この町で、僕の名前を知っているのは君だけだ。version1.1
だいぶ省略しまくってる簡易粗雑版。
かなり適当だけどお手柔らかに。
一章 転校生と、夜道の少年
霜月綾見、16歳。
先月、両親を事故で亡くした私は、父方の祖母の家で暮らす事になった。
東京からバスと電車を乗り継いで四時間。
山に囲まれた、町とも村とも言い難い静かな辺境の集落に到着した。
静かすぎて、耳鳴りがするほどだった。
家の前で"祖母が待っていてくれた。"
「大変だったねぇ…、一番辛いときに一緒にいてあげられなくてごめんねぇ。でもこれからはおばちゃんが傍にいるからね。」
「ありがとう…。疲れたからちょっと眠るね」
そう言って用意してもらっていた部屋に入ると、胸の奥がじんわりと痛んだ。 頑張って受験して、好きな人と同じ学校に通えたあの幸せな生活は一瞬で壊れた。
家族も、日常も、全部。
織山高校。この辺境の地にある唯一の高校。
明日からはこっちで新しく織山高校に通う事になっているが。
(明日、学校行きたくないな…)
「はぁ…。」
そう溜息を連発している、いつの間にか眠りに落ちていた。
「22時!?流石に寝すぎた…。」
気づけば夜の十時。
部屋の机の上にはラップがされた夕飯が置いてある。
もう完全に冷め切っているだろう。
(気を遣わせちゃったな…今更か)
食べ終えた後、窓の外を見る。
真っ暗な山影が道の先を覆っている。
(…気分転換に、学校の場所だけ見ておこうかな)
スマホのライトを頼りに、荒れたアスファルトを歩く。
季節は9月、なのに虫の声も風の音も無い。
自分の足音だけが静寂と闇に沈んで消えていく。
北に向かって10分程歩いた時だった。
ガッ…ガッ…
暗闇の一本道、その奥から誰かの足音が近づいてくる。
ライトもつけずに夜道を歩いているようだ。
(なんでライトも無しにこんな時間のこんな暗い道を!? ダメだ、怖すぎる。………いや、もうどうでもいいや)
死にたいほど心が擦り減っていたせいか、恐怖より先に諦めがあった。
足音の主は、やがて視界に入った。
同い年くらいの少年。学生服をきている。
黒髪が闇と同化し、歩行にあわせて揺れている。
なぜだろう。話しかけなくてはいけない気がした。
「あ、あの…織山高校の生徒さんですか?」
(やばい、声が震えている…これじゃあ私が不審者みたいじゃん…)
少年は足を止め、目を細める。
「……?」
「あ、ご、ごめんなさい!今日引っ越してきた霜月です…明日から織山高校にお世話になる予定で…」
言葉が空回りする。
自分が不審者じみてきて焦った。
少年は淡く笑い、首を傾げた。
「そっか。霜月さん…今日はもう帰ったほうがいいよ。夜道は獣や…そう、幽霊がでるから…」
「え、でるんですか?獣はともかく…幽霊だなんて、あはは…」
「うん、それじゃあまた明日ね」
それだけ言って歩き去る。
会話は素気ないのに、不思議と嫌な印象はなかった。
(…でるとか言っておきながら、送ってくれたりしないんだ。田舎ってこんなものなの?)
