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シュラドの街10



「ここが公園よね」


集まって運動をしている大人達と、遊具で遊んでいる子供達がいる。

中に入らずに外周を回っていると、馬車が通る道を挟んで向かいの建物の間に、看板が出ているのを発見した。


路地は黄土色の石畳で出来ている。


「教えてもらって良かった。これじゃあ私には見つけられないわ」


ルイは注意しながら馬車が行き交う道を渡った。そして周りを観察しながら路地を歩いていると、冒険者らしい人や、一般人らしい人達が前から歩いてくる。

冒険者は腰の両側に短剣を装備しており、他の者達は肩にバックを下げていた。


奥を見ると大きな扉が見える。


両開き戸で、片方が開いていて、その横には顔も見えない黒の甲冑を着た男が立っていた。


「こんにちは・・」


呟くように、その人物に言ってから入る。棚がずらりと並び、薬の瓶が大量に置かれていた。


ルイが一番先に思った事は、地震で倒れそう。なので、棚の隣を通るだけで恐怖を感じる。棚の間を通過する時は表情が強ばっていた。


自分が怪我をしないと分かっていても、他の者が怪我をすると思うと、背筋は寒くなる。

押し潰される可能性を考えると、この中には入りたくなかったが、床に固定されているのを確認できると、表情も明るくなった。


気分が向上し、商品に目をやる余裕ができる。

足取り軽く奥に入り、商品を観察した。


見ているだけでも楽しいルイは、愉快そうに笑みを浮かべている。


赤や黄色、紫や青色の液体の入った色々な瓶が並んでおり、それを見ているだけで心は踊った。


「自分の好きなように並べて観賞したい」


そんな事を呟く。

頭の中では瓶を棚に並べている光景を、思い浮かべていた。


店の中からは他の者達の声も聞こえてくるが、大きな声で話している者はいない。危険な商品もあるようなので、それを知っている者達は騒いだりしなかった。


もし万が一、騒ぐ者がいたなら、警備する者が取り押さえる体制が整えられている。ルイの視線の端には、壁に背を向けて全体を監視している者がいた。


今、見ているのは紫色の液体の入った十センチぐらいの高さの小瓶で、繊細な模様が施されている。


「わぁ、買おう」


我慢の出来なくなったルイは、気に入った瓶を手に持ってカウンターに行った。


カウンターには眼鏡をかけた長い黒髪の女性店員がいて、瞳は紫色で店の名前が小さく書かれた茶色のエプロンをつけている。


店内にはルイの他にも買い物客がいて、他の店員が対応していた。


「ご購入ですか?」

「はい、他にも買いたいものがあるので、ここに置いていても大丈夫ですか?」

「多く買うなら籠を用意しますよ」

「あ、お願いします」


店員が蔦で作られた籠を持ってくる。籠の中には仕切りがあって、瓶が倒れないように工夫されていた。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


ルイはさっそく小瓶を入れる。


「初めて来られた方ですよね。薬の説明や案内は必要ですか?」

「お願いします。実は薬を使った事がなくて、回復薬を買いに来たのも初めてなんです。怪我をしても簡単に治る薬ってありますか?」

「ありますよ。使う順番はありますけど間違う事がなければ大丈夫です。こちらに来て下さい」


店員は少し歩き、一番目立つ場所に展示されている薬の元に行く。

微妙に色の違う、青色の液体が入った親指ぐらいの小さな瓶が並べられていた。

そしてその一段下には黄色の液体の入った瓶も置かれている。こちらは一種類しかなく、大量に置かれていた。


「怪我を治す薬はこちらになります」

「へぇー、この青い薬で治るんですか?」

「ちょっと違います。最初にこの黄色の薬を使うんですよ」


店員が黄色の液体が入った瓶を持ってルイに見せる。

ルイは籠を隅に置いて、しっかりと確認していた。


「こちらは流汚薬るおやくと言って、患部の汚れを洗い流して綺麗にしてくれるものです。これを使わないと体内に土や汚れが残されてしまう可能性があります。

水を使う事も出来ますが、こちらの方が安全ですね」

「へぇー、消毒液のようなものがあるんだぁ」

「消毒?毒を消すのは解毒関係の薬ですが、ルイさんの故郷では消毒というんですか?

