シュラドの街4
「そもそも、こんな壁に囲まれているのに川なんてあるんだ」
歩いていると本当に川が見えてくる。かなり大きな川には船も浮かんでいたのでルイは驚いた。
「この街って思ってるよりも大きいのかも・・」
壁の端が森で見えなくなっていたので、大きさを確かめておらず、ゴブリンのせいでそんな事も頭から消えていた。
山の上からは街は見えなかったので、ルイが見ていたのがどこか分からない。そもそも地図もないので、異世界の大地の構造が全く分かっていなかった。
丸くカーブした橋が見えてくる。
「風情があるー。この川を見ながら泊まれる宿屋って贅沢よね」
ルイは橋を渡って宿に向かう前に、赤看板の前に旅人らしき人達を見つけて立ち止まる。
「これは無理かなー」
一応、カウンターを訪ねてみる。
肩より少し長い茶色の髪には艶があり、青緑色の瞳をしている。エプロンをつけた清潔そうな姿をした優しそうな女性が、申し訳なさそうな顔をしてルイを見た。
ですよねー、と心の中で思う。駄目もとで聞いてみた。
「宿はいっぱいですか?」
「ええ、そうなの。ごめんなさいね」
外からは見えないが、宿の中では夕飯の用意がされているのか良い匂いがしている。宿は綺麗で掃除も行き届いていた。
「予約ってとれます?」
「予約は受け付けてないの。長期滞在者もいるからいつになるか分からないわ」
諦めて別の宿に行く事にする。
「ありがとうございました。また来ますね」
「ちょっと待って」
女性からルイは引き留められる。
「今から宿を探すの?女の子一人じゃ危ないわよ」
「大丈夫です。他にも教えてもらった宿屋があるから、そっち行きますねー」
「そう、なら良かった」
ルイは宿屋から出て教えてもらった高額な宿屋に行く事にした。
ーーーー
さすがに空いてるでしょ、と思い行ってみると、思ったよりも大きな宿屋が目の前にあった。
「しょ、正面から見ると迫力あるわね・・」
小さな国会議事堂、とルイは頭の中に思い浮かぶ。イメージはそんな感じだった。
「入りづらっ・・」
明らかに先ほどの宿の方がルイには合っている。
これは高級宝石店のラブオウが行くような宿だった。
「本当に冒険者が来るのかしら?」
ルイが仰々しい門の前をうろついていると、冒険者が角を曲がるのが見える。それを追いかけると別のシンプルな門が見えた。
それに冒険者が入って行く。
ついて行くと、冒険者ご用達の宿、と書かれたお洒落な看板が地面に置かれており、入る扉も装飾品のない頑丈そうな扉になっていた。
冒険者が入った時に見えたのはカウンターで、そこで手続きすればいいんだとルイは思う。
「こっちは入りやすいわー」
自分の格好と建物を見比べる。さすがにこの格好で正面から入る勇気はなかった。
他のお客様の迷惑にもなるしね、と思いながら扉を開ける。
先ほど入ってきた冒険者はいなくなっており、カウンターにいる中年の男性がルイに気づいて待っていた。瞳は黄色で黒い髪を後ろに流して執事のような服を着ている。だがその体格は良く、元は冒険者じゃないかとルイは思った。
「今日泊まりたいんです。お願いできますか?」
「はい、大丈夫です。金額はこちらから選べますがどういたしましょうか?お泊まりだけになりますと金貨一枚になります。朝食の値段が銀貨二枚。夕食の値段が銀貨三枚になります」
「じゃあ、五日泊まる事にするわ。朝食と夕食もお願い」
「お部屋にお届けいたしましょうか?それとも下の階の食堂で食べますか?」
「食堂でお願いします」
「朝食は七時から九時までの間です。夕食は五時から七時までの間にお願いします。では、紙に名前をご記入下さい。職業の記入もお願いします」
ルイは簡単に、採取人、と書いた。