だけど、胸の奥がほんの少しだけ温かくなった。
二章 孤立した少年と、静かな学校。
翌日。
織山高校の正門に立った瞬間、胸の奥にひやりとした感覚が走った。
校舎が、あまりにも静かすぎる。
生徒の声がしない。
鐘の音も、靴音も、生活の気配がほとんどない。
古い木造の校舎。
廊下に差し込む光は弱く、埃がゆっくり舞っている。
まるで、長い間使われていなかったような空気。
職員室を探し、扉を開ける。
「……え、ここ、職員室、?」
狭い。まるで冷たい倉庫のようだ。
古びた机にパソコンは3台だけ。
薄暗く、蛍光灯が弱く点滅している。
壁に貼られた行事予定は、六月のまま止まっていた。
「誰も…いませんか?」
どうやら誰もいないようだが、コーヒーを淹れたであろう残り香だけが、漂っていた。
(…変な学校)
嫌な感じはしないのに、”薄い”
そんな印象だった。
二階に上り、廊下をゆっくりと歩く。
教室を通り過ぎようとしたとき、ふと見覚えのある横顔をみつけた。
(昨日夜道であった人だ、やっぱりここの生徒さんだったんだ。)
5人しかいない教室。
なのに彼だけが、教室の空気から浮いて見える。
その時、背後から声がした。
「もしかして、霜月さんですか?よくここがわかりましたね」
「えっ…あ、はい」
「担任の尾上です。よろしく」
尾上先生は、妙に親しげで、不自然に柔らかい笑顔を向けてきた。
その優しさは嬉しいはずなのに、どこか”作り物”のように感じた。
転校生として紹介された後、好きな席を選ぶよう言われた。
どうやらこのクラスでは人数に対して席が多いようで、とくに指定がないそうだ。皆もその日その日で自由に席を変えているのだとか。
私は窓際の席を選んだ。
すると、斜め前から視線を感じた。
「僕、鷹松京平。よろしく。昨日は無事帰れた?」
「うん、言われた通り直ぐ帰ったよ。
というか…京平君から話しかけてくれるなんて意外だね。」
(やば……また余計なこと言っちゃった。)
京平はくすっと笑った。
「自分でもそう思う。久しぶりに、人と話したから……」
いじめ?ぼっち? 転校生が彼と話しているのに視線を感じない。
無視されているいというわけでもなさそうだけど。
そんな違和感が芽生えていた。
授業はゆっくり進んだ。
生徒数が少ないせいか、妙に静かで、教室の温度さえ一定で不気味なほど整っていた。
放課後、帰路につこうとしていると、京平が声をかけてきた。
「今日、どうだった?この学校。友達とかは……もうできた?」
「まだだけど、人が少ないからかな、ちょっとは慣れたと思う」
「じゃあ……。僕が、友達1号でもいい?」
その時の淋しそうな笑顔は、
どこか昔好きだった人の表情に似ていた。
(……あぁ、だから安心するのかも)
私は頷いた。
「うん。よろしく」
沈みゆく金色の夕日に照らされながら、
二人並んで帰路についた。
そういえば、京平くんは家、私と同じ方向なのかな?
昨日の夜は何をしてたんだろう。
疑問に思うが、いはまだ、言葉にできない。
温かいのに、何かが足りない。
そんな道のりだった。
【※この先日常ストーリーは全カット(致命的)】
三章 名前のない少年
織山高校に転入してから、早いもので三か月が過ぎ、秋も終わろうとしていた。
そのころ、違和感は胸にささるような、強くなり始めていた。
ーー京平が、私以外の誰とも話していない。
それどころか、”誰にもみられていない”。
生徒と話している姿はおろか、担任とさえ話している姿を見たことがなかった。
翌日、思い切って同じクラスの女子に尋ねてみた。
「ねぇ、京平くんって、どうして誰とも話さないの?
もしかして、私が転校してくる前に、何かあった?」
女子は目を丸くした。
「………ごめん、誰それ?」
「えっ、さっきも居たじゃん……窓際に座ってた。私とだっていつも話してる。見えてたでしょ?」
「そうなの?ちからになれなくてごめね、ほんとに見たことないんだ。
先生なら知ってるんじゃないかな?」
彼女の表情は”嘘をつく”それではなかった。
本気でわからないという顔。
放課後、私は職員室へ向かった。
「尾上先生、私たちのクラスに、この学校に……鷹松京平って生徒、いますよね?」
「?……いやぁ、聞いたことないよ。こんな小さい学校だからね、居るなら覚えてるはずだけど。」
(……あ、そうなんだ)
すんなり納得しそうになった自分に怖くなる。
「霜月さんはご両親を失って、きっと心が疲れてるんだと思う。
無理しなくていいよ、しばらくゆっくりしてるといい」
優しい声。
優しい表情。
”考える余地”を与えない言動。
(……この町の人、みんな優しすぎない?)
胸がざわざわして、息が苦しくなった。
私は走りだしていた。
京平を探さなきゃ。
あの穏やかな笑顔に縋りたかった。
京平の家は知らない。
京平の帰り道も知らない。
ひたすらに、町を走りまわった。
(どうして知らないの?毎日一緒に帰ってたのに)
深夜1時。
この町で深夜徘徊をするのは、初めて京平に会った日以来だろうか?