それとも流汚薬の事ですか?」


不思議そうな顔をして店員が見てくる。ルイは慌てて手を振った。


「いいのいいの、気にしないで。ちょっと言ってみただけなの」

「そうですか?」

「そうなの。で、この流汚薬を使ってから回復薬を使えばいいのね」

「ええ、そうですよ。こちらの澄んだ綺麗な色をしたものが効能が高いです。剣で斬られた患部も五日もあれば治ります」

「ホントに凄いわね。斬り落とされたものでもつながるの?」


「この場にあるものでした、ギリギリですね。回復薬の使い方によっては腕が動かなくなりますから注意して下さい。

治す方法として、まず一つ目。回復魔法を使って、ある程度患部をつなげてから回復薬を使う。二つ目。回復薬を使って、腕を半分つなげてから街に戻って魔法で治す。三つ目。回復薬を使って時間をかけてゆっくり治す・・です。

回復薬を何本も使って無理矢理早く治すと、形が歪になったり、ずれたままつながったりと大変な事になる場合がありますから、注意して下さい」


「魔法だけで治す事はしないの?」

「できますが、魔法を使っている人の疲労を考えたら回復薬を使う事をお勧めします。

魔法を使い過ぎると体に悪いですから、無理をさせては駄目ですよ」

「そうなんですね」


納得したようにルイは頷いている。


「全身についた切り傷や裂傷などは、回復魔法がいいです。薬を全身にかけるのも大変ですし、お金もかかりますから、その時々で魔法を使うか薬を使うか決めた方がいいと思います」

「その場の状況で使い分ける事が必要なのね」

「後、一番大事な事ですが・・」


店員はしっかりと聞いてもらう為に一旦話を止める。その真剣な表情にルイの背が伸びた。


「使う時には必ず、自分の体が治るように願って下さい。そうでなければ薬も魔法も効きづらくなるので、絶対に拒否しないで下さい」

「治りたくない、なんて事あるの?」

「それはまぁ・・なんとも」


歯切れの悪い店員が視線を宙に彷徨わせる。その間、ルイは大人しく待っていた。

店員が、近くに寄るように、と手を動かす。


「何かあるの?」


言われた通りにすると、店員は声が拡散しないように片手で口元を隠しながらルイの耳元に近づけてくる。


それが分かったので自分から耳を向けた。


初めは平気そうな顔をして聞いていたルイっだったが、表情が急速に曇っていく。最終的には話の途中だった店員を止め、両手を口に当てて悲痛な表情をしていた。


体が左右に揺れている。


「色々とありますからねぇ・・」


店員はルイが落ち着くまで待っていた。





「口には出せないけど勉強になったわ。ありがとう」


教えてくれた店員に感謝する。心の中で折り合いがついたのかルイの表情は元に戻っていた。

店員は気分を変えるように明るい声を出す。


「構いません。これが仕事ですから。それで、回復薬はどれを買いますか?」

「一番高い効能の薬はいくらなの?とっても気になるわ」


ルイもそれに続くように元気良く聞いた。


「そうですね。金貨百枚になります。すみませんが、この場には置いていません。ここは一般のお客様が買う品物ですから、こうやっって沢山置いているんですよ」

「高い理由を聞いてもいいかしら?」

「流汚薬もいらず、回復時間も短く、全身に効きます。ダンジョンで出た品なので良いものですよ」

「おお!欲しいー!」

「そうでしょうね。皆、欲しがります。ただ極度の疲労で痩せ細っている方や、高齢の方には使用しないで下さい。体力の消耗が激しいので、そのまま気絶したり、悪い時には治ったとしても、目覚める事がない場合もあります。

効き過ぎる効能のあるものなので、一般人の方が使用するのは控えた方がいいと思います」

「うーん・・どうしよう・・」


そうやってルイは考える。

大した時間もかからずに決めた。


「じゃあそれを一本下さい。あと、ここにある回復薬を三本づつ下さい」

「ここにある回復薬は小回復薬と中回復薬がありますが、回復薬の中でも効能の高いものから順に、A、B、Cに分かれています」

「それぞれ全ての種類が欲しいわ」


「分かりました。小回復Aは切り傷程度を治します。BとCはそれ以下の効能しかありません。値段は上から、銅貨四枚。銅貨二枚。銅貨一枚です。

中回復Aは剣で斬られた傷にも対応できます。上から金貨三枚、金貨二枚、金貨一枚になります。

完全回復できない場合は、時間をかけて追加で使って下さい。

小回復は全部で二千百カイル。中回復は十八万カイル。合わせて十八万二千百カイルになります。金貨十八枚と銀貨二枚、銅貨一枚になりますがよろしいですか?」


同じように頼む人がいるのか早口で店員は言う。

それに了解してから、ふと、ルイは考えた。



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