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プロローグ

新人

照りつける陽射しがアスファルトを白く揺らめかせていた。遠くで蝉が鳴き、どこからか風鈴の音がかすかに混じる。夏の匂いが胸いっぱいに広がる午後だった。

通学路の脇を流れる小さな川の水面が、光を跳ね返してきらきらと輝いている。立ち止まって眩しそうに目を細めると、汗がこめかみを伝って落ちた。

ポケットの中では、スマートフォンが微かに震えていた。画面には

「海、行かない?」

の文字。送り主は幼なじみの麻里奈だった。毎年この時期になると、彼女は決まってそう言う。去年も、一昨年も、そして今年も。だが、どこか違う予感が胸の奥にあった。

午後三時、約束の藤沢駅前。ロータリーのベンチに腰掛けると、夏特有の湿った風が頬を撫でた。人々の服装も軽やかで、通りすがる誰もが楽しげに見える。麻里奈は少し遅れてやって来た。白いワンピースに麦わら帽子。手にはコンビニのアイスが二つ。彼女が笑って一つ差し出す。

「ほら、溶ける前に食べよ」

僕は言われるままにアイスを受け取り、隣に麻里奈が腰を下ろす。

「ん~!夏に食べるアイスが一番美味しい!」

そう言い彼女は話すまもなくふたについたアイスまでを食べ尽くした。しばらくしてから街を通る路面電車の駅に向かい、ホームで電車を待つ。

「この歳になると時間が過ぎるのもあっという間だね~」

「おばあちゃんか。」

「うふふ」

そんなたわいもないはなしをしていると、アナウンスと共に電車がやってきた。

電車に揺られて十五分。窓の外は次第に緑が増え、都会の喧騒が遠ざかっていく。

蝉の声が濃くなり、空はどこまでも青く澄んでいた。やがて海の匂いが漂い始め、潮風が髪を揺らした。駅を降りると、すぐに波の音が聞こえた。車一台が通れるような狭い路地を五分ほど歩き海辺に出る。砂浜は真っ白に光り、足を踏み入れると熱を帯びていた。

「ねえ、覚えてる?」麻里奈が波打ち際で言った。

「小学生のとき、ここで貝殻集めしたの。あのとき、相馬が見つけた青い貝、今でも部屋にあるんだよ」

その言葉に、胸の奥が少しだけ痛んだ。あの頃、二人は何も考えずに笑っていた。

時間が止まっているような、永遠の夏だった。けれど今は、少しずつ何かが変わっている気がする。麻里奈の横顔を見つめながら、僕はその変化に名前をつけられずにいた。

夕暮れが近づくと、空は朱色に染まり、波の色もやわらかく変わっていった。

 二人で並んで座り、沈む太陽を見つめた。麻里奈がふと呟いた。

「来年も、また来ようね」

僕はうなずいた。でも、心のどこかで、その約束がもう二度と果たされないような気がしていた。

夏の光は、あまりにも眩しすぎて、真実を隠してしまうから。

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