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お昼


ー正午ー


朝市が終わった後は、全ての店が閉まるのではなく、残っている店もある。

特に昼食用の出店は多く、まだ活気にあふれていた。

午後に開店される店もあると聞いたので、時間のあるルイは、路上で五つのボールを投げている芸人を見たり、手品をしている者を見たりと楽しんでいたのだが、時間は思った以上に早く経過し、終わってしまった。

見た後は、用意されている器の中に金貨を銀貨で隠して置き、支払った金額を分からないようにする。

ルイは今度来た時また見れるといいなぁ、と芸人達に感謝していた。


芸人を見た後はお腹が空いたので移動する。


「いいとこないかしら」


ルイが昼食を食べようと座れる場所を探していると、店の後ろの方に広場がある事に気づいた。

そこには家族連れで来ている人や恋人同士で来ている人、一人で来ている人や友人同士で来ている人など、様々な人達が地面に布やら皮で作った敷物などに座っている。


「私も座って食べよ」


人の少ない場所を選んで収納魔法で皮の敷物を取り出して敷く。そして日よけ用にテントを出して、その中に落ち着いた。

このテントは前面が完全に開いた小型の雨宿り用で、高さも奥行きもほとんどない。

小さな椅子に座って少量の雨をやり過ごす為に作られたもので、皮と木があればその場で作る事もできる簡単なものだった。


皮の上に座って食べ物と飲み物、お皿とフォークを出してから、手拭きで手を綺麗にする。


「茹でた野菜のサラダと焼いたお肉とパン。あと飲み物のジュースも出して最後に果物一つでいいかな」

収納魔法で仕舞ってた食べ物を目の前に並べた。


いただきまーす、そう言ってルイはサラダを食べる。酸味が効いたドレッシングの味が口いっぱいに広がった。


「おいしい!次はお肉を一つ」


炭火の匂いとお肉の味が合わさって噛めば噛むほど味が染みでる。

一つじゃ止まらず二・三個食べ続けた。


「パンも食べよ」


口いっぱいに頬張って食べる。それを飲み込んでから、いつも使っている小型のナイフを取り出した。

皿の上に置いて小さく削ろうとルイは考えていたのが、ふと止まる。

そして小型のナイフを収納して、今日お爺さんの所で買った薄緑色のナイフを取り出し、水で洗って綺麗にしてからパンに使ってみた。


「おお!いいじゃないの」


パンが薄く切れていく。良いものを買ったとルイは喜んだ。

そのパンとパンの間に肉とサラダを挟んで、サンドイッチにしてから齧りつく。


「ううむ、こっちの食べ方の方がおいしいわね」


パクパクと食べ進めるとすぐになくなった。手拭きを使ってから飲み物を飲む。少し苦味のあるジュースだが、味は抹茶にフルーツを足したような味がした。


お肉を食べ上げてからパンとサラダも食べ上げる。


「もう少し食べようかなぁ。今度は海のものがいいよね」


ルイは海産物も取り出して皿の上に置いた。全て焼いているので、そのまま食べる事ができる熱々の品だ。

蛍光ピンク色で海老に似ている、カラカタ。貝に似た角のある赤色のトジルル。蟹に似た紫色の鱗のついたハサミン。


ピンク色の殻が硬いと言われているが少し力を入れるとパカリと割れて綺麗な白い身が出てきた。

それを他の手拭きで綺麗にしてから、皿に置いて買った調味料を少しかけ、フォークで口の中へ。


「焼いただけで食べるのも美味しかったけど、こっちの方も負けないわ」


外はプリッとしていて中身は数の子のような粒々とした感触だけど、旨味はきちんとある。


「次は貝ね」


赤色のトジルルは蓋が開いているので、黄色の身をフォークで外した後、そのまま貝の部分を持って吸い込むようにして口の中に入れた。

少し塩分が効いていて美味しいが、ルイにとっては単品で食べるよりも、他の料理に入っている方が好みだった。

蟹に似たハサミンは見かけと違い中身は魚のような味で、これじゃない感じが強く、次は買わないと心に決めた。







ーーーー




「ご馳走様でした」

小さな声で呟いてから周りを片付ける。収納魔法で回収した後、置かれてあった大きなゴミ箱の中にゴミを捨てた。


「さてと、次はどこに行こう」


ルイが見渡していると一つの集団が目に入る。


「あれって、フリーマーケット・・じゃなくて自由売場で会った子達よね」


名前は聞いてないので分からないが、全員元気いっぱいに客に声かけしていたのが記憶に残っていた。

この場所から離れる前に声をかけてからいこうか、いくまいか、とルイが考えていたら気づいた子供達の方が、ルイに向かって大きな声を上げる。

ルイが思っているよりも子供達の記憶に残っていたようだ。


「ああ!いっぱい買ってくれたお姉さんだ!」

「本当だ。その服覚えてるよ」

「お姉さんもこっちにいたの」

「あれから他の店でも買ってたよな。買い物好きだな」


