショッピングモールだ。
一階部分は今回の目的でもある園芸店も入ったホームセンターになっていて、横を見ればドッグラン付きのペットショップなんかもあるような、かなり大きな建物である。
今日は休日とあって人も多い。どこを見渡しても賑やかで、そんな光景にやはりと言うべきか俺と手を繋ぐ子供姿のコン子さんは到着した瞬間から目を輝かせていた。
「からすくん!ひとが、いっぱい!」
「はい。ここは駅も近いですから、電車で来る人も多いんだそうですよ」
「でんしゃ……!」
このモールの広い駐車場を埋め尽くす車や自転車、そしてもちろん電車も、俺たちの世界には無かったものだ。街中で見かけることの多い車や自転車はともかく、電車はまだ俺もコン子さんも乗ったことすらない。
そのうち機会があれば乗ってみましょう、とそんなやり取りをしながらまず向かったのは園芸店ではなく携帯ショップだった。
目的は俺が今使っている携帯をガラケーからスマホに変えること。それからコン子さん用のキッズ携帯を購入すること。
別にキッズ用でなくとも良いのではと俺は思ったのだけれど、小学一年生になりたての子が通常の携帯を持っていたら他の親御さんにも不審がられてしまうとコン子さんが言った為だった。世間体を気にしなければいけないのはこの世界の面倒なところだと思う。
そんな訳で携帯ショップでは合わせて二台の携帯を購入した。
手続きから初期設定までショップ店員さんにお任せし、それぞれ使い方を教えてもらうだけでも約一時間ちょっとはかかっただろうか。それが終わったところでようやく俺たちはこの世界の文明の利器を手に入れたのである。
合わせて購入したネックストラップを付けてスマホ型のキッズ携帯を首から下げたコン子さんは、何故か得意げに胸を張ってふんすと鼻から息を吐き出していた。
彼女曰く、少しお姉さんになれた気分、と。
千年以上も生きているのに。思わずくすりと笑ってしまった俺に彼女はぷくっと頬を膨らませていた。
「すみません。お詫びにアイスでも食べに行きましょうか」
「あいす……!!」
このショッピングモールのフードコートには有名なアイスクリームの店が入っている。俺はコン子さんのランドセルや家の家具なんかを買う為に何度か来たことがあるので、事前のリサーチは完璧だった。
そうしてざわざわと賑わうフードコートに足を踏み入れると、目的の店だけでなく俺たちがまだ食べたことのないものがあちこちに売られているのが目に入ってくる。コン子さんがその一つ一つに興味深そうに目を向けているのを見ながら辿り着いたアイスクリーム屋。行列を作ったその店を見るなり繋いだ手を引っ張られて俺たちは列の最後尾へと並ぶ。
ふと辺りを見渡してみると、この店の周辺は流石に家族連れが多い。俺とコン子さんも傍から見れば親子に見えているのだろうな。と、俺は小学校の入学式とはまた違ったむず痒さを感じていた。
「えっとね、くっきーと、くりーむのやつがいいな!」
「わかりました。ではそれをお願いします」
「かしこまりました!」
しばらく待って順番が来ると、ショーケースの中が見えるように抱き上げたコン子さんが元気よく告げたアイスクリームを店員がにこにこしながらディッシャーで丸く掬って紙のカップに入れてくれる。
最後にひとつでいいかと聞かれたので一瞬考えた後、キャラメル味のものも追加してもらい、支払いを済ませてフードコートの席へ。
すぐさまスプーンを手に取ったコン子さんはわくわくした様子でアイスを掬い、ぱくりと口に含んだ瞬間パッと目を輝かせる。
「ん〜!つめたい!おいし〜!」
緩んだ顔が相変わらず幸せそうで、見ている俺も思わず気が緩んだ。彼女は今住んでいる家から小学校よりも遠い場所へはまだ一度も出ていなかったから。楽しんでくれているようで何よりだ。
ついつい向かい合ったテーブルに肘を付いて顎を支えながらぼんやり眺めていると「たべないの?」と彼女が首を傾げて紙カップを差し出してきたので、俺もそこでようやく手を伸ばす。
「そういえば、からすくんはどうして、きゃらめるをえらんだの?」
「それは……」
キャラメル味を選んだ理由。
確かに俺にはコン子さんとは違って甘いものを好きと思う気持ちは無い。それでも特別甘そうなキャラメル味を選んだのは、抱き上げていたコン子さんの髪が視界にチラついて、似た色だなと思ったからだった。
スプーンで掬ったアイスを見る。とろりととろけ始めたキャラメルはやはり彼女を思い起こさせる色でもあって、口に含んだ時の甘さもなんだか好ましく感じてしまうのだ。
「目が、離せなくなったので」
「め……??」
意味がわからず首を傾げたコン子さんには少し笑って、俺はキャラメルだけでなく彼女の選んだクッキーとクリームのアイスも一口いただくことにした。
こちらは砕いた黒いクッキーを使ったサクサク食感が楽しめるもの。子供が好きそうと思いながら食べた残りを今度は目の前のコン子さんに差し出す。
こうして俺たちは交互に紙カップのアイスクリームをつつきながら、賑やかなフードコートでのんびりとした時間を過ごしたのだ。




