採取
陸地のものは所有者が存在する時があるので、ルイが稼ぎに来るのは海になっていた。
魔法をかけて海に潜れば呼吸もできるし濡れもしない。神様に貰ったチート能力を体験する度に感謝していた。
ルイはゆっくりと海の中を進む。
巨大なエイリ◯ンのような生物もいるが、そんなもの物欲の前にはチリにも等しかった。
金目のモノを探さなくては買い物ができない。
そう言えばこのエ◯リアン、お金になるもの持ってるのかな?
ルイと目があった瞬間、ジェットスクリュウでも付いているのかと思うほどの勢いで逃げていく。その後ろ姿をルイは金勘定しながら見ていた。
海の底を歩いていると珊瑚がある。目の保養にもなったし、お金にもなりそうだが、ルイが採る事はなかった。
色彩豊かな光景を何度でも見たいと思っているからだ。
また綺麗な姿を見せてね、と心の中で願った。
次に目に入ったのは硬化した巨大海藻で、エメラルド色をしている。触るとポキッと折れ柔らかくなった。
美味しそうなのでいくらか採って収納する。
後でサラダにして食べよう。他になにかないかなぁ、と思いながらルイは探していた。
海藻の裏に回ると、根本付近に巨大なイソギンチャクっぽいものがいて、その中心部分に綺麗な球体の珠がある。
これだ!!と思い、ルイは躊躇なく手を伸ばし珠を採る。もちろん触手に邪魔をされたが、そんなものは意に介さなかった。
いくらになるかな?と考えながらルイはにやつく。
纏わりつく触手よりも素晴らしいものを手に入れた興奮の方が上だった。
ーーーー
ルイが海から上がると、これから海に入ろうとしている冒険者の一団がいた。
背中に剣を装備した背の高い男性がルイに声をかけてくる。
「あんた、一人で海に潜っていたのか。度胸あるな」
「まぁね。貴方達は大人数ね。合同チームなの?」
七人いる。その腰には陸上では使われないモリと網が装備されていた。
「ああ、魔法使いが二人はいるんでね。力を合わせなきゃ深い海では溺れる可能性があるから交代要員は必要だろ」
「呼吸はどれくらい止めてられるの?」
「このチームなら一人十分ぐらいだ」
「なら魔法が切れても早々死なないわね。空気石を取り出す時間もあるわ」
「まぁな。呼吸を止めるのが下手なヤツがいるからそこは注意してメンバー募集してるよ。空気石を使う事になったら赤字だからなるべく使いたくはないがね」
「いらない世話だったみたいね」
「そんな事はないさ。考えてないヤツもいるからな」
男性は呆れたように肩をすくめる。メンバー募集の際に何かあったみたいだ。
「海の状態がどうだったか聞いてもいい?」
魔法使いっぽい女性が金貨を一枚差し出しながら聞いてくる。情報料として受け取ってからルイは思い出せる範囲で答えた。
「えいりあん?」
「ああ、それはこっちの話。忘れて。えーと、頭は丸くて目がなくて口は大きく牙が沢山。手は不自然に長くてヒレみたいなのがあちこちについた触手もある黒っぽい謎の生物よ」
足を高速で動かして逃げていったあいつね、とルイは思う。
「そいつぁ・・・・」
男性と六人の顔が曇る。
「まさかと思うが海の死神かもな」
「運がないわね。しばらく目撃情報がなかったのにまた出現したのかも」
「今回は諦めるか」
男性と女性が話をして海に入るのを諦めようとするのをルイは止めた。
「それは大丈夫だと思う。もうこの辺にはいないわ」
ルイは自信をもってそう言った。
「海に入って直ぐにいたんだけど、お腹がすいてなかったみたいでどこかへ行ってしまったし、私が行動している最中に戻ってくる様子もなかったから平気よ」
「そうなのか!それは良かった」
男性が嬉しそうに言って、仲間を見る。
仲間達も、良かった、と口々に言っていた。
「何なら今から直ぐに潜った方が安全かもね。健闘を祈るわ」
ルイはそう言って七人の成功を祈った。
七人は離れた場所に行く。魔法使いが全員に魔法をかけ海の中に入って行き、直ぐにその姿が見えなくなった。
ルイは貰った金貨を収納し早足で移動を開始する。
「今度こそ服を買うぞーーー!!」
気合いは十分だ。後は珠を売ってお金を手に入れるだけ。
道具屋は個人店が多いんだっけ?そこでいいか。大金は扱ってないかもってラブオウさんが言ってたけど、もう安くてもいいわよね。
さっさと売って、さっさと買いにいきましょ。
ルイはそんな事を思いながら先を急いだ。
ーーーー
「買い取りお願いします」
ルイはドンッとカウンターの上に置く。
一番近い個人店に飛び込み珠を出すと、若い店主に間髪いれずに要求した。
「お、お客さん。これは海で採れるビィルースデスの珠じゃありませんか。うちじゃあ高すぎて買い取りはできませんよ」
「じゃあいくらならあるんですか。あるだけ出して下さい」
「お客さん強盗ですか。店には大したお金はありませんよっ」
殺さないで下さい、とルイに言った店主が金銭をカウンターの下から取り出す。
そしてカウンターの上にジャラジャラと置いて金貨と銀貨、銅貨に素早く分けた。
ちょっと少ないけどまぁいいや、とルイは思う。
「金貨五十枚と銀貨四十枚銅貨六十枚か。じゃあ金貨だけ貰っていくわ」
「お客さん、珠を忘れてますよ」
「だから強盗じゃないんだって。それはもう貴方のものよ。つべこべ言わず受け取って売るなりなんなりしてよね」
「ですがこれは百五十万カイルはしますよ」
「今お金が必要なの。珠があっても私の欲しい服が買えないんじゃ、持ってても意味がないじゃない。きちんとあげたんだから憲兵呼ばないでよね」
「領収書は」
「あ、それはいる」
「百五十万カイルにしても?」
「いいからいいから。はい、サインしたからお金は私のものね」
またよろしくね、ルイはそう言いながら来た時と同じように駆け足で店を去っていった。
店主はカウンターにある珠を見る。
「こんな物をあっさりと置いていくなんて、あのお客さんは何者なんだよ」
儲かった嬉しさよりも恐怖の方が勝る。足がこまかく震えているし、自分の命を百五十万で賭けるには安すぎた。
やっぱり自分は大きな店を構えられる人間じゃないとつくづく思う。
大きな商売にはリスクはつきものだが、それを回避したいから個人店をちまちま経営しているのだ。
「嫁さんに花束でも買って帰るか」
今日は店じまいにして日頃の感謝でも伝えよう、店主はそう思った。
「り・・・臨時休業・・・」
服飾店の前でルイは膝をついた。