あの日からいままで深夜に外にでなかったのも、
京平が「獣が出る」「幽霊がでる」と教えてくれたからだった。
(探さなきゃ)
視界の端で”何か”が動いた。
用水路から伸びる、傷だらけの、見覚えのある手。
急ぎ走ってその場をはなれるも、こんどは目の前の林から首のない見覚えのあるスーツ姿の男が。
血の涙を流すかかし。
だれかの顔を連想させる人面の蛾が空中を舞う。
「…なに……これ、」
動けない。
声も出ない。
その時。
「霜月ーーーー!!!」
京平の声。
振り返ると、その姿があった。
京平の姿を注視しているうちに、周囲の怪物はいつの間にか消えていた。
「大丈夫?けがはない?
霜月、夜は出歩かないほうがいいって言ったよね。」
私は叫んだ。
「京平……っ!
ねぇ京平……あなた、本当に、居るの?」
京平は息を整え、ゆっくりと近づいてくる。
そして静かに言った。
「霜月、知ってる?
この町で、”僕の名前を知ってる”のは、霜月だけなんだよ。」
胸が酷く痛む。でも……
「気づいてたよね?
霜月は頭がいいから」
京平の口から、私の考えてるセリフが淡々と発せられる。
私の頭に流れる。
(おおよそ、霜月の考えてることで正解だよ)
京平は言う。
「おおよそ、霜月の考えてることで世界だよ」
私の頭に流れる。
(ごめんね、今まで黙ってて。でも霜月が気づいたうえで、僕との生活を楽しんでくれてるって、信じたかったんだ。)
京平は言う。
「ごめんね、今まで黙ってて。でも霜月が気づいたうえで、僕との生活を楽しんでくれてるって、信じたかったんだ。」
私は想う。
(ほら、やっぱりだ。ぜんぶ先読み出来てしまう。)
京平は言う。
「ほら、やっぱりだ。ぜんぶ先読み出来てしまう。)
私は想えない。
(京平は、私の……)
京平は断言する。
「京平は、私の、霜月の思考を喋るだけの人形だ」
世界が崩れる音を聞いた気がした。
私は膝から崩れ落ちた。
体が震える。息ができない。
限界まで力んでるのに、力がでない。
(私が…作ったんだ……願望で……)
その時。
京平が私の肩に腕を回し、抱きしめてくれた。
温かかった。
存在しないくせに、ずっと恋しかった温度だった。
「 …… 霜月 ……… …… 大好きだよ ……」
どこまでも静かな世界で、微かに聞き取れる声量で、確かにそういわれた気がした。
そしてそれは、
私の願望でもあり、
”彼自身の言葉”であると、信じられた。
「京平…ありがとう………
すごく楽しかった……、大好き……」
世界は完全に崩れ、真っ黒な無へ沈んでいく。
抱きしめる京平だけが、まだ残っている。
京平の口元が、微かに上がる。
涙を拭うように瞬きを終えると、そこに京平の姿は無く、私の意識も途切れた。
終章 名前を憶えているのは、私だけ
思わず声が出る ”眩しい”
目が慣れ、視力も戻り、視界が広がる。
「知らない天井だ。」
消毒の香りが鼻を突く。
看護師らしき人達が、慌ただしく動いている。
全部…夢だった。
でも顔を濡らす涙だけが現実だった。
私は三か月間昏睡していた。
父は頭を失い即死。
母は最期まで私の心配をし、手を伸ばしながら死んだらしい。
祖母も、実は事故の後直ぐに、精神的ショックで急死してしまったらしい。
織山高校は実在していた。
というか、以前祖母宅にお邪魔したときに知っていた。
生徒とは面識は無かったハズだが、4名。
名前は少し違うけど、容姿や表情、特徴などが完全に私の”夢”にでてきた4人と一致していた。
でも…その名簿に、”鷹松京平”の文字は無い。
ホームページの数少ない集合写真の中にもその存在は、無い。
三月。
私は祖父母の残した持ち家で暮らす事に決めた。
東京の賃貸では生活できないからだ。
最後に東京の学校に顔を出した時、
笑った顔が京平によく似た男子を見つけた。
来月からは、正式に織山高校へ通う。
夢の町と同じ名前の学校。
景色の中に京平は居ない。
でも私は想う。
ーこの町で、京平の名前を知っているのは、
これからもきっと”私だけ”なんだろうー




