庄条屋〜ただのクラスメイトから親友になるまで〜
私は涌井愛海。
小学校6年生。
私のクラスにちょっと変わった子がいる。
同級生と話すのが嫌い?苦手?で、授業はいつも寝てばかり…
庄条玲奈ちゃん。
「聞いたか?
庄条の話?」
「知ってる!
また、習字で賞とったんだろ?」
「あいつ習字の時間も寝てるし、習ってもいないのに、なんで上手いんだろうな?」
玲奈ちゃんは学校の成績はいまいちだが、習字は上手い。
そんな玲奈ちゃんは先生から特別扱いされてることが一つだけある。
今日の2時間目もそうだった。
いきなり鳴り出す音楽。
スマホだ。
玲奈ちゃんだけは授業中、スマホの電源を切らなくていいことになっている。
「はい、庄条屋です。
…
はい、ご予約、承りました。
…
当日、気をつけてお越しください」
玲奈ちゃんの家は庄条屋という旅館なのだ。
おばあちゃんとおじいちゃんが経営している。
お父さんとお母さんは一緒に住んでいないみたいで、話を聞いたことがない。
4月が終わりかけの頃、玲奈ちゃんは事件を起こした。
授業中、他の教室移動する際、いなくなったのだ。
先生たちは慌てた。
帰ってきたのは5時間目の途中。
先生にどこに行っていたのか相当聞かれたらしいが、玲奈ちゃんは何も答えなかったという。
6時間目の前。
「おい、庄条どこ行ってたんだよ?」
男子が面白そうに玲奈ちゃんに聞いた。
「え?あー…うん…」
いつも通り歯切れの悪い玲奈ちゃん。
私は気づいていた。
彼女の手に何色もの絵の具がついていた事を…
その後、時は流れ、楽しかった夏休みも終わり、夏休みの課題がそれぞれのコンクールで表彰された時、私のクラスに衝撃が走った。
玲奈ちゃんの描いた絵が全国で最高賞をとったのだ。
春の花が咲き誇る小さな丘の絵。
私はその時気づいた。
あの時、手につけていた色と一致していることに。
私は思い切って玲奈ちゃんに話しかけてみることにした。
いつも通り寝ている玲奈ちゃんを揺り起こす。
ぼんやり起きた玲奈ちゃんに私は話した。
「すごいね、あの絵!
いつ、描いたの?」
「え?あー…うん…」
やっぱり玲奈ちゃんは歯切れが悪かった。
しかもそのまま寝てしまった。
ちょっとムカつく。
暑い夏も終わり、台風シーズンが来た頃、私達は修学旅行に出掛けた。
2日目の登山の帰り、予報とは大きく進路を変えた台風が私達の乗るバスを襲った。
雨のせいで前が見えず、やむなく停車。
運転手曰く、
「これは今日は無理かもしれませんね」
車内に
「えー」
と言う悲鳴やため息が広がる。
「私達はバスの中でも平気ですけど、子供たちは流石に…」
そんな先生たちの声が聞こえてきた。
「…ウチの…旅館…来る?」
そう先生に言ったのは玲奈ちゃんだった。
「あーここから…5分で着く…」
玲奈ちゃんの突拍子もない発言に驚いた先生たち。
「ありがとう。
でも、大丈夫なの?」
先生の言葉に玲奈ちゃんは何も答えず、スマホで電話をかけ始めた。
「もしもし、おばあちゃん、私。
今日40人ぐらい泊まれるスペースある?
…
この雨で動けなくなって…
近いんだ。
…
ありがう、すぐ行くね」
電話を切った玲奈ちゃんは、先生たちに笑って見せた。
「大丈夫、だって。
常連さんと外国人のカップルだけだから、大部屋2つとも空いてるって」
なぜだろう…
いつもより饒舌だ。
先生たちは決断した。
今日は玲奈ちゃん旅館にお願いすることにしたのだ。
5分しかかからない道を20分かけて走る運転手。
その間に、先生たちは保護者にこのことを伝えていた。
旅館に着いた。
驚いた。
こんな山の中腹にこんな大きな宿。
「いらっしゃいませ」
「すいません、突然」
玲奈ちゃんのおばあちゃんと、先生たちが言葉を交わす。
その間に玲奈ちゃんと客室係のお姉さんたちがせっせと私達の荷物を運んでいた。
「さあ、寒いでしょう、上がってください。
すぐに夕食にしましょうね」
玲奈ちゃんのおばあちゃんに案内されるがまま私達は旅館の中に入っていった。
囲炉裏が一つに長机が4つ。
奥の大部屋の机には私達の夕食が着々と準備されていた。
「おお!若女将!
とんだ、修学旅行になっちまったな」
「そうなんだよ。
てか!千さん、また酔いすぎ!」
「これはほろ酔いって言うんだよ」
「じゃ、もっと飲む?」
「おお!
お酌してくれ」
学校とはまるで別人の玲奈ちゃん
「Excuse Me」
「はい」
「オサケ、クダサイ」
「どれにしますか?」
お酒のメニュー表を外国人のカップルに見せる玲奈ちゃん。
それからすぐに私達の夕食も始まった。
岩魚のお刺し身なんて初めて食べた。
美味しかった。
即席で用意したとは思えない美味しさに私達は感動した。
次の日の早朝。
玲奈ちゃんは外で飼っている犬の餌やりをしていた。
「すごいね、この旅館!」
私は玲奈ちゃん話しかけた。
「ありがとうございます」
そう言って玲奈ちゃんは私に初めて笑ってくれた。
「あの絵のこと…」
玲奈ちゃんは急に話しだした。
「あの絵の場所…お母さん…お父さん、死んだとこ…」
「えっ?」
「あの花…咲く時、死んだ…
あのとき…答えなくて…ごめん」
あっ…
私の目からは涙が流れいた。
その日から私達は親友になったのだった。