四兄弟はパンに具材が挟まったものを両手に持っている。他に買った物は見当たらないので、食べたらそのまま家に帰るのが子供達の日常なのが窺えた。


手ぶらで帰らせるのもなぁ、とルイは思う。


「食べ物はアレルギーがあったら危なそうだし、知らない人が渡すのもねぇ。問題がなさそうなのは・・」


考えてから小さな木彫りの犬を四人分取り出す。

これは朝市で買った子供のお小遣いでも買えるような品なので、変な奴に目をつけられて奪われたり、狙われる心配もないだろう。

そう思ったのでルイは木彫りを子供達に差し出した。


「今日は良いものを売ってくれてありがとう。お礼に木彫りをあげるわ」

「わー!!うれしい。ありがとうお姉さん」


四人はルイから受けとると、見せ合いをしながら楽しそうに笑っている。ルイもそれを見て元気を貰った気分だった。


「食べたら気をつけて帰ってね」


四人と手を振って別れる。お互い名前も知らないがそれで良かった。




ルイは自由売場で買った品物を一つ手に持って見る。

乳白色の石でつるりと丸くなっていた。

川で拾った綺麗な石を売っていたので買い取ったのだが、子供達が拾う石はセンスがあって面白い。色んな形をしているので見ても飽きなかった。


「しかも石と石を接着してパンキー作ってるし」


パンキーとはあの油も取れて身も食べられる万能の芋虫の事で、乳白色の丸い石を三連にして接着し、目まで黒点を入れている。石だが湿り気があるような気さえするので、中々あなどれない代物だ。


今にも動きそうな芋虫がルイをじっと見ている。


子供達の素晴らしい技術に将来性を感じるルイだった。壊さないように収納魔法でそっと仕舞う。宝石よりも繊細そうな体なので、勝手に三分割しないように丁寧に扱うようにした。

収納魔法で石を仕舞った後、頭の後ろに手をやり、青い空を見上げる。

どこまでも続く空が広がっていた。


「旅に出るとなったらラブオウさんの所にも挨拶に行かないとね」


ルイは遠くの街を思い描く。

心はもうこの地にはないと感じていた。


「言葉だけじゃなくてプレゼントもあげたいけど、高級宝石店の店長が必要なものって何?」


やっぱり採取してきたものの方がいいのかなぁ。そんな事を考えながらルイは足を早める。

旅に出る事は心の中で決まった。







ーーーー




陽が出ている内に宿に帰り着くとクララがいた。


「おねぇさん、ただいま」


ルイは気軽に手を上げて挨拶する。


「ルイちゃん、帰ってきたのね。楽しかった?」

「もちろん!これ、お土産。旦那さんと一緒にどうぞ」


朝市で買った、酒に合うおつまみを差し出した。


「まぁ!ありがとうルイちゃん。でもそんなにお土産は買わなくても大丈夫よ?」

「楽しくて買っているだけだから気にしないで。高いものでもないし、それに・・・お土産を買わなかったら別の品物に変わるだけだから、おつまみの方がいいと思うの」


「もう、ルイちゃんってば。本当に買い物好きねぇ」

「ふふっ、今日の朝市は本当に楽しかったわ。おねぇさんも旦那さんと行った事があるんでしょ?」

「ええ、何回も行ったけど飽きる事なんてないわよ」

「皆で楽しめる場所があるなんて良い街だね」

そんな事を話した所でルイは、そうだ、と思い出す。


「おねぇさん、私あと一週間から二週間ぐらいの間に、この街から出ようと思ってるの。次の街は決まってるから長居はしないと思う」


急に言ったがクララは驚かなかった。宿屋を経営していると出会いと別ればかりなのでクララはルイを見て頷いた。


「そうよね、ルイちゃんは旅人だからいつかいなくなると思ってた。他の街に行くんだもの。楽しく送りださないとね」

「ありがとう。またこの街に来たら必ず泊まるから、その時はよろしくね」

「もちろんよ。いつでも歓迎するわ」


ルイは少し目を潤ませている。そんなルイを見てクララはちょっとした悪戯心が湧いた。


「お買い物のしすぎでお金がなくなっても、この宿なら大丈夫だもの。部屋も狭いしトイレも共同、お風呂場も外にあって大きなタライにお湯を溜めて使うだけだから長く滞在できるわ」


うちは女の子はほとんど泊まらないのよ、とクララは手を頬に当てて話をする。

ルイは、朝の続きなの!?と思ったが、今度こそ分かってもらえるチャンスかも、と頑張る事にした。


「朝も言ったけどそれは違うの!お金はあるの。この宿の評判が良かったんだよ。ご飯は美味しいし、布団は清潔だし、女将さんが優しいって皆言ってるよ?」

「他の宿には部屋にシャワーもトイレもついてるのにねぇ。私たちの自宅にもシャワーとサウナがあるわよ。それなのにルイちゃんったら買い物ばかりして困ったものねぇ」


「シャワーはなくても心の温かさがサウナよりも必要なものなんだよ・・・って、おねぇさん聞いてる?私はお金あるからね。おーい、おねぇさん、聞いてよー」


そう言いながらルイはクララに纏わりつく。それにクララは笑っていた。


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