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シュラドまでの道13


ランクHの仲間も協力して捕縛した山賊を広場に連れてくる。


明かりの中で確認した敵の数は十人以上もいた。


この広場にいた他の荷馬車の冒険者も出てきて、依頼人を守るように周囲から見守っている。

大勢の冒険者がいるので安心しているように見えた。


「山賊はボロボロだったけど、そんなに冒険者の装備品が欲しかったのかしら?」


ルイは冒険者の装備品を目を凝らすように見ている。

こっちを向くな、とロウフェンは手を振った。


「それは違う・・って、言いたい所だが、荷馬車にある食料品と荷物を狙ったのは確かなようだな」


腹が空いているようにも見えるし、装備品も着ている服も汚れている。

満身創痍だった可能性が高く、偵察もせず、冒険者がいるという判断も出来なかったのかもしれない。


「こいつらの正体に心当たりがあるが、まずは話を聞き出してからだ」

「やっぱり襲われないようにする為には冒険者の数をもっと多くしないと駄目なのかな?」


不穏な事を言っているルイをロウフェンは止める。


「今ので十分だから、そういう考えはよせ」


リゲル達はロウフェンに従うように何も言ってこず、一歩離れた場所で待機している。

場の混乱を避けるように誰がこの集団のリーダーか知らしめているように見えたが、ロウフェンは心の中で、代わってほしい、と思っていた。


苦い顔をしながらロウフェンはランクHの冒険者からの熱い視線を受ける。

実はランクHの者達は荷馬車やテントの中で全く寝ておらず、武器を握りしめ待機しており、いつギルドからの試練がきてもいいようにと目をギラギラとさせ今か今かと敵を待っていた。


そして矢の攻撃を受けたランクHの冒険者達は、依頼人のルイが望んだ行動を実行する。

アホなやり方だが、依頼を果たせるように行動するのが冒険者だろう、という事で皆で頑張った。


これでランク落ちはないだろう、とランクHの者達は期待を込めた目でロウフェンを見ている。

そんな目でみないでくれ、とロウフェンは心が痛かった。

今更、何を言った所で全て嘘になる。

こうして山賊がやってきたのだから、結果だけみればランクHの者達が思っている事が全面的に正しかったという事になってしまった。


それを振りきるようにロウフェンは山賊を見下ろす。


「で、何で襲ったんだ?」


ロウフェンが剣先を山賊に向けると、山賊は吐き捨てた。


「くそっ・・・何でこんなに冒険者だらけなんだよっ」

「それは俺の方が聞きたいぐらいだ」

「意味が分からねぇ、くそっ、くそったれめっ」

「とにかくもう捕まったんだ。この場で痛い目に合う必要はないだろ?白状しろ。

ちなみに言うと、俺らはランクCで彼らはランクAの冒険者だ。地獄だろ?」

「はぁ?うそ・・だろ」


ランクAのリゲルが首飾りとして付けていた、軽くて透明なカードを見せる。それには大きくAと書かれていた。


それを見た山賊は近くにあった岩に頭を打ち付ける。


「クソクソクソクソ・・っ」


ヒエッ、とルイは飛び上がり、見たくないので早々に退散するように早足で歩いていった。

その後ろからメルナもついて行き、直ぐに二人の姿が見えなくなる。

こういう時の為に高額費用で雇われた冒険者なので、依頼人がいなくなっても問題なかった。


「本当に嫌なのね」

「絶対嘘だと思ってた」


信じていなかったフラミーとロウフェンが気軽に話をしている。

その間も山賊は岩に頭をぶつけ続け血を流していた。


「くそがっ!!なんで、なんで、なんでだよっ」


冒険者をやっていると頭のおかしい人間に出会うのは、よくある事なので不思議に思わない。

唾を飛ばしたり、自分で食いちぎった指を飛ばしてくる者もいる。

会話の内容が滅茶苦茶なのもよくある事で、困ったといいながら相談する為に近づいてきて短剣で刺してくる者もいる。

命を奪えない者は、次の瞬間には自分の命を失っている。

理解不可能な行動を取る事を受け入れて、対処できるのが冒険者だ。


ルイはそういうのを見るのが苦手なのだろう、とフラミーは思った。


「まぁ、見ていたい光景ではないわよね」


頭を打ち付けていた山賊は、ロウフェンが鳩尾を蹴って止めさせる。

油断して噛みつかれたら痛い目に合うので、体を押さえて止める事はしたくなかったようだ。


今回は依頼人のルイが、殺すのが嫌だと言っていたので極力可能な限り果たした状態だが、匂いだけはどうにもならず、この場には異様な匂いが漂っている。


フラミーが小さな小瓶を取り出すと、自分や、山賊に振りかける。すると、少し良い匂いになった。


トイレ用に使う土粉は消臭にも使えると言っていたので、別に持っていたのだが、本当に悪臭が少し収まったようだ。


「それはルイが言ってた土粉か?」

「ええ、トイレだけじゃなくてこういう時にもいいわね。ただ服が汚れるけどね」

「俺にもかけてくれ」

「いいわよ」


そう言ってフラミーはロウフェンにもふりかける。

聞いていたランクHの者達も、持っていた者が興味本位で自分にかけていた。


一応、匂い問題は解決された。


「怪我の治療だけやって、続きは明日、明るくなってから尋問するか」


ロウフェンはそうやって決定するとランクHの者達を見る。


「お前達にいい仕事ができた。今から山賊の治療と管理だ」


そうなると思っていたランクHの冒険者は騒がずに頷く。


「任せて下さい。私達、絶対に成功させてみせます」

「だからランク下げなしでよろしく」

「きちんと依頼を達成します」


キラキラとした目で見つめてくるランクHの冒険者に罪悪感を感じながらも、ロウフェンはひきつった笑顔で答えた。


「おう、任せたぞ」


わっ!とランクHの冒険者達が喜んでいる。

山賊に近づくとさらに厳重に縛り、噛みつかれないように口も縛っていた。


「俺、ギルドの調査員じゃないんだが」

「ロウフェン、貴方はよくやってるわよ」


ぽつりと呟くロウフェンの肩にフラミーは手を置くと、優しく労った。




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