シュラドまでの道11
女性用のテントは荷馬車の横辺りに設置されている。固い魔獣の皮を加工して作ったものは矢も防げるほど頑丈で、旅のお供によく使われていた。
ルイは全体を見渡す。
前にはランクAがいる黒い荷馬車がありリゲル達も食事をとっていたが、こちらは火をつけていなかった。
ランプの中の石が光っている。
まるで深海にある光る鉱石のようだ、とルイは思った。
温かい食事もとっているようで、どうしているのかと見ていたら、収納袋から調理している食材を出して、魔法石を使って温めている。
「腐らないのかしら」
ルイの収納魔法は時間が止まっているようで危険はないが、メルナの収納袋は危ないと言っていた。だから不思議に思ったのだがフラミーが答えてくれた。
「ランクAが持っている収納袋は性能がいいから、収納した物の時間経過がかなり遅くなるのでしょうね」
「へぇ、収納袋でも性能が違うんだね」
「収納袋はダンジョンで発見できて、性能の良いものはほとんど表で売られる事はないの。
私達が持っているものは、それほど性能がよくないから買う事ができたけど、ずっと使えるものでもないから、収納できなくなったらまた買い換える必要があるわ。
収納袋が使える期間は五年から十年ぐらい。はぁ、考えるだけでも頭が痛いわ」
「うわぁ、劣化もするんだ」
「そうなの。ルイは収納魔法だからいいけど、収納袋の方は便利だけどとってもお金がかかるの」
「電化製品みたいね・・」
フラミーに聞こえないようにルイは呟く。元いた世界を思い浮かべるとフラミーの嘆きが分かった。
「ダンジョンから出た装備品は全て冒険者ギルドが扱っていて、所属している冒険者に売られているわ。
もちろん自分で発見した装備品を自分で使うのはいいわよ。そこを規制したら暴動が起きるわ。
こういう事をして冒険者の強さの優位性を守っているの。後は領主や国に要求されれば売るぐらいね」
「だから普通に売られてないんだ。冒険者から直接買ったらどうなるの?」
「冒険者がダンジョンから出た装備品を売る事ができるのも冒険者ギルドだけだから、普通に犯罪になるわ。
利権がからんでいる事だから厳しく取り締まりされているの。絶対しない方がいいわ」
真剣な様子のフラミーにルイは頷く。
「収納袋や回復薬なんかは誰に売ってもいいし、装飾品も魔法効果のないものは売ってもいいわ。杖とかもそうね。
後は服とかマントとか手袋、その他の布製品も魔法効果がなければ勝手に売り買いしても大丈夫よ」
フラミーが乾燥肉を切って鍋の中に入れている。
さらにお肉の良い匂いとスープの匂いが漂ってきた。
「うーん、いい匂い」
あまり見ていると唾液が出てくるのでルイは顔を上げる。
「人が多いから山の上だって事を忘れそうだわ」
「普段はこんなに賑やかじゃないわよ」
そう言いながらフラミーがスープが入った器を差し出す。それには切られた乾燥肉も浮いていた。
「ありがとう」
「戻ってくるのを待つ必要はないわ。
旅の最中は何が起こるか分からないから食べれる者から先に食べるの。
そうすれば食べ上げた者が周囲を警戒できるでしょ?ルイは雇い主だから何かあった時に真っ先に逃げれるようにしておくの。
私達も食事を作りながら適当に摘まんでるから気まずくないわよ」
フラミーはスープに使っていない乾燥肉を口に入れる。メルナもモグモグと食べていた。
ロウフェン達もランクHの冒険者達と話をしながら乾燥肉を食べている。あれが普通なのだろう。
「でもその前に、ルイは何か着るものを持っていないの?もう寒くなってきたでしょう?ルイが寒くないように寝る時に使うものはあるけど、何か上に一枚着た方がいいわ」
「ああ、そうよね・・寒くないから忘れてた」
スープが熱いは普通にわかるのに、何故か寒い事に気づかなかった。
ルイは首を傾げながら自分の体は一体どうなっているの?と考えていた。
「半袖で寒くないの?」
「うん、でも見てる方は寒いわよね」
他の冒険者達は上着を取り出して着ている。冒険者用らしく頑丈そうな茶色の生地を使った、腰までの長さの上着を着て格好良かった。
フラミーも魔法使いが着るような紺色のフードのついたローブの上から、上着を着ている。
メルナも同じように上着を着たので、胸の辺りにつけている革の装備品や、白の服が見えなくなった。下は頑丈そうな茶色のパンツとブーツをはいているので寒くはなさそうだ。
こちらに向かって歩いてきているロウフェンやジャッカルドは、上着を取りに来たのかもしれない。
ロウフェンは銀色の胸当てをつけている。籠手は茶色の革で金属よりも寒さに強そうだった。
袖の長さが肘まである黒い上の服に、頑丈そうな濃紺色のパンツと革のブーツをはいている。
ジャッカルドの方は、白の半袖に皮の胸当をつけ、金属の籠手を装備している。下は白いパンツで長いブーツの先は金属をつけていた。
確かに全員の服装を見ていると、ルイの服装は軽装備すぎるように見えた。
茶色と焦げ茶色の布を重て強度を増した半袖の服に、丈夫そうな白いパンツと運動ができるような紺色の靴。
これは問題有りだと思い、持っているものを思い浮かべる。
長袖は完全に街用で、刺繍のついたカーディガンは確実に浮く。だが持っているものと言ったら後はアレしかない。
赤い羽を使った赤いローブか、黒い羽がついた黒いローブ。首元まで羽だらけだ。
ルイは迷う事なくカーディガンを着ると、湯気が出ている温かいスープを食べる。
口の中に入れると旨味がじんわりと広がった。
「美味しい」
「良かったわ。でもその服・・いえ、何でもないわ」
フラミーは言うのを途中で止めて、メルナの器にスープを入れていた。
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ルイ達はテントの中でぐっすりと寝ていた。
外には目をギラギラとさせているランクHの人達が、交代で見張りに立っているのでゆっくりと休む事ができている。
こんなに多くの冒険者がいるので襲ってくる馬鹿もいないだろ、とロウフェンもランクHに任せて休んでいた。
それが裏切られたのは、夜が更けた深夜。
ランクH達が騒ぎ立てる大音量の音に起こされた。




