シュラドの街14
戻る途中、ティモンとリジーに出会う。
「お帰り。今帰ったんだね」
少し服が汚れているが、怪我のない二人に明るい声で話しかけた。
「ただいま。ちょっと遅くなってねぇ。あーお腹すいたー」
「リジーはそればっかだな。乾燥肉食べただろ?ルイは食事がすんだようだな」
ティモンがルイの方を見る。
「ええ。さっき食べ終わった所よ。今日の夕食も美味しかったから、湯を浴びてから行くといいわ」
「あー、着替えるだけでいいよ。食べてから浴びるわ」
「それは止めてくれ。せっかく宿に戻って来たのに、外で汚れたままなんて俺が嫌だ」
「ティモン、あんた見かけと違って細かい男だよ。少しくらい汚れがなんだい。小さい事気にするんじゃないよ」
やれやれ、と困った風な表情でリジーは視線を向ける。
「見かけ通り繊細だと言ってくれ。俺のどこが粗暴なんだ」
「顔」
「ぐふっ」
リジーからの言葉の攻撃を受けて、ティモンは胸を押さえてショックを受けたような仕草をする。
二人のそんな様子にルイは笑った。
「リジー。綺麗にした方が、ご飯も美味しいわよ」
「分かったよ。ルイがそう言うなら綺麗にするさ。ティモン、早く行くよ。お腹すいちまったよ」
「何で俺の言う事を素直に聞かないんだよ。否定から始まるって悪いクセだぞ」
「ちょっと、二人とも。お腹が空いてるから、言い合いになるの。早く部屋に戻って、一息つきなさいよ」
ルイが二人に口を挟む。そうしなければ永遠と言い合いを続けそうだ。
「そうだな。じゃあ行こうか」
ティモンがそう言うと、リジーも今度は大人しく頷く。
「ルイ、今度一緒に食事をしよう」
「ええ、そうしましょう」
気軽にそう言い、別れる。
「私も部屋に戻ってコレクションでも愛でろっと」
足取り軽くルイは自分の部屋に戻って行く。
その目は、キラキラと輝いていた。
ーーーー
二日経過する。
ルイは山賊討伐の賞金をギルドで受け取ってから、街の中を歩いていた。
「回復薬は買って送っちゃったし、このお金でジュエリーを買うのもなぁ・・」
そんな事を考えていると、このお金を寄付したくなってくる。
時間をかけるのも嫌なので、適当にアーチ状の橋の修繕費用にしようと簡単に決めた。
使うお金は自分で稼げるので、貯金や節約を気にする必要もない。この街には滞在させてもらうので、少しでも役に立てる事があればいいと思った。
役所に行こうと決めたルイは、場所が分からないので聞く事にする。
前から歩いてきた老人の男性がいたので場所を尋ねた。
値踏みするようにルイを見た後、笑顔で場所を教えてくれる。親切そうで優しい声だった。
「この道を右に曲がると二つの小道がある。その左の道を通って真っ直ぐに進んで行くと、近道になる。あんた、一人なんだろ?」
「ええ」
「このまま大通りを歩かない方がいい。かなり遠回りをする事になるから小道を行けば早いよ」
「へぇーそうなんですね」
「旅人はこの街の事は知らないからねぇ。早く行くといい」
そう言う老人に短くお礼を言ってから別れる。
その姿が見えなくなるまで待ってから、ルイは次に会った若い女性に、もう一度聞いてみた。
「ああ、その行き方なら」
指で方向を示しながら説明してくれる。
「役所なら、この先を進んで行くと赤く塗られた建物があるから、その近くにある橋を渡って右に迂回して進むと、人通りの多い場所に出るの。そうすれば一番大きな建物が見えるはずだから、そこがそうよ。
もし分からなかったら、その辺の人に聞けば分かるわ」
「ありがとうございます。貴方に出会えた事が今日一番の幸運ですよ。本当に聞けて良かったぁ」
ルイが満面の笑顔を向けると、相手も少し笑顔になる。
それから手を振って別れ、女性から教えてもらった道を信用しようと決め、歩きだした。
無条件に他人を信用する事は、自己責任を放棄する事だと思っているので、罪悪感もなく歩く。
自分の生殺与奪権を相手に与える程、気の良い性格はしていないとルイは自覚していた。
間違った道を教えるならまだしも、故意に危ない場所に導く者もいる。
良い人など沢山いるが、一番大事なのは自分にとって良いか悪いかなので、それを基準にしてルイは行動していた。
風景を楽しみながら進むので、暇になる事もなく、しばらく歩き続ける。そうして建物を見学しながら歩いていると、役所が見えてきた。
再度、女性に感謝しつつ、ルイは近くまで歩いて行く。
役所の建物は大きく避難場所にもなる作りをしており、出入りする場所には制服を着た警備の者が、腰に剣を差して立っていた。
「そう言えば、フェルミの街では警備している人の姿を、あまり見なかったわね」
ルイは街の様子を思い出す。
シュラドの街はフェルミの街よりもレベルの高い者が多いので、早急に対応する為には兵士と自警団だけでは足らず、こうして警備の者を雇う事になっていた。
役所の中に入ると事務員に声をかける。
初めは迷惑そうな顔をしていた事務の者も、橋の修繕費として寄付をしたいと言うと、笑顔で手続きをしてくれた。
役所の者にも顔見せ出来るし、橋の修繕費も出す事が出来たので、ルイにとっては街での居心地が良くなれば御の字である。
得体の知れない人物から格上げされ、お礼まで言われ、それに返事をしつつ話を続けた。
「フェルミの街も良かったですが、シュラドの街もとっても良い街ですね。しばらくの間、採取の仕事で滞在しようと思っていたので良かったです。
あのぉ、フェルミの海は勝手に入っても良かったですけど、シュラドでは海に入るのに決まりはありますか?」
「団体ではなく、採取人の方が海に入るくらいなら別に何もないですよ。ご自由にどうぞ。大人数で行くなら冒険者ギルドに登録か報告ぐらいはしておいた方がいいかもしれません。
諍いが起これば、こちらとしては対応しかねます」
「分かりました。説明ありがとうございます。無事に稼いで機会があれば、また寄付しますね」
「それは大歓迎です。貴方の成功を祈っていますよ」
笑顔で別れて外に出る。
少し肩が凝って、首を左に傾けながら筋を伸ばした。
フェルミの街は穏やかな田舎と言う感じもしていたが、シュラドの街はもう少し都会という感じがする。
自然が沢山ある事には変わりないが、閉塞感を感じていた。
「壁の外は大自然なのにねぇ」
目の前には建物が沢山並んでおり、歴史を感じるような落ち着いた街並みが広がっている。高級な店もあるので、そういった場所に適した服装をした者達が出入りしているのが見えた。
高級店に入るのには、懐が心許ないので地道に働く必要がある。それに、ルイのような採取人でも歓迎してくれる店を探す必要があった。
「お金を稼がないと」
ルイは決心し、気合を入れる。
そして極力見ないようにしてきた壁の向こう側に目を向けた。
先にはゴブリンがいるので覚悟する必要がある。
「でも大丈夫。私は良い方法を思いついたわ」
ふふふ、とルイは笑い出す。その顔には自信が漲っていた。
「川が流れていると言う事は、海まで繋がっていると言う事!それなら門から出たら川に飛び込めば問題なし!」
あははは!と高らかに笑う。
役所を守っている警備員から注意される前に、ルイは移動を開始した。
「よし、行くわよ!」
元気良く宣言する。
そしてリゲルとポロスの予想通り、街の門を出るとコソコソと動き回り、川に飛び込むルイの姿があった。




