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高級宝石店ラブオウ


三日後、高級宝石店ラブオウ。



ルイが店長のラブオウに頼んで、水色の宝石を探してもらっている間、アイラという店員に他の宝石を見せてもらっていた。


キラキラと光る宝石の数々、それに癒されながらルイは離れた場所のラブオウに声をかけた。


「店長さん。私ね、もうすぐこのフェルミの街を出るつもりなの。お世話になったから、お買い物のついでに伝えておこうと思ってこうして会いに来たんだよ」


「え?そうなんですか」


旅人なのは聞いていたのだが一年ぐらいは滞在すると思っていたラブオウは驚く。高価な宝石を何度も買うので、そんなに早くいなくなるとは思っていなかった。


ルイは説明を続ける。


「色んなものを買うのが好きだから長居はしたくないの。まだ買いたいものが沢山あるけど、それは今度来た時に買うわ。その時はよろしくね」


「残念ですが、旅のお方ならそういうものですよね。またいつでもお寄りください」


ルイは頷いてからアイラの出してくれた宝石に目を移す。

その中から三つ取り出して横に置いた。


一つは丸い銀色の金属の上に小さな発光した石が埋められ、それを覆うように黒く透けた宝石が設置されている。


まるで闇夜の中から照らされるランタンを見ているようだ。


二つ目は小さいが透き通った薄紫色をした宝石をひし形にカットし、二つの円盤が周りを囲むように付けられ、そして円盤にはダイヤモンドに似た宝石が散りばめられている。


薄紫色の宝石はファラレアという名前で、採掘量は多く、かなり出回っているので、大きいものも普通に店頭に並んでいた。


三つ目はトリリアントカットされた三角形の青緑色の宝石で名前はサフィニアと言い、発見した人の妻の名前がついている。近頃発見された認知度の低い宝石なので、付けている人がまだ少ない希少価値のある宝石らしい。


まぁ私は気に入れば希少価値なんて関係ないし、デザインが嫌いなら買わないけどね、とルイは思った。


「これを下さい」

「全部で二十二万カイルになります」

「箱には入れなくてもいいわ。このまま置いておいて」


収納魔法が使える事を知っているアイラは、ルイの言う事に頷いてラブオウが戻ってくるのを静かに待っていた。


そうしているとラブオウがやってくる。


「お待たせしました」


ラブオウが並べてくれたのは目にも鮮やかな水色の宝石で、五種類ほどあったが、ルイは一つのネックレスに釘付けになっていた。


「空の色ね。美しいわ」


まるく亀の甲羅のようにカーブした、カボションカットの宝石で長さは150ミリぐらいある。

見ているだけで心が癒されるようだ。


「これはおいくら?」

「百三十万カイルになります」

「本当のお値段は?」


ルイが聞くが店長は微笑むばかり。


「ありがたく買わせていただくわ」


好意に甘える事にしたルイは、ちょうど良かったので自分もプレゼントを渡す事にする。


「じゃあ、店長。私からも受け取ってね」


収納魔法から青い縦長の箱に金色のリボンのついたプレゼントを取り出す。


「これどうぞ。今まで無茶言って叶えてくれたお礼よ。私が作ったものだから価値なんてないけど気持ちだけ受け取って。私、こういうの作るの不器用で全然うまくいかなくて、最終的には素材だけになっちゃったけど、使えるから許してね」


「良くわかりませんが、どんなものでも私の為に作ってくれたものなら嬉しく思いますよ」


ラブオウは笑顔で箱を開ける。するとその中には白く滑らかな石のようなものが一つ箱いっぱいに入っていた。


何か分からないラブオウとアイラは目を点にしてそれを観察している。


「これは・・・なんでしょうか?」


首をかしげながらラブオウは指で触った。


石に穴があり、そこに強引に銀色の太いチェーンが入っているので一応首飾りのようだが、子供の手の平サイズの大きさがあるので首にかけたら間違いなく肩がこりそうだ。


ルイは言う。


「いやぁ、かなり削ったんだけど中々うまくいかなくて、へし折って小さくしたり、色々とやってみたんだけど表面を滑らかにしたそれが一番うまくできたという訳なの。肩が凝るようにも見えるけど癒しの効果の方が強いから大丈夫だと思うわ」


「癒しの効果・・?まさかこれは・・」


ラブオウは海の深い場所にいる白い盾を背負ったデルミデイナという狂暴な生物を思い出す。その盾には癒しの効果があり、怪我を負っても直ぐに復活する深海の魔海獣だ。


「デルミデイナの盾を掴んだら取れちゃってね。本体は直ぐにどこかへ行っちゃったから返す事もできなくて。

また時間が経てば盾は復活するみたいなんだけど、大きくなるのに時間がかかるみたいで小さな盾しか持っていないものもいたわ」


思いだしている様子のルイに、ラブオウは頷く。


「これが・・・」


珍しげに品物を手に取ってみると、少し暖かい感じがするのでこれが癒しの効果が発動している証しなのかもしれない、とラブオウは考えていた。


「本当はもっと大きかったけど作るのに失敗している内に小さくなって、最終的には店長の持っているサイズになったの」


そう言ってルイはラブオウの持っている首飾りを見る。


「それは本当に小さくなりましたね」


ルイの言葉が本当なら2メートル以上はあったはずで、取引所で売買するなら一億カイル以上はする。しかしほとんど市場には出てこないので値段があるだけで取引はされていなかった。


それがラブオウのプレゼントの為にこんなに小さくなっている。形も歪だが市場には出ないので値段は不明。効果も癒しと言っているだけでどんな効果があるのかはまだ解明されてはいない。


ごく稀に波打ち際に流れ着く時があるが、それは削れて丸くなっており、効果もほとんどなくなっている。取引の値段は二万カイルくらいだった。


しかしラブオウの目の前にあるものは、捕ってからそれほど経っていない貴重なものだ。

もらい過ぎたと普通は考えるが、相手は作る為に癒しの盾を破壊した存在で、空間収納の中にはその残骸が入っているだろう事は聞かなくても分かった。


一旦落ち着いてからラブオウは微笑む。


「ありがとうございます。大切にしますね」


その後、ルイは全ての支払いをすませて、満足そうに店から出た。








ーーーー



夕方、店長のラブオウは専用の馬車に乗り、家に帰る。

高級住宅地には白いオシャレな邸宅が並んでおり、その一軒に馬車は止まると、門が開き中に入っていった。


ラブオウが玄関先まで歩いて行くと、妻のリンディーが待っている。首元までしっかりと隠れた白いブラウスに、ふんわりとした紺色のロングスカート姿だ。


「お帰りなさい、あなた」

「ただいまリンディー」


リンディーは優しくラブオウの頬にキスをする。それにラブオウも返した。


「今日も何事もなかったかい?」

「ええ、学園で楽しかったとルエナは言っておりました」

「それは良かった」


ラブオウとリンディーが話していると、娘がラブオウに気づいて走ってくる。


「パパー、お帰りー」

飛びつく娘を受け止めてラブオウは苦笑した。


「こら、危ないし淑女のする事じゃないだろ」

「ごめんなさい、お父様」


直ぐに離れてルエナは礼をする。おてんばを直すにはもう少し時間がかかるようだ、とラブオウはルエナを見てそう思った。


「ラダスがね、今日は調子がいいから一緒に食事をするって待ってるの。早く来て。ラダスが待ってる」

ルエナがラブオウの手を掴むと、ラブオウは嬉しそうな顔をする。

「そうなのかい?それは早く行かないと」

「お母様も」

そう言ってルエナはリンディーの手も掴んで、二人の手を引いて歩きだす。

手を引くルエナは楽しそうだ。



「ラダス、調子はどうだい?」

テーブル席に座る息子の姿を見つけたラブオウは優しく声をかけた。


「お父様、おかえりなさい。僕は大丈夫だよ」


息子のラダスは喉の病気を患っている。死ぬような重い病ではないが咳が始まると止まらず、喉を痛めて苦しそうにする姿を何回も見てきた。


「ラダス、一度これを付けてみてほしい」

「なにそれ?白くて大きな石だね。チェーンがついてるから首飾りなのかな?」

「そうだよ。仲良くなったお客さんに手作りの品を頂いたんだ」

「手作りかぁ、重そうだね」


ラダスがラブオウから受け取って首にかけてみると案の定重い。


「あれ、でも喉の調子が・・・」

自分の首を触りながらラダスは不思議そうな顔をする。


「ちょっと調子が良くなったかも」

「そうか、それは良かった」


癒しの効果があるので少しでも良くなればとラダスにつけてもらったが、少し効いたようなのでラブオウは嬉しそうに微笑んだ。


「お父様ありがとう。お客さんにお礼を言っておいてね」

「旅のお方だからまたこの街に来ると言っていたんだ。その時に一緒にお礼を言おう」

「うん」


癒しの盾で作った首飾りを嬉しそうにラダスは見ていた。